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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第四章 朱莉の追憶
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第四章 第五話

父の気が変わる日はすぐに訪れた。


お正月に兄が帰ってきてからまだ半年しか経っていないのに、笹川神社の跡取りを兄に変更すると言い始めたのだ。


「お父さん、本気で言ってるの?」


応接室の椅子から立ち上がり、父に詰め寄る。私の隣に座っている幸平は黙って私たちの様子を見ていた。


「ああ。幸平くんには既に伝えて、了承をもらっている。もちろんご両親にも丁寧に謝って、説明してきたつもりだ」


私が立ったまま幸平に目で訴えかける。すると彼は、落ち着いた様子で、


「お父さんの仰る通りです。私の両親も納得しています」


と、言った。


一度深呼吸をして椅子に座り、幸平の手を取る。


「幸平さんはそれでいいんですか? 勝手に結婚を決められて、勝手に破談にされて」


「残念ですが、仕方ありません。笹川神社は四百年以上続く歴史ある神社で、ずっと男系男子が後を継いできました。その伝統を守ることの大切さは、私にもわかります。私だって神社の息子ですから」


「そういう問題じゃないでしょう。私たちには私たちの人生があるじゃないですか」


私が幸平を必死で説得していると、父が口を開いた。


「待て待て。白紙に戻すのは神主の地位の話だけだ。もちろんお前たちが嫌でなければという前提だが、結婚すること自体は予定通り進める。お前たちが望むなら笹川神社で暮らしてもいいし、幸平くんの実家に移ってもいいし、二人だけでどこかへ行ってもいい。私としては、できれば健吾を助けて一緒に笹川神社を盛り上げてやって欲しいという気持ちはあるけどな」


父の隣に座った兄は口を閉じてじっとしており、既に全てを知っている様子だった。この広い応接室の中で、今日初めてこの話を聞いて興奮しているのは私だけだ。


部屋の外で翔太の相手をしている母だって、きっと事前に知らされていたのだろう。


「兄さんはそれでいいの? 神主になりたくなかったから家を出たんじゃないの?」


今度は兄に問う。


「まぁそうだな。ただ、出て行った一番の目的は神主がどうとかっていう話ではなくて、沙織と二人で暮らしたかったからだ。沙織が死んだ今となってはもうどうでもいい。父さんが俺を後継者にしたいのなら、従うつもりだ」


「どうでもいいって……」


「俺には翔太を守る責任がある。悔しいが、今の俺一人ではそれができない。俺と翔太には父さんや母さんの助けが必要だ。だから、もしこの神社に置いてもらえるのであれば、俺は神主になることだって構わない」


「そんな動機で、お父さんは許せるの?」


私が問うと、父は、


「健吾にとっては五年ぶりの神社だからな。ある程度気持ちが戻るには時間がかかるだろう。徐々に慣れていってくれればいい」


と、答えた。この人にとっては、長男が家を継ぐということが何より大事なのだろう。


「健吾は新しい嫁をとるつもりはないらしい。健吾の次には翔太がこの神社を継ぐことになるとは思うが、さすがに人手が足りないからな。できれば朱莉たちにも残って欲しいんだが、どうだ?」


「馬鹿言わないで!」


心の奥底から湧き上がる感情が、思わず口から出た。父にこんなにも強い言葉を投げかけたのはいつ以来だろう。


「私たちは父さんの駒じゃない。神社のために生きてるんじゃない」


「朱莉……」


「私と幸平さんはこの神社を継ぐつもりで準備してきたのよ。そりゃあ実際の手続きは父さんたちがやってたのかもしれないけれど、私たちにだって心の準備があるじゃない。それを今さら何、やっぱり兄さんが神主をやるから夫婦そろって兄さんを手伝えって? 翔太の代まで面倒を見ろって? 冗談じゃないわ。そんなこと認められるわけがないじゃない」


「朱莉さん、私は別に……」


「幸平さんだって悔しくないんですか? こんなに馬鹿にされてるんですよ。兄さんはこの家を捨てて五年間も戻ってこなかった人なんです。私は別に兄さんのことを恨んでなんていないし、翔太のことは可愛いし、叔母としてこれからもできる限り支えていきたいけれど、だからってこんな理不尽は許されないわ。私たちはモノじゃないんですよ」


必死で幸平に訴えかけたけれど、彼は困った顔をして下を向くだけだった。


「朱莉と幸平くんには申し訳ないと思ってる」


「いいえ、思ってないわ。思ってたらこんなことできるわけがない」


あまりに腹が立ったので、そのまま席を立った。大きな足音を立てながら部屋を飛び出ると、心配そうな様子で室内を見つめている母がいた。


「お母さんは知ってたの?」


私がそう聞くと、母は、


「朱莉、落ち着いて」


と、言うだけで、質問には答えてくれなかった。


これ以上話をしても意味がないと思ったので、逃げるように境内へと走った。




「お姉ちゃん、こんばんは」


境内に出ると、剣道の練習をしている桃花が声をかけてきた。私の様子がおかしいことに気が付いたのか、すぐに、


「大丈夫?」


と、聞いてくれた。


「桃花ちゃん、こんばんは」


できるだけ普段と同じように挨拶をしたけれど、さすがに隠しきれなかったようだ。


「何かあった?」


桃花が再び聞いてくる。


「ううん、ちょっとお父さんと喧嘩しちゃっただけよ」


「お姉ちゃんでも親と喧嘩したりするんだ。っていうか怒ることあるんだ」


「もう大人なのに恥ずかしいわね」


「そんなことないよ。誰にだってイラっとすることや人には言いづらい事情があるもの。でも、もし何か困ったことがあったら相談してね。まぁ高校生の私にできることなんて限られてるけど、お姉ちゃんにはいつも助けてもらってるし、私も力になりたいから」


「ありがとう」


礼を言って、自分よりも少し大きな桃花の体を抱きしめる。


桃花は突然のことにびっくりしていたけれど、しばらくすると、黙って私のことを抱きしめ返してくれた。




桃花の体温を感じているうちに、徐々に冷静になることができた。


私は別に神主の妻になりたいわけでも、死ぬまで笹川神社で暮らしたいわけでもない。


正直に言うと、幸平との結婚だって絶対にしたいわけではない。


でも、あまりにも身勝手な父と兄、彼らを相手に戦おうとしない幸平を見て、感情を抑えることができなかった。ただそれだけのことだ。

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