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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第四章 朱莉の追憶
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第四章 第四話

結局、兄は五年前まで彼が住んでいた部屋に居候することになった。


神社の行事には一切関わらせないという約束で、生活が安定するまでの一時的な措置として父が許したからだ。


しかし、孫というのは存在しているだけで高齢者の心を動かすらしい。兄が仕事で外出している日中などに私たち家族で翔太の世話をしていると、徐々に両親の態度も軟化してきた。


四歳になった翔太は、私や兄が昔そうしていたように、毎日神社の境内を走り回って遊んでいる。


「お姉ちゃん、こんにちは」


翔太の様子を見守りながら境内の掃除をしていると、制服姿の桃花が声をかけてきた。隣には拓斗も立っている。


「こんにちは。こんな時間に珍しいわね」


「今日は始業式があっただけで午前中で終わりだから、ちょっと寄ってみたの」


「あ、そっか。今日から二年生よね。で、拓斗くんは三年生」


「はい。何とか出席日数が足りて、進級できました」


私が顔を向けると、拓斗が少し恥ずかしそうに言った。




「お姉ちゃん、あの子、もしかして一人じゃない?」


桃花が土に木の棒で絵を描く翔太を見て尋ねてくる。


「翔太は兄の子なの。直接会うのは初めてよね」


「うん、初めて見た。あの子が噂の翔太くんね。ちょっと話してきてもいい?」


「ええ。喜ぶと思うわ」


私がそう言うと、桃花が翔太の方へ近づいて行った。翔太は人見知りしない性格なので、すぐに仲良くなれるだろう。


「お兄さん、戻ってきたんですね」


二人になると、拓斗が聞いてきた。


今でも剣道の練習などで頻繁に神社を訪れる桃花と異なり、拓斗が来るのは初詣以来だ。兄や翔太のことを隠していたわけではないけれど、今日まで直接伝える機会がなかった。


「ええ。まさかまた会えるとは思わなかったわ。私も両親も、なんだかんだでずっと寂しかったもの」


「そうですよね。今まで一緒だった人と離れるのは辛いです」


拓斗が遠く空の向こうを見る。


彼も今は両親と離れて一人で暮らしている。小説家として立派に働いているように見えるけれど、まだ高校生だ。本当は寂しい気持ちがあるのだろう。


「帰ってきたと言えば、三丁目に教会ができたのは知ってますか?」


拓斗が再びこちらを向いて、尋ねた。


「いいえ、初めて聞いたわね」


「そこの牧師さん、二十年くらい前にも紫水町に住んでいたそうなんです。子供の頃によく笹川神社で遊んでいたらしいので、もしかしたら朱莉さんの知り合いかなと思ったんですが」


「そうなんだ。二十年前なら私はまだ子供だから、覚えてないことが多いと思うけど、お名前はわかるかしら。っていうか拓斗くん、教会に通ってるの?」


私が聞くと、拓斗は胸の前で手を左右に振った。


「いえ、凛子から話を聞いた桃花から俺が聞いたって感じで、だいぶ又聞きです。なのですみません、名前はわかりません」


拓斗と話し込んでいると、桃花と翔太が手をつないでこちらへ歩いてきた。


「私よりもお姉ちゃんと遊びたいらしいわ」


桃花がそう言って、翔太の手を私へと受け渡す。少し土のついた小さな手をしっかりと掴んだ。


「なぁ桃花。凛子が言ってた教会の牧師さん、なんて名前だっけ」


「牧師さん? エリックさんのこと?」


桃花の言葉にビクッとする。つないだ手を通して衝撃が伝わったのか、翔太が不思議そうな目でこちらを見上げていた。


「朱莉ちゃん?」


翔太が心配そうに私の名前を呼ぶ。


「ごめんね。すぐに一緒に遊べるから、もう少しだけ一人で遊んでいてくれる?」


私がそう言うと、翔太は子供ながらに何かを察したのか、小さく頷いて離れていった。


「エリックって、森川エリックさん?」


桃花に問う。


「苗字まではわかんないけど、ハーフなんだって。お姉ちゃんの知ってる人なの?」


「ええ、森川エリックさんなら知ってるわ。その教会ができたのって、いつ頃かしら?」


「一昨年の冬くらいって言ってたような」


「そう、ありがとう」


私が礼を言うと、桃花は状況がよくわからないという感じで、私と拓斗の顔を交互に見ていた。


再び拓斗が口を開く。


「朱莉さんとエリックさんはどういう関係なんですか?」


「子供の頃、よく一緒に遊んだのよ。エリックが四歳の時に引っ越してしまったから、彼の方はもう覚えてないのかもしれないわね」


「まぁ、覚えてたら既に朱莉さんのところまであいさつに来ててもおかしくないですよねぇ」


たしかに拓斗の言う通りだ。


なぜエリックが紫水町に戻ってきたのかは分からないけれど、一年以上前に戻ってきているなら、一度くらい私に会いに来てもおかしくないだろう。


それをしないということは、もう私のことなんて忘れているのだと思う。


「ちなみにその牧師さん、お兄ちゃんにそっくりなんだって」


桃花が明るい声で言うと、拓斗がすぐに、


「服装が似てただけだろ。しかもたまたま一日そういう日があっただけ。あと、『お兄ちゃん』はいい加減やめてくれ」


と、言った。


「だって面白かったんだもん」


激しく揺れ動く私の心とは裏腹に、桃花の明るい声が春の笹川神社に響き渡った。

【応援よろしくお願いいたします】


「面白かった!」「続きを読みたい!」

と思ってくださった方は、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

もちろん、あまり満足ができなかった方は☆1つや2つでも構いません。


また、ブックマークや感想コメントもいただけると本当に嬉しく思います。


既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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