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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第四章 朱莉の追憶
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第四章 第二話

応接室に入ると、幸平は椅子に座ったまま窓の外の花火を眺めていた。


「こんばんは。わざわざ来てくださったんですね」


視界を邪魔しないように横からそっと近づいて、静かに声をかける。


「こんばんは。ご無沙汰しております」


私に気づいた幸平が立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「どうぞそのまま、気楽にしていてください。今日は何かご用ですか?」


私が尋ねると、幸平は少し白髪の混じった頭をかきながら、


「今日の昼、偶然紫水町に用があったんです。それで、朱莉さんやお父様に特別な用があるというわけではないんですが、有名な夏祭りを一度拝見しておきたいなと思いまして。連絡もなく突然来てすみません」


と、言った。


「本当は一人でこっそり見学して帰るつもりだったんですが、偶然お母様とお会いして、ここに案内していただいたという経緯です」


「あら、母がすみません。せっかく気楽にお楽しみでしたのに」


私が謝ると、幸平は、


「とんでもありません。こちらこそ気をつかせわてしまって申し訳ないです」


と、再び頭を下げた。




隣町に住んでいる幸平は、私の婚約者であり、笹川家の婿養子だ。まず私の両親と養子縁組を行った後、私と結婚を行うという手筈になっている。


正確に言うとまだ正式に婚約をしたわけではないけれど、私たちが知らないところで親同士が話を進めているらしい。


幸平の実家も神社だが、二人の兄のどちらかが実家を継ぐ予定になっており、幸平は比較的自由の身だった。


そこで、私の父から話を持ち掛けて、婿養子をもらうという話が進んでいるという流れである。




このような経緯だけを見ると現代社会に相応しくない古い慣習に縛られた不幸な結婚という感じがするけれど、実際はそうでもない。


九歳年上の幸平はいつも落ち着いていて、優しく、私にも私の家族にも丁寧に接してくれる。


一方で神社の業務には真面目で厳しく、実家の業務だけでなく既に笹川神社の業務を手伝ってくれることもあった。


夫としても、神社の神主としても、満点に近いだろう。


「せっかくですから、ご案内しますよ。一年に一度のお祭りですから、楽しんでください」


幸平を誘うと同時に、休憩所の出口の方を向いた。花火はもう終盤に差し掛かっている。外で見るのであれば、早く移動しなければ間に合わない。




「綺麗ですね。やはり外で見たほうが風情がある気がします」


夏祭りが始まったばかりの頃と比べるとかなり涼しくなった外に出て、空を見上げながら幸平が言う。


「はい。毎年、紫水町中の人が花火を見るためにここに集まるんです。もちろん、花火を見るだけならわざわざ神社まで来なくてもいいんですけどね」


特別大きな花火を最後に全ての打ち上げが終了すると、高台から続々と人が降りてきた。


上るのには多くの体力と時間を要する長い階段も、下るのは比較的簡単である。子供たちの中には、競うように走って降りてくる子もいた。


「あの高台の上が、花火スポットなんでしょうか」


「ええ。四百段近くある階段で上るのが大変なんですけど、ここから見るよりも綺麗に見えますよ」


幸平と話していると、一際目立つ外国人カップルが階段を下りてきた。


女性の方は、先ほど少し会話をした金髪の女性だ。さっきは一人で道に迷っているように見えたけれど、どうやら連れがいたらしい。


続いて男性の方を見ると、こちらも見覚えがあった。夕方見かけた拓斗にそっくりの恰好をした男性である。


改めて見ると服の色が似ているだけで、それ以外は全くの別人だとすぐに気がついた。


階段の両サイドに設置された提灯に照らされ、二人の顔がぼんやりと見える。


「エリック?」


「え?」


まさかと思い、思わず名前を口にしてしまった。隣に立つ幸平が不思議そうな目でこちらを見ている。


「あ、いえ、すみません。昔の知り合いかもしれない方を見つけたので、つい」


「近くに行って確認しなくていいんですか?」


「いえ、気のせいです。彼はもう日本にはいないので、人違いでしょう」


「そうですか。私のことは気をつかっていただかなくて大丈夫ですよ」


幸平はそう言ってくれたけれど、外国人カップルは既に階段を降り終えて人混みと一体化してしまっていた。


そもそも、私が知っているのは四歳のエリックであり、大人になった彼がどんな風貌なのかは全く分からない。


外国人風の顔をした男性だからという理由でエリックと結びつけて考えるのはあまりにも短絡的すぎるだろう。




「大切な方だったんですか?」


私が人混みの方を見つめていると、幸平が聞いてくる。


「いえ、昔の話です」


質問に答えているような答えていないような曖昧な返事をした。


「そうですか。私のことは本当に気にしなくても……って、これだとむしろ尋問しているみたいですね。失礼しました」


そう言って、幸平が少し間を取った。


「今回の話は、私にとっても正直驚きでした。まぁ私はもう三十五歳なので親を心配させているという自覚はあるんですけど、まさか朱莉さんのような素敵な方を紹介していただけるとは思っていなかったです。朱莉さんがどうお考えなのかはわからないですが、私は結婚を楽しみにしています。でも、もし何か思うことがあればいつでも遠慮なく仰ってくださいね。本人の気持ちが一番大切ですから」


「ありがとうございます。私も楽しみにしています」


私が答えると、幸平は少し満足そうな表情を浮かべた。あまり感情を表現することが得意ではないタイプのようだけれど、たまに見せる素直な表情が彼の人のよさを物語っている気がする。


「それでは花火も終わりましたし、今日はこの辺で失礼します。ご両親によろしくお伝えください」


そう言って去ろうとする幸平を入り口の鳥居のところまで見送った。


花火が終わると、夏祭りもいよいよ最終盤だ。

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既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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