第三章 第八話
曖昧な関係のまま、クリスマスの駅前で夏樹と待ち合わせをした。
予定より十五分も早く着いてしまったけれど、駅前のコンビニのドアの隣には、既に夏樹が立っていた。
いつものファストファッションではなく、Pのロゴが入ったシャツを着ておしゃれをし、手には大きな紙袋を持っている。
「お待たせ、早いね」
「あ、凛子ちゃん。そっちこそ早いね。これ、クリスマスプレゼント」
私が声をかけるとすぐに、夏樹が大きな紙袋を渡してきた。
「えっ、いきなり?」
私が聞き返すと、夏樹は今度は素早く手をひっこめた。
「あ、そうか。荷物になるよね。もうしばらく持ってるから。ごめんね、気が利かなくて」
「ううん。それ、靴でしょ。今すぐ履きたいな」
「えっ、どうしてわかったの?」
「袋のロゴでわかるよ」
私が答えると、夏樹は心底感心しているという様子で、
「すごい。さすがだね」
と、答えた。あまりにもバレバレだったのにそれに気づいていない様子がなんだかおもしろい。
すぐそばのベンチに並んで座り紙製の箱を開けると、一足の赤いハイヒールが顔を見せた。
無駄な模様のないシンプルなデザインで、踵の部分は十センチ以上あるだろう。
ちょうど私が欲しいと思っていた靴のイメージにぴったりのものだった。
「凛子ちゃん、前に靴が欲しいって言ってたよね。あの時写真まで見せてくれたのに記憶が曖昧で、喜んでもらえるか不安だけど……」
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
夏樹の言葉を遮って、大きな声を出す。すぐに箱から取り出して、履いてみた。
タイルが敷き詰められた道に、コツコツと足音が響く。嬉しくてその場を何回も行ったり来たりした。
その間に、さっきまで私が履いていたムートンブーツを夏樹が箱に片付けてくれた。
「サイズもぴったりじゃん」
「サイズはお姉さんに聞いた。ちなみに、お姉さんが神社で剣道の練習をしてるっていう話は、朱莉さんに聞いた」
「で、今着てる服は大志に、この赤いハイヒールはオリビアさんに選んでもらったんでしょう」
「えっ、どうしてそんなことまでわかるの?」
「そりゃあ夏樹のことが大好きだもん。なんでも知ってるよ」
私が得意げにそう言うと、夏樹は顔を赤くしながら、
「僕も凛子ちゃんのことが好きだよ。ずっと言えなくてごめん。また僕と付き合って、いろんなところに遊びに行ったりして欲しい」
と、言ってくれた。それは私が一番聞きたかった言葉だった。
思わず涙が出そうになったけれど、ぐっとこらえて笑顔を作る。
「私からもプレゼント。これ、あげる」
そう言って、夏樹にビニール袋を手渡した。
「開けていい?」
夏樹の言葉に、緊張しながら頷く。袋の中身は、たっくんのサイン入り小説だ。
神原友の正体を明かすことはまだダメだと断られてしまったけれど、サインくらいならということで、無理を言って特別に書いてもらった。
「ありがとう。一生大切にする」
夏樹がサイン本を抱きしめながら言う。しばらくすると、丁寧な手つきで袋に本を戻して、
「どうやって手に入れたの? 神原先生はサイン会イベントとかもやってないはずだけど」
と、聞いてきた。
「それはヒミツ」
私が答えると、夏樹が残念そうな顔をする。その姿が見ていられなくて、今すぐたっくんのところへ連れて行ってあげたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
「ごめんね。でも、決して意地悪で言ってるわけではないの。信じてくれる?」
私がそう尋ねると、夏樹は、
「うん、凛子ちゃんを信じるよ」
と、言ってくれた。そして、自分に言い聞かせるように、
「デビュー作の舞台にしているくらいだから、神原先生が紫水町に住んでいる、もしくは過去に住んでいたことは確定だと思う。もしかしたらその辺ですれ違ったりしてるのかもしれないけど、あまり詮索しすぎるのは良くないね」
と、言った。
「あのね、夏樹。私あとで行きたいところがあるの」
夏樹が本をカバンにしまったタイミングで、声をかけた。
「行きたいところ?」
「笹川神社。高台に行って、花火をしたいんだよね」
言い終わると同時に、自宅から持ってきた紙袋の中身をちらっと見せた。
そこには、先日ホームセンターで購入した手持ち花火が入っている。
もし今日のデートがうまくいったら夜に誘おうと思って準備してきたものだった。
「えっこの季節に花火?」
紙袋の中を覗き込んだ夏樹はそう言ったけれど、すぐに私の意図に気付いたのか、
「あの伝説って、打ち上げ花火じゃなくてもいいのかな」
と、聞いてきた。
「大丈夫、この前朱莉お姉ちゃんに確認したから間違いないよ。花火の種類に特に決まりはないって言ってた。あと、神社のバケツと蝋燭を使っていいとも言ってくれた」
カバンを閉じて、夏樹の手を握る。ずっと外で私を待っていたからか、その手は以前学校で握った時よりも冷たかった。
「それに、私たちまだ子供なんだからこれくらいがちょうどいいよ。中学生に打ち上げ花火なんて贅沢だもん。無理して背伸びする必要ないと思う」
「そうだね」
夏樹が頷く。
「そういえば僕、本当は今日レストランを予約しておくつもりだったんだ。それでこの前一緒に見たイタリア料理の店とか、ほかにも何軒か電話してみたんだけど、どこも中学生だけではダメなんだって」
「年齢なんて言わなきゃわからないじゃない」
「あ、そっか。僕の方から中学生でもいいですかって聞いたんだけど、墓穴掘っちゃったかな。こういうところがダメなんだよね」
夏樹が申し訳なさそうに自分の頬を指でかく。先月教室で喧嘩をした時にできた傷は、すっかり癒えていた。
「そういうところも好きだよ」
そう言って、夏樹の冷たい頬に軽くキスをした。夏樹が慌てて距離を取る。
「それに、どのみち高級料理の味なんてよくわからないし、適当にあいてる店でいいよ。いつものフードコートでもいいし」
私がそう言うと、夏樹がまだ少し恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔をした。夏樹がくれたハイヒールのおかげで、今日は私よりも少し低い位置に彼の顔がある。なんだか少し新鮮な気持ちになった。
しばらく夏樹の顔を見つめていると、一粒の雪が彼の頭の上に落ちた。
「あ、降ってきた。とりあえずビルに入ろうか」
少し足元がふらついている私のペースに合わせて、夏樹が歩いてくれる。
「実は私、天気予報を見てちょっと期待してた。ホワイトクリスマスにデートしてみたかった」
「僕も期待してた。積もるといいね」
夏樹の言葉とは裏腹に、雪はすぐに雨へと変わり、しばらくすると降りやんでしまった。
どうやらホワイトクリスマスは今年もお預けらしい。
今年がダメでも来年がある。焦る必要なんてない。
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