第三章 第三話
放課後、街を歩く。
ハロウィンが終わったばかりなのに、駅前は既にクリスマスムードへと変わっていた。
店頭からはかぼちゃのランタンが取り外され、代わりにイルミネーションが綺麗に飾り付けられている。
「クリスマスかぁ。今年こそ雪が降るといいよね」
雑貨屋の前で、隣を歩くクラスメイトの愛海が言った。
「去年は二十二日に降ったんだっけ。で、二十四日には雪がほとんど溶けてて、むしろ暑いくらいだった」
記憶をさかのぼりながら答える。
「そうそう。これも地球温暖化の影響かなぁ」
溶けかけの雪がいろんな人に踏まれて泥と混ざっている様子を見て、むしろ汚く感じたことが印象に残っていた。
クリスマス当日にそうなるくらいであれば、雪なんてはじめから降らない方がいい。
「凛子は彼氏へのプレゼントはもう決めた?」
「どうしよう。愛海は決めてるの?」
「あたしは定期入れって決めてる。彼氏、高校まで毎日バス通学だから毎日使ってもらえるかなって。まぁどの定期入れにするかまでは決まってないけど」
愛海は話しながら、雑貨屋の商品を手にとっては返すという行為を繰り返している。
その中には、明らかに女性向けのものも含まれていた。
「紫水学園の高等部ではないんだっけ」
「うん。合コンで知り合ったから学校は関係ない。っていうかその合コンって、九月に凛子も一緒に行ったあの会よ。あの時、一番左に座ってた人」
「ああ。あの水泳部の」
「そうそう。ドリンクバーをやたら飲みまくってた人」
「たしかに、あの時いた三人の中では一番かっこよかったよね」
「だよねだよね。それにしても、凛子が榎本くんと付き合うのは意外だったなぁ。夏祭りで振られて落ち込んでるっぽかったから合コン設定したのに、意味なかったじゃん」
「ごめんごめん」
「ううん。凛子が立ち直れたならそれが一番だよ」
「ありがとう。まぁたしかに夏樹はまだちょっと幼いけど、顔のパーツ自体はわりと整ってる方よ。身長だって、男の子はまだまだ伸びるから」
「そうじゃなくて、榎本くんって、なんていうか大人しくてインテリ系じゃない? 凛子はあたしと同じでガテン系が好きなのかと思ってたから」
クラスでも目立つタイプの私と、どちらかと言えば大人しくて地味なタイプの夏樹の組み合わせが意外だというのは、他のクラスメイトなどにもよく言われたことだし、私自身でもそう思っているけれど、言われすぎて少しうんざりしてきた。
「バカ男にはもう懲りたのよ。これからは頭を使って生きる時代だわ」
私がそう言うと、愛海は手に取っていた雪だるまのキャラクターが描かれた定期入れを写真に撮って、商品棚に戻した。プレゼントの有力な候補ということなのだろう。
「あーあ。あたしの彼氏ももうちょっと頭がよかったらなぁ。頭がよくて力強いのが一番いいのに」
愛海の笑い声を聞きながら考える。夏樹はクリスマスに何が欲しいのだろう。
夏樹も私も産まれたころ時から紫水町に住んでいて、学校や神社で顔を合わせる機会はそれなりにあった。
小学生の時に二度同じクラスになったこともある。
でも、積極的にコミュニケーションをとるようになったのはつい最近のことなので、彼の好みはよくわからなかった。
将棋とたっくんの小説が好きなことは知っているけれど、そこからクリスマスプレゼントにつながるようなアイディアは、何も思いつかなかった。
そもそも、クリスマス当日は何をするつもりなのだろう。現時点で全く何の予定も立っていない。
「あたしね。このイタリアンに連れて行ってもらえることになってるの」
愛海が次に立ち止まったのは、飲食店の前だった。
店の入り口は高給そうなダークブラウンの木でできており、外からでも厨房がよく見える。
店頭に飾られた食品サンプルのピザやパスタは本物と見分けがつかないくらいよくできていて、思わずお腹が鳴りそうになった。
値札をちらっと見ると、ピザが三千五百円、パスタは三千二百円、デザートのケーキが千六百円だと記載されていた。
たまに行くファミレスとは五倍くらい値段が違う。
「雄介くんはこれくらいの店、何度も連れて行ってくれたんじゃない?」
愛海が元カレのことを聞いてくる。
昔の彼氏のことを聞かれるのは正直苦手だったけれど、それはコロコロと交際相手を変える私が悪いから仕方ないとも思う。
「う、うん。そうだね」
慌てて相槌を打つ。愛海の言う通り、雄介にちょっと高級な飲食店へ連れて行ってもらったことは、一度や二度ではなかった。
目を輝かせて食品サンプルを見つめている愛海には言えなかったけれど、本当はこの店にも来たことがある。
スタッフの態度や店内の雰囲気はよかったけれど、正直、味についてはファミレスとの違いがあまりよくわからなかった。
「あ、でも榎本くんの親って社長さんなんだっけ。いいなぁ。私はようやく初めて行けそうって段階なのに、榎本くんは子供の頃から当たり前のように食べてそう。やっぱりファミレスとは違うんだろうなぁ」
「夏樹は全然そんなそぶり見せないし、普通の中学生同士の恋愛と一緒だよ」
「えー、もったいない。せっかくだから高いものプレゼントしてもらおうよ」
「うーん」
「適度にわがまま言っておかないと、このままだと舐められるよ。女ばっかりプレゼントとかデートプランを考えるのって不公平じゃん。特に中学生の男子なんてその辺全然わかってないんだから、凛子が黙ってたら何もしてくれないって。相手がお金持ちなら、せめてプレゼントくらいは貰っておかないと」
「そうねぇ」
私が煮え切らない態度でいると、愛海がようやく食品サンプルから顔を上げてこちらを向いた。
透明なガラスのさっきまで愛海が触っていた場所に、指紋がはっきりと浮かび上がっている。
「榎本くんが凛子のこと好きなら、クリスマスくらい何かしてくれるって」
なるほど、愛海の言うことも間違ってはいないだろう。
実際、デートに誘うのはいつも私の方からだし、夏樹から何かをプレゼントされたこともない。食事は割り勘ばかりだ。
そもそも、夏樹の口から私を好きだという言葉を聞いたことがない気がする。
私が告白をして付き合うことになり、なんとなく今日まで仲良くしてきたけれど、彼は私のことをどう思っているのだろう。
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