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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第二章 オリビアの誇り
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第二章 第九話

すっかり日が沈む時間が早くなり気温も下がった晩秋の夜、大志と二人並んで長い階段を上る。


スタッフの朱莉さんが言うには、この階段は殺人階段と呼ばれているらしい。


神社にしては物騒な名前だと思ったが、朱莉さんは、近隣住民が勝手に呼んでいることだからしかたないと笑っていた。


「オリビアも朱莉さんと知り合いだったんだな」


少し前を歩く大志が話しかけてくる。


「夏祭りの日にほんの少し会っただけよ。さっきみたいに軽く世間話をしただけで、別に知り合いってほどでもないわ」


「そうか。俺は昔あの人のお父さんに将棋を教わっててさ、朱莉さんにもよく遊んでもらってた」


「優しそうな人だったわね」


「ああ。紫水町の住人で朱莉さんを悪く言う人を見たことがないし、朱莉さんが誰かを悪く言ってるところも見たことがない」


長い階段は、まだ半分以上残っている。


「俺は朱莉さんのことが好きだった。大昔の話だけどな」


「そんなことだろうと思ったわ」


「バレてたか」


「大志は美人なら誰でも好きでしょう。凛子ちゃんをナンパしたことだって、私知ってるのよ」


「いやそれは、あいつが高校生くらいかなと思ったから……」


「焦りすぎ。あと仮に高校生でも犯罪だからね」


「いや、だって」


「昔の話なんて気にしてないわ。今さらだけど、今日はどうしてここに誘ってくれたの? この場所に二人でくるって、つまりそういうことなんでしょう?」


私が前を向いたまま問うと、大志は質問には答えず、


「俺からすると、オリビアがあっさりついてきてくれる方が意外だったけどな」


と、言った。




大志に誘われたのは先週、教会でのことだった。


夕方になり私が今日はもう帰ろうと諦めかけたタイミングで、教会のドアが開き、大志が内定報告をしてくれた。


大志なら絶対に合格できると信じていたが、やっぱり嬉しかった。


しかし、さらに嬉しい気持ちになったのはその後だった。




「花火はどうするの?」


階段を六割くらい上ったところで、これまた今さらの質問をする。


正直、あまりにもスムーズに話が進みすぎていると感じていた。


「機材は夕方俺が準備して、後は俺たちが到着してエリック先生に連絡するといつでも打ち上げてもらえるよう話はしてある」


「先生をずっと河原で待たせてるってこと? あなたにはわからないかもしれないけど、牧師って大変な職業なのよ」


「わりとノリノリだったように見えたけどな。ちなみに、数は二つだ。一つ終わっても気を抜くなよ」


大志が悪びれる様子もなく言う。


「一つ十万円くらいするんでしょう。予算は大丈夫?」


私が問うと、大志はさすがに面倒臭くなったのか、


「相変わらず心配性だなぁ」


と、言った。


「ごめんなさい」


「一つは内定祝いの現金をその場で親父に返して代わりに貰ったものだし、もう一つは夏樹がカネを出してくれたから大丈夫だ」


「えっ、日本の中学生ってそんな大金を持ってるの?」


「あいつの家、すげぇ金持ちなんだよ。って言っても別にカツアゲしたわけじゃないぞ。俺がずっと持ってた将棋盤と駒を買い取ってもらった。むしろ時価より安いくらいだ」


「ふぅん。立派な物なのね。ちょっともったいない気がするわ」


「将棋道具そのものの価値もそうだが、俺の昔の夢が詰まってるっていう意味でも大切なものだった。でも、今の俺の夢は将棋棋士じゃない」


そう言い切る大志の横顔に迷いはなかった。まっすぐに前を見て、階段を上り続けている。


「いろいろ質問責めにして悪かったわね」


「いや、気になることは何でも聞いてくれていいぞ。俺はオリビアの好奇心と行動力が何より好きだ」


大志がそう言って笑顔を見せた。その言葉を信じて、最後にもう一つだけ、聞きたかったことを尋ねる。


「内定、辞退して本当によかったの?」


「ああ。俺は花火職人になる。本当はずっと前からそうしたかった。六年前の夏、夏樹に初めて負けた日に俺は将棋教室を辞めたんだ。幼稚園児の頃から知っている年下のガキがいつの間にか俺より強くなっていたことが受け入れられなくて、逃げるように辞めた。それをずっと後悔してた。だから、就職活動から負けたまま逃げることが嫌だったんだ」


「私にはわからないこだわりね。始めから内定辞退するつもりなら、暑い中をスーツで走り回る必要なんて全くなかったってことじゃない。っていうかその話、今初めて聞いたわよ」


「男っていうのはそういうものなんだよ。変なプライドを拗らせるとこうなるから、オリビアも気をつけろよ」


「そう。説明されても理解できないけれど、とりあえずこれ以上、私が口出ししていい話ではないということはわかったわ」


「ああ。これからも俺は俺の戦いを勝手にする。でも本当にどうしようもないくらい困ったらちゃんと相談する。それでいいだろ」




階段は後少しだ。最後の踊り場で立ち止まり、そっと自分の足元を見つめる。


「ところでさ。この階段を上るってわかってたのに、その恰好はないだろ。特に靴、それ何センチあるんだ」


私が立ち止まったことに気づいた大志が戻ってきて、手を差し出してくれた。


少し毛が生えてゴツゴツした手を、強く握りしめる。


「女っていうのはそういうものなの。変なプライドを拗らせるとこうなるから、せいぜい気をつけなさい」


「ご親切にどうも」


大志が面倒くさそうに言うのを無視して、空いている右手で手鏡を見る。


髪を軽く整えていると、あっという間に高台に着いた。二人の会話がピタリと止まる。


「着いたな」


沈黙を破ったのは大志の方だった。


心臓がドクンと音を立てる。それは決して長い階段のせいではない。


「着いたわね」


私が返事をしたタイミングで大志がその場に跪いて、花束を差し出した。


赤いバラが一本、二本、ざっと三十本くらいはあるだろう。


「オリビア・ランスロットさん。俺はあなたのことが大好きです。誰よりも一生懸命生きて、戦って、強くなったあなたを、俺の話に興味を持って最後まで聞き応援してくれたあなたを、今度は俺が支えていきたいです」


大志の言葉を聞きながら、目頭が急速に熱くなるのを感じた。


高台に着いたら告白されることは、もう何日も前からわかっていたことだった。


どういう風に返事をしようかと事前に考え、準備してきた。


でも、そんな私の努力は全く意味をなさなかった。


「ありがとう。私も好きです」


差し出された花束を手に取りながら声を絞り出す。


その瞬間、ドンという音が鳴って真っ赤なハートが夜空に映し出された。


「下からだとちゃんと見られなかっただろ。横から見るとあんな感じだ」


大志がそう言い切る前に、今度は特別大きな円形の花火が打ちあがった。


アメジスト色に輝く光の前で感じたこの気持ちを、私は生涯忘れない。

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もちろん、あまり満足ができなかった方は☆1つや2つでも構いません。


また、ブックマークや感想コメントもいただけると本当に嬉しく思います。


既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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