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まるで煌めく花火のように  作者: 匿名になろう
第一章 桃花の願い
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第一章 第一話

「お姉ちゃん、今年こそたっくんと高台に行くんだよね?」


背後から明るい声が聞こえた。私、皐月桃花(さつき ももか)は慌てて振り返り、


「今年はたまたまお兄ちゃんの予定があいてたし、あそこが花火が一番見やすいから行くの、それだけよ」


と答える。


「またまた、照れちゃって。高台に上って花火を見ながら愛を誓ったカップルは永遠に結ばれる。この町の人なら誰でも知ってるよ」


「別にそんなんじゃないって言ってるでしょ。あんたもよく知ってるじゃない。お兄ちゃんと私たち姉妹は、子供の頃からいつも一緒だったんだから」


「知ってるから言ってるんだけどなぁ」


妹の凛子(りんこ)がいたずらっぽくそう呟いて、顔を上げた。綺麗にカールした毛先がピョンと跳ねる。


「うん、できた。我ながら完璧ね。ほらお姉ちゃん、こっちこっち」


凛子に手を引かれ、全身鏡の前に移動する。オレンジ色の浴衣に身を包んだその姿は、まるで普段の自分とは別人のようだった。


「すごーい。ありがとう。凛子。一人じゃ着られなかったから助かったわ」


「せっかく買ったのに、お姉ちゃん、一昨年も去年も一度も着てないんだもん。浴衣だって使ってあげなきゃかわいそうだよ」


「仕方ないでしょ。去年はお兄ちゃんが仕事で忙しかったし、一昨年は私が部活の大会だったんだから」


「そんなに仕事や部活が大事かねぇ。おばさんにはぜんっぜん分からないよ」


凛子が冗談を言いながら、私と鏡の間に割り込んで、私の前髪をさっとクシで整えてくれた。


私の頭の両サイドには小さくピンク色のリボンが結ばれている。


凛子のように長くて綺麗な髪ではないので結ぶ必要はないと言ったのだが、つけた方が可愛いからと言って無理矢理つけられたものだ。


「うん、完璧。こんな美少女、滅多にいないよ。私がたっくんなら思わず前かがみになっちゃうね」


「もう、何言ってんのよ」


「お姉ちゃん、素材はいいんだから普段からもっとおしゃれすればいいのに。あーあ。私もお姉ちゃんみたいに背が高かったらなぁ。名前だって、お姉ちゃんの方がいかにも美少女って感じで可愛いし」


凛子が拗ねた様子で、畳の上のテーブルに腰をかける。


ほとんど何も手入れをしていない自分とは対照的に中学生らしからぬメイクをした顔が、こちらを見上げていた。


「こら、机に座らないの」


凛子を軽くたしなめ、時計を見る。時刻は午後五時を過ぎたところだった。


「凛子、本当に一緒に来なくていいの?」


「うん、私はクラスメイトとまわる予定だから大丈夫だって。お姉ちゃんそれ聞くのもう四回目だよ」


「だって……」


私が煮え切らない態度でいると、凛子はスマートフォンを取り出して何やらメッセージを打ち始めた。


「あ、ごめん。愛海たちもう着いてるみたい。私、先に行くね」


凛子がそう言って慌てて走り出す。玄関のドアを開けると振り返り、大きな声で、


「お姉ちゃん、頑張ってね。絶対、高台でキスするんだよ」


と、叫んで出て行った。


あの子は大きな声で何を言っているのだろう。


せめてドアを開ける前に言ってくれないと、恥ずかしい話が近所中に響き渡ってしまう。あと、家の中を走るなといつも言ってるのに。


そんなことを心の中で思いながらスマートフォンを取り出し、ケースを外した。


本体の背面、普段はケースで隠れている位置に、昔お兄ちゃんと撮ったプリントシールが貼られている。もちろん、このことは誰にも言っていない秘密だ。


「別に、私は……」


急に静かになった部屋で天井に向かって言葉をこぼす。


近所に住む杉原拓斗(すぎはら たくと)と私たち皐月桃花・凛子姉妹は、いわゆる幼馴染だった。


産まれた時からこの紫水町で一緒に育ち、私よりも一歳年上の拓斗のことを、私たち姉妹は兄のように慕っていた。


一緒に笹川神社の境内で遊び、一緒に小学校に通い、一緒に川で遊んだり夏祭りに参加したりもした。


あれから長い年月が経ち、お兄ちゃんは高校二年生、私は一年生、そして凛子は中学三年生まで成長した。


お兄ちゃんは趣味で書いていた小説が新人賞を受賞して、同級生たちには秘密にしたまま、高校生作家となった。


小学生の頃は勉強が得意で私たち姉妹に教えてくれることもあったけれど、最近は学校を休んで小説を書いていることが増えている。出席日数が足りるのか心配だ。


いつもお兄ちゃんと私の後をついてきていた凛子はおしゃれに目覚め、ずいぶんと女の子らしくなった。


お兄ちゃんのことをいつの間にか「たっくん」などと呼ぶようになり、行動を共にすることは以前よりも少なくなった。


私たちの関係は以前と全く同じというわけではないけれど、仲がいいこと自体は変わらない。


むしろ、昨年お兄ちゃんが一人暮らしを始めてからは、私がお兄ちゃんの家を訪れる機会がまた少しずつ増えていた。


八月三十一日。毎年夏休み最後の日が来るたびに皐月家の柱に刻んでいた傷が、私たちの成長を示している。


「さすがにもう身長は伸びないわね」


そっと古い傷を指でなぞる。毎年恒例、笹川神社主催の夏祭りが今年も始まろうとしていた。

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既に最後まで書き終わっているので、できるだけ速やかに全話投稿していきます。

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