9 王都を目指します 前編 でも王都は遠く、俺の手は天丼に届かなかった。 そして旅が終り、旅が始まる!
こんにちは。
投稿です。
すみません、お話しが長くなりましたので、前編後編に分けることにしました。
もう一話だけ、お付き合いください。
静かに佇むキルル・ランダム。
包帯だらけのライトル。
俺はライトルに目を留めた。
「ライトル、次にベリナや、俺の友人知人に手を出したら許さん」
目を逸らすライトル。
ん?おかしい?ギラギラした殺気のような感じがしない。
「……どうしたのライトル?」
思わず心配の声がでる。
え?というお顔の聖女クルルン。
「がはははっ、おい、聞いたか?テニイはライトルの心配をしているぞ?」
もの凄い不機嫌面のキルル・ランダムが、ぼそぼそと呟く。
「おい、お前、おかしいだろう?そいつはお前とあのゴブリン・レンジャーを殺そうとしたんだぞ?」
「あ、そうだね」
「強者の余裕か?傲慢だな……」
いつになく辛辣だなぁキルル・ランダム。
ん?なんでレンジャーって知っているの?
試験会場にいた!?
4人をじっと見る。
間合いは充分だ。
いつでも逃げられる……はず。
「じゃ俺はこれで。先を急ぐんで。行こう!ファーファ」
「まあ、待てよゴブリン・ア・キュウガ・テニィ」
ゆらり、と陽炎のように移動し、前を塞ぐキルル・ランダム。
ファーファの足下に突き刺さるナイフ、いや、手裏剣か?
カチン、ときた。
そしてムズムズと弱虫泣き虫スキルが発動準備をする。
さすがに、もうスキル発動のタイミングが分かってきたぞ。
これは、もう時期発動するな。
でも、今の足運び、陽炎見たいな移動、確かに見た。
マネできそう。
摺り足?ってやつ?
「キルル・ランダム、人サマに命令するんじゃねぇ。それから俺の大事な友人、ファーファに刃を向けるな」
この女性の戦士、言葉や行動が攻撃的だなぁ、思わずこちらもつられてしまう。
「ユキ!ここは謝罪すると約束しました!」
あ、聖女サマ怒った?
「クルルン!こいつ、不遜だ」
「ユキ!」
「反抗的で、子供のクセに生意気なんだよ!」
余程俺のことが気に入らないらしい。
俺、そんなに悪いことしたっけ?
キルル・ランダムの言い草は、気にくわないってだけで俺や母さんを殴る、あの男達みたいだ。
多分、同じ『何か』を持っている同類だ。
「おい、子供は生意気なのが当たり前だぞ、それをダメだと諭すのが大人。力で諭すか、背中で諭すか、どっちだ?キルル・ランダム!」
「ちからだっ!このクソガキ!なめんな!」
「ガキはお前だろう?お前より大人の俺が、諭してやる!」
ザバーッ、と上空から水が降って来た。
凄い衝撃である。
雨ではない、水の固まりである。
それはまるで、巨大なバケツが頭上に発生し、ひっくり返ったって感じだった。
これ、頸に負担が……むち打ちにならないか?
ちょっと心配。
「あ、あなた達!頭を冷やしなさいっ!もう!もう!ユリ!何度言ったら分かるのです!謝罪が先ですっ!ア・キュウガ・テニィさま!挑発はいけません!それは人を侮り、侮辱する最低の行為です!」
「……はい、ごめんなさい」
俺は素直に謝った。
「……ふん」
鼻を鳴らし、横を向くキルル・ランダム。
ザバーッ!
再び水が降ってくる。
「っんきゃ!」
「次は氷です!」
聖女クルルン、容赦なし?
氷?刺さるんじゃね?
ん?無詠唱で連続バケツ水!?
俺と同じか?いや魔法を使った気配さえ、させなかったから俺より上か?
シュウウウウッ、音を立て、蒸発していく水。
『ぴったりの籠手』や『ぴったりの靴』はもう乾燥している。
勿論、汗の臭いもしないよ。
ふふん、いいでしょう?剣道部の人達!
「おい」
「なに?キルル・ランダム?」
「なんでもう乾いているんだ!?」
「さあ?」
この一言に、ギロッとした目を向ける聖女クルルン。
「あ、ごめんなさい、聖女サマ」
すぐに謝り、魔力をキルル・ランダムに向ける。
魔力で包み、ふわっと乾燥させよう。
魔力で包むと……ん?
あれ?俺と違って、やわやわな感覚だ!
シュウッ、と軽い音と共に髪の毛まで乾いてしまうキルル・ランダム。
「あ?あれ?」
「大丈夫だ、髪、痛んでないよ」
髪の毛は女性にとって、とっても気になるパーツらしい。
母親がいつも気にしていたのが、髪の毛だ。
まあ女性みんながそうだとは限らないと思うけど、死んだ母親はいつも気にしていたな。
そうそう、特に前髪!
憮然とするキルル・ランダム。
……お礼無し?まあいいけど……サ。
余計なことしたかな?
あ、うまく乾かなかったのかな?
「あの……パンツ生乾きでした?」
ブチッ!
も、凄い形相で睨んできた!?
あ……地雷踏んだかも……。
このお顔……そう、えーっと、あの、般若のお面みたいなお顔だ!
「……私の……パンツが……何だって?お前、女子に、なんてこと……するんだ……」
「ご、ご、ご、ごめんなさい!余計なことしました!?」
ドゲシッ!
「うごっ!ファーファ!?」
「テニサマ!ヒドイ!許可ナク魔力デ包ムナンテ!」
ガチャガチャ。
え?ファーファ?どこ行くの!?
ファーファはキルル・ランダムと対峙する。
「死ナナイテイドニ、ブッ殺シテクダサイ」
「いいのか?」
「許可シマス、魔力デ女性ヲ包ムナンテ!オワカリデスヨネ?」
「ああ、それをしていいのは医者、ヒーラー、夫婦間だけだっ!」
「ち、ちょっと!?ファーファ?」
どうもファーファは常に、女性の味方らしい。
いや、前からそうだとは思っていたけど。
ヒュン!
剣が唸る。
「ち、ちょっと!?キルル・ランダムさん!?」
「大丈夫だ、剣は鞘から抜いていない」
ヒュン!
「いやいや、鞘付きの攻撃ですけど、これ、当たったら重傷ですよ?いや死ぬかも!?」
「お前、ヒーラーだってな?だからと言って、無許可で私に触ったな?そ、それも全身をっ!」
「え?」
いや、そんな風習、習慣、知らんし!
「……保護者の許可は得た」
保護者って誰!?
ヒュン!
凄い剣捌きで、追い回された。
ジャンプ・アップは無詠唱だけど、1カウントだけ隙ができる。
その余裕を全く与えない連続攻撃だ!
ひのきの杖で受け流しているけど、これ、いつまでももたないぞ!
「おいライトル、ア・キュウガのヤツ、ユキの乱撃を全部受け流しているぞ?」
「ユキは本気じゃない」
「あ、当たり前ですっ!あんな小さな子に、本気で攻撃するわけないでしょうっ!」
「だとよ、本気で攻撃して怒られたライトルさん」
「う、うるせぇな、黙れリッチナ!」
やばい!ヤバい!手が痺れてきたっ!
「あの!その!せ、聖女サマ?そろそろやめなさい!とか、もういいでしょう!とか言いませんか?」
「ア・キュウガ・テニィさま!ま、ま、魔力で、さ、触ったのでしょう?痴漢行為ですっ!」
ええええええっ!?そ、そうなの!?そ、そんなの知らんし!
うう、泣きたくなってきた。
て、手、痛いし、キルル怖い顔だし!
あ、あの摺り足!使ってみよう!
すりすり、と。
「!!!!」
「お、おい!あいつ!あの動き!ユキの動きだ!」
「技を盗んだ!?」
あ、この移動、楽かも!
ここで連撃が止んだ。
「お前……摺り足を盗んだのか」
うわぁ怖いお顔だ。
「ま、マネをしただけだよ!」
「簡単にマネできる技ではないぞ?」
そうなんだ。
じゃ、まだ未熟って事なんだな。
「……なら、この技、磨く」
「……一つ聞きたい」
「何です?キルル・ランダム」
「お前は魔王か?」
うわぁストレート。
何と答えよう?
「わかりません」
「!?」
「分からない?」
「魔王ってなんです?魔のエネルギーの集合体?悪の固まり?世界の脅威?」
「お前はどう思う?」
俺!?
日頃考えていたこと、言ってみるかな。
「俺は、魔を纏める、魔の王さまだと思う」
「?」
「なんだそれは?」
「悪さする魔物や怪物達を、そんな悪いことするんじゃない!と相談にのったり、叱りつける更に強い魔物の王さま。これが本当の魔王だと思う」
「!」
「それは……」
「だから、えーっと西の魔王ヲダ?あれはただの侵略者で、真の魔王にはほど遠いと思う」
まあ、俺だってほど遠いどころか、遙か彼方の存在だけどな。
今でも、もう泣きそうだし。
「面白い考えですね、纏めてどうするのです?」
「それはですね聖女サマ、魔物なりに魔物の世界を作り、ひっそりと、楽しく暮らします」
「!」
「魔物の楽しみだと?あいつらは残虐で、血や暴力を好む。その世界は地獄ではないか?」
「だから魔王さまがぶん殴って、ボコボコにして止めさせる。これ繰り返せば、魔物も少しはまともになるのでは?」
「おいおい、それでは魔王が楽しいだけの世界ではないか!」
「あ、そうだね!」
もじもじ。
「どうした?」ライトルが睨む。
「ちょっとトイレ!もう限界!」
「は?」
「キルル、凄いし怖い!俺、緊張しっぱなしで……グスッ!」
あ、涙でた……鼻水も……。
そして子供は膀胱も小さい。
猛ダッシュで大木の陰を目指すが、間に合いそうにもなかった。
「ハクチュン!」
かわいい?くしゃみと共に、膀胱が開放された……。
あ、あかん……この歳でお漏らしか……。
「フ」
「ふ?」
「ファーファ来いっ!ジャンプ・アップ!」
とりあえず、チワワンの街へ戻る俺。
そこはギルド・ダウトの浴室前である。
運がいいのか悪いのか、ばったりエルフ受付嬢、ボンバ・ビビンさんと出会う。
「きゃっ!」
「うわっ!?」
「もう!?誰?あれ?」
さすがにこの姿は見られたくなかった……。
「ど、どうしたの!?」
「い、いやあぁちょっと、たちの悪い冒険者に絡まれて……に、逃げて来た」
洗濯物だろうか?両手いっぱいである。
に、臭うよね。
更にジャンプ・アップするか。
「ん?あ、お風呂ね?今ちょうど空いているわ!洗濯物は洗濯ゴーレム『洗うくん』どうぞ!繕いもアイロンもバッチリよ!組合員は銅貨一枚!あなたは非組合員ですので銅貨3枚!頂きます!」
「え?とんでもない汚れだけど……さ……いいの?」
「戦いながら旅をするって、大変なことよ?長期戦とかなったら、トイレそのまま当たり前よ?ほら!さあ!お風呂どうぞ!当ギルドは24時間、いつでも快適温泉です!入浴料組合員はただ!あなたは銅貨2枚っ!」
意外としっかりしている……でも助かる。
「あの……前払い?」
「脱衣場に洗濯ゴーレム『洗うくん』と『番台くん』がいるわ、彼らに銅貨を渡して!」
「その……皆には内緒にして欲しいんですケド……ベリナ……とか……」
うう、泣き虫弱虫スキル発動だよ……しくしく。
チラッ、と上目遣いに見る。
(くっ……このメガネっ子テニちゃん、私ドストライクなのよねぇ……どうしよう?)
「今度、お茶しましょう!それでいいわ」
「え?」
「あ、ワリカンだからね!ほら!魔王さまなんでしょう?泣かない、泣かない!悪の一番星になって、世界中の悪をやっつけてね?」
そう言って、スタスタと外に出て行くボンバさん。
(ふふっ、いつになるか分からないけど、楽しみっ!なに着ていこうかなぁ!ギルドカードに魔王?中二病っぽいところもいいのよねぇ!)
……あるんだ、この世界にも中二病……これってデート?いや、ホント、いつになるのか分かりませんよ?
あ、男湯、女湯別れている!
「ファーファ、どうする?」
「……テニサマノエッチ!」
……いや、意味不明だし。
「……ココデマツ」
『番台くん』に銅貨を渡し、脱衣場にある『洗うくん』に服一式渡す。
あ、乾くまで裸?
いやいや、魔法で乾燥させるか。
身体をしっかり洗い、温泉に浸かる。
「おぅ!?おおおおおっ」
温泉は快適だった。
これ、ジャンプ・アップで毎日温泉?
ギルド・ダウト、入ろうかな?
なかば本気で考え出した。
そして旅の仕切り直し!
ピカピカになった俺とファーファは(食堂のおばちゃんから、食用油をもらって拭上げた)
再びジャンプ・アップ!と。
周囲には?
誰もいない。
聖女クルルン一行は、何処かに向ったようだ。
ちょっと……かなりホットする。
「行こう!ファーファ!」
コクコクと頷いて、俺の前を歩き出すファーファ。
暫く歩くと、マップに反応があった。
「ストップ、ファーファ。これは?聖女クルルン一行……じゃないよね?なんだこれ?」
赤い点が12、緑の点が5つ?
赤い点が気になる!
まあ、よせばいいのに、と思うけど、見たからには放っておけないっ!
「ファーファ!行くよっ!ジャンプ・アップ!」
そこはには、イノノの群れに襲われている馬車?獣車?があった。
馬ではないな、巨大なトカゲ?に荷台を引かせている?
子供二人に大人二人?家族か?緑の点五つは彼らだ。
「お父さん!お父さん!」
!?
お父さん!?
この言葉にスイッチが入った。
絶対に助けるっ!
どこだ!?子供の視線の先は!?
マップの表示も一つだけ動かない点がある!これか?
イノノに脚を噛まれたのか倒れている!?
群がり出すイノノ!
ひのきの杖を使って!
えいっ!と!
辺りに舞う風の刃!
5匹ほど仕留める。
イノノ、逃げるか?
逃げない!?
あの一番デカいイノノがボスか?
風の刃を当てるが、このボスイノノ、弾いた!?
俺の魔法は不安定だ、出力を上げると被害が広がるかも。
だったら取敢えず、囮になる。
「フ、フ、ファーファっ!怪我人を頼むっ!ひいいいいいっ!」
泣き叫びながら走り出す俺。
もの凄い勢いで群がる、残りのイノノ。
1㎞ほど走った。
こ、ここまで引き離せばもう戻ってこないだろう。
「ジ、ジャンプ・アップ!」
はい、元の場所、と。
ろくに確認もせずに戻ったら、そこには顔馴染みのメンバーがいた。
「よう!またあったな!ア・キュウガ・テニィ!」
満面の笑顔で迎えるリッチナさん。
「こんにちは、ア・キュウガ・テニィさま」
いつでも礼儀正しい聖女クルルンさま。
不機嫌顔の残り二名。
……こいつら、ストーカー?
「ん?この匂い?おい、どこの温泉だ?俺も入りてーぜ!教えろよ?」
「……秘湯なんでね、教えないよ」
聖女サマは怪我をした男性の治療を……ん?あれ?拒否している?
医療拒否?
「恐れ多いことです、どうぞお見逃しください」
「怪我をしているのです!早く治療を!」
「真聖庁の方々に責められます、どうかその力は別のことにお使いください!」
「リッチナさん、あれなに?聖女サマは自由にその力を使えないの?」
「取巻きが厳しくてな」
「何それ、聖女の意味あるの?」
聖女とは?
「……お前も厳しいこと言うな?」
苦笑いのリッチナさん。
俺は倒れているお父さんに近寄る。
「そこのお父さん、これ俺のギルド・カード」
「え?」
「ギルドが認めたヒーラーだ、ランクは最低だけど治療してやるよ」
「え?しかし私達には硬貨が……」
金か?
無報酬で治してあげたいけど。
なんせガチャで出た能力だ、粗末にするつもりはないが、ケチるつもりもないっ!
「どこまで行くんだ?ちびちゃん」
俺は泣いているチビちゃん二人に話し掛ける。
まあ俺も涙でぐしゃぐしゃな顔だけど。
「……チートイの村まで」
「王都の近くか?」
「王都の隣村だよ!」
「よし、俺は王都に行く旅人、ア・キュウガ・テニィさまだ。途中まで案内しろ、その報酬にこの『お父さん』を治療してやる、後払いだ、どうだ?」
「え!?」
「お、お願いします!」
「よし、契約成立だ」
「ま、待ってください!私達には……」
おそらく母親であろう、お母さんが駆け寄る。
「硬貨はいらん!ほれ、ギルド・カード」
俺は自称の項目(魔王)を指で押さえ、基本ランクをチラつかせた。
「ランクS!?あ、あなたは聖女様のクルーなのですか!?」
え?
旅人って言うたやん!
何聞いていたの?お母さん?
「おおうそうだぜ、こいつは今売り出しのメンバー、ヒーラー、ア・キュウガ・テニィさまだ!」
をい!リッチナ!?
「ち、ちょっとリッチナさん?」
リッチナへの苦情は後回し、俺は『お父さん』に確認をとり、治療を開始する。
……ほとんど切れかけた右足。
心配する家族。
不謹慎かも知れないが……羨ましいな。
傷口を見ると、軽い魔法の痕跡が見えた。
これで止血していたのか?でもこの魔法じゃすぐに流血が始まるぞ!
「この魔法は?」
「簡易魔法です、本来は軽い怪我や消毒に使う魔法ですが……」
このお母さん、ヒーラーか?聖女クルルンは青いお顔で俺を見つめている。
俺が魔力を通すと、倍速の動画みたいに傷が塞がり、切れかけた脚が繋がり始める。
「!」
目を見張る子供達。
異様な光る目で俺を見る、聖女クルルン御一行。
こいつらは危険な存在だが、今は無視!
お?よく見ると、このお父さん、傷だらけだ。
傷痕からして、かなりの深手もある。
家族のためだろうか、相当無理をしているぞ。
身体はそんなに大きないし、痩せている?
魔力を通して生体情報が流れ込んでくる。
膝、腰、腕、頸、どこもボロボロだ。
この世界、これが普通なのだろうか?
ん?……ちょっと待てよ?
ここで思った。
今、ここで完璧に治すと、この『お父さん』無理しないか?
元気になると、更に頑張って、頑張りすぎてまた倒れたりしないか?
最悪の場合、死んでしまうかも?!
今だって、俺や聖女クルルンがいなければ?
この傷だ……ここは……どうする?
俺の母親はどうだった?
病気と治療、仕事の繰り返しだった。
元気になると、遊び回って次の日、一日中仕事してまた遊んで呑んで病気になる。
健康と不健康ループの始まりだ。
そして身体は段々と、気がつかないうちに病んでいく。
医者ならば完璧に治すだろう。
きっと全力を尽くすだろうな、たぶん。
でも、俺は魔王だ。
「お父さん、どう?俺は基本SだがランクはDの見習いでね、少し後遺症が残るかも知れない」
「あ、歩けるならば、かまわない!もう、脚はダメかと……」
この傷、歩くどころか命が危ないと思うけど?
「家族のためと思うならば、絶対無理するな」
睨む俺。
「わ、わかった……」
本当か?おい、オヤジ!
お前が倒れたな、残った者はどうなるんだ?
この世界、労災なんかないだろう?
それでもこの『お父さん』がんばりそうだなぁ。
だけど、無理はしないと、魔王と契約したんだ、多分破ろうとすれば、チクリと警告程度にどこそこ痛くなるはず。
「か……身体が軽い!?傷も!あ、ありがとうございます!」
「やったあぁ!テニお兄ちゃん!ありがとう!」
!?
お、お兄ちゃん!?
俺、お兄ちゃん!?
「ふふ、では、チートイの村まで案内してくれ」
と言ったのはリッチナである。
「おい、リッチナさん?あんた、案内の必要ある?知っているだろう?カエルでさっさと王都まで帰れよ!」
「そう冷たくするなよ、付き合うぜ兄弟?」
「いつから兄弟だよ!」
そう言って俺は、荷台の前に蹲っている大きな象?トカゲ?に近づいた。
こいつも怪我をしているのだ。
……でかい。
あ、怖いかも。
「グルルルルッ!」
「ひゃっ!」
奇声をあげ、リッチナの後ろに思わず隠れる。
「げははははっ!お前、シラゴンが怖いのか!?こいつ見た目はドラゴンみたいだが、草食のおとなしいヤツだぞ」
「ほ、本当か?草食にあの牙おかしいだろ!?」
「あれは木を押したり、穴を掘ったりするのに使うんだ」
「そ、そうなのか?」
「テニお兄ちゃん、怖いの?ゴンちゃん、優しいし、働き者だよ?」
「ひひひっ、このお兄ちゃんは怖がりなんだよ!」
「そうなのですか?リッチナさま?」
く、屈辱だ!くそうっ!
俺は恐る恐るゴンちゃんに触れ、傷を癒やした。
目を細めるゴンちゃん。
ネコみたいだ。
……ああ、あの公園のネコ達、無事かなぁ餌やり禁止の看板があったけど、保健所とかに連れて行かれていないよな?
悲しい気持ちでゴンちゃんを撫でていると、ゴンちゃん、長いザラザラした舌で俺の手を
ペロッ、と舐めた。
「!?」
「ね?ゴンちゃん優しいでしょう?」
「ああ、そうだね」
積み荷はチワワンの街で仕入れたイノノの牙や魔昆虫の外骨格。
防具や武器の材料らしい。
要はこの家族、商人か。
その夜は倒したイノノで、焼肉パーティーだった。
焼き手は俺、鍋奉行がファーファ。
子供達は凄い食欲を見せ、その姿は大人や聖女クルルン一行を微笑ませた。
ほーおぉ、キルル・ランダムも笑うんだ。
「少し話をいいか?」
お?ライトル?
「焼きながらでいいなら?」
「突然の攻撃、すまなかった」
お?ライトル?なにがあった?
でもお前の攻撃、正解だぜ?俺、魔王だし。
「聖女と国王に怒られた、確証もなく剣を振るうな、と」
「え?聖女サマは分かるけど、国王!?」
「お前、ギルド会館で『戦う君』とバトルしただろう?」
「ああ」
「あれは全機、王都に繋がってモニターされているんだ」
「え?」
何ですと!?
「お前の戦いに国王が興味を示した」
「あの戦い、見たの!?」
え?あの戦い、王都で放送されたの!?
「賢者はお前をおそらく魔王であろう、と言ったが、従来の魔王と違って、殺戮と破壊を好まない稀な魔王ではないか、と評した」
王都には色々なヤツがいるんだな。
「特に国王が気に入ってな、泣き叫んで逃げ回る魔王は滑稽だが、その力は脅威、ゴーレムが慈悲を請えば、その言葉を汲み取る。お前を『魔の力』を纏った旅神ではないか?と識者が言い始めた」
「そんなに偉い存在ではないよ」
「なぜあの時、聖女を攻撃しなかった?」
あの時?ああ、最初の時か。
「聖女クルルンは止めたから。間に入って、戦いを止めさせようとしている者を、攻撃してはいけないだろう?」
「……そうだな。では氷漬けの蛇族も、湖も、渓谷も、あの恐ろしい魔昆虫の森を打ち払ったのもお前か?」
さて、どう答える?
「そしてあの悪名高い騎士団、ボウロウロ騎士団を全員女性にしたのもお前か?」
あ、そんなことあったな。
「あのう、彼女達、どうなりました?」
「聖女クルルンが解呪できたのは3名、他は女性のままだ」
さてどうしよう?戻し方知らないぞ!
「呪いが少しずつ浄化されているから、一年もすれば元に戻るらしいが……」
「?」
「このままがいい、というヤツが……半数ほどいる」
「ええええっ!?」
「国王は良きに計らえ、と仰せられたが……誰の仕業だ?お前の仕業だよな?」
チラリ、と俺を見るライトル。
認めたら討伐!とかならないか?
誘導尋問と言うにはお粗末だし。
補導員とか警察とかよく使うんだよねぇ、親しく言い寄って、バッサリ!
「認めたら、即討伐対象か?」
「はははっ、あれだけの偉業、俺達に討伐出来るか?地形を変え、男女を変えているんだぞ?お前を討伐するには、各国の国家騎士団全軍と全ギルド招集でも無理ではないか?」
「聖女に賢者、それに勇者もいるだろう?」
「聖女クルルンは優しすぎる、戦いに向いていない。賢者は高齢で城から出られん、そして勇者は……」
「勇者は?」
「勇者は幼い。まだその力、半分も目覚めていない……」
ふーん、それ、俺に言っていいのかなぁ?
そして日が暮れ、夜が来る。
子供達も口数が減り、夜の闇を怖がり始める。
「俺達が交代で見張ろう」
そう名乗り出たにはリッチナさんだ。
ライトルの告白が全て本当かどうかは分からないけど、彼らは俺に戸惑いを感じているらしい。
その上で、国王が興味を示した?
本当かな?でもこれで魔王認定?
ならば、能力もそんなに隠さなくてもいいのかな?
「見張りの必要はないよ」
俺はひのきの杖を大地に挿す。
その先に灯る淡い光。
周囲に光が満ちる。
「うわあああぁ!綺麗!」
子供達の歓声が上がる。
そして杖に力を込める。
ドオオオン。
静かに重く大地が震える。
「!?」
大地に浮かび上がる巨大魔法陣。
「!!!!!!?」
それは輝きながら静かに、大地に吸い込まれる。
簡易結界のできあがりっ、と。
「テニお、お兄ちゃん?これは?」
ビックリする子供達。
……おおおお、何度聞いてもいい響きっ!
この俺が『お兄ちゃん』と呼ばれる日が来るなんてっ!
感動ではないかっ!感極まり泣きそうだぜ!
身長は同じくらいだけど……。
「大丈夫、怖くないよ。これは俺の結界、悪い奴は近づけないし、ここまで辿り着けない。そうだろう、ファーファ?」
こくこく。
激しく頷くファーファ。
なんせ魔王さまの結界だ!
「さあ、長い夜の始まりだ、村の話を、この世界の話を俺に聞かせてくれ!」
後編は2023/12/09 零時9分に投稿予定です。
お話しが伸びましてすみません。
あと一話だけお付き合いください。
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