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泣き虫弱虫魔王さま  作者: MAYAKO


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8/10

8 チワワン到着、今日から俺らはギルドの一員編 でも俺さまランクはDでした。なぜ?魔王さまなのに!?

こんにちは、投稿です。

今日から12月、読者皆さま、どんな一年でしたか?

今回原稿用紙50枚です。

いつもより、ちょっと長いです。

 人混みに酔いそうである。


 街は馴れていると思っていたが、違ったみたいだ。

 まあ、ギラギラする刃物、要は完全武装で街の住人が行き来しているのだ。


 コスプレの集団?


 だが、武器、武装は全部本物……ちょっと怖いかも。

 前世の記憶がある俺には、異様に感じる。


 治安は大丈夫か?と思うほど、様々な妖精がここにはいた。

 犯罪とか多そうに感じるけど?大丈夫か?


 人が集まれば、トラブルも集まる。

 この世界にも適用されそうだけど?


「リベナ、ゴーレムが多いね?」


 大きさ、1mから3m程のゴーレムが、かなりの数で歩き回っている。

 それも完全武装で。


「ほとんどが警備ゴーレムって聞いていたけど」


 おお、ゴーレムが警備!

 命令系統、治安、これは興味深い。

 その街中を、静かに滑るように歩く俺達。


「この靴、スゲえなぁ?へへっ、テニイさまとお揃いだ」


 俺とベリナは、安全靴みたいな分厚いブーツを履いていた。

 そう、このチワワンの街到着まで、毎日やったガチャの景品だ。


 最初に出たのがこの、《SR:ぴったりの靴》だった。

 誰が履いてもぴったり!という優れものだ。

 それにこの靴、場所や目的によって形を変えるのだ!


 サンダルになったり、ヒールになったり、そしてサイズはぴったり、履きやすい!

夢のような靴。


 ベリナと俺のお気に入りだ。


 これが一日目と二日目、連続で出た。

 次の三日目、四日目に出たのは《SR:ぴったりの籠手》

 これも《ぴったりの靴》と同じく、場所や用途によって形を変えたりする防具だ。


 ベリナは籠手の状態にし、俺は薄手の手袋状態にしている。


 五日目に出たのはヤバかった。


《SR:ファンシー&フェミニン・女性専用下着》


「は?」


《通気性と保温性を同時に保ち、一度の洗濯で綺麗に再生可能。上位聖霊種、髙妖精族の今年の流行》


「は?」


 今年とは?

 流行!?


《色は白と黒、選択可能》


 通販?

 俺の目の前に現れる、フリルとレースの凝った女性用のインナー。

 清楚な白と、凄みのある黒。


「は?」


 俺に選べと?


「み、見るんじゃねーっ!」


「は?」


 顔を真っ赤にし、怒鳴るベリナ。

 そして、俺の顔に飛びつくファーファ。


 はしっ、と、どちらかをブン取るベリナ。


「な、なに出しているんだよ!テ、テニイさまのドスケベッ!」


 まあ確かに、こんなに間近で、女の子のパンツ、じっくり見たのは初めてだと思う。


「テニサマ、スケベ!」


 ファーファまで!


 お前が出したんだろう!?

 と、言いたいが、ぐっと堪えた。


 一時間後。


「で、どう?ベリナ?」


「?」


「履き心地だよ」


「ああ、これ?すんごいいいよ!ヒップアップもするみたいだしさ……!?」


「へーそうなんだ。ヒップアップって何?」


「!?」


「ん?なに?ベリナ?」


「お、お、お、お、女の子に何言わせるんだよおおお!この変態!」

「ヘンタイ!」


 ……ファーファまで……ちょっと聞いただけじゃん、そこまで言う?


 そして六日目。


《R:可愛い眼鏡・可愛さが1上がる、魔王専用》


 ……1、だけ?

 いやいや、魔王に可愛さは必要か?


《相手の目の前で外すと、さらに1上がる》


 眼鏡を外す?

 眼鏡とは?


 取敢えず、俺はメガネっ子になった。


 俺としては帽子が欲しいのだが。


 七日目。


《SSR》


 !!!!!!!?


 何ですと!?


《短剣:王断鳳道おうだんほうどう、別名:巨人斬鈴紅ジャイアントキルリング、用途で攻撃力が変化、稀に大剣化する》


 ……なんか凄そうだけど、俺に使いこなせるのだろうか?


 そして今現在、興味深い建物へ辿り着く。


「ここ?ベリナ?」


「ああ、ここだアズ・ギルド・チワワン支部!」


「アズ・ギルド?」


「世界3大ギルドの一つさ、組合員が一番多いギルド!」


 ほーっ、あと二つは?他にもあるのかな?

 それにギルドって、ゲームのギルドと同じ考えでいいのか?

 ベリナの説明じゃ、今、ひとつ、分からないんだよねぇ。


「みんな集まって、何かするんだ!金儲けとか!」


 おい、だからギルドってなに?説明とは?


「ベリナ、先ずは受付かな?」


「ああ、こっちだ。テニイさまも加入するんだろ?ギルド」


「あ?そうだねぇ」


 丼のお代金、稼がないといけないし。


「依頼、受けられるし、お金稼げるぜ」


 人混みというか妖精達がいっぱいだなぁ。


 依頼者?


 掲示板には何やら紙が沢山貼ってあるし、換金もしているみたい。


 ああ、あれはイノノの牙だ、小さいな。

 相場はどのくらいなのだろう?


「加入希望ですかぁ?ここに種族と名前を記入くださぁい」


 受付も多いなぁ。


(ちょっと、ゴブリンよ?それも2匹、つがいかしら?)

(聞こえるわよ!)

(早いとこ契約させて、ノルマ果たさないと)


 なんかヤナ感じ。

 早速記入しようとするベリナを俺は止めた。


「テニイさま?」


「サインは大事だ、ちゃんと説明を聞いてから記入だ」


「大丈夫だって!皆やっていることだから、あたいに狩りや武術を教えたエルフの推薦だぜ?」


 推薦?それ違うぜ?


「違う、大丈夫じゃ無い」


 連体保証人という言葉がある。


 俺の母親は男に騙されて、誰でもしているから、と書類にサインし、とんでもない借金を背負った……それも3件くらい?全部別の男!

 悔しくも悲しい思い出だ。

 俺がもっと大人だったら、といつも思っていた。

 まあ、大人になる前に母さんは病気で死んでしまい、俺も事故で死んだけどな。

 俺が疑り深い人間になった、事件の一つだ。


「ギルドのシステム、運用について説明が聞きたい」


「説明ですかぁ?」


(何このゴブリン?面倒くせーな、さっさとサインすりゃいいんだよ!)


「説明だ」


 お?お姉さん困惑顔?他にも何か企んでいた?


「……では説明しますねぇ」


 エルフの受付嬢は、ペラペラと事務的にアズ・ギルドについて説明を始める。


 ギルドはなんでもします、が基本のようだな。

 討伐から、日々の生活サポート、買い物やらペットの世話、薬草探しに介護や警備、ここハローワーク?


 あ、俺ハローワーク通っていたよ。

 生きて行かないといけないし、仕事欲しかったからね。ご飯好きだし、ご飯食べないと死んでしまうし。

 まあ、誰も雇ってはくれなかったけど。


 年齢?

 働きたい意思は燃えていたけど、それだけじゃダメなんだよなぁ。


 軽い説明が終り、吟味してみる。


 依頼にはランクがあり、受けられる依頼とそうでない依頼があると。

 報酬の10パーセントがギルドの取り分、月に銅貨5枚以上のギルド運用費を徴収されると。

 素材の売買は組合員のみ、所属していない者は利用できない。本当か?なんか怪しいなぁ。


 これは依頼する側も同じらしい。

 他にも色々言っていたな?


 しかし依頼者も加入させて、月々組合費を徴収?

 負担が大きくないか?

 こいつの、この説明はおかしい。


「検討してきます、行くぜベリナ」


「ええっ!テニイさま?入らないのかよ?」


「他のギルドも見たい、残りの2つは?」


「ちぇ、分かったよ、慎重だなぁテニイさまは。残りはえーっと、商工会とハイエルフ・ギルドだったかな?」


(説明だけさせて加入しないだと!? 二度と来るな!XXゴブリン!)


 この能力、精神的にしんどい。

 こんな美人のエルフさんが、このセリフ?


 俺達は足早に次を目指した。


 商工会は主に物流がメインのギルドだった。


(ちっ、どう見てもこいつら金持っていねーし、弱そうだな?さっさと帰らねーか?無駄な時間は使いたくねぇんだがよ!組合員は欲しいがこいつらはいらねえ)


「説明いいですか?」


 販売や接客業、護衛は近くなら自前で、遠くならアズ・ギルドに依頼。

 棲み分けができているみたいだ。

 まあ、イヤイヤながらこの二つのギルド、説明はしてくれたが……。


 ここも、組合員にならないと素材の売買はできないらしい。


 どういうことだ?


 商売をするには、ギルドのメンバーにならないと材料購入できない?


 独占している?


 狼亭はどうだったろう?

 入っていないような気がする。

 自由でいいな、狼亭。


 そして見えてきたお城のような建物。


 デカい門に門番さんが左右に起立している。


「ベリナ、どこ?ここ?」


「ハイエルフ・ギルド。三大ギルドの最後さ、ほらあそこの看板!」


 文字が読めない俺。

 さて困ったぞ、と思っておると、《可愛い眼鏡》が反応した。

 おおっ!読める!日本語だ!確かに書いてある。


 この眼鏡、可愛いだけじゃないじゃん!


 そして門番さんに、ギルドについて聞いてみようとすると、弱虫スキルが発動した。


 威圧的!こえーよ!


 身長2m?

 フルアーマーで仁王立ち。

 金属のマスクの奥に、ギロリと動く冷酷な双眼。


「あう……」


 身長差は1m以上ある?


「どうした?迷子か?ゴブリンちびっ子」


 迷子の心配?……いや、以外と優しい?


「あたいら、ギルドについて聞きたいんだ」


「「お前達がか?」」


 綺麗にハモる衛兵さん。


「帰れ、出直してこい」


 右の衛兵さんは冷たく言い放った。


「それは俺達がゴブリンだからか?」


「!」


 左の衛兵さんは俺の顔をじっと見た。


 一応、魅力が1増しているけど?


「どこから来た?何が聞きたい?」


「お、俺はゴブリン亜種、ア・キュウガ・テニィ……ギルドに入りたいんだけど、アズも商工会もお金目当てで、今ひとつ、怪しいんだ。こ、ここのギルドはどんなギルドなんですか?」


「はははっ金目当てか?うまいこと言うな?金に関しては、俺達ハイエルフ・ギルドはあいつらほどシビヤではない。が、ここは王族貴族専用のギルドだ」


「分かったら帰れ!」


 怖いけど粘るっ!


「分かりません、それは軍隊や騎士団とどう違うのですか?傭兵団?」


「まあ、基本お金だな。傭兵団に近いか」


「メンバーはやはり、貴族や王族なのですか?」


「!」


 ちょっと驚く右の衛兵さん。


「いや、色々な者が在籍している、共通点はみな凄腕だ」


 凄腕?ならやはり力ではないか。


「……」


「何か疑問か?言ってみろ」


 促す左の衛兵さん。


「王族、貴族は家柄決まるのですか?歴史ですか?それとも『血』ですか?」


「テ、テニイさま!?か、帰りましょう!不敬です!」


 帰る?どこへ?

 俺を引っ張るベリナ。

 慌ててオロオロするファーファ。


 何か、マズいこと聞いたかしら?


「答えてやろう、それは法が認めた者達が王族だ」


 法律?……そうかな?俺は魔王だけど、圧倒的な力のみ、だよね?

 別に、誰も認めていない気がするけど。

 聖女ご一行のライトルは認めたのかな?


「じゃ、魔の王、魔王は?やはり法律ですか?」


「!」


 驚く右の衛兵さん。


「あははははっ、魔王は聖女様が見極める、まあ確かに魔族は一番力が強いのが王だがな。妖精や人族はちょっと違うのさ。暴力だけではないと俺は言いたいね」


 ここで右の衛兵さんと目が合った。


「どこから来た?」

「東の森から」

「ああ、今、あの森は大変だな、魔王が出現したとか、大地が割れたとか」


 その時!


 あ、あれ?眼鏡に埃が?

 いやこれ、鳥の羽毛?

 よく見えないや。


 俺は眼鏡を外し、軽く息を吹きかけ、羽毛を飛ばす。


「!?」


 ん?なぜか皆俺を見ている?

 なんだ?

 キョロキョロする俺。

 慌てて目を逸らす俺以外の皆。

 あ、でも右の衛兵さんは俺を見つめたままだ。


(一番下の弟が生きていれば、こいつくらいかな?)


 !?


 なんだ!?今の声!?

 この右の衛兵さんの呟きか!?


(あの魔昆虫の森はもうないのか……)


 !?


「少し話してやる。3大ギルドなどと言われているが、維持が大変なのだ」


 経費ってヤツかな?


「仕事があるのはいいが、討伐など、多くの者が死んでしまう……報酬は高額だが、命を削る仕事だ。お前ら、他にもギルドはある。俺の名はユーカリ・ボーカル、一応貴族サマだ。ギルド・ダウトを尋ねてみるといい、アズ・ギルドの3ブロック北だ。俺の名を使え……さあ、帰れ帰れ!」


「あ、ありがとうございます!」


 俺達は足早にその場を離れた。


「テニイさま凄いな!貴族様と話を着けるなんて!あたい、尊敬するよ!名前まで聞き出すなんて!」


 頬を染め、熱心にしゃべり出すベリナ。


「ムッフー」


 ……なぜかファーファが自慢げ。


「折角の紹介だ、行ってみようぜ!」


「……そうだな」


「どうした?ベリナ?」


「慌てちゃダメなんだな?色々な話聞かないと、間違う?」


 お?ベリナが反省した!?


「時と場合さ」


「下調べって、大事なんだな」


「ムッフー」


 だから、なぜファーファ自慢げ?

 そして見えてくるギルド・ダウト。


 挿絵(By みてみん)


 巨大キノコ?


 巨大なキノコを刳り抜いて作った建物?

 お酒の匂い?……居酒屋?

 鍛冶屋も?

 2階は宿屋か?

 複合施設?


 入り口はボロボロで看板も傾いている。


 大丈夫か?ここ?

 なんか、俺、ちょっと怖くて入れないかも。

 ここでスキル発動した。


「へーっ、立派な家じゃん!テニイさま、入ってみようぜ!ちゃーっす!」


 ばたーんとドアを開け、スタスタと入っていくベリナ。

 つんつん、と俺をつつくファーファ。


「お?おう、行こうか?」


 と言いつつ、足は進まない。


 ばたーんと開くドア。


「テニイさま!早く!あたいだけじゃ、うまく喋れないよっ!」


 騒がしいヤツだな。

 だけどこの、騒がしさに救われている気がする。


「今、行くよ」

 

 ギイイイイッ、っとドアを開く。


 部屋の中には、結構な人数がいた。

 20人ほど。

 種族も多種だ。

 ざっと周囲を見る……ゴブリンは……二人いた。

 ギルドで見るのは初めてだな。


「お?依頼か?ん?新規か?どっちだ?」


 髭面の男の人が、カウンター越しに話し掛ける。


「入部希望です」

「入部?俺のギルドは部活か?」

「あ」


 ごめんなさい。なんか雰囲気がよかったんでつい。

 笑い出す、周囲の妖精達!


「がははははっ!それいいな?」

「負けたら死の部活?おいおい、討伐は命懸けなんだぞ?茶化すな!」

「す、すみません、ギルドの説明を聞きたいのですが?」

「お前ら、クラスは?」


 はて?クラスとは?

 暮らす?生活のことか?


「世界共通のギルド・カード、持っていないのか?ならクラスは不明か?」


「ギルマス、今はランク制度ですよ?いつの時代です?クラス制度はもう廃止しています!」


「うるせーな?ギルマスがクラスっつたらクラスなんだよ!お前ら、よくここが分かったな?どこでこの場所聞いた?誰の紹介だ?」


 ささっ、とギルマスの横に付く綺麗な女性エルフ。

 制服だろうか?バッチリ決まっているけど?


(うわぁ可愛いゴブリン!お姉ちゃんと弟かしら?)


 ……これ、目の前のお姉さんの声?


「受付は私のお仕事です!ギルマスはこの時間、裏の道場で稽古でしょう!?こんにちは!いらっしゃいませ!ご加入ですか?紹介者の方はいらっしゃいますか?」


「テニイさま……えっと誰だっけ?ハイエルフ・ギルドの?」


 ピタリ、とその場の全員の会話が止まる。


「ベリナ、ユーカリ・ボーカルさんだよ」


 ギルマスの顔付きが変わる。


 ……こえーです。


「は?お前らボーカルと話したのか?知り合いか?」


 ん?話したけど?

 ザワつく周囲。


「ああ、あたいら話したけど?アズも商工会も硬貨の話ばかりでさ、とにかくサインさせようと迫るんだ」


 お、ベリナも感じていた?


「それによ……なんか、ゴブリン、キライみたいだし」


 あ、これも感じていたんだ。


「ゴブリンがキライ?そうかもな、言葉は違うし、生活習慣もかなり違う。勧誘が強引か?まあ組合員の確保は自分達の生活の安定に繋がるからな」


 うわ、やな考え。

 まあお金が欲しいは、正鵠だろうけど。


「そこでさ、ハイエルフ・ギルドに行って話したら、そのボーカルさんにここを紹介されたんだ。名前も使っていいって」


「気に入られたな?ボーカルの紹介なら無下にはできんな。ついてこい、試験場に行くぞ。先ずはそれからだ」


 はい?試験場とは?


「えええええっ?試験?あたい勉強はもうイヤだよ!」


「実技試験だ。どれだけの実力があるか……聞いていないのか?他のギルドからは?」


「いや聞いてねえな、だよなテニイさま」


「ああ、何も聞いていない」


「まあ、あいつら、勧誘が先で試験は後だからなぁ」


「お前ら、ここ紹介されてよかったな」


 次々に周りの組合員が口にする。


「ユーカリの紹介だ、俺様が直々に連れて行ってやるよ、来な試験会場はすぐそこだ。俺はラッシュ・ボーカル、ギルド・ダウトの長だ」


「あたいはゴブリン、ベリナ・ワッフル、こっちはゴブリン亜種、ア・キュウガ・テニィさまだ」


 ラッシュ・ボーカル?

 兄弟?

 俺の表情を見てラッシュは一言。


「ユーカリは俺の弟だ、お前ら銀貨持っているか?試験は有料で銀貨なら1枚、銅貨なら10枚必要だぜ」


「ええっ!?金を稼ぐのに、金がいるのかよ!?」


 だよね、ベリナ。

 どこの世界でもいっしょってか?世の中おかしいよね。


「金は持っていない、金は無いがこれはある。ファーファ2、3本出してくれ」


「!?」


 更にザワつき始める周囲。


「おい、あのゴーレムなんだ?アイテム・ボックス?」

「上位ランカーの持ち物だぞ普通……何を出した?」

「おい、イノノの牙だぜ?」

「なんだ?あの牙の大きさ!?」


 どうする?ラッシュさん?

 他のギルド同様、ここも組合員にならないと引き取らない?

 ちらり、と受付エルフさんを見る。


「エルフさん、ここのギルドも組合員にならないと取引しない?」


「どのような説明を受けたか知りませんが、基本、ギルド・カードは全て共通です。カードさえ所持しているなら、依頼も売買も可能です。各ギルド、報酬金額が違うだけで……」


「じゃ、ここギルド・ダウトは?」


「うちは……未登録者の持ち込みは半額です……ですが……」


 困った顔で、ギルマスを見るエルフさん。


「これ、価値ない?俺達が狩ったヤツだけど」


 ゾロゾロと妖精達が集まり始める。


 ……これを狩った?

 牙の艶から言って、病死ではないな、確かに狩っているぞ……


「ギルマス、どうします?」


「……」おや?沈黙ですかい?


「ギルマス、子供だからって、ゴブリンだからっていって、騙したらダメですぜ?」


「騙したりはしないぞ!」本当かしら?


「ここはギルド・ダウト、助けを求める手は必ず握る(有料)、が組合規則でしたよね?」


「てめぇら、いつも規則破りばかりするくせに、こんな時だけ!」おやそうなの?


「おい、ア・キュウガとやら、俺はこのギルドの鍛冶、武具担当のドワーフ、トイトイだ。この牙1本、金貨3枚の価値がある、3本で9枚だ」


「え?ドワーフさん、それ先に言っていいんですか?半額なら金貨4.5枚?」


 みんなニヤニヤしている?

 周りの妖精達、ギルマスを試している?


「おい、ボンバ、金庫から金貨4枚、銀貨5枚持ってこい、買い取りだ」


 こうして俺達は金貨と銀貨を手に入れた。


「ほれ、ベリナ、銀貨一枚だ、これで試験を受けろ」


「え?テニイさまは受けないの!?」


「俺はいいや、ギルドって何だかめんどくさい」


 俺、魔王だし、ギルド・カード持っている魔王ってどうよ?おかしくね?


「おい、ア・キュウガ・テニィ」


「なんです?ギルマス?」


「ギルド・カードは身分証明にもなる。こいつがあれば王都にも入れるぜ。作っておいて損はない」


 !?


 あった方が便利?


「王都は身分証明がないと入れないんですか?」


「普通は入れる、が今は魔王の出現の噂がある。身分証明できないヤツはまず入れない」


「魔王がギルド・カード持っていたら?」


「は?おいおい、魔王だぜ?ギルド・カード、意味無いだろう?魔王だったら城壁壊して王都侵略じゃないか?」


「なら、作ります」


 え?あっさり裏切っただって?

 ……すみませんね、夢砕くようで、しっかりギルド・カード作らせてもらいます!

 天のドンを食べるため、これは全てに優先する!

 魔王のプライドなんて俺にはねー!

 それに、なんでわざわざ城壁壊して侵入?

 討伐されるではないか!


 ゾロゾロと試験会場にむかうギルド・ダウトのメンバー。


「あのう、エルフさん?」


「テニイさん、私はボンバ・ビビン、ボンバでいいわよ」


「じゃボンバさんで」


 あ、ちょっと笑った?


「ボンバさん、受付はいいのですか?なんか全員来ているみたいですけど?」


「あのイノノの牙見たら、誰でも実技試験見たいと思うわ。大物クラスよ!それにユーカリさんの紹介でしょう?ちゃんと面倒見るわよ!運、良かったわね」


 え?そうなの?

 そして見えてくる試験会場。

 あとで、ユーカリさんにお礼言わなくちゃだね。


 あ、まずい。


 なんか怖くなってきた。


 見知らぬ場所、見知らぬ人達、内容の分からない試験……。

 緊張してきた?


 ついた場所は体育館みたいな場所だった。

 体育館、イヤな思い出しかない。

 あの分厚い金属の扉。

 3回ほど挟まれた。

 一度は手首を骨折したなぁ。


 ああ、そうだよ、いじめでだよ。


 新聞社に実名投稿で助けを求めたけど、俺の母親は、加害者達の保護者や何とか委員会から金をもらってあっさり引き下がった。


 あ、なんか悲しくなってきた……スキル発動か?


 受付に向うと、ボンバさんが手続きをしてくれた。


「あとは、これに種族と名前、職種を書いて」


 鉛筆みたいなのと紙を渡される。

 うげっ!?どうしよう!?

 俺、文字の読み書きアウトだ!


 スラスラと見知らぬ文字を書いていくベリナ。


 ……なぜだろう、微妙に腹が立つ!

 じっくり見ると『可愛い眼鏡』が日本語に変換してくれる。

 読めるのは読めるんだが……。


 取敢えず、カタカナで書いてみるか。


 カキカキ。


 ゴブリンアシュ、ア・キュウガ・テニィ、っと職種?チラリとベリナの手元を見る。


 職種、戦士、と書いてある。


 さすがに魔王はマズいな、でも書く、カキカキ、マオウっと


 受付のエルフさんとボンバさんの目が丸くなる。

 読めないよね……さすがにカタカナはマズいか?いや、そういう問題じゃないよね。


 どうしよう?ベリナに書いてもらうか?


「こ、これは……侠国文字?いや、古代ヤマトン文字……ですね!?」


「は?」


 何だそりゃ?


「テニイさん、また古い文字使っていますね?私達エルフくらいしか読めませんよ!?」


「え?そ、そうなんですか?」


 え?読めるの!?これが?


「え?テニイさま古代文字使うの?スゲーな?」


 いや、この世界で使えることがもっと凄いよ!


「では、試験の説明をしますね」


 受付のエルフさんが説明を始める。


「おう!誰とバトルするんだ?」


 ヤル気凄いね、ベリナ。


「判定ゴーレム『戦う君』と戦ってもらいます、制限時間は『戦う君』のランプ点滅60回までです。

それまでに倒してもいいですし、破壊してもかまいません」


 ゴーレムを破壊?

 チラリ、とファーファを見る。

 あ、悲しそう?


「その戦い方、結果、を総合評価してランクを決定します。では最初は?」


「あたいから行くぜ!いいよな?テニイさま!」


 ギャラリーが集まり始める。


 『戦う君』は2m程のゴーレムで、腕が4本、腰から下が馬のような構造だ。

 腕が4本のケンタウロス・ロボ?

 メタリックに輝いていて、いかにも強そうである。


「ではスタートです!」


 さっ、と剣を抜き、一気に間合いを詰め上段から振り下ろす!


 速攻!


 身体は小さいけど、重い一撃である。

 イノノはこの一撃でバランスを崩す!


 ガインッ!


「あれ?」


 軽く弾かれた?困り顔のベリナ。


 ヒュン!


 弾かれた剣の隙を突く複数の腕。


「おわっ!て、てめー卑怯だぞ!手がいっぱいじゃん!」


 いや、ちゃんと相手を見ろよベリナ!


「ベリナ!相手をよく見ろ!今はソロだからなっ!」


 武器は装備していないけど、あの腕の多さは厄介だな。

 それに、ゴーレム独自の動きをしている!

 関節が自由自在だ!


「おわっ!何だよこの腕!反対にも曲がるのか!?」


 それでもベリナは絶妙な間合いで、二撃目を放つ!


 ガイン!


 周囲から笑い声が上がる。


「あのゴブリン、バカじゃね?同じ攻撃を2回も?」

「まあ最初の一撃はまぐれか?」

「攻撃が直線的だ、ありゃ読めるな」


 嘲笑か?


 ふん、何とでも言え!

 その声は、お前らの実力の浅さだぞ!


 軽く弾かれるたベリナの剣

 が、ベリナは身を沈め、後ろ腰に手を回す。


 そこには『花鳥風月』!


 くるり、と身を回し『戦う君』の脚を払う!


 閃光が走った!


 吹っ飛ぶ『戦う君』!


「!?」

「な、なんだ!?」

「何が起きた!?」


 あ、ベリナも転げて……ゴチン、と壁に頭をぶつける。


「ってえええっ!なんつう硬さだよっ!」


 瞬時に『花鳥風月』は鞘に収まり、誰にもその姿を見せない。


 『戦う君』が起き上がると同時に、ベルが鳴った。

 60回点滅のベルだ。


「やっぱ、イノノとは違うな、頑丈だな!」


『戦う君』より音声が流れる。


「ベリナ・ワッフル、自称戦士、基本A、ランクC、レンジャー、忍、認定」


 おおっ、と響めきが起きる。


「へへっ、やったね!何か知らんけど!」


 基本ってなんだ?

 俺が不思議そうな顔をしていると、横のボンバさんが説明してくれた。


「基本は実力のことよ。実践では、その能力がちゃんと発揮できるか分からないでしょう?実践に強い人もいれば、弱い人もいる。ベリナさんは基礎能力A、高いってことね、ランクCだけど、すぐに上がるわよ」


 へーっ、そうなんだ。

 実戦に強い、弱い、でランク設定か。

 まあ、確かに、言われてみればそうかも?


「例えば私、基本は最低のDなの」


 え?強そうだけど?


「え?そうなんですか?」


「ええ、私は自己流でね、基本はでたらめなの。だけどランクはAよ」


「!」


 Aランク!?


「そのエルフは、現場に途轍もなく強いんだ、人気者だぜ?」


 横でベリナを見ていたドワーフのトイトイさんが、こちらを見ずに話す。


「お前、あのゴブリンと付き合い長いのか?」


「どうでしょう?」


「あいつの短剣、あれ『花鳥風月』じゃないのか?」


 ん?そうだけど、有名なのかしら?

 名前を当てたってことは、あの攻撃を見極めた?

 ここはとぼけてみるか?


「さ、さあぁ?」


「とぼけるなよ、盗んだりしねぇよ!いいモノ見せてもらったぜ。あの煌めき、俺もあんな剣を打ちたいねぇ」


 そこへ審査を終えたベリナがやって来る。

 上気した頬、自信に満ちた表情だ。


「テニイさま!何を話していたんだい?」


「ランクや剣についてだよ、やったねベリナ、好成績だよ!」


「へへっ、テニイさまに誉められると嬉しいや!」


 周囲から声が掛かる。


「あんた、凄いな?アズか?すぐにランク上がるぜ?俺達のパーティーに入らないか?もう決まっているのか?」


 周囲の笑っていた者達がアプローチする。


「ダウトだ。ギルマスと相談して決める。ちゃんとしたヤツらと組みたいからね!テニイさま、このゴーレム楽勝だぜ?テニイさまは、やり過ぎないようにしないと」


 ん?視線を感じる?


 振り向くと『戦う君』がベリナと俺を睨んでいた。


 え゛?


 心なしか怒り顔!?

 おい、ベリナ!煽るなよ!

 なんかこえーよ、あのゴーレムのお顔!


「では、次の方、ア・キュウガ・テニィさまどうぞ!」


 カウント60が始まる!


「はい!」


 返事よろしく俺が、試験場に入ると、笑い声が響いた。


「おいおい、さらに小さなヤツが出てきたぞ?」

「げははははっ!おい、何だあのチビ!ギルドのレベルが下がるんじゃねえか?」

「剣、持てるか?重くない?坊や?あはははっ!」


 まあ、生前も小さいってだけで、いじめられたし、笑われたよなぁ。

 速攻かぁ、俺もベリナのマネをしよう!


 ブンッとひのきの杖を横に振る。


 連続で火球が発生し『戦う君』を急襲する。


「……!?」

「……む、無詠唱!?」

「お、おい、し、しかも連続だぞ!?」

「ど、どこの化け物だ!?無詠唱?王宮クラス!聖女パーティークラスだぞ!」

「どこから来た?どこにいたんだ!?こんなヤツ!」


 次第に静まる試験場。


 火球の爆発音が、重く大きく響く!

 どうかな?壊れた?

 爆煙の中で何かが蠢く。

 全弾命中するが、平然と前進してくる『戦う君』


 !?


 ん?おかしいぞ!?

 煙の中から現れた『戦う君』は、手に剣をそれぞれ持っていた。


 格好いいが、アレが襲ってくるとなると話は別だ!


 とんでもなく怖えよ!マズい!ここでスキルが発動したら!


 ヒュンヒュン!と剣が鳴く!


「ス、ストップ!と、止まって!?『戦う君』!?どうしたの?実戦形式だけど、あなたは武器を使用してはいけないわっ!止まって!止まって!」


 そう言って俺と『戦う君』の間に入る試験官のエルフお姉さん。


「危ないっ!」俺は叫んだ!


『戦う君』が剣を持ち替え、腕でエルフお姉さんを!?


 ブン!空を斬る腕。


 あんな腕に払われたら、全身骨折だぞ!


 どうしたんだろう?このゴーレム?これ試験続行か?


 でもエルフのお姉さん、止めたし?


 取敢えず、俺はジャンプ・アップでエルフのお姉さんを救出し、ベリナにポイッ、と。


 そして振り向き攻撃を!


 もの凄い連撃で攻撃してくる『戦う君』


 ここでスキルが発動した。


「こ、こええええええですううううっ!やっぱダメえええっ!」


 涙が噴き出し、パニックになった俺は走り回り、逃げ回った。

 魔法攻撃、全部ヒットするが、ダメージなし、である。


「ひいいいいいっ!これ本当に試験なのおおっ!?」


 試験会場は笑う者、逃げ出す者、パニック状態になった。


 こ、このままではマズいな。


 ズルッ。


 え?


 あ、脚が滑った!?

 一気に迫る『戦う君』!


 あ、間合いに入ってしまった!


 振り下ろされる剣!それも別方向から4本同時に!

 これは明らかに……俺を仕留めに来ている!

 俺は下がらず、一歩を踏み出し、杖の先端で『戦う君』を思いっきり突いた。


「あっち行けえええええっ!」


 ひのきの杖の先端に魔法の渦が起った。


 ドオオオオンッ!


 渦に接触した『戦う君』は外部装甲が一気に分解され吹飛んだ。


 試験場の端まで部品を撒き散らし飛ばされる『戦う君』


 俺は間合いを詰め、更に攻撃を加えようとすると、ファーファが止めに入った。


「ファーファ!危ないよ!」


「モウヤメル、ユルシテアゲテ!」


「え?」


「テニサマ、強イ、ドウカアノ子ニ慈悲ヲ!」


 慈悲?

 チカチカッと弱々しく点滅する『戦う君』の頭部。

 返事をするかのように点滅する、ファーファの頭部。


「……分かった。ここまでにする」


 でもなんで突然?暴走か?

 ファーファは『戦う君』に駆け寄り、オロオロと動き回る。

 騒然となる試験会場。


 ベリナが心配そうに近寄って来た。

 あ、試験官のエルフさんも?


 青ざめた真剣なお顔だけど?


「……助けていただいて、ありがとうございます」


「いえ、乱暴に扱ってすみません」


「テニイさまは、魔族の血が流れていませんか?」


「え!?」


 いや、魔王だけど……。


「戦う君は元々、対魔族専用の兵器なんです」


「え?」


「先の大戦で魔族と戦ったゴーレムなんです」


 強いはずだ。


「ですが、経年劣化や新型の登場で、第一線を引いている引退機種なのです」


 いや、それでも凄い迫力だったけど?

 泣いちゃったよ、俺。


「『戦う君』は旧型でも優秀な機体なので、各街へ組合員ランク判定機として派遣されているのですが……今回のような暴走は初めてです」


 俺が魔王だから、必死になって戦ったということか?

 俺には迷惑だったが『戦う君』は、魔王を倒そうと一生懸命戦ったのだな……。


 すごい勇気だな。


 内部構造むき出しの『戦う君』に、俺はそっと触った。


 お前の判断は間違っていないが、俺は別に何も、悪いことはしていないぜ?

 魔王というだけで戦いを挑むのか?

 まあ、それでもファーファの頼みだ、回復してやろう。


 俺が念じると、パキン!パキン!と壊れた部品が再生していく。

 その光景を、驚愕の表情で見る受付エルフさん。

 そしてある程度回復すると『戦う君』が喋り始めた。


「ア・キュウガ・テニィ、自称魔王、基本S、ランクD、魔法戦士、ヒーラー、認定」


 周囲が響めく。


 え?なんでランクが最低?


「俺サマの攻撃、凄かったじゃん!」


 負けたこと根に持っている!?


「泣いて逃げ回っての攻撃、戦士としてどうかと?」


 『戦う君』が反論する。


「いや、そうだけど、俺、強いよね?」


「強く見えません」


 うわっ、はっきり言われたよ!

 見えようが、見えまいが、それ関係あるかぁ?


「ランクSだめ?治してあげたじゃん!半分くらいだけど」


「ダメです、私の内部プログラムが許しません!」


 妥協なしなのね、頑固者め!

 こうして俺はベリナより下の、ランクDとなった。


「ふふん、あたいが上?なんか気分いいぜ!」


 ギヌロッ!


「テニイさま、そう睨むなよ、ひひっ」


 腹立つ!


「……フフッ」


 ファーファまでっ!


 この日チワワンの街は、俺とベリナの噂で満たされた。


 ベリナはギルド・ダウトの一員となり、俺はフリーの冒険者となった。

 ギルドの一員なんだけど、ギルドを選ばず、どこにも属さない者だ。

 まあ、魔王だし、バレた時の迷惑を考えると、ここらがいいポジションかな。


 そしてやって来る別れの時。


 イノノの牙は全部ベリナとギルド・ダウトに渡した。


 肉は半分だけ。

 いや、俺も食べたいし。


「ギルマス、お金余ったら『戦う君』の修理費にも回してくださいね」


「ああ、分かった。本当に行くのか?王都」


「ええ、それが最初の目的なので」


「テ、テニイさま、ここで一緒に暮らそうよ!」


 俺は魔王だ、それはできない。


「ベリナ、何かあったら俺を呼べ、すぐに来てやる」


「あ……あたい、連れて行ってくれないのかよ!」


「俺様強すぎるんでな」


「足手まといって言うのかよ!あたいの方がランク上だぞ!」


「ははっ、そうだったな」


「そんなにしてまで王都に行きたいのかよ!」


「ああ、行ってみたいんだ。そして食ってみたい!天丼!」


 天丼。


 オヤジが、俺のオヤジが好きな食い物だったらしい。

 母親が一言、天丼が好きだったと漏らしたことがある。

 だから一度でいいから食べてみたい。


「何かあったらギルド・ダウトの名前を使え、俺の名でもいい。たまには顔見せろよ」


「ギルマス、ベリナ・ワッフルをよろしく頼みます」


「テニイさま、あたいにとって、あんたはやっぱり旅神さまさぁね、あたいを自由にしてくれたからね!じゃあばよ!泣き虫の旅神さま!」


 そう言ってベリナは走って人混みに消えていった。


 微かに聞こえるベリナの声。


「やった!あたいは自由だ!もう誰もあたいを縛り付けない!古臭いしきたりなんて知るかっ!あたいは自由だああああっ!自由だぁ!そして強くなるんだ!いつかまたテニイさまと旅をするんだ!」


 俺はベリナの未来に、いいことが沢山あるようにと祈った。


 タフで元気いっぱいのベリナ。


 頑張れよ、世界は思った以上に冷たいぞ。

 こうして俺はリベナと別れた。


 泣き虫弱虫スキルが発動した。


 ああ、3人の旅は賑やかで楽しかったな。


 しくしく。


 でも、俺と一緒じゃまた怪我をしてしまう。

 命の危険だって!


 そしてまた始まるファーファとの二人旅……のはずだった。


 チワワンの街をでて、暫く歩くとマップに反応があった。


「ファーファ、いつでも逃げられる用意、いいかい?」


 こくこく。


 見えてくる人影。


「よぉう、ア・キュウガ・テニィ、いや、自称魔王のSランカー」


「誰かと待ち合わせか?筆頭さん」


 そこには聖女一行が立ち並んでいた。


「こんにちは、ア・キュウガ・テニイさま」


 ニッコリと聖女クルルンが微笑んだ。


次回最終話です。

旅の終りと旅の始まり


泣き虫弱虫魔王さま9

サブタイトルは、王都を目指します編

でも王都は遠く、俺の手は天丼に届かなかった。

そして旅が終り、旅が始まる! です。


次回投稿は2023/12/08 お昼12時8分の予定です。


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