表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫弱虫魔王さま  作者: MAYAKO
7/10

7 寝言と歯ぎしり、そしてヤバい奴等(聖女含む)とバトルしました編

こんにちは。

投稿です。

サブタイトル、変わりました。

お話しが延びて、ギルドまで辿り着けませんでした。


 ジュウウウウウッ。

 朝からいい匂いである。


「……テニイさま、お早うございます!ファーさんおはよう!」


「おはよう!ベリナ!お肉焼けているよ!」


 そう、朝から肉である!

 夢のような世界!

 朝からご飯なんて、何年振りかしら?

 それも肉だぜ肉!


「テ、テニイさま、あたいもお手伝うからよ、起こせって!ファーさんも起こしてよ!」


「いや、ぐっすり寝ていたし、ね?ファーファ?」


 こくこく。

 激しく頷くファーファ。


「……ぐっすり?ね、寝顔見たのか!?」


「い、いや、見ていないよ?ね?ファーファ?」


 こくこく。

 言えない……大口開けて、よだれを垂らし、お臍やお尻をボリボリ……歯ぎしりが凄まじく、寝言も凄かった、とか女の子に対して絶対に言えない……。


 寝言……最初は悲鳴かと思った。


 奇声が、開いた口から轟き、それが終わると歯ぎしりが始まる。

 村を出された原因はこれでは?

 それプラス、寝相が凄い。

 2回蹴られた。

 あんなに離れて寝ていたのに!


 しかし、これは話すべきか?これからのベリナのためにも?

 どうする?

 肉を焼きながら、脳内シミュレーションをしてみる。


 事細かにお話ししてみる。


 ここで分岐発生。

 俺の言葉を信じる?信じない?

 信じてもらえなかった場合、どうなる?

 嫌われる?いやそれ以上に恨まれる?


『なんでそんな酷いこと言うんだ?あたいをいじめて楽しんでいるのか!?』


 そしてあんなことや、こんなことになって……。


 BAD END


 信じた場合は、どうなる?


『よくもあたいの……あられもない姿を鑑賞したなっ!責任とれよな!』


 結婚!?=YES/NO

 口封じにXXXされたり、XXXされたりする?

 もしくは、この世から消される……。


 BAD END


 うーん、どうも俺の性格上、明るい未来が想像できないっ!

 ……あ、弱虫スキル発動した?

 スマホでもあれば、動画で……いや、女この子寝姿、撮影ってどうよ?ダメでしょう!

 そんなことしたら、嫌われる前に、消されないか?動画も、俺も。


 うーん、もう暫くしてから結論出すか、まだ旅して二日目だし。


「ええええっ!?ファーさん!それ本当なのか!?あたい歯ぎしりに寝言が悲鳴!?」


 ……ファーファ?

 何しているの?

 い、言っちゃったの!?

 こ、怖くてベリナの顔が見れないっ!


「テニイさま……話しがある!」


「ベリナ、俺にはない」


「あたいにはあるんだよ!ファーさんの言ったこと、本当なのか?いや、ファーさんを疑うわけじゃないけど……」


 ここは正直に言うべきか?

 どうする?

 うーん、誰も、親さえも指摘しなかったんだよね?

 何でだ?

 ああ、暴力か?乱暴者って言っていたな?

 誰も何も言わない……ということは……友達もいない?


 BAD ENDは避けたいが、ここは正直路線で行ってみよう。


「その通りだ」


 ……言ったぞ?どうでる?

 俺だって弱虫しスキル、吹き出すの抑えて言ったんだ。


 何と答える?


「なんでそんな酷いこと言うんだよ!あたいをいじめて楽しんでいるのか!?」


 何処かで見たセリフ。


「……うっ」


 う?


「うわああああああん!なんで?なんで村の皆は言ってくれなかったんだよぉ!何のための親だよ!家族だよ!うわああああああん!これじゃお嫁に行けないよ!」


 お嫁?

 贄ではなかったのか?

 まあ、チワワンの街までだけど。


「テニイさま、正直に答えて!」


 うわぁ凄い迫力、こえーよ!

 こっちも泣きそうだよ!


「夜中、奇声を張り上げ、歯ぎしりするゴブリン女子は……魅力的か?」


 うげっ!?


 どう答える?


「それは……」

「それは!?」

「人それぞれではないかと?」

「じゃぁテニイさまはどう思ったんだよ!?」


 こえーの一文字だよ!


 ヤバい!眼がマジだ!ここは深く考え、即答しないといけない!


「ビックリした」素直な感想だ。

「ビックリ?」

「びっくりした」


 あ、何か考えているな?


「……る」


 る?小声で分からないぞ?

 凄く真剣な泣き顔で、俺を睨んでいる。

 俺、悪人?


「お願いがある」

「却下だ!」

「治して」


 は?

 何ですと!?


「あたいは贄で、もうテニイさまのモノだから、これ以上何も持っていないんだ!そんなあたいに短剣までくれて、こんなお願いするのはイケナイと思う。でもそれでもお願いしますっ!大魔法使いテニイさまっ!治してくださいぃいいいい!悲鳴のような寝言と、歯ぎしりと寝相の悪さを!おねがいしますぅうわああああああん!」


 ……あの時、ファーファの言うとおり、さっさと放置して逃げればよかった。


 今からでも遅くない?

 マップ移動で逃げるか?


 ……はぁ……溜息一つ。


 そんなことはできない。

 俺の、俺様の美意識が許さない。

 ああ、それに、そんなことしたらファーファに嫌われてしまう!


 だけどどうやって治す?


 病院?

 この世界にあるのか?

 誰か、ネットで検索して教えてくれないかな?

 ああ、民間伝承でも民間治療でもいいです!

 寝言と歯ぎしりと寝相の悪さ……魔法で治るモノなのか?

 魔法の使い方が分からん!


 魔王なんて、たいしたことないじゃん!


 悩める女子の歯ぎしり一つ、治せないなんて!


 チラッ。


 ファーファを見る。


 ジュウウウウウウッ。

 肉、焼いている。


 をい、ファーファ、お前が事の原因だろう!?あっさりと暴露して!


「ヒーラーとかクレリック?医者に頼むとか?相談?」

「テニイさま、ゴブリンを治療してくれる医者なんていないよ?」


 あ、そういえばあのデカオーク、ゴブリンを下に見ていたな?


「ファーファ、何か知っている?」

「スコシハ……」

「「!」」


 おお、これは試してみる価値ありっ!


「ん?どうした?」

「な、なんかさぁ、ファーさんの言葉聞いただけで、安心してきた……腹、へった……」


 さもありなん。


「ベリナ、取敢えず食べよう!」

「うん!」


 まぁこの元気な返事を聞いている限り、大丈夫のような気がする。

 朝ご飯を食べ、チワワンの街を目指す俺達。

 歩きながらの話題は、歯ぎしりと寝言と寝相についてだ。


「じゃ、ファーさん歯ぎしりは主にストレスが原因?」


「イロイロアルケド、ベリナハ、コレダトオモウ」


「んじゃファーファ、寝言は?」


「ベリナノバアイハ、リラックスシテイナイ。寝相モシカリ」


「……い」


「い?どうしたベリナ?」


「いや、あたいさ、落ち着きがないとか色々言われていてさ……」


「……ちょっと待て、ファーファ、ベリナ!」


 マップに何か反応したぞ?

 イノノ!?


「ベリナ、イノノだ!思いっきり身体を動かして、疲れたら爆睡しないか?」


「おおおっ!それいいね?で?どこだ、イノノ?」


「もうすぐ見えるよ!ほら!あそこ!」


 森の中を走り回るイノノ。


「おい、テニイさま?よくあれがわかったな?あたいの目でもやっと確認だぜ?」


「行こうか?」


「あれはダメだよ、メスだ」


「え?」


「イノノのメスは狩ったらダメだ。森の約束だ。イノノは強いけど美味しい、一度、人族が狩りすぎて大変なことになったんだ」


「絶滅寸前?」


「そう!あいつら加減を知らないからなぁ」


 なぜかすみませんと、謝りたくなった。

 あ、また反応したぞ?

 これ、なんだ?


「じゃ、あれはどうだ?魔昆虫かな?かなりデカいけど?」


「!!!!!!!!!!」


「あれ?ベリナ?」


 ベリナは全速力で走って行った。

 方向は……遙か後方目指して。


「テ……速くにげーろーっ!早く!速くっ!ブラッド・スパイダーだああああああっ!」


 ?


 何だそれ?

 その、ブラッド・スパイダーとやらをよく見る。


 ……旅客機程の大きさだ……。


 長い脚の先端、爪のような細い部分でさえ、電柱みたいに大きい。

 これは、デカすぎでは?

 一体、何食ってんだ?


 その巨大な蜘蛛と、眼が合った……気がした。

 しかし沢山あるなぁ、いや、眼が。

 みんなこっち見ている?

 怖い眼だ……おわた……そう感じた。


「ファ、ファーファ!」


 あれ?いない?


 あ、ベリナの後を追って逃げている!?


 ドドドドドドドッ、っと土埃を巻き上げ、迫り来る巨大な蜘蛛擬き。


「うわあああああああああんっ!」


 泣き虫弱虫スキルが、MAXで発動した。


「お、置いていかないでええええっ!」


 後で思ったことだが、なんでマップ移動しなかったんだろう?

 慌てると、ろくなことがない。


 しかし、なんであんな巨大な蜘蛛が俺達みたいな小さな獲物を狙うんだ?

 もっと大きいモノ狙えよっ!

 あ、なんか腹立ってきた。


 前世の記憶が蘇る。


 あの巨大な蜘蛛が、あいつらに見えてきた。


 夜の街。

 渦巻く欲望。

 お金や権力、吹き出す黒い息。

 相手を『小さい』と見ると、すぐに目を付ける者達。

 俺の母親を殴る酔っ払い。

 ついでに殴られ、蹴られる俺。

 弱い者いじめは、格別に楽しいらしい。


 ああ、誰か、人類は邪悪じゃないと俺に言ってくれ!

 ああ、世の中、理不尽な事ばかりだ。


 蜘蛛は俺達を、ご飯と思っての襲撃だ。

 そこに悪意はないだろう。

 蜘蛛とあいつらの違いだ。

 でも、俺だって食べられるわけには、いかないのだ!

 俺は大地にひのきの杖を突き刺し、巨大蜘蛛に対して咆えた。

 泣きながらだけど。


「イカズチッ!」


 俺の中の星雲が蠢く。

 グッグッ、と天に力が集まり、ドゴオオオオンッ!と一瞬光が走る。


 挿絵(By みてみん)


 燃え上がる巨大蜘蛛。

 バラバラと音を立て崩れ去る。

 おお、さすがは魔王さま。


 一撃だ!


 遠くから声がする。

 ベリナとファーファだ。

 もう!逃げるんだったら、一声掛けて逃げてよ!

 涙、吹き出したじゃないかっ!薄情者っ!

 じわりじわりと近づいてくるベリナ。


「……な、なあテニイさま、あ、あいつし、死んだ?退治した?」


「……うん」


 不機嫌である。


「……テニイさま……怒っている?」


「少し」


 怖かったし。

 おいてけぼりだし。


「ご、ごめんよ、あたい、蜘蛛は……蜘蛛だけはダメなんだ」


 え?


「ち、小さいとき、村がブラッド・スパイダーの群れに襲われて……つ、捕まって……た、食べられそうに……糸がさ……ベタベタの糸にグルグル巻かれて……ううっ…い、息もできなくて……」


 そう言って、ベリナは青ざめ、ガタガタと震え始めた。

 呼吸も速くなり、目が小刻みに動く。


 ん?


 もしかして、悲鳴のような寝言や歯ぎしりは、これが原因では?


「う……だから……く、蜘蛛だけは……うわああああああん!怒らないでよっ!」


 泣いちゃった!?


 いや、もう蜘蛛いないよ?

 あっこで燃えているし。


「うわあああんっ!す、捨てないでくれよぉ!こんな所に、お、おいてかないでええっ」


 戸惑いの一言である。


 俺は置いて、逃げたくせに!


 ベリナ?そんなんでこれから大丈夫?

 村にはもう帰れないんだろう?

 一人で暮らせるのか?


 どうする?

 うーん、どうしよう?


「ベリナ、アレをよく見ろ!もうあいつは動かない、俺が倒したからだ」


「い、いやだよ!怖いよ!」


「見ろ!あいつはもう動かない!それにどんな蜘蛛が襲ってきても、俺が全部倒してやる、だからもう泣くな!蜘蛛を恐れるな!」


「……うう、涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃのお顔で言われても、説得力ないよ!」


 ホントに!こいつは!もうっ!……それでも倒しただろう!?


 ベリナは見つめる。

 雷に打たれて、燃えさかるブラッド・スパイダーを。


「あ、あいつ、もう動かない?」


「ああ、もう動かない……だから安心しろ!」


「……うん」


 どうにか、落ち着きを取り戻し始めるベリナ。


「ん?ところでファーファは?」

「あ、ファーさんなら……あそこだよ!」


 遙か彼方で蹲っているファーファ。


「どこ?」

「あそこだよ!」


 あ、マップを使おう!

 ……遠いな、よくまぁあそこまで逃げたもんだ。

 トコトコと歩いて向う俺とベリナ。


「ファーさん、大丈夫かよ?」


 いや、お前もな?


「ファーファ?どうしたの?」


「クモ……ダメ……クモ……イヤ……」


 これは?相当怖がっている?恐怖している?

 ファーファも蜘蛛がダメなんだ。


 似たような形しているのに、っと思ったが言わないことにした。


 多分、地雷だ。


 嫌いな蜘蛛に似ていると言われて、喜ぶヤツなんていない。

 絶対これはファーファに言ってはいけない言葉だ!

 多分、言ったらファーファが傷つく。


 俺はその言葉を呑み込んだ。


 が、横のヤツがその言葉を吐き出した。


「ファーさんもクモダメなのか?私もだ。へへっ似たような形しているから、大丈夫と思ったんだけど?」


 この馬鹿者おおおおおおおおっ!

 その無神経さが、嫌われ者の第一項と知れっ!


「!」


「どうしたんだい?ファーさん?」


「ベリナ……キライ……」


 ヒュン!


 ファーファ!?


「お、音速を超えていますけど!?」


 マップ内で後を追っているけど、凄い速さで遠ざかっていく!


「ベリナ、嫌いな蜘蛛に似ているなんて言われて、喜ぶヤツなんていないぞ?」


「あ!」


「あ、じゃない!お前、自分が言われたら、どう思う?」


 よし、マップ移動で先回りだ!

 えーと、ファーファの位置を確認して、先回り、と。


「ベリナ、ここで待っていろ、いいな」


「え?」


 半泣きで戸惑うベリナ。


 言葉が湧き上がる。


「ここで少し反省していろ!ジャンプ・アップ!」


 ヒュン!


 ファーファの前方に現れる俺。

 多分減速して、ちょうどここに……ほら、止まった!


「……マオサマ、アブナイ、ブツカル、大変!」


 まあ確かに。


「ベリナ、酷いよね?」


 こくこく。


「……ベリナ、ヒドイ」


「じゃ、このままベリナ置いて旅を続ける?」


 ぴたっ、と、固まるファーファ。


「!?」


「どうする?ファーファ?」


「……ダメ、ベリナ、可哀想……」


「じゃ、戻るよ、あいつを叱る!俺、あいつのご主人さまだからな?そうだろう?ファーファ?」


 こくこく。

 歩き出す俺とファーファ。


「!!!!!?」


 なんだこれ?


「止まれ、ファーファ!」


「?」


 黄色い点が4つ!?


 緑の点はベリナだ。

 黄色い点から半径500mの円が表示されている?


 これはこいつらの魔力の感知範囲?


 魔物ではない?

 バトルもしていないみたいだけど?


「人族デス……」


「ファーファも分かるの?」


 こくこく。


「ファーファ、ギリギリまでジャンプする。そこでファーファは待機だ、姿を見せるな。いい?」


「……ハイ」


「行くよ、ジャンプ・アップ!」


 一瞬で移動する俺。

 泣き虫弱虫スキル、発動するなよ?


「ファーファはここで待っていて!」


 そう言って俺は一歩を踏み出した。

 さあ、あいつらの魔力感知内に入るぞ。

 ゆっくりと歩き、進む俺。


「!」


 反応が!動きがあった!

 何か話している?

 と、思った瞬間!?


「このブラッド・スパイダーを倒したのは君かい?」


「……」


 ベリナは答えない。


 声が!?

 声が聞こえる!?

 凄い!さすがは魔王さま!

 俺の脚は段々と速くなる。


「おい、ゴブリンにこれは無理だろう?誰が倒したか、知っているか?知っているなら教えろ!」


「……」


「魔王が出現したみたいでね、調査に来ているんだ」


 !?


 調査?じゃ、王都からか?何者だ、こいつら?


「このゴブリン、奴隷か?それとも人族の言葉が分からない?」


「奴隷?」


「主の許可がないと、一言も喋らないってヤツだ」


「おい、誰か来るぞ」


「旅人か?冒険者?何人だ?」


「一人です、もう見えると思いますが?」


 こちらからも見えた。


 全部で4人、女二人に男二人。

 装備から見て、騎士団ではないみたい。

 様式が統一されていないし、それぞれが気ままに動き回っている。


 パーティー?ギルド?


 軽装備が二人、重装備のアックス持ちの男が一人、残りは杖?魔法使いかな?こっちは女だ。

 軽装備の一人は二刀流だろうか?目つきの鋭い男で、長身だ。


 この4人、雰囲気がおかしい。

 落ち着きすぎている?

 あの燃えているブラッド・スパイダーを見ても、全く動揺も警戒もしていない。


 ベリナと眼が合う。


 言葉を発せず、近寄るベリナ。

 喋ろうとするのを眼で合図した。

 何も言うな、と。


「君、何者なんだい?」


 軽装備の女が話し掛けてきた。


 多分、この人がリーダーだ。

 そして一番強い。

 魔王のカンだけど。

 でも、この雰囲気、何処かで?


「おい、何者かと聞いている!」


 二刀流が凄む……なんかこの二刀流、キライだな。

 こいつらこそ何者だ?言葉が命令で調で、上からだけど?


「この先に湖ができていてね、その側に氷漬けの蛇人オブジェがあった。何かしらないかなぁ?」


 あ、思い出した!


 補導員だ!この雰囲気、そっくり!

 あいつら集団で囲んで尋問するんだよね。


「知らない」


 とぼけてみる。


「ホントかなぁ?君、名前は?」


 ヤバいかな?

 では、はったりで様子見してみるか?


「森で知らない人達に会ったなら、すぐに逃げなさいって、お父さんとお母さんが言ってたんだ。逃がしてくれる?」


「質問に答えてほしいなぁ」


 こいつらヤバい、確信する。

 手練れ以上だ、得体の知れない……狂気を感じる。


 夜の街にもいたぞ、素性を隠して彷徨う奴等。

 ああ、アレによく似ている。

 でも、本当に怖いヤツは、何にも感じさせない、警戒心を煽らない。

 この計算から行くと、この軽装備の女が一番危険だ。


 どうする?関わり合いは避けろ、と内部で叫ぶ声がするけど?


 俺だけなら逃げ切れる。

 マップ移動でハイ終り、だ。


 だがベリナと一緒になると、どうだろう?


 マップ移動は、俺に触っていなければ移動できないんだよねぇ。

 ベリナに近づいた瞬間、攻撃してきそうなんだけど?

 ベリナは青いお顔で、少し震えている。


 緊張で動けない?


 俺もスキルが発動する前に動かなければ。


 すると、重装備の戦士が動いた。

 じわり、と近づく。


「……俺の名は王都騎士団筆頭、リッチナ・ワンネ」


 王都の騎士団筆頭?

 嘘つけ!


「信じられない、というお顔ね?」


 危険女が俺を評価する。

 本当ならば、こいつら……魔王の討伐隊!?


「本当?王都騎士団筆頭?こんなところに?」


「そうだ、嘘じゃねえぜ?騎士団筆頭、この名を騙れば即、死刑だ。お前、名は?」


 なんと答える?

 うーん?ここは選択を間違えないようにしなければ!

 俺は、素直に自分の名前を口にする。


「俺は、破壊神ラグナローク」


「「「「…………は?」」」」」


「どわはははははっ!」←筆頭騎士。

「あははっ」←危険女。

「くすくすっ」←魔法使い風女子。

「ふっ」←長身二刀流戦士。


 なぜかウケる。


 ん?

 ベリナも目を逸らし、笑っている。


「あはははっ、どこの古文書を読んだんだ?破壊神ラグナローク?朝、目覚めれば世界を照らし、夕、目覚めれば世界を闇の中へ導くといわれる、あの異界神?君は古代神話マニアか?」


「俺達相手に、魔王以上の存在を名乗るかぁ?ひーっひひっ、おい、俺はこいつが気に入ったぞ!」


 解せぬ、事実なのに。

 チラリとベリナを見て、促す。


「彼はゴブリン亜種、ア・キュウガ・テニィ。私はベリナ・ワッフル」


 ニヤリとする重騎士。


「二刀流のキザヤローがライトル、杖を持っているのがクルルン」


「そして私がキルル・ランダムだ」


 ベリナの眼が丸くなる。


「どうしたの?ベリナ?」


「せ、聖女クルルン、非情のライトル……」


 聖女!?たしか賢者か聖女が俺の出現を予測?預言?したとかしないとか?


「キルル・ランダム……ユキさま?」

「ユキ?ベリナ、誰だい、それ?」


 青ざめるベリナ。


「皆、本物なの?でも口じゃ何とでも言えるよ?」


 そう、俺様は限りなく疑い深い。


「あはははっそうだな、お前のように破壊神とか騙れる!」


 事実、真実ですけど?

 聖女が、キラキラと光る眼で俺を見る。


「ア・キュウガ・テニィさま、信じてくれなくてもいいのですが、私達は魔王の調査に来ました。何かご存じでは?」


 ええっ!?

 何この声!?

 凄い綺麗な声?この声で子守歌、歌われたら全員爆睡では?


「どうした?ア・キュウガ・テニィ?」


「いや、凄い綺麗な声だなぁ、と。子守歌とか歌ったら、皆爆睡では?」


「テ、テニイさま!不遜です!不敬罪ですよ!」


 慌てるベリナ。

 どうやらベリナは本物と認めたらしい。

 ん?聖女サマ?

 聖女サマは頬を軽く染め、ちょっと俯いた。


「こ、声を誉められるなんて……あの……素直にうれしいです……ありがとうございますア・キュウガ・テニィさま」


「お、クルルンを落としたか?このゴブリン?がはははっ面白いヤツ!」


「クルルン、こいつが気に入ったのか?だが、俺達も遊びじゃない、こいつが魔王か?」


「違うと思います。魔力が低すぎますし、この方の魔力では、ブラッド・スパイダーは倒せません。まして蛇族を氷漬けなど……」


「ならサキュバスが言っていた、屈強な青年が怪しいな?」


 ……色々な意味でヤバいか?


 でも、さすがはファーファのガチャから出た弱体装備!

 聖女サマの能力も欺くとは!


「試してみよう、俺の一撃、受けてみるか?」


 ふっ、と動くライトル。


 一撃?嘘つけ二刀流のくせに!

 仕掛けてくるのは、こいつだと思っていた。

 イラついていたし、俺達ゴブリンを見る目が嫌悪を含んでいる。


 分かるのだよ!俺様には!そんな眼をした奴等、沢山見てきたから。


「や、やめなさい!ライトル!」


 聖女サマの制止を無視し、斬りつけてきた!


 速っ!?


 右手の剣はひのきの杖で弾いた。


 こいつ!


 マジだ!


 弾かなかったら、クビが飛んでいたぞっ!

 ここでスキルが発動した。

 恐怖が俺を支配した。


「!」

「こいつ!ライトルの居合いを弾いたぞっ!」


 そしてこのライトル、左手の剣はベリナを狙っていた。

 ライトルは脚を素早く組み替え、くるり、と周り、ベリナに剣を振り下ろす!


 ベリナは気づいてさえいない!


 俺は弾いた杖をそのまま流れに任せ、大地を思いっきり打った!


「ひいいいいっ!こ、こええええよおおおおっ!」


 ドゴオオオオオオオンッ!


 弾ける大地!吹き出す涙!

 吹飛ぶ周囲、俺もベリナもゲロカスヤロー(ライトル)も!


 そのままベリナの手を空中で掴み!周囲に炎の矢を思いっきり放つ!


「うわああああああん!俺達がなにをしたああああっ!」


 止めに入った聖女サマ以外、全員に確実に当たる炎の矢!


「ばかな!?こいつ無詠唱だ!」

「私達に魔法を当てた!?だが、威力が弱い!捕まえろ!」


 ふん!捕まるか!

 辺りは爆煙で何も見えない……はず。


 では、そのままジャンプ・アップ、と。


 ヒュン!


 俺は、ファーファのところまで飛び、更にファーファを回収して飛んだ。


「ずらかるぞ!ファーファ!」


 飛べ!一番の遠地点へ!


 振り出しに戻る、双六で言えば最初だ。

 ここが一番の遠地点。


 俺が目覚めた場所だ。


「すまん、ベリナ……怪我をさせてしまった……」


 どうしよう……重傷だ。


「どうせ贄だ、気にするな……」


「バカ!そんなの無理だよ!気にするよ!痛いだろう?正直に言えっ」


「……痛いですぅ……テニイさま……ぐすっ……あいつ、あたいを……斬ろうとしたの?」


「そうだ」


「助けてくれて、ありがとな……でも贄なのに……なんで助けた?」


「俺に贄の知識、習慣はない!手当をする、今から起ることは死ぬまで誰にも喋るな、いいな?」


「……はい……優しくしてください」


 ん?俺、優しくない?


「テニサマ、言葉キツイ、リベナ怪我人、ヤサシク!」


「あ、ああ、そうだねファーファ、ごめんよリベナ」


「ファーさん……ごめんな、あたい、酷いこと言っちまった……許してくれるか?」


 ファーファは激しく頷いたが、ベリナには見えているだろうか?

 俺は血に濡れたベリナの腕を握り、治ってくれ、と念じた。


「……あっ」


 ビクン、と痙攣するベリナ。


「痛い?痛いよね?」


 二刀流を撃つ時、俺の魔法は暴走し、ベリナの身体はボロボロになった。

 砕けた大地の破片が、リベナを貫いたのだ。

 腕は千切れかけ、手の指は無く、多分、目も見えていないだろう。

 これ以上は説明無用だ。とにかく酷い状態なのだ。


 ……助けたかった……でも……これじゃ……。

 魔力の制御ができない……最悪だ!

 スキルは発動していないが、涙が零れた。


 真剣に念じた。

 怪我をさせてしまった……後悔である。


 俺の体温は一気に上昇し始める。

 全身から汗が噴き出す俺。

 体内の星雲が蠢き、ベリナを包み込む。


「あ?あああ?あん、あうううっ……あ、あつい、熱い……」


 うわごとのように声をあげるベリナ。


 どのくらい時間が過ぎただろう?

 気がついた時には、ベリナも汗でドロドロ。


 でも寝息は静かで、寝言も歯ぎしりも無し。

 寝相もちょっと転がるくらいである。

 指、腕は綺麗に再生し、頬はゆで卵みたいにツルツルである。

 むき出しの胸が、ゆっくり上下に動いている。


 ……もう大丈夫?


 魔王さまという能力に感謝である。

 俺は上着を脱ぎ、ベリナに掛ける。


「……汗で臭いけど、いいよね?ファーファ?」


 こくこく。

 頷いてみせるファーファ。


 あいつら、許せんな。

 突然斬りかかるか?


 でも俺、魔王だし、ある意味正解か?

 うーん……殺されるような悪いこと、したっけ?

 存在自体がいけないのだろうか?

 ……なんか泣きたくなってきたぞ。


 早くチワワンの街へ行って、ベリナとは別れた方がいい。

 このままでは、ベリナはいつか命を落とす。


 その時、パチリ、とベリナの目が開いた。

 眼球が動き、俺を捕らえる。


「……あたい……生きている?」


「ああ、生きているよ、ごめんよ、痛い思いさせて」


「あれ?……動けそう」


 ムクリ、と起き上がるベリナ。


「か、身体が!?」


「どこか痛い!?」


 おい!魔王の回復能力!しっかりしろよ!


「かりぃ!」


 軽い?……すまん、魔王の回復能力、疑ってしまった。


「ありがとな、テニイさま……もう死んだと思ったよ!」


 ベリナは、俺とファーファを見る。


「テニイさま……あなた達は……何者?聖女のパーティーから、逃げ果せた?」


 やっぱ気になるよね?


「どう思う?怖いか?」


 クビを横に振るベリナ。


「テニイさまは……あたいの……一番です」


 はて?一番とは?


 身体を動かしてみるベリナ。

 うん、調子はよさそう!

 最悪の場合、ゴブリンの村か、狼亭に駆け込もうと思っていたけど、大丈夫みたいだな。


 じっと俺を見るベリナ。


「?」


 何かな?


「倒れているとき……ゆ、夢の中で、ブラッド・スパイダーに襲われたんだ」


「え?」


 マズくないか?夢の中でも?


「そしたらさ、テニイさまが助けに来てくれて、あっさりとブラッド・スパイダーを倒したんだ」


 おお、ヤルではないか!夢の中の俺!


「テニイさま、次々に出てくる化け物、片っ端から倒して、お前も強い、お前も参戦しろって言われて……」


 え?大丈夫なの?


「一緒に、沢山の化け物を倒したんだ」


「凄いね、ベリナ」と夢の中の俺。


「……気がついたら、あたいだけで倒していたんだ!」


「ええっ!?」


 おい、サボりか?夢の中の俺!


「テニイさま、もう一人でも大丈夫だって言って、あたいを優しく抱きしめてくれたんだ……」


 ん?


「あたい、強くなった気がする……」


「無理はするなよ?気がするだけかもしれんし」


 勘違いはよくあることさ。

 ん?聞いている?ベリナ?

 ぼーっとして夢見がち?


「それから……それから……こ、ここから先は言えねーっ!だってテニイさまま、まさかあんなことするなんて!」


「いだだだだっ!?ファーファ!?痛い!痛いって!なんで足踏むのさ!?」


「……フン」


 おい!夢の中の俺!ベリナに何をした!?


「ごめん!テニイさまっ!なんか……まともに顔が見れねぇっ!」


「おあだあああっ!だから痛いんだって!ファーファ!?」


 それからしきりにお腹が減ったというベリナに、焼肉を食べさせ、再びチワワンの街を目指すことになった。


 勿論、慎重に。


 この世界、とんでもないヤツばかりだ。

 ……まあ、俺もその一人かも知れないが。


 再出発して二日目、ベリナは強くなっていた。

 特に反射神経が凄い!

 巧みに花鳥風月を使い、次々にイノノを仕留める。


 そして増えるお肉と牙。

 全部、ファーファの中に収まっていく。


 警戒して進みに進み、約一週間、チワワンの街がようやく見えてきた。


「なあ、ファーファ、ベリナ」

「なんだい?テニイさま?」

「……?」


「俺達、なんか逞しくなっていないか?」

「ははっ、そうだねぇ?」


 こくこく、と頷くファーファ。

 あれから一週間くらいの旅だが、感覚が研ぎ澄まされた気がする。

 この感覚がないと、この世界で生き残るのはかなり厳しいのでは?

 まあ、とは言っても、俺達初心者だが。


 チワワンの街は、そろばんの駒を半分に切ったような屋根が目立つ、大きな街だった。


 これ、かなりデカい街だぞ。

 人通りが凄そうだ。

 道は段々と整備され始め、朝からいろんな人達とすれ違っている。

 エルフ、ドワーフ、ゴブリン、リザードマン、フェアリーそして人族。


 こうも人通りが多いと、ちとファーファが心配なのだが?

 デカオークの件もあるし。


「ファーさん?大丈夫だよ、チワワンの街は大きいし、ゴーレムも沢山動いているって聞いたけど?」


 まあ、すれ違う人や妖精達も気にしていないみたいだが。


「ファーファ、ここは一緒に行こう。なあに、いざとなったらジャンプ・アップして逃げる、どう?」


 こくこく。

 そしてやっと辿り着くチワワンの街。


 でけー。

 何もかも!

 3人で巨大な門を潜る。


 挿絵(By みてみん)


「やっと辿り着いた!」


「テニイさま、ここからが本番だぜ?」


「それでも感動だ!」


 達成感なんて前世から通して味わったことないし、俺としては大感動なのだが?


「え?テニイさま?泣いているの!?」


「ああ、感動してな!」


「泣くほど感動?泣き虫だなぁテニイさまは!あの一番高い建物がギルド本部みたい」


「なんで分かる?」


「前もってエルフに聞いていたんだ、さあ行ってみようテニイさま!」


 俺達は足早に、ギルド本部を目指した。

次回投稿は2023/12/01 お昼12時1分の投稿予定です。


サブタイトルは


8 チワワン到着、今日から俺らはギルドの一員編

でも俺さまランクはDでした。なぜ?魔王さまなのに!?


の予定です(今度こそ!)


ページ下部の評価欄から、評価をしてもらえると嬉しいです。

いいね、ブックマーク、感想等も、もらえると励みになりMAYAKOが縄跳びを始めます。いや、健康のために縄跳び、いいかなぁと……え?どうでもいい?

……よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ