7 寝言と歯ぎしり、そしてヤバい奴等(聖女含む)とバトルしました編
こんにちは。
投稿です。
サブタイトル、変わりました。
お話しが延びて、ギルドまで辿り着けませんでした。
ジュウウウウウッ。
朝からいい匂いである。
「……テニイさま、お早うございます!ファーさんおはよう!」
「おはよう!ベリナ!お肉焼けているよ!」
そう、朝から肉である!
夢のような世界!
朝からご飯なんて、何年振りかしら?
それも肉だぜ肉!
「テ、テニイさま、あたいもお手伝うからよ、起こせって!ファーさんも起こしてよ!」
「いや、ぐっすり寝ていたし、ね?ファーファ?」
こくこく。
激しく頷くファーファ。
「……ぐっすり?ね、寝顔見たのか!?」
「い、いや、見ていないよ?ね?ファーファ?」
こくこく。
言えない……大口開けて、よだれを垂らし、お臍やお尻をボリボリ……歯ぎしりが凄まじく、寝言も凄かった、とか女の子に対して絶対に言えない……。
寝言……最初は悲鳴かと思った。
奇声が、開いた口から轟き、それが終わると歯ぎしりが始まる。
村を出された原因はこれでは?
それプラス、寝相が凄い。
2回蹴られた。
あんなに離れて寝ていたのに!
しかし、これは話すべきか?これからのベリナのためにも?
どうする?
肉を焼きながら、脳内シミュレーションをしてみる。
事細かにお話ししてみる。
ここで分岐発生。
俺の言葉を信じる?信じない?
信じてもらえなかった場合、どうなる?
嫌われる?いやそれ以上に恨まれる?
『なんでそんな酷いこと言うんだ?あたいをいじめて楽しんでいるのか!?』
そしてあんなことや、こんなことになって……。
BAD END
信じた場合は、どうなる?
『よくもあたいの……あられもない姿を鑑賞したなっ!責任とれよな!』
結婚!?=YES/NO
口封じにXXXされたり、XXXされたりする?
もしくは、この世から消される……。
BAD END
うーん、どうも俺の性格上、明るい未来が想像できないっ!
……あ、弱虫スキル発動した?
スマホでもあれば、動画で……いや、女この子寝姿、撮影ってどうよ?ダメでしょう!
そんなことしたら、嫌われる前に、消されないか?動画も、俺も。
うーん、もう暫くしてから結論出すか、まだ旅して二日目だし。
「ええええっ!?ファーさん!それ本当なのか!?あたい歯ぎしりに寝言が悲鳴!?」
……ファーファ?
何しているの?
い、言っちゃったの!?
こ、怖くてベリナの顔が見れないっ!
「テニイさま……話しがある!」
「ベリナ、俺にはない」
「あたいにはあるんだよ!ファーさんの言ったこと、本当なのか?いや、ファーさんを疑うわけじゃないけど……」
ここは正直に言うべきか?
どうする?
うーん、誰も、親さえも指摘しなかったんだよね?
何でだ?
ああ、暴力か?乱暴者って言っていたな?
誰も何も言わない……ということは……友達もいない?
BAD ENDは避けたいが、ここは正直路線で行ってみよう。
「その通りだ」
……言ったぞ?どうでる?
俺だって弱虫しスキル、吹き出すの抑えて言ったんだ。
何と答える?
「なんでそんな酷いこと言うんだよ!あたいをいじめて楽しんでいるのか!?」
何処かで見たセリフ。
「……うっ」
う?
「うわああああああん!なんで?なんで村の皆は言ってくれなかったんだよぉ!何のための親だよ!家族だよ!うわああああああん!これじゃお嫁に行けないよ!」
お嫁?
贄ではなかったのか?
まあ、チワワンの街までだけど。
「テニイさま、正直に答えて!」
うわぁ凄い迫力、こえーよ!
こっちも泣きそうだよ!
「夜中、奇声を張り上げ、歯ぎしりするゴブリン女子は……魅力的か?」
うげっ!?
どう答える?
「それは……」
「それは!?」
「人それぞれではないかと?」
「じゃぁテニイさまはどう思ったんだよ!?」
こえーの一文字だよ!
ヤバい!眼がマジだ!ここは深く考え、即答しないといけない!
「ビックリした」素直な感想だ。
「ビックリ?」
「びっくりした」
あ、何か考えているな?
「……る」
る?小声で分からないぞ?
凄く真剣な泣き顔で、俺を睨んでいる。
俺、悪人?
「お願いがある」
「却下だ!」
「治して」
は?
何ですと!?
「あたいは贄で、もうテニイさまのモノだから、これ以上何も持っていないんだ!そんなあたいに短剣までくれて、こんなお願いするのはイケナイと思う。でもそれでもお願いしますっ!大魔法使いテニイさまっ!治してくださいぃいいいい!悲鳴のような寝言と、歯ぎしりと寝相の悪さを!おねがいしますぅうわああああああん!」
……あの時、ファーファの言うとおり、さっさと放置して逃げればよかった。
今からでも遅くない?
マップ移動で逃げるか?
……はぁ……溜息一つ。
そんなことはできない。
俺の、俺様の美意識が許さない。
ああ、それに、そんなことしたらファーファに嫌われてしまう!
だけどどうやって治す?
病院?
この世界にあるのか?
誰か、ネットで検索して教えてくれないかな?
ああ、民間伝承でも民間治療でもいいです!
寝言と歯ぎしりと寝相の悪さ……魔法で治るモノなのか?
魔法の使い方が分からん!
魔王なんて、たいしたことないじゃん!
悩める女子の歯ぎしり一つ、治せないなんて!
チラッ。
ファーファを見る。
ジュウウウウウウッ。
肉、焼いている。
をい、ファーファ、お前が事の原因だろう!?あっさりと暴露して!
「ヒーラーとかクレリック?医者に頼むとか?相談?」
「テニイさま、ゴブリンを治療してくれる医者なんていないよ?」
あ、そういえばあのデカオーク、ゴブリンを下に見ていたな?
「ファーファ、何か知っている?」
「スコシハ……」
「「!」」
おお、これは試してみる価値ありっ!
「ん?どうした?」
「な、なんかさぁ、ファーさんの言葉聞いただけで、安心してきた……腹、へった……」
さもありなん。
「ベリナ、取敢えず食べよう!」
「うん!」
まぁこの元気な返事を聞いている限り、大丈夫のような気がする。
朝ご飯を食べ、チワワンの街を目指す俺達。
歩きながらの話題は、歯ぎしりと寝言と寝相についてだ。
「じゃ、ファーさん歯ぎしりは主にストレスが原因?」
「イロイロアルケド、ベリナハ、コレダトオモウ」
「んじゃファーファ、寝言は?」
「ベリナノバアイハ、リラックスシテイナイ。寝相モシカリ」
「……い」
「い?どうしたベリナ?」
「いや、あたいさ、落ち着きがないとか色々言われていてさ……」
「……ちょっと待て、ファーファ、ベリナ!」
マップに何か反応したぞ?
イノノ!?
「ベリナ、イノノだ!思いっきり身体を動かして、疲れたら爆睡しないか?」
「おおおっ!それいいね?で?どこだ、イノノ?」
「もうすぐ見えるよ!ほら!あそこ!」
森の中を走り回るイノノ。
「おい、テニイさま?よくあれがわかったな?あたいの目でもやっと確認だぜ?」
「行こうか?」
「あれはダメだよ、メスだ」
「え?」
「イノノのメスは狩ったらダメだ。森の約束だ。イノノは強いけど美味しい、一度、人族が狩りすぎて大変なことになったんだ」
「絶滅寸前?」
「そう!あいつら加減を知らないからなぁ」
なぜかすみませんと、謝りたくなった。
あ、また反応したぞ?
これ、なんだ?
「じゃ、あれはどうだ?魔昆虫かな?かなりデカいけど?」
「!!!!!!!!!!」
「あれ?ベリナ?」
ベリナは全速力で走って行った。
方向は……遙か後方目指して。
「テ……速くにげーろーっ!早く!速くっ!ブラッド・スパイダーだああああああっ!」
?
何だそれ?
その、ブラッド・スパイダーとやらをよく見る。
……旅客機程の大きさだ……。
長い脚の先端、爪のような細い部分でさえ、電柱みたいに大きい。
これは、デカすぎでは?
一体、何食ってんだ?
その巨大な蜘蛛と、眼が合った……気がした。
しかし沢山あるなぁ、いや、眼が。
みんなこっち見ている?
怖い眼だ……おわた……そう感じた。
「ファ、ファーファ!」
あれ?いない?
あ、ベリナの後を追って逃げている!?
ドドドドドドドッ、っと土埃を巻き上げ、迫り来る巨大な蜘蛛擬き。
「うわあああああああああんっ!」
泣き虫弱虫スキルが、MAXで発動した。
「お、置いていかないでええええっ!」
後で思ったことだが、なんでマップ移動しなかったんだろう?
慌てると、ろくなことがない。
しかし、なんであんな巨大な蜘蛛が俺達みたいな小さな獲物を狙うんだ?
もっと大きいモノ狙えよっ!
あ、なんか腹立ってきた。
前世の記憶が蘇る。
あの巨大な蜘蛛が、あいつらに見えてきた。
夜の街。
渦巻く欲望。
お金や権力、吹き出す黒い息。
相手を『小さい』と見ると、すぐに目を付ける者達。
俺の母親を殴る酔っ払い。
ついでに殴られ、蹴られる俺。
弱い者いじめは、格別に楽しいらしい。
ああ、誰か、人類は邪悪じゃないと俺に言ってくれ!
ああ、世の中、理不尽な事ばかりだ。
蜘蛛は俺達を、ご飯と思っての襲撃だ。
そこに悪意はないだろう。
蜘蛛とあいつらの違いだ。
でも、俺だって食べられるわけには、いかないのだ!
俺は大地にひのきの杖を突き刺し、巨大蜘蛛に対して咆えた。
泣きながらだけど。
「イカズチッ!」
俺の中の星雲が蠢く。
グッグッ、と天に力が集まり、ドゴオオオオンッ!と一瞬光が走る。
燃え上がる巨大蜘蛛。
バラバラと音を立て崩れ去る。
おお、さすがは魔王さま。
一撃だ!
遠くから声がする。
ベリナとファーファだ。
もう!逃げるんだったら、一声掛けて逃げてよ!
涙、吹き出したじゃないかっ!薄情者っ!
じわりじわりと近づいてくるベリナ。
「……な、なあテニイさま、あ、あいつし、死んだ?退治した?」
「……うん」
不機嫌である。
「……テニイさま……怒っている?」
「少し」
怖かったし。
おいてけぼりだし。
「ご、ごめんよ、あたい、蜘蛛は……蜘蛛だけはダメなんだ」
え?
「ち、小さいとき、村がブラッド・スパイダーの群れに襲われて……つ、捕まって……た、食べられそうに……糸がさ……ベタベタの糸にグルグル巻かれて……ううっ…い、息もできなくて……」
そう言って、ベリナは青ざめ、ガタガタと震え始めた。
呼吸も速くなり、目が小刻みに動く。
ん?
もしかして、悲鳴のような寝言や歯ぎしりは、これが原因では?
「う……だから……く、蜘蛛だけは……うわああああああん!怒らないでよっ!」
泣いちゃった!?
いや、もう蜘蛛いないよ?
あっこで燃えているし。
「うわあああんっ!す、捨てないでくれよぉ!こんな所に、お、おいてかないでええっ」
戸惑いの一言である。
俺は置いて、逃げたくせに!
ベリナ?そんなんでこれから大丈夫?
村にはもう帰れないんだろう?
一人で暮らせるのか?
どうする?
うーん、どうしよう?
「ベリナ、アレをよく見ろ!もうあいつは動かない、俺が倒したからだ」
「い、いやだよ!怖いよ!」
「見ろ!あいつはもう動かない!それにどんな蜘蛛が襲ってきても、俺が全部倒してやる、だからもう泣くな!蜘蛛を恐れるな!」
「……うう、涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃのお顔で言われても、説得力ないよ!」
ホントに!こいつは!もうっ!……それでも倒しただろう!?
ベリナは見つめる。
雷に打たれて、燃えさかるブラッド・スパイダーを。
「あ、あいつ、もう動かない?」
「ああ、もう動かない……だから安心しろ!」
「……うん」
どうにか、落ち着きを取り戻し始めるベリナ。
「ん?ところでファーファは?」
「あ、ファーさんなら……あそこだよ!」
遙か彼方で蹲っているファーファ。
「どこ?」
「あそこだよ!」
あ、マップを使おう!
……遠いな、よくまぁあそこまで逃げたもんだ。
トコトコと歩いて向う俺とベリナ。
「ファーさん、大丈夫かよ?」
いや、お前もな?
「ファーファ?どうしたの?」
「クモ……ダメ……クモ……イヤ……」
これは?相当怖がっている?恐怖している?
ファーファも蜘蛛がダメなんだ。
似たような形しているのに、っと思ったが言わないことにした。
多分、地雷だ。
嫌いな蜘蛛に似ていると言われて、喜ぶヤツなんていない。
絶対これはファーファに言ってはいけない言葉だ!
多分、言ったらファーファが傷つく。
俺はその言葉を呑み込んだ。
が、横のヤツがその言葉を吐き出した。
「ファーさんもクモダメなのか?私もだ。へへっ似たような形しているから、大丈夫と思ったんだけど?」
この馬鹿者おおおおおおおおっ!
その無神経さが、嫌われ者の第一項と知れっ!
「!」
「どうしたんだい?ファーさん?」
「ベリナ……キライ……」
ヒュン!
ファーファ!?
「お、音速を超えていますけど!?」
マップ内で後を追っているけど、凄い速さで遠ざかっていく!
「ベリナ、嫌いな蜘蛛に似ているなんて言われて、喜ぶヤツなんていないぞ?」
「あ!」
「あ、じゃない!お前、自分が言われたら、どう思う?」
よし、マップ移動で先回りだ!
えーと、ファーファの位置を確認して、先回り、と。
「ベリナ、ここで待っていろ、いいな」
「え?」
半泣きで戸惑うベリナ。
言葉が湧き上がる。
「ここで少し反省していろ!ジャンプ・アップ!」
ヒュン!
ファーファの前方に現れる俺。
多分減速して、ちょうどここに……ほら、止まった!
「……マオサマ、アブナイ、ブツカル、大変!」
まあ確かに。
「ベリナ、酷いよね?」
こくこく。
「……ベリナ、ヒドイ」
「じゃ、このままベリナ置いて旅を続ける?」
ぴたっ、と、固まるファーファ。
「!?」
「どうする?ファーファ?」
「……ダメ、ベリナ、可哀想……」
「じゃ、戻るよ、あいつを叱る!俺、あいつのご主人さまだからな?そうだろう?ファーファ?」
こくこく。
歩き出す俺とファーファ。
「!!!!!?」
なんだこれ?
「止まれ、ファーファ!」
「?」
黄色い点が4つ!?
緑の点はベリナだ。
黄色い点から半径500mの円が表示されている?
これはこいつらの魔力の感知範囲?
魔物ではない?
バトルもしていないみたいだけど?
「人族デス……」
「ファーファも分かるの?」
こくこく。
「ファーファ、ギリギリまでジャンプする。そこでファーファは待機だ、姿を見せるな。いい?」
「……ハイ」
「行くよ、ジャンプ・アップ!」
一瞬で移動する俺。
泣き虫弱虫スキル、発動するなよ?
「ファーファはここで待っていて!」
そう言って俺は一歩を踏み出した。
さあ、あいつらの魔力感知内に入るぞ。
ゆっくりと歩き、進む俺。
「!」
反応が!動きがあった!
何か話している?
と、思った瞬間!?
「このブラッド・スパイダーを倒したのは君かい?」
「……」
ベリナは答えない。
声が!?
声が聞こえる!?
凄い!さすがは魔王さま!
俺の脚は段々と速くなる。
「おい、ゴブリンにこれは無理だろう?誰が倒したか、知っているか?知っているなら教えろ!」
「……」
「魔王が出現したみたいでね、調査に来ているんだ」
!?
調査?じゃ、王都からか?何者だ、こいつら?
「このゴブリン、奴隷か?それとも人族の言葉が分からない?」
「奴隷?」
「主の許可がないと、一言も喋らないってヤツだ」
「おい、誰か来るぞ」
「旅人か?冒険者?何人だ?」
「一人です、もう見えると思いますが?」
こちらからも見えた。
全部で4人、女二人に男二人。
装備から見て、騎士団ではないみたい。
様式が統一されていないし、それぞれが気ままに動き回っている。
パーティー?ギルド?
軽装備が二人、重装備のアックス持ちの男が一人、残りは杖?魔法使いかな?こっちは女だ。
軽装備の一人は二刀流だろうか?目つきの鋭い男で、長身だ。
この4人、雰囲気がおかしい。
落ち着きすぎている?
あの燃えているブラッド・スパイダーを見ても、全く動揺も警戒もしていない。
ベリナと眼が合う。
言葉を発せず、近寄るベリナ。
喋ろうとするのを眼で合図した。
何も言うな、と。
「君、何者なんだい?」
軽装備の女が話し掛けてきた。
多分、この人がリーダーだ。
そして一番強い。
魔王のカンだけど。
でも、この雰囲気、何処かで?
「おい、何者かと聞いている!」
二刀流が凄む……なんかこの二刀流、キライだな。
こいつらこそ何者だ?言葉が命令で調で、上からだけど?
「この先に湖ができていてね、その側に氷漬けの蛇人オブジェがあった。何かしらないかなぁ?」
あ、思い出した!
補導員だ!この雰囲気、そっくり!
あいつら集団で囲んで尋問するんだよね。
「知らない」
とぼけてみる。
「ホントかなぁ?君、名前は?」
ヤバいかな?
では、はったりで様子見してみるか?
「森で知らない人達に会ったなら、すぐに逃げなさいって、お父さんとお母さんが言ってたんだ。逃がしてくれる?」
「質問に答えてほしいなぁ」
こいつらヤバい、確信する。
手練れ以上だ、得体の知れない……狂気を感じる。
夜の街にもいたぞ、素性を隠して彷徨う奴等。
ああ、アレによく似ている。
でも、本当に怖いヤツは、何にも感じさせない、警戒心を煽らない。
この計算から行くと、この軽装備の女が一番危険だ。
どうする?関わり合いは避けろ、と内部で叫ぶ声がするけど?
俺だけなら逃げ切れる。
マップ移動でハイ終り、だ。
だがベリナと一緒になると、どうだろう?
マップ移動は、俺に触っていなければ移動できないんだよねぇ。
ベリナに近づいた瞬間、攻撃してきそうなんだけど?
ベリナは青いお顔で、少し震えている。
緊張で動けない?
俺もスキルが発動する前に動かなければ。
すると、重装備の戦士が動いた。
じわり、と近づく。
「……俺の名は王都騎士団筆頭、リッチナ・ワンネ」
王都の騎士団筆頭?
嘘つけ!
「信じられない、というお顔ね?」
危険女が俺を評価する。
本当ならば、こいつら……魔王の討伐隊!?
「本当?王都騎士団筆頭?こんなところに?」
「そうだ、嘘じゃねえぜ?騎士団筆頭、この名を騙れば即、死刑だ。お前、名は?」
なんと答える?
うーん?ここは選択を間違えないようにしなければ!
俺は、素直に自分の名前を口にする。
「俺は、破壊神ラグナローク」
「「「「…………は?」」」」」
「どわはははははっ!」←筆頭騎士。
「あははっ」←危険女。
「くすくすっ」←魔法使い風女子。
「ふっ」←長身二刀流戦士。
なぜかウケる。
ん?
ベリナも目を逸らし、笑っている。
「あはははっ、どこの古文書を読んだんだ?破壊神ラグナローク?朝、目覚めれば世界を照らし、夕、目覚めれば世界を闇の中へ導くといわれる、あの異界神?君は古代神話マニアか?」
「俺達相手に、魔王以上の存在を名乗るかぁ?ひーっひひっ、おい、俺はこいつが気に入ったぞ!」
解せぬ、事実なのに。
チラリとベリナを見て、促す。
「彼はゴブリン亜種、ア・キュウガ・テニィ。私はベリナ・ワッフル」
ニヤリとする重騎士。
「二刀流のキザヤローがライトル、杖を持っているのがクルルン」
「そして私がキルル・ランダムだ」
ベリナの眼が丸くなる。
「どうしたの?ベリナ?」
「せ、聖女クルルン、非情のライトル……」
聖女!?たしか賢者か聖女が俺の出現を予測?預言?したとかしないとか?
「キルル・ランダム……ユキさま?」
「ユキ?ベリナ、誰だい、それ?」
青ざめるベリナ。
「皆、本物なの?でも口じゃ何とでも言えるよ?」
そう、俺様は限りなく疑い深い。
「あはははっそうだな、お前のように破壊神とか騙れる!」
事実、真実ですけど?
聖女が、キラキラと光る眼で俺を見る。
「ア・キュウガ・テニィさま、信じてくれなくてもいいのですが、私達は魔王の調査に来ました。何かご存じでは?」
ええっ!?
何この声!?
凄い綺麗な声?この声で子守歌、歌われたら全員爆睡では?
「どうした?ア・キュウガ・テニィ?」
「いや、凄い綺麗な声だなぁ、と。子守歌とか歌ったら、皆爆睡では?」
「テ、テニイさま!不遜です!不敬罪ですよ!」
慌てるベリナ。
どうやらベリナは本物と認めたらしい。
ん?聖女サマ?
聖女サマは頬を軽く染め、ちょっと俯いた。
「こ、声を誉められるなんて……あの……素直にうれしいです……ありがとうございますア・キュウガ・テニィさま」
「お、クルルンを落としたか?このゴブリン?がはははっ面白いヤツ!」
「クルルン、こいつが気に入ったのか?だが、俺達も遊びじゃない、こいつが魔王か?」
「違うと思います。魔力が低すぎますし、この方の魔力では、ブラッド・スパイダーは倒せません。まして蛇族を氷漬けなど……」
「ならサキュバスが言っていた、屈強な青年が怪しいな?」
……色々な意味でヤバいか?
でも、さすがはファーファのガチャから出た弱体装備!
聖女サマの能力も欺くとは!
「試してみよう、俺の一撃、受けてみるか?」
ふっ、と動くライトル。
一撃?嘘つけ二刀流のくせに!
仕掛けてくるのは、こいつだと思っていた。
イラついていたし、俺達ゴブリンを見る目が嫌悪を含んでいる。
分かるのだよ!俺様には!そんな眼をした奴等、沢山見てきたから。
「や、やめなさい!ライトル!」
聖女サマの制止を無視し、斬りつけてきた!
速っ!?
右手の剣はひのきの杖で弾いた。
こいつ!
マジだ!
弾かなかったら、クビが飛んでいたぞっ!
ここでスキルが発動した。
恐怖が俺を支配した。
「!」
「こいつ!ライトルの居合いを弾いたぞっ!」
そしてこのライトル、左手の剣はベリナを狙っていた。
ライトルは脚を素早く組み替え、くるり、と周り、ベリナに剣を振り下ろす!
ベリナは気づいてさえいない!
俺は弾いた杖をそのまま流れに任せ、大地を思いっきり打った!
「ひいいいいっ!こ、こええええよおおおおっ!」
ドゴオオオオオオオンッ!
弾ける大地!吹き出す涙!
吹飛ぶ周囲、俺もベリナもゲロカスヤロー(ライトル)も!
そのままベリナの手を空中で掴み!周囲に炎の矢を思いっきり放つ!
「うわああああああん!俺達がなにをしたああああっ!」
止めに入った聖女サマ以外、全員に確実に当たる炎の矢!
「ばかな!?こいつ無詠唱だ!」
「私達に魔法を当てた!?だが、威力が弱い!捕まえろ!」
ふん!捕まるか!
辺りは爆煙で何も見えない……はず。
では、そのままジャンプ・アップ、と。
ヒュン!
俺は、ファーファのところまで飛び、更にファーファを回収して飛んだ。
「ずらかるぞ!ファーファ!」
飛べ!一番の遠地点へ!
振り出しに戻る、双六で言えば最初だ。
ここが一番の遠地点。
俺が目覚めた場所だ。
「すまん、ベリナ……怪我をさせてしまった……」
どうしよう……重傷だ。
「どうせ贄だ、気にするな……」
「バカ!そんなの無理だよ!気にするよ!痛いだろう?正直に言えっ」
「……痛いですぅ……テニイさま……ぐすっ……あいつ、あたいを……斬ろうとしたの?」
「そうだ」
「助けてくれて、ありがとな……でも贄なのに……なんで助けた?」
「俺に贄の知識、習慣はない!手当をする、今から起ることは死ぬまで誰にも喋るな、いいな?」
「……はい……優しくしてください」
ん?俺、優しくない?
「テニサマ、言葉キツイ、リベナ怪我人、ヤサシク!」
「あ、ああ、そうだねファーファ、ごめんよリベナ」
「ファーさん……ごめんな、あたい、酷いこと言っちまった……許してくれるか?」
ファーファは激しく頷いたが、ベリナには見えているだろうか?
俺は血に濡れたベリナの腕を握り、治ってくれ、と念じた。
「……あっ」
ビクン、と痙攣するベリナ。
「痛い?痛いよね?」
二刀流を撃つ時、俺の魔法は暴走し、ベリナの身体はボロボロになった。
砕けた大地の破片が、リベナを貫いたのだ。
腕は千切れかけ、手の指は無く、多分、目も見えていないだろう。
これ以上は説明無用だ。とにかく酷い状態なのだ。
……助けたかった……でも……これじゃ……。
魔力の制御ができない……最悪だ!
スキルは発動していないが、涙が零れた。
真剣に念じた。
怪我をさせてしまった……後悔である。
俺の体温は一気に上昇し始める。
全身から汗が噴き出す俺。
体内の星雲が蠢き、ベリナを包み込む。
「あ?あああ?あん、あうううっ……あ、あつい、熱い……」
うわごとのように声をあげるベリナ。
どのくらい時間が過ぎただろう?
気がついた時には、ベリナも汗でドロドロ。
でも寝息は静かで、寝言も歯ぎしりも無し。
寝相もちょっと転がるくらいである。
指、腕は綺麗に再生し、頬はゆで卵みたいにツルツルである。
むき出しの胸が、ゆっくり上下に動いている。
……もう大丈夫?
魔王さまという能力に感謝である。
俺は上着を脱ぎ、ベリナに掛ける。
「……汗で臭いけど、いいよね?ファーファ?」
こくこく。
頷いてみせるファーファ。
あいつら、許せんな。
突然斬りかかるか?
でも俺、魔王だし、ある意味正解か?
うーん……殺されるような悪いこと、したっけ?
存在自体がいけないのだろうか?
……なんか泣きたくなってきたぞ。
早くチワワンの街へ行って、ベリナとは別れた方がいい。
このままでは、ベリナはいつか命を落とす。
その時、パチリ、とベリナの目が開いた。
眼球が動き、俺を捕らえる。
「……あたい……生きている?」
「ああ、生きているよ、ごめんよ、痛い思いさせて」
「あれ?……動けそう」
ムクリ、と起き上がるベリナ。
「か、身体が!?」
「どこか痛い!?」
おい!魔王の回復能力!しっかりしろよ!
「かりぃ!」
軽い?……すまん、魔王の回復能力、疑ってしまった。
「ありがとな、テニイさま……もう死んだと思ったよ!」
ベリナは、俺とファーファを見る。
「テニイさま……あなた達は……何者?聖女のパーティーから、逃げ果せた?」
やっぱ気になるよね?
「どう思う?怖いか?」
クビを横に振るベリナ。
「テニイさまは……あたいの……一番です」
はて?一番とは?
身体を動かしてみるベリナ。
うん、調子はよさそう!
最悪の場合、ゴブリンの村か、狼亭に駆け込もうと思っていたけど、大丈夫みたいだな。
じっと俺を見るベリナ。
「?」
何かな?
「倒れているとき……ゆ、夢の中で、ブラッド・スパイダーに襲われたんだ」
「え?」
マズくないか?夢の中でも?
「そしたらさ、テニイさまが助けに来てくれて、あっさりとブラッド・スパイダーを倒したんだ」
おお、ヤルではないか!夢の中の俺!
「テニイさま、次々に出てくる化け物、片っ端から倒して、お前も強い、お前も参戦しろって言われて……」
え?大丈夫なの?
「一緒に、沢山の化け物を倒したんだ」
「凄いね、ベリナ」と夢の中の俺。
「……気がついたら、あたいだけで倒していたんだ!」
「ええっ!?」
おい、サボりか?夢の中の俺!
「テニイさま、もう一人でも大丈夫だって言って、あたいを優しく抱きしめてくれたんだ……」
ん?
「あたい、強くなった気がする……」
「無理はするなよ?気がするだけかもしれんし」
勘違いはよくあることさ。
ん?聞いている?ベリナ?
ぼーっとして夢見がち?
「それから……それから……こ、ここから先は言えねーっ!だってテニイさまま、まさかあんなことするなんて!」
「いだだだだっ!?ファーファ!?痛い!痛いって!なんで足踏むのさ!?」
「……フン」
おい!夢の中の俺!ベリナに何をした!?
「ごめん!テニイさまっ!なんか……まともに顔が見れねぇっ!」
「おあだあああっ!だから痛いんだって!ファーファ!?」
それからしきりにお腹が減ったというベリナに、焼肉を食べさせ、再びチワワンの街を目指すことになった。
勿論、慎重に。
この世界、とんでもないヤツばかりだ。
……まあ、俺もその一人かも知れないが。
再出発して二日目、ベリナは強くなっていた。
特に反射神経が凄い!
巧みに花鳥風月を使い、次々にイノノを仕留める。
そして増えるお肉と牙。
全部、ファーファの中に収まっていく。
警戒して進みに進み、約一週間、チワワンの街がようやく見えてきた。
「なあ、ファーファ、ベリナ」
「なんだい?テニイさま?」
「……?」
「俺達、なんか逞しくなっていないか?」
「ははっ、そうだねぇ?」
こくこく、と頷くファーファ。
あれから一週間くらいの旅だが、感覚が研ぎ澄まされた気がする。
この感覚がないと、この世界で生き残るのはかなり厳しいのでは?
まあ、とは言っても、俺達初心者だが。
チワワンの街は、そろばんの駒を半分に切ったような屋根が目立つ、大きな街だった。
これ、かなりデカい街だぞ。
人通りが凄そうだ。
道は段々と整備され始め、朝からいろんな人達とすれ違っている。
エルフ、ドワーフ、ゴブリン、リザードマン、フェアリーそして人族。
こうも人通りが多いと、ちとファーファが心配なのだが?
デカオークの件もあるし。
「ファーさん?大丈夫だよ、チワワンの街は大きいし、ゴーレムも沢山動いているって聞いたけど?」
まあ、すれ違う人や妖精達も気にしていないみたいだが。
「ファーファ、ここは一緒に行こう。なあに、いざとなったらジャンプ・アップして逃げる、どう?」
こくこく。
そしてやっと辿り着くチワワンの街。
でけー。
何もかも!
3人で巨大な門を潜る。
「やっと辿り着いた!」
「テニイさま、ここからが本番だぜ?」
「それでも感動だ!」
達成感なんて前世から通して味わったことないし、俺としては大感動なのだが?
「え?テニイさま?泣いているの!?」
「ああ、感動してな!」
「泣くほど感動?泣き虫だなぁテニイさまは!あの一番高い建物がギルド本部みたい」
「なんで分かる?」
「前もってエルフに聞いていたんだ、さあ行ってみようテニイさま!」
俺達は足早に、ギルド本部を目指した。
次回投稿は2023/12/01 お昼12時1分の投稿予定です。
サブタイトルは
8 チワワン到着、今日から俺らはギルドの一員編
でも俺さまランクはDでした。なぜ?魔王さまなのに!?
の予定です(今度こそ!)
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