6 旅は道連れ世は情け、情けってなんですか?編 そしてパーティーができました!初めての狩り!
今晩は。
寒いです、色々と。
源水さんの挿絵が早く上がりましたので、投稿します。
ここは、あまり長居しない方がいいかな?
ボロが出そうで怖い!早々に立ち去ろう。
でもその前に聞きたいことがある。
「旅神とはなんだ?」
「幸ト不幸ヲモタラス、旅スル精霊サマデス。蛇人族ニトッテハ不幸ダッタデショウ、ダガ我々ゴブリン、獣人族、他ノ種族ニトッテハ、蛇人族ノ封印ハ幸デス」
旅神?うう、そんな立派な存在ではありません!
ん?綺麗な服を着た女性が静々と服、靴、一式を持って現れた。
うわ、美人さんだ!
切れ長の二重の目、ふっくらした紅い唇。
サラッサラの髪!犬歯を除けば、小さいエルフじゃん!
本当にこれ、ゴブリン!?
あ、でもこの子、肩幅が広い?かなりの筋肉質?
「ド、ドウゾ……オ召シ物デス」
あ、この子も喋れるんだ!
「あ、ありがとう!」
服を受け取り、さてどこで着替えようかな?
取敢えず靴を履く。
おお、履き心地よし!
ん?
美人さんと目が合う。
ん?
「ベリナ・ワッフル、ト申シマス」
「ア・キュウガ・テニイです」
ここで、どっと、周囲から歓声が上がる。
ビクッ、とする俺。
なんだ?
なぜか、ファーファの視線が痛い。
これは?
「村ニ寄リマセンカ?オ酒ヲ用意シテオリマスガ?」
酒?
なぜか、やな予感がした。
意識的に、弱虫スキルを発動させた。
ここは旅神ではありません、とアピールしなければ!
「いやいい、酒は嗜まない、俺は亜種のゴブリン、先を急ぐ、服、ありがとう。では」
俺とファーファはその場を去る。
また歓声が上がり、拍手が森に響き渡る。
?
……ついてくるベリナさん。
俺達の前を歩く、先程のゴブリン剣士。
心なしか、ファーファが冷たい気がする。
俺は弱腰になり、前方を歩く剣士に話し掛ける。
「あのう、ここらでよろしいですよ?」
ん!?ファーファ?
一瞬、ほっとした!?
「イエ、先ノ通リマデ、オ送リ致シマス」
通り?ああ、あの踏み固められた道のような、川の後のような、窪みのことか?
足早に移動する俺とファーファ。
俺は、貰った服を点検してみる。
なんか着れそう。
「オ……オ手伝イ、シマショウカ?」
「いいよ、着れそう」
ちゃちゃっ、と着替える。
うん、何かいい感じ。
「どう?ファーファ?」
こくこく。
よし、と。
ゴブリン達に礼を言う。
「服や、靴、ありがとう。では、ここで」
「ソウデスカ、デハ私ハコレデ」
私は?私はこれで?ん?
「ベリナ、テニイサマニ、ソノ全テヲ捧ゲ、尽クスノダゾ?ヨイナ?」
「ハイ、仰セノママニ」
はい?
はああああああああっ!?
全てを!?
どうして何でこうなった!?
「ち、ちょ、ちょっと待ったあああああああっ!?」
「「?」」
いや『?』じゃなくてっ!
「ファーファ!」
「……フン」
いや、フンじゃなくて助けてよ!15歳のキャパシティ、とんでもなくオーバーしているって!
「ベリナハ、オ気ニ召シマセヌカ?」
「いや、そうじゃなくて!」
「オオ、デハオ気ニ入リニ?」
「だから、なんで?」
「「?」」
なに?この二人のゴブリンの表情!?
か、考えろ!俺は今、非常に危険な状態だっ!
「ベ、ベリナさんは、何でついてくるのかな?」
「イケマセンカ?」
「はい、お父さん、お母さんが心配します、帰りなさい」
「……帰レマセン」
「どうして?」
何でかな?
「私ハ旅神サマニ、捧ゲラレタ身デス、村ヘハモウ帰レマセン」
生贄!?
「この者は役に立ちますぞ、人族の言葉を習得しておりますし、剣技も私以上、村で一番の成績です!」
突然、流暢に話し出すゴブリン。
話せたじゃん。
なんで今まで?
おかしい、あやしい、何かある。
考えろ!考えろ!
小さな頃から沢山見てきただろう?
夜の街、男と女、駆け引き、ドロドロとした感情!
考えろ!
自分のことだ!
よし!はったりだ!
いくぞ!
「その者、厄介者であろう!」
ぎくっう、とする目の前のゴブリン二人。
「い、いえ、そのような……」
当たりかな?
「腕が立つなら、なぜ先の狩り、参加していない?男であろうと女であろうと、強い者は狩りにでなければ、獲物は得られぬのではないか?」
どうだ?
「そ、それは……」
「旅を続ければ、いずれバレぞ?その時、厄介者を押しつけられた俺が、怒らないとでも?既成事実があれば、どうにかなると?」
「「!」」
うわぁ一瞬で青ざめたよ!この二人!
「俺は幼く見える、中身も幼いと思うか?」
いや、本当は、幼いんだけどね。
中身15歳だし。
加えて弱虫の泣き虫だし!
これぞ、はったり!
二人は地面にひれ伏した。
まあ、俺の力の一端は見ているし、そりゃぁ青ざめるよな。
つんつん。
ん?ファーファ?
囁くように喋るファーファ。
(今ノウチニ、逃ゲル!)
(え?逃げるの!?)
こくこく。
どうする?怖い世界だなぁここ!
ポツリとベリナさんが呟く。
「大食いなの……」
あ、こっちもちゃんと喋れるんだ。
言葉の勉強はしているんだ。
「癇癪持ちで、乱暴者なんだ!自分で自分が抑えられない!」
なんだそりゃ?
「二人とも、立て、ちゃんとした話がしたい。始まりは何だ?」
「長老が贄を出すと言われて……食べられるかも知れないし、弄ばれ捨てられるかもしれない、売られるかも知れないと……」
俺は鬼畜か?化け物か?
「でも自ら志願した。村にはもう私に居場所はないんだ!」
「自ら村を出ようとは思わなかったのか?」
腕に覚えがあるならば、出られたはずでは?
「訳なく村は出られない、残った両親や兄弟が責められちまう!」
うわ、そういうことね。
「俺を利用する計画を聞こう、正直に言え」
目に力を込めて、ベリナを見る。
魔王の眼だぞ。
ビクン!と痙攣するベリナ。
「チャンスと思った、今しかないと。途中で訳を話して、逃がして貰おうと考えた。まだ子供みたいだし……チョロいかなと……それで、ギルドに登録して、街で暮らす!一人で!誰も私を縛り付けない!古臭い習慣も!迷信じみた掟も!旅神さま!あたいを自由にしてくれよ!」
……めんどい。
ファーファの言うとおり、さっさと逃げればよかった。
でも聞いてしまったからねぇ。
「ギルドはどの街にある?」
答えたのは剣士である。
「ここより200ケロほど先の街、チワワンにありますが……」
「王都までは?」
「400ケロと言われております」
(ファーファ、1ケロって?)
(1ケロ、ハ1000mデス)
「ではゴブリンの贄、リベナ・ワッフル、俺をチワワンまで案内しろ、その後は自由にしていい」
「「!」」
「では行くぞ、リベナ!」
「は、はいっ!」
こうしてパーティーができた。
壁役はファーファ。
戦士はリベナ。
魔法、回復は俺だ。
しばらくは無言で歩いていたが、リベナが話し始めた。
「改めて、よろしくな!旅神さま!」
言葉が、かなり流暢だ。
そして、フランクすぎるくらいフランクになった。
こっちが本性か?
「テニイでいいよ、俺はリベナと呼ぶから。こっちは俺の相棒ファーファだ」
あ、ファーファのヤツ、なんか冷めた目で見ている気がする。
「んじゃ、テニイさまと……ファーさんで!」
ファーさん?
チラリとファーファを見る。
お、なんだか機嫌直ったみたい?
ファーさん、この呼び名、気に入ったのかな?
「リベナは言葉が流暢だけど、だいぶ勉強したの?」
「したよぉ!あたいは自分のため、目的にためだったら、なんでもするぜ!」
この喋り、行動、もはや先程の人物とは別人では?
片言のリベナはどこ?まあいいけど。
「目的って?」
「村をでること!街で暮らすことさ!」
「そのための剣技?」
まあ、ここは『そのための演技?』と聞くべきか?
いやいやそれは意地悪な質問だな。
「そうさ!そのための剣技!ギルドに入って稼ぐんだ!言葉の勉強も夢のため!村の書物は全部読んだし、エルフからは狩りも習った!ほら!早速獲物だ!イノノだ!」
どこだ?あ、前方に……豚?いやイノシシ!?
剣のような牙を生やした、熊とイノシシを合わせたような生き物がそこにいた。
「あいつは凶暴で雑食性!妖精だろうが蛇だろうが、魔昆虫すら喰っちまう!」
「えっ!?」
「あ、20セチくらいの魔昆虫だぜ」
(ファーファ……)
(1セチは1センチ、デス)
(……ありがとう、ファーファの世界を跨ぐ知識、助かるよ)
(……ポッ)
しかし20センチ?って結構大きい虫だぞ?
「あいつは素早くて、パワーがあるんだ!突進してきたら避ける、止められそうだったら、ファーさん止めて!」
こくこく。
「テニイさまは魔法で援護してくれ、風がいい、火と氷はダメだ!」
「なんで?」
「あははっ!何にも知らないんだなぁ?火を見たら逃げるか、凶暴化しちまう!氷で攻撃したら肉が傷んじまうから、美味しくなくなる!」
言い終わらないうちに、獲物に向けて走り出すリベナ。
つられて走り出す俺とファーファ。
「先制してくれ!」
リベナから合図が来る。
風か、なるべく魔力を抑えて、えいっ!と。
ひのきの杖から刃のような風が巻き起こる。
「風の刃っ!」
風魔法はイノノを急襲するが、あっさりと弾かれる。
「ええっ!?」
回避しない!?
ふん、この程度の魔法、って感じだ!
「いいぜ!それでいい!うりゃ!」
イノノにスルリ、と走りより、切りつけるリベナ。
だがびっしりと身体を覆っている鉛筆のような剛毛に、あっさりと弾かれる!
ガイィンッ!
「あれっ!?」
そこにファーファがぶつかってきた。
どかっ!
小柄なファーファは下から、掬い上げるようにぶつかる!
お腹を見せて倒れるイノノ。
凄いや!ファーファ!どこで覚えたんだろう!?
ならば、これではどうだ?
「風の矢!」
狙いは、柔らかそうなお腹だ!
ヒュン!ヒュン!幾つもの風の矢に貫かれるイノノ!
よし!当たったぞ!
「ふんっ!」
すかさずクビを狙い、剣を刺すリベナ。
剛毛の間をすり抜け、深々と刺さる剣。
素早く起き上がり、全身を震わせる。
リベナは暴れるイノノに危険を感じ、あっさりと剣を手放し、距離をとった。
あのまま、剣に執着していたら、鋭い牙に切り裂かれていただろう。
俺が杖を構えると、リベナは手を上げ、制する。
ドオオッと倒れるイノノ。
「倒した?」
「ファーさん、ナイスフォロー!ありがとうっ!あぶなかった」
「……フッ」
近づくと、かなりデカい。
「し、死んだの?」
遠巻きに聞く俺。
「ん?何だよ、怖いのか?テニイ?あたい達が狩った獲物だぜ?さあ、食おう!」
……これを?食す?
……どうやって?全部は食えないはず。
いや、300㎏以上あるよ、多分。
「こ、これ、どうやって食べるの?」
「こうやるのさ、手伝って!おっとその前に!」
なんだ?
リベナはイノノを前に跪き、感謝の言葉を述べ始めた。
「森の精霊さま、恵みに感謝します。私の時が来たら、土に帰り、草花を育てることを誓います……」
うわぁ……すなおに感動、尊敬した。
伝統だろうか?
「テニイさま?知っているでしょう?森のゴブリン族の祈り、さあ解体して食べようぜ!テニイさま力持ちだろ?あたいの言うとおりに動かして!」
お腹を裂き、皮を剥ぎ、関節を切り離し、バラバラになるイノノ。
血や匂いが強いけど、これは狩人として覚えなければ。
「お腹は食べないの?」
「イノノは雑食だ、寄生虫がいる。オーク族は平気で食べるが、ゴブリン族は食べない」
「うげっ!」
「魔昆虫に沢山寄生しているんだ」
「え?村の魔昆虫は?」
「あ、あれ食うのオーク族や人族だから、あたい達は食べないよ」
「虫を食べるんだよね?」
「そう、昆虫はよく見て、選んで食べないと、病気で死んじまうぜ。見極める自信がなかったら、手を付けない方がいい」
「……了解」
なんか怖くなる俺。
弱虫スキル発動である。
「テニイさまぁ!そんなに離れないで!大丈夫だよ!これ、焼ける?多少強く焼いてもいい!」
「どうやって焼くの?」
「それも知らないのかよ!石を集めて、石を魔法で焼くんだ、そしてお肉を載せる。このくり返し!」
おお、成程!
手で焼くのは危険だな?箸がほしいな?木は周りに沢山あるし。
ベリナに剣を借り、菜箸を作る俺。
「なんだい?それ?」
ベリナは不思議そうに菜箸を見る。
大きめの石を拾い集め、渡されたお肉をジュウジュウと石で焼く。
「こうやって使うのさ」
菜箸で、ちょいちょい、と。
「へぇ、器用だねぇテニイさま?うちらは素手か食棒だけどな!それいいな、熱くなさそう!」
素手かぁ、まぁスリルはありそうだな。
「あ、テニイさま、火に弱い石は割れたり、破裂したりするから、気をつけてな?」
こくこく。
すごくいい匂い!調味料とかあるのかしら?
焼肉なんて、前世を通して2回目?
小さいとき、一度いったかな?
「これ、もういいの?」
聞いてみる。
「いいかなぁ?」
あやふやだなぁリベナ。
「……マダ」
「お、ファーさん、分かるの?」
こくこく。
ファーファの指示通りに焼き、食べると、とても美味しかった。
調味料も何もない素焼きの肉。
自分達で狩って料理して食べる。
これからの生活の基本だ。
「……」
「どうしたんだい?テニイさま?」
「よく食べるね?」
あ、ちょっとムッとした。
「いったろう?大食いなんだって!」
そう言ってまた肉を手で掴もうとすると、ファーファがパシッと手を軽く打ち、止めた。
「……マダ」
「いいじゃん!ファーさん!少しくらい生焼けでも!」
「……ダメ」
あ、これ知っている!鍋奉行って言うヤツだ!
こうして、一日の半分を食事で過ごした。
満腹である。
しかし、お肉、かなり余ったけど?
「ん?」
「ああ、あたいの村のゴブリンさ」
遠くに人影が見えたのだ。
「多分、この煙と肉を焼いた匂いだな」
「ベリナ、これ全部食べきれない、あのゴブリン達にあげてしまおう、呼ぶ?」
「それはできないよ、旅神さまの食事だ、ここはこのまま残して立ち去った方がいい」
「え?」
「それがお裾分けの合図なんだ」
「ふーん、ベリナはお話しとか、しなくていいの?」
「それもできないよ、あたいは旅神さまの贄だから。もう村のゴブリンじゃない、テニイさまの持ち物なんだ」
「!」
「さあ、行こうぜ、テニイさま!」
なんの未練も感じず、立ち上がるベリナ。
元気いいな、未来を見ている?
もう村での生活は遙か過去か?
俺はどうだったろう?
未来なんてなかったなぁ。
「そうだね、ファーファ出発しよう!」
「……!」
「え?なに?お肉は保管できる!?」
パカン、と開くファーファの頭部。
ちょいちょい、と脚を使ってお肉を入れろとジェスチャーする。
「え?いいの?生肉だよ?匂いとか血とか?」
「……!」
大丈夫とは言うけど?
まあ取敢えず入れてみる。
「……!!」
「え?中は覗かないで!?恥ずかしい?わ、分かったよ!」
50㎏程軽く入った。
「あまり入れると、ゴブリン達のご飯がなくなるね、え?牙も?」
どう見ても2mはある。
するすると、すんなり入る。
なんで?ファーファの大きさ、1mもないのに!?
まん丸お目々になるベリナ。
「ファーさん?動ける?」
こくこく。
「ファーさん、何者?」
「ファーファはスーパー・ゴーレム、そして俺は魔王さま!」
なぜか、爆笑するベリナ。
「ぎゃははははっ!はあぁ?テニイさま、酒でも飲んだ?あはははっ」
なぜ笑う?
不満は残るが、僕達3人はその場を後にした。
てくてく。
歩き続ける3人。
短剣かナイフが欲しいな、狩りに必要だし木の加工は素手じゃできない。
その内、手に入れよう。
日が暮れるまで、リベナは色々なことを話し続けた。
村でのこと、この世界のこと、家族のこと。
俺は聞き手に周り、静かに聞き続けた。
ん?流れ星?
なんだあれ?
「リベナ、あれ何か分かる?」
夕暮れ時、王都に方面へ向って走る光の矢?
「ああ、あれは飛びカエルだ」
「カエル?」
「マジック・アイテムさ。あれを使うと、最初に記録した場所へ飛んで帰れるんだ」
「うわぁ、便利だね」
「便利だけど、高価な代物だよ、あたい達じゃまず、手が出ないね」
「ふーん」
俺だったら、瞬時に移動できるぞ?まあマップ内限定だけど。
「主に使っているのは、王都の騎士団や商人だね」
日が沈み、辺りが暗くなると、今まで元気に喋っていたベリナの口数が、段々と減り始めた。
そろそろ、足下が見えないかな?
夜の闇、人数が多いと、そんなに怖くないや。
「夜目は?」
「よ、嫁!?」
「ん?見える?」
「あ、よ、夜目ね、ある程度は見えるよ……」
何を焦っているんだろう?
今日はここらでキャンプかな?
俺は眠らなくてもいいけど、ベリナは違うみたいだし。
辺りを見回すと、少し大きめの岩があった。
なぜかそこが気に入り、ここなら安全だろうと直感が働いた。
感のいいリベナはすぐに気がつく。
「ここでキャンプか?見張りはどうする?ファーさんゴーレムだし、任せていいのか?私と交代でもいいぜ?」
「見張りはいらない、結界を張る」
「え?」
「カモン・サークル!」
ズウウウウンと大地が震える。
「ひゃっ!」
驚き飛び上がるベリナ。
大地には、光る魔法陣が浮かび上がる。
「ま、魔法陣!?そ、それもデカい!」
「この中にいれば安全だ、それと、よっ、と」
俺はひのきの杖の先端に、火を灯す。
「えっ!?」
「なに?どうしたの?ベリナ?」
「焚き火、いらねーじゃん!」
「そうだね」
魔法陣は静かに大地に吸い込まれ、何事も無かったかのように辺りは静寂に包まれ始めた。
「!?」
「どうした?」
「さ、寒くない!?」
「ああ、初めてしてみたけど、どうかな?」
「は、初めて!?し、してみた!?」
「ん?結界内の温度調整だよ?まあ快適だよね、真冬とか真夏はどうなるか分からないけど。ベリナ、明日は日の出前に出発でいいかい?」
「あ、ああ、いいよ、それで」
ガチャンガチャン。
ファーファが俺の横に座り込む。
「村を出て疲れただろう?狩りもしたしね」
「狩りはファーさんに助けられた、近づきすぎると危険だ、あれは反省だったな」
狩りや、食料、水の確保について話をした。
まあ、水や食料の確保は、マップ移動ができるからそれ程心配していないけど。
それに食べなくても、生きていけるみたいだし。
聞きたいことは山ほどあるが、ベリナ、村を出て緊張と興奮の連続では?
早めに寝た方がいいだろう。
「ベリナは、旅は初めてなの?」
「は、初めて!?初めてに決まっているだろう!」
「わっ!?な、なに?そんなに力入れるところ?」
ベリナの返事にちょっと戸惑う。
「あ、ああ、すまん、狩りや、は、初めての旅で疲れているのかな?」
さもありなん。
「まあ、狩りはあの大物、3人で仕留めたしね」
「ん、あ、ああ、まあな……」
「んじゃ、寝るか、お休み……」
「え?」
驚くベリナ。
ん?なぜ驚く?俺は寝ることにした。
なぜか、ファーファとベリナの戸惑いと、驚きの感情が辺りに漂った気がする。
が、俺は気にしないで寝た。
すぴすぴ。
……どのくらい寝ただろうか?時間経過が分からない。
……話し声?
ファーファとベリナが話している?
「な、なあファーさん、あたい、このままでいいのかな?贄なんだけど?」
「……ソノママデイイ」
「村のために死んでいった贄の話、沢山聞いているんだけどさ。みんな酷い話ばかりなんだ」
「テニさまハ、酷イコトシナイ」
「ほ、ほんとか?弄ばれたりしないか?」
「シナイ」
「進んで贄になったけど……村から出して貰って、感謝はしているけど……テニイさま、怖くないか?」
え?
「……あたいは……怖いんだ」
え?俺が!?
「テニサマ、怖クナイ!」
「怖いよ、ファーさん。だってよ魔法攻撃、あれ無詠唱だろ?」
え?そうなの?
「連続で絶え間なく攻撃するし、それにこの結界、これも一言だけ。夜、見張り無しなんて、考えられないだろう!それに村で仕留めた魔昆虫、あれ、大物だぜ?そいつを軽々と持ち上げて運ぶ。ゴブリン亜種?本当か?何かの新種だよ!息切れ一つしないし、魔法も使いたい放題だ……魔王って名乗った時さ、ちょっとドキッとした……実は凄い魔法使いなんだろう?」
「……」
ファーファは答えない。
「あたい……実験……材料にされたりしないか?」
確かに俺は魔王だけど、鬼畜外道系ではありません!
「ファーさんだって凄いゴーレムじゃん、イノノぶっ飛ばすし、普通は人型だろ?なんでその形?」
それはファーファが……あ!?
「ああああああああああっ!思い出したっ!」
がばっ!と俺は飛び起きた!
「ひっ!」
「……!?」
ビックリするファーファとベリナ。
俺は、自分の目がギラギラしているのが自覚できた。
「ファ、ファーさん!?何だよあの目!?」
「……エッ?アレ?オヤ?」
「……ファーさんの嘘つき!やっぱこれから始まるじゃんっ!あたいが贄だってこと、思いだしたんだなっ!?これから……あんなことやこんなことされるんだぁ……」
くいくい、と手招きをする俺。
ヨロヨロと立ち上がり、リベナは剣を外す。
目に涙を浮かべて、震えている?
ファーファは固まったように動かない。
どうした?ファーファ?
ベリナは……上着を脱ぎ始めた!? なに考えてんだ?こいつ?
「何?ベリナ?」
結界内、暑いかな?
「……え?」
「ファーファ!こっちこっち!ひっひっひっ」
がしゃん!と一歩、後ろに下がるファーファ。
「え!?ファーさんなの!?」
「ファーファ!今日、ガチャしていないよね!?」
「!」
コクコク。
「カモン・コイン!」
フッ、と右手に現れる銀色のコイン!
現れたコインを、驚きの表情で見るベリナ。
「……錬金術!?」
「さあファーファおいで!」
「おいでって……あ、あ、あ、ファーさん……」
「さてコインをセットして……どうか帽子が出ますように!」
「え?」
「ベリナ、何が出ると思う?」
「え?」
ガチャガチャ、コロン!
「え?」
出てきたカプセルを開ける。
《SR:スーパー・レア》
「おおっ!やったね!」
「え?なに?」
《短剣『花鳥風月』:攻撃は全てクリティカル。手にした者は幸運に恵まれる:ゴブリン専用》
ゴブリン専用か、じゃ使えないかな。
まん丸目玉のベリナ。
「短剣が……現れた!?」
驚いているのか、呆れているのか?
どうする?あげるか、俺が持っていても仕方ないし。
これは、これからのベリナに必要なモノでは?
「ベリナ、これやる!大事にしろよ!」
「え?」
ぽいっと。
軽く投げ渡す。
パシッ、と受け取ると、手慣れた手つきで短剣を抜く。
「お、おい、これ!?凄い業物では?」
「聞いての通りだよ」
「え?」
「……キコエナイ」
「え?俺達以外、聞こえないの?」
こくこく。
「その短剣は『花鳥風月』。ゴブリン専用の短剣で、攻撃は全てクリティカルだ」
「はぁ?何だよその設定!?有り得ないだろう!それにこの短剣どこから出た!?こんなの貰えないよ!」
「……気にするな」
「気にするよ!」
「短剣、明日、試してみようぜ。俺はもう寝る!帽子出なかったし!」
「お、おい!説明しろよ!お前達って一体!?……ファーさん?」
「大事ニシロ、ソノ短剣、本物」
「え?でも攻撃が全てクリティカル?勇者か英雄の持ち物ではないのか?」
「……サア?」
「あんたら何者なんだよ?」
じっとファーファを見るベリナ。
「……いや、知らない方が、良いこともある?」
こくこく。
頷くファーファ。
「……取敢えず、あたいも寝るわ……おやすみ、ファーさん……すんげぇ疲れた……お休みなさいませ、テニイさま……」
慌ただしい一日が終わる。
ボソボソ。
ん?まだ何か喋っている?
「なあ、ファーさん、あたいって魅力ないのかなぁ?」
え?はぁ?
何の話だ?
「いや、ちゅー……とか、ちょっとは、あたいとしては興味が、さ……して欲しかった……かなぁと」
「……トットトネロ」
チワワンの街までだが、3人の旅が始まった。
次回投稿は 2023/11/24 朝11時24分か夜23時23分の予定です。
サブタイトル
7 チワワン到着、今日から俺らはギルドの一員編
でも俺さまランクはDでした。なぜ?魔王さまなのに!? です。
ページ下部の評価欄から、評価をしてもらえると嬉しいです。
いいね、ブックマーク、感想等も、もらえると励みになり、MAYAKOがニヤけます。
よろしくお願い致します。