表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫弱虫魔王さま  作者: MAYAKO
6/10

6 旅は道連れ世は情け、情けってなんですか?編 そしてパーティーができました!初めての狩り!

今晩は。

寒いです、色々と。

源水さんの挿絵が早く上がりましたので、投稿します。

 ここは、あまり長居しない方がいいかな?

 ボロが出そうで怖い!早々に立ち去ろう。

 でもその前に聞きたいことがある。


「旅神とはなんだ?」


「幸ト不幸ヲモタラス、旅スル精霊サマデス。蛇人族ニトッテハ不幸ダッタデショウ、ダガ我々ゴブリン、獣人族、他ノ種族ニトッテハ、蛇人族ノ封印ハ幸デス」


 旅神?うう、そんな立派な存在ではありません!


 ん?綺麗な服を着た女性が静々と服、靴、一式を持って現れた。

 うわ、美人さんだ!

 切れ長の二重の目、ふっくらした紅い唇。

 サラッサラの髪!犬歯を除けば、小さいエルフじゃん!


 本当にこれ、ゴブリン!?

 あ、でもこの子、肩幅が広い?かなりの筋肉質?


「ド、ドウゾ……オ召シ物デス」


 あ、この子も喋れるんだ!


「あ、ありがとう!」


 服を受け取り、さてどこで着替えようかな?

 取敢えず靴を履く。

 おお、履き心地よし!


 ん?


 美人さんと目が合う。


 ん?


「ベリナ・ワッフル、ト申シマス」


「ア・キュウガ・テニイです」


 ここで、どっと、周囲から歓声が上がる。

 ビクッ、とする俺。

 なんだ?

 なぜか、ファーファの視線が痛い。

 これは?


「村ニ寄リマセンカ?オ酒ヲ用意シテオリマスガ?」


 酒?


 なぜか、やな予感がした。

 意識的に、弱虫スキルを発動させた。

 ここは旅神ではありません、とアピールしなければ!


「いやいい、酒は嗜まない、俺は亜種のゴブリン、先を急ぐ、服、ありがとう。では」


 俺とファーファはその場を去る。

 また歓声が上がり、拍手が森に響き渡る。


 ?


 ……ついてくるベリナさん。

 俺達の前を歩く、先程のゴブリン剣士。

 心なしか、ファーファが冷たい気がする。

 俺は弱腰になり、前方を歩く剣士に話し掛ける。


「あのう、ここらでよろしいですよ?」


 ん!?ファーファ?

 一瞬、ほっとした!?


「イエ、先ノ通リマデ、オ送リ致シマス」


 通り?ああ、あの踏み固められた道のような、川の後のような、窪みのことか?

 足早に移動する俺とファーファ。

 俺は、貰った服を点検してみる。

 なんか着れそう。


「オ……オ手伝イ、シマショウカ?」

「いいよ、着れそう」


 ちゃちゃっ、と着替える。

 うん、何かいい感じ。


「どう?ファーファ?」


 こくこく。

 よし、と。

 ゴブリン達に礼を言う。


「服や、靴、ありがとう。では、ここで」

「ソウデスカ、デハ私ハコレデ」


 私は?私はこれで?ん?


「ベリナ、テニイサマニ、ソノ全テヲ捧ゲ、尽クスノダゾ?ヨイナ?」

「ハイ、仰セノママニ」


 はい?

 はああああああああっ!?

 全てを!?

 どうして何でこうなった!?


「ち、ちょ、ちょっと待ったあああああああっ!?」


「「?」」


 いや『?』じゃなくてっ!


「ファーファ!」

「……フン」


 いや、フンじゃなくて助けてよ!15歳のキャパシティ、とんでもなくオーバーしているって!


「ベリナハ、オ気ニ召シマセヌカ?」


「いや、そうじゃなくて!」


「オオ、デハオ気ニ入リニ?」


「だから、なんで?」


「「?」」


 なに?この二人のゴブリンの表情!?

 か、考えろ!俺は今、非常に危険な状態だっ!


「ベ、ベリナさんは、何でついてくるのかな?」


「イケマセンカ?」


「はい、お父さん、お母さんが心配します、帰りなさい」


「……帰レマセン」


「どうして?」


 何でかな?


「私ハ旅神サマニ、捧ゲラレタ身デス、村ヘハモウ帰レマセン」


 生贄!?


「この者は役に立ちますぞ、人族の言葉を習得しておりますし、剣技も私以上、村で一番の成績です!」


 突然、流暢に話し出すゴブリン。

 話せたじゃん。

 なんで今まで?


 おかしい、あやしい、何かある。

 考えろ!考えろ!


 小さな頃から沢山見てきただろう?

 夜の街、男と女、駆け引き、ドロドロとした感情!


 考えろ!

 自分のことだ!


 よし!はったりだ!


 いくぞ!


「その者、厄介者であろう!」


 ぎくっう、とする目の前のゴブリン二人。


「い、いえ、そのような……」


 当たりかな?


「腕が立つなら、なぜ先の狩り、参加していない?男であろうと女であろうと、強い者は狩りにでなければ、獲物は得られぬのではないか?」


 どうだ?


「そ、それは……」


「旅を続ければ、いずれバレぞ?その時、厄介者を押しつけられた俺が、怒らないとでも?既成事実があれば、どうにかなると?」


「「!」」


 うわぁ一瞬で青ざめたよ!この二人!


「俺は幼く見える、中身も幼いと思うか?」


 いや、本当は、幼いんだけどね。

 中身15歳だし。

 加えて弱虫の泣き虫だし!


 これぞ、はったり!

 二人は地面にひれ伏した。

 まあ、俺の力の一端は見ているし、そりゃぁ青ざめるよな。


 つんつん。


 ん?ファーファ?

 囁くように喋るファーファ。


(今ノウチニ、逃ゲル!)

(え?逃げるの!?)


 こくこく。


 どうする?怖い世界だなぁここ!

 ポツリとベリナさんが呟く。


「大食いなの……」


 あ、こっちもちゃんと喋れるんだ。

 言葉の勉強はしているんだ。


「癇癪持ちで、乱暴者なんだ!自分で自分が抑えられない!」


 なんだそりゃ?


「二人とも、立て、ちゃんとした話がしたい。始まりは何だ?」


「長老が贄を出すと言われて……食べられるかも知れないし、弄ばれ捨てられるかもしれない、売られるかも知れないと……」


 俺は鬼畜か?化け物か?


「でも自ら志願した。村にはもう私に居場所はないんだ!」


「自ら村を出ようとは思わなかったのか?」


 腕に覚えがあるならば、出られたはずでは?


「訳なく村は出られない、残った両親や兄弟が責められちまう!」


 うわ、そういうことね。


「俺を利用する計画を聞こう、正直に言え」


 目に力を込めて、ベリナを見る。

 魔王の眼だぞ。


 ビクン!と痙攣するベリナ。


「チャンスと思った、今しかないと。途中で訳を話して、逃がして貰おうと考えた。まだ子供みたいだし……チョロいかなと……それで、ギルドに登録して、街で暮らす!一人で!誰も私を縛り付けない!古臭い習慣も!迷信じみた掟も!旅神さま!あたいを自由にしてくれよ!」


 ……めんどい。


 ファーファの言うとおり、さっさと逃げればよかった。

 でも聞いてしまったからねぇ。


「ギルドはどの街にある?」


 答えたのは剣士である。


「ここより200ケロほど先の街、チワワンにありますが……」


「王都までは?」


「400ケロと言われております」


(ファーファ、1ケロって?)

(1ケロ、ハ1000mデス)


「ではゴブリンの贄、リベナ・ワッフル、俺をチワワンまで案内しろ、その後は自由にしていい」


「「!」」


「では行くぞ、リベナ!」

「は、はいっ!」


 こうしてパーティーができた。


 壁役はファーファ。

 戦士はリベナ。

 魔法、回復は俺だ。


 しばらくは無言で歩いていたが、リベナが話し始めた。


「改めて、よろしくな!旅神さま!」


 言葉が、かなり流暢だ。

 そして、フランクすぎるくらいフランクになった。

 こっちが本性か?


「テニイでいいよ、俺はリベナと呼ぶから。こっちは俺の相棒ファーファだ」


 あ、ファーファのヤツ、なんか冷めた目で見ている気がする。


「んじゃ、テニイさまと……ファーさんで!」


 ファーさん?

 チラリとファーファを見る。

 お、なんだか機嫌直ったみたい?


 ファーさん、この呼び名、気に入ったのかな?


「リベナは言葉が流暢だけど、だいぶ勉強したの?」


「したよぉ!あたいは自分のため、目的にためだったら、なんでもするぜ!」


 この喋り、行動、もはや先程の人物とは別人では?

 片言のリベナはどこ?まあいいけど。


「目的って?」


「村をでること!街で暮らすことさ!」


「そのための剣技?」


 まあ、ここは『そのための演技?』と聞くべきか?

 いやいやそれは意地悪な質問だな。


「そうさ!そのための剣技!ギルドに入って稼ぐんだ!言葉の勉強も夢のため!村の書物は全部読んだし、エルフからは狩りも習った!ほら!早速獲物だ!イノノだ!」


 どこだ?あ、前方に……豚?いやイノシシ!?

 剣のような牙を生やした、熊とイノシシを合わせたような生き物がそこにいた。


「あいつは凶暴で雑食性!妖精だろうが蛇だろうが、魔昆虫すら喰っちまう!」


「えっ!?」


「あ、20セチくらいの魔昆虫だぜ」


(ファーファ……)

(1セチは1センチ、デス)

(……ありがとう、ファーファの世界を跨ぐ知識、助かるよ)

(……ポッ)


 しかし20センチ?って結構大きい虫だぞ?


「あいつは素早くて、パワーがあるんだ!突進してきたら避ける、止められそうだったら、ファーさん止めて!」


 こくこく。


「テニイさまは魔法で援護してくれ、風がいい、火と氷はダメだ!」


「なんで?」


「あははっ!何にも知らないんだなぁ?火を見たら逃げるか、凶暴化しちまう!氷で攻撃したら肉が傷んじまうから、美味しくなくなる!」


 言い終わらないうちに、獲物に向けて走り出すリベナ。

 つられて走り出す俺とファーファ。


「先制してくれ!」


 リベナから合図が来る。

 風か、なるべく魔力を抑えて、えいっ!と。

 ひのきの杖から刃のような風が巻き起こる。


「風の刃っ!」


 風魔法はイノノを急襲するが、あっさりと弾かれる。


「ええっ!?」


 回避しない!?

 ふん、この程度の魔法、って感じだ!


「いいぜ!それでいい!うりゃ!」


 イノノにスルリ、と走りより、切りつけるリベナ。

 だがびっしりと身体を覆っている鉛筆のような剛毛に、あっさりと弾かれる!


 ガイィンッ!


「あれっ!?」


 そこにファーファがぶつかってきた。


 どかっ!


 小柄なファーファは下から、掬い上げるようにぶつかる!

 お腹を見せて倒れるイノノ。

 凄いや!ファーファ!どこで覚えたんだろう!?


 ならば、これではどうだ?


「風の矢!」


 狙いは、柔らかそうなお腹だ!


 ヒュン!ヒュン!幾つもの風の矢に貫かれるイノノ!


 よし!当たったぞ!


「ふんっ!」


 すかさずクビを狙い、剣を刺すリベナ。

 剛毛の間をすり抜け、深々と刺さる剣。


 素早く起き上がり、全身を震わせる。


 リベナは暴れるイノノに危険を感じ、あっさりと剣を手放し、距離をとった。

 あのまま、剣に執着していたら、鋭い牙に切り裂かれていただろう。


 俺が杖を構えると、リベナは手を上げ、制する。


 ドオオッと倒れるイノノ。


「倒した?」


「ファーさん、ナイスフォロー!ありがとうっ!あぶなかった」


「……フッ」


 近づくと、かなりデカい。


「し、死んだの?」


 遠巻きに聞く俺。


「ん?何だよ、怖いのか?テニイ?あたい達が狩った獲物だぜ?さあ、食おう!」


 ……これを?食す?

 ……どうやって?全部は食えないはず。

 いや、300㎏以上あるよ、多分。


「こ、これ、どうやって食べるの?」


「こうやるのさ、手伝って!おっとその前に!」


 なんだ?


 リベナはイノノを前に跪き、感謝の言葉を述べ始めた。


「森の精霊さま、恵みに感謝します。私の時が来たら、土に帰り、草花を育てることを誓います……」


 うわぁ……すなおに感動、尊敬した。

 伝統だろうか?


「テニイさま?知っているでしょう?森のゴブリン族の祈り、さあ解体して食べようぜ!テニイさま力持ちだろ?あたいの言うとおりに動かして!」


 お腹を裂き、皮を剥ぎ、関節を切り離し、バラバラになるイノノ。

 血や匂いが強いけど、これは狩人として覚えなければ。


「お腹は食べないの?」


「イノノは雑食だ、寄生虫がいる。オーク族は平気で食べるが、ゴブリン族は食べない」


「うげっ!」


「魔昆虫に沢山寄生しているんだ」


「え?村の魔昆虫は?」


「あ、あれ食うのオーク族や人族だから、あたい達は食べないよ」


「虫を食べるんだよね?」


「そう、昆虫はよく見て、選んで食べないと、病気で死んじまうぜ。見極める自信がなかったら、手を付けない方がいい」


「……了解」


 なんか怖くなる俺。

 弱虫スキル発動である。


「テニイさまぁ!そんなに離れないで!大丈夫だよ!これ、焼ける?多少強く焼いてもいい!」


「どうやって焼くの?」


「それも知らないのかよ!石を集めて、石を魔法で焼くんだ、そしてお肉を載せる。このくり返し!」


 おお、成程!

 手で焼くのは危険だな?箸がほしいな?木は周りに沢山あるし。

 ベリナに剣を借り、菜箸を作る俺。


「なんだい?それ?」


 ベリナは不思議そうに菜箸を見る。

 大きめの石を拾い集め、渡されたお肉をジュウジュウと石で焼く。


「こうやって使うのさ」


 菜箸で、ちょいちょい、と。


「へぇ、器用だねぇテニイさま?うちらは素手か食棒だけどな!それいいな、熱くなさそう!」


 素手かぁ、まぁスリルはありそうだな。


「あ、テニイさま、火に弱い石は割れたり、破裂したりするから、気をつけてな?」


 こくこく。

 すごくいい匂い!調味料とかあるのかしら?

 焼肉なんて、前世を通して2回目?

 小さいとき、一度いったかな?


「これ、もういいの?」


 聞いてみる。


「いいかなぁ?」


 あやふやだなぁリベナ。


「……マダ」


「お、ファーさん、分かるの?」


 こくこく。

 ファーファの指示通りに焼き、食べると、とても美味しかった。

 調味料も何もない素焼きの肉。

 自分達で狩って料理して食べる。

 これからの生活の基本だ。


「……」


「どうしたんだい?テニイさま?」


「よく食べるね?」


 あ、ちょっとムッとした。


「いったろう?大食いなんだって!」


 そう言ってまた肉を手で掴もうとすると、ファーファがパシッと手を軽く打ち、止めた。


「……マダ」


「いいじゃん!ファーさん!少しくらい生焼けでも!」


「……ダメ」


 あ、これ知っている!鍋奉行って言うヤツだ!

 こうして、一日の半分を食事で過ごした。


 満腹である。


 しかし、お肉、かなり余ったけど?


「ん?」


「ああ、あたいの村のゴブリンさ」


 遠くに人影が見えたのだ。


「多分、この煙と肉を焼いた匂いだな」


「ベリナ、これ全部食べきれない、あのゴブリン達にあげてしまおう、呼ぶ?」


「それはできないよ、旅神さまの食事だ、ここはこのまま残して立ち去った方がいい」


「え?」


「それがお裾分けの合図なんだ」


「ふーん、ベリナはお話しとか、しなくていいの?」


「それもできないよ、あたいは旅神さまの贄だから。もう村のゴブリンじゃない、テニイさまの持ち物なんだ」


「!」


「さあ、行こうぜ、テニイさま!」


 なんの未練も感じず、立ち上がるベリナ。

 元気いいな、未来を見ている?

 もう村での生活は遙か過去か?

 俺はどうだったろう?

 未来なんてなかったなぁ。


「そうだね、ファーファ出発しよう!」


「……!」


「え?なに?お肉は保管できる!?」


 パカン、と開くファーファの頭部。

 ちょいちょい、と脚を使ってお肉を入れろとジェスチャーする。


「え?いいの?生肉だよ?匂いとか血とか?」


「……!」


 大丈夫とは言うけど?

 まあ取敢えず入れてみる。


「……!!」


「え?中は覗かないで!?恥ずかしい?わ、分かったよ!」


 50㎏程軽く入った。


「あまり入れると、ゴブリン達のご飯がなくなるね、え?牙も?」


 どう見ても2mはある。

 するすると、すんなり入る。

 なんで?ファーファの大きさ、1mもないのに!?


 まん丸お目々になるベリナ。


「ファーさん?動ける?」


 こくこく。


「ファーさん、何者?」


「ファーファはスーパー・ゴーレム、そして俺は魔王さま!」


 なぜか、爆笑するベリナ。


「ぎゃははははっ!はあぁ?テニイさま、酒でも飲んだ?あはははっ」


 なぜ笑う?

 不満は残るが、僕達3人はその場を後にした。


 てくてく。

 歩き続ける3人。


 短剣かナイフが欲しいな、狩りに必要だし木の加工は素手じゃできない。


 その内、手に入れよう。


 日が暮れるまで、リベナは色々なことを話し続けた。

 村でのこと、この世界のこと、家族のこと。

 俺は聞き手に周り、静かに聞き続けた。

 ん?流れ星?

 なんだあれ?


「リベナ、あれ何か分かる?」


 夕暮れ時、王都に方面へ向って走る光の矢?


「ああ、あれは飛びカエルだ」


「カエル?」


「マジック・アイテムさ。あれを使うと、最初に記録した場所へ飛んで帰れるんだ」


「うわぁ、便利だね」


「便利だけど、高価な代物だよ、あたい達じゃまず、手が出ないね」


「ふーん」


 俺だったら、瞬時に移動できるぞ?まあマップ内限定だけど。


「主に使っているのは、王都の騎士団や商人だね」


 日が沈み、辺りが暗くなると、今まで元気に喋っていたベリナの口数が、段々と減り始めた。

 そろそろ、足下が見えないかな?

 夜の闇、人数が多いと、そんなに怖くないや。


「夜目は?」


「よ、嫁!?」


「ん?見える?」


「あ、よ、夜目ね、ある程度は見えるよ……」


 何を焦っているんだろう?

 今日はここらでキャンプかな?

 俺は眠らなくてもいいけど、ベリナは違うみたいだし。

 辺りを見回すと、少し大きめの岩があった。

 なぜかそこが気に入り、ここなら安全だろうと直感が働いた。


 感のいいリベナはすぐに気がつく。


「ここでキャンプか?見張りはどうする?ファーさんゴーレムだし、任せていいのか?私と交代でもいいぜ?」


「見張りはいらない、結界を張る」


「え?」


「カモン・サークル!」


 ズウウウウンと大地が震える。


「ひゃっ!」


 驚き飛び上がるベリナ。

 大地には、光る魔法陣が浮かび上がる。


「ま、魔法陣!?そ、それもデカい!」


「この中にいれば安全だ、それと、よっ、と」


 俺はひのきの杖の先端に、火を灯す。


「えっ!?」


「なに?どうしたの?ベリナ?」


「焚き火、いらねーじゃん!」


「そうだね」


 魔法陣は静かに大地に吸い込まれ、何事も無かったかのように辺りは静寂に包まれ始めた。


「!?」


「どうした?」


「さ、寒くない!?」


「ああ、初めてしてみたけど、どうかな?」


「は、初めて!?し、してみた!?」


「ん?結界内の温度調整だよ?まあ快適だよね、真冬とか真夏はどうなるか分からないけど。ベリナ、明日は日の出前に出発でいいかい?」


「あ、ああ、いいよ、それで」


 ガチャンガチャン。

 ファーファが俺の横に座り込む。


「村を出て疲れただろう?狩りもしたしね」


「狩りはファーさんに助けられた、近づきすぎると危険だ、あれは反省だったな」


 狩りや、食料、水の確保について話をした。

 まあ、水や食料の確保は、マップ移動ができるからそれ程心配していないけど。

 それに食べなくても、生きていけるみたいだし。

 聞きたいことは山ほどあるが、ベリナ、村を出て緊張と興奮の連続では?

 早めに寝た方がいいだろう。


「ベリナは、旅は初めてなの?」


「は、初めて!?初めてに決まっているだろう!」


「わっ!?な、なに?そんなに力入れるところ?」


 ベリナの返事にちょっと戸惑う。


「あ、ああ、すまん、狩りや、は、初めての旅で疲れているのかな?」


 さもありなん。


「まあ、狩りはあの大物、3人で仕留めたしね」


「ん、あ、ああ、まあな……」


「んじゃ、寝るか、お休み……」


「え?」


 驚くベリナ。

 ん?なぜ驚く?俺は寝ることにした。

 なぜか、ファーファとベリナの戸惑いと、驚きの感情が辺りに漂った気がする。

 が、俺は気にしないで寝た。


 すぴすぴ。


 ……どのくらい寝ただろうか?時間経過が分からない。

 ……話し声?

 ファーファとベリナが話している?


「な、なあファーさん、あたい、このままでいいのかな?贄なんだけど?」


「……ソノママデイイ」


「村のために死んでいった贄の話、沢山聞いているんだけどさ。みんな酷い話ばかりなんだ」


「テニさまハ、酷イコトシナイ」


「ほ、ほんとか?弄ばれたりしないか?」


「シナイ」


「進んで贄になったけど……村から出して貰って、感謝はしているけど……テニイさま、怖くないか?」


 え?


「……あたいは……怖いんだ」


 え?俺が!?


「テニサマ、怖クナイ!」


「怖いよ、ファーさん。だってよ魔法攻撃、あれ無詠唱だろ?」


 え?そうなの?


「連続で絶え間なく攻撃するし、それにこの結界、これも一言だけ。夜、見張り無しなんて、考えられないだろう!それに村で仕留めた魔昆虫、あれ、大物だぜ?そいつを軽々と持ち上げて運ぶ。ゴブリン亜種?本当か?何かの新種だよ!息切れ一つしないし、魔法も使いたい放題だ……魔王って名乗った時さ、ちょっとドキッとした……実は凄い魔法使いなんだろう?」


「……」


 ファーファは答えない。


「あたい……実験……材料にされたりしないか?」


 確かに俺は魔王だけど、鬼畜外道系ではありません!


「ファーさんだって凄いゴーレムじゃん、イノノぶっ飛ばすし、普通は人型だろ?なんでその形?」


 それはファーファが……あ!?


「ああああああああああっ!思い出したっ!」


 がばっ!と俺は飛び起きた!


「ひっ!」

「……!?」


 ビックリするファーファとベリナ。

 俺は、自分の目がギラギラしているのが自覚できた。


「ファ、ファーさん!?何だよあの目!?」

「……エッ?アレ?オヤ?」

「……ファーさんの嘘つき!やっぱこれから始まるじゃんっ!あたいが贄だってこと、思いだしたんだなっ!?これから……あんなことやこんなことされるんだぁ……」


 くいくい、と手招きをする俺。


 ヨロヨロと立ち上がり、リベナは剣を外す。

 目に涙を浮かべて、震えている?

 ファーファは固まったように動かない。

 どうした?ファーファ?

 ベリナは……上着を脱ぎ始めた!? なに考えてんだ?こいつ?


「何?ベリナ?」


 結界内、暑いかな?


「……え?」

「ファーファ!こっちこっち!ひっひっひっ」


 がしゃん!と一歩、後ろに下がるファーファ。


「え!?ファーさんなの!?」


「ファーファ!今日、ガチャしていないよね!?」


「!」


 コクコク。


「カモン・コイン!」


 フッ、と右手に現れる銀色のコイン!

 現れたコインを、驚きの表情で見るベリナ。


「……錬金術!?」


「さあファーファおいで!」


「おいでって……あ、あ、あ、ファーさん……」


「さてコインをセットして……どうか帽子が出ますように!」


「え?」


「ベリナ、何が出ると思う?」


「え?」


 ガチャガチャ、コロン!


「え?」


 出てきたカプセルを開ける。


《SR:スーパー・レア》


「おおっ!やったね!」


「え?なに?」


《短剣『花鳥風月』:攻撃は全てクリティカル。手にした者は幸運に恵まれる:ゴブリン専用》

ゴブリン専用か、じゃ使えないかな。


 まん丸目玉のベリナ。


「短剣が……現れた!?」


 驚いているのか、呆れているのか?

 どうする?あげるか、俺が持っていても仕方ないし。

 これは、これからのベリナに必要なモノでは?


「ベリナ、これやる!大事にしろよ!」


「え?」


 ぽいっと。

 軽く投げ渡す。

 パシッ、と受け取ると、手慣れた手つきで短剣を抜く。


「お、おい、これ!?凄い業物では?」


「聞いての通りだよ」


「え?」


「……キコエナイ」


「え?俺達以外、聞こえないの?」


 こくこく。


「その短剣は『花鳥風月』。ゴブリン専用の短剣で、攻撃は全てクリティカルだ」


 挿絵(By みてみん)


「はぁ?何だよその設定!?有り得ないだろう!それにこの短剣どこから出た!?こんなの貰えないよ!」


「……気にするな」


「気にするよ!」


「短剣、明日、試してみようぜ。俺はもう寝る!帽子出なかったし!」


「お、おい!説明しろよ!お前達って一体!?……ファーさん?」


「大事ニシロ、ソノ短剣、本物」


「え?でも攻撃が全てクリティカル?勇者か英雄の持ち物ではないのか?」


「……サア?」


「あんたら何者なんだよ?」


 じっとファーファを見るベリナ。


「……いや、知らない方が、良いこともある?」


 こくこく。

 頷くファーファ。


「……取敢えず、あたいも寝るわ……おやすみ、ファーさん……すんげぇ疲れた……お休みなさいませ、テニイさま……」


 慌ただしい一日が終わる。


 ボソボソ。


 ん?まだ何か喋っている?


「なあ、ファーさん、あたいって魅力ないのかなぁ?」


 え?はぁ?

 何の話だ?


「いや、ちゅー……とか、ちょっとは、あたいとしては興味が、さ……して欲しかった……かなぁと」


「……トットトネロ」


 チワワンの街までだが、3人の旅が始まった。

次回投稿は 2023/11/24 朝11時24分か夜23時23分の予定です。


サブタイトル 

7 チワワン到着、今日から俺らはギルドの一員編

でも俺さまランクはDでした。なぜ?魔王さまなのに!? です。


ページ下部の評価欄から、評価をしてもらえると嬉しいです。

いいね、ブックマーク、感想等も、もらえると励みになり、MAYAKOがニヤけます。

よろしくお願い致します。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ