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泣き虫弱虫魔王さま  作者: MAYAKO
4/10

4 森の住人編2 俺の名はテニィ、森の中心で、焼きそば最高と叫ぶ。

お早うございます。

時間ができましたので投稿します。

「えっと……」


「結界があったはず!お前!どうやって侵入した!?なぜ皆気がつかない!?」


 まずい……怖くて泣きたくなってきた。

 本物の武器、こえーです。


 おどおど。

 びくびく。


 が、その容姿は、俺の心を打ち抜いてもいた。


 時々揺れる、フサフサの尻尾、ピッピッと鋭く動く耳。

 ああ、この耳はイヌ科の耳だな、ネコではない。


 明らかにこの弟君は、尻尾から見て狼属性の獣人族!

 そして、そして!お姉ちゃんの方は、ネコ科だ!虎?だろうか?


 俺は……感動して泣きたくなった。


「お、お姉ちゃん、この子泣いているよ!?」


 え?俺、泣いているの!?


 ん?


 お姉ちゃんが?

 鼻を?


「ふんふんふんっ」


 うおおおおおっ、か、可愛すぎるっ!

 なに?感動でも、泣き虫スキル発動するの!?


「お前、血の臭いがするっ!」


 え゛!?


 あ、あのサキュバスのお姉さん!


「この匂い、シーシナ!お前!シーシナに何をしたっ!?」


 シーシナってなに!?

 カチリ、と剣が鳴った。


 その時、ファーファが俺の手からキャベツひったくり、男の子に渡した。


「あ、流したキャベツ、拾ってくれたの!?ありがとう!」


 シャクシャク。


 た、食べた!?

 男の子はキャベツを綺麗に食べ尽くした。


 グウゥゥゥゥゥキュルルルルッ。


「あ」


 盛大に俺のお腹が鳴った。

 食べる姿を見て、急激にお腹が空いてきたのだ。

 あれ?別に食べなくても動けていたのに!


「お前、お腹空いているのか?」


 警戒心MAXでお姉ちゃんが尋ねる。


「……空いていない」

「嘘つけ!」


 そんな会話をしていると、横ではファーファと弟君がじゃれ合って遊び始めた。


「く、くすぐったいよ!ゴ、ゴーレムやめてよ!ふふふっ」


 弟君、嬉しそう!


「フ、ファーファ!こっちおいで!」


「……ヤダ」


 ぷいっ!


 あああああ!

 こ、こいつ!もしかして、こいつも犬好きかぁ!?

 お、俺だって遊びたいのにっ!もふりたいのにいいいいっ!


「あははっ!お前、凄く悔しそうな顔だな?」


 笑い出すお姉さん。


「え?そう?」


「そうだよ!お前だろ?シーシナが探していた子!」


「?」


 はて?シーシナさんとは?サキュバスさんの名前かな?


「私はミケ、そいつは弟のタロ、お前は?」


 俺は……弟君の観察に夢中だった!


「あああっ!耳が!ぴこぴこ!し、尻尾がっ!」


「……お前、獣人族、好きなのか?」


 こくこく。

 激しく頷く俺。


「く、臭くないのか?」


「ない」


 懐かし、わんわんの匂い!


 男の子はさっと俺の手を掴み、引っ張った。


「!?」


「おいで!村に行こう!ご飯あるよ!」


 え?

 目線は変わらない?

 いや、タロ君が上か?


「お、おい、タロ!待てこいつまだ何者か分からないんだぞ!」


「この子だよ!シーシナさんが探していた子!無事だったんだ!」


「おい、お前!名前は?」


 俺は感動していた。

 このタロ君、に、肉球がある!


 にぎにぎ。


 うわぁ!にぎにぎしてくれているっ!


「……あ…あ……に、肉きゅう、が手に!」


「ア・キュウガ・テニィ?どこの種族の名前だな?呼びにくい!今からお前、テニ、な?」


「え?」


「お前の名前だよ!」


 ……テニ?なんだそれ?

 まあいいけど。


「テニ!行こう!」


「お、おう」


 弟とかお兄ちゃんがいたら、こんな感じなのだろうか?

 感動して、泣き虫スキルが発動しそうになったけど、ギリギリで耐えた。


 暫く走ると、木々が消え、木造の家が広がった。

 木を板状に加工している!

 それで円錐の家らしきモノを作っているみたいだ。

 数は……30戸以上?

 テントみたいな家も沢山ある!


 人通りは、多かった。


 耳からして、あれはエルフ?すげーホントにいたんだエルフ!

 透き通るような肌、脚、長げえええっ!8頭身?

 男性も女性もモデルさんみたい!

 あっちはドワーフ?


 なんだここ?


「ここは僕らの村、今日は市なんだ!」


 凄い!

 しかし、これだけの人、結界の意味あるか?

 これだけ人が動けば、ここ、特定されそうだけど?


 お?


 ゴスロリ!?

 ボンテージ!?


 なんだ?あの一団!?凄いオーラだけど??


「テニ、お前分かりやすいな?」


「え?」


「あいつら見て、こえーとか思っただろう?あいつら魔族さ」


 意地悪そうな目でミケが言う。

 え?あれが?

 魔族!?こえーよ!


「サキュバスとインキュバス、それと、後ろで傘さしているヤツはバンパイヤだ、あいつら見た目は子供でも、夜はヤベーからな、昼間、いじめたりするなよ?」


「い、いじめる?そ、そんなことはしないよ!」


 横で激しく頷くファーファ。


「あ、今、また怖いって思っただろう?」


 ギクッ!


「な、なんでわかるのサ!?」


「匂いだよ、匂い!汗や体臭!私ら獣人族は匂いに敏感だからな!」


「怖い匂いとかあるの?」


「あるぜ、恐怖を感じているヤツの匂いとか、ドキドキ、ワクワクしているヤツの匂いとか!」


 おお、そうなんだ。


「でもお姉ちゃん、テニ、何族なんだろう?人族じゃないよね?」


「お?そうだな?お前、何族だ?」


「魔族」


「あははははっ嘘つけ!あいつらと一緒!?」


 はい、一応トップです。


「魔族は強いくて怖い、恐怖、畏怖の匂いがする!テニは……小鬼?ゴブリンっぽい匂いだ」


 ……さいですか。


「うーん、ゴブリン亜種?人族に近いかな?亜種、決定!」


 ……さいですか。


「さ、ここがうちらのお店!狼亭だ!」


 屋台?

 青空の下、粗末なテーブルと、切り株みたいな椅子がゴロゴロ転がっている。

 これは?


「この村を中心に、森の中を移動してるンだ!」


 こ、この匂いはっ?


「かーちゃん!流したキャベツ拾ってきた!」

「もー流すんじゃないよ!早く手伝って!お客さん、待っているよ!ん?」


 うわぁ激しく横に膨らんだ虎?

 おかあさん!って感じの獣人さんだ!


「こいつが、テニが拾ってくれたんだ!腹減ってるみたいでさ、いいかな?」

「おお?そうかい、ありがとうねぇ、腹、減っている?キャベツのお礼だ!食べていきな!」


「え?俺お金持っていないよ?」


「お礼だ!タダでいいよ!」


 おお、ラッキー。

 あ……お金あるんだ、この世界。


 ミケが手を引っ張って、木造りのテーブルに案内する。

 え!?……お、女の子と、て、手を繋いでしまった!?


「良かったな、テニ。うちのかーちゃんの料理、どれもうめーぞ!常連になってね!」


 ……あれ?なんかミケの笑顔が眩しい気がする……。


 それに、この食べ物の匂い、何処かで?もしかして?

 切り株の椅子に座ると、タロが食べ物を持ってきた。


「さあ食べなよっ!残すなよ!?うちのかーちゃんの特製だぞ!」


 間違いない!これ!焼きそばだああああっ!

 なんで焼きそばがここに!?


「た、食べていいの!?」


「あ?ああ……お前?泣いているの?」


 はぐはぐ、もぐもぐ。


「うまいっ!おいしいいいいいいっ!なにこのソ、ソース!」


「おお?そうかい?うれしいねぇ」


「焼きそば最高おおおおおおっ!」


「おやおや、これは言い宣伝になる!」


 一回だけ、母さんの食い残しを食ったことがある!


 やっぱうめええええええっ!


 ん?後ろの席から?なんだ?


「……でよ、湖ができているんだ、湧き水だぞ!それも魔力を含んだ」


 ぶっ!


「あ、きったねぇなぁ?ちゃんと食えよ?」


「ご、ごめんなさいミケさん」


 後ろの人達は……オーク!?

 でかいなぁ。

 10人程いるぞ!

 地面に座って食べている?

 ああ、椅子が小さすぎか。


「水はありがたいな、この森は水が少ない、木々は魔力で育っているが、作物がうまく育たなかったから……」


「焼けた大地もあったぞ、あそこは耕せばいい土地にならないか?」


 もしかして?俺がやっちゃったヤツ?


「それに聞いたか?ドワーフの話!」


「ああ、大地の亀裂か?」


 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 埋めようと思ったのですが、なんか、さらに酷くなりそうで、後日埋めますぅ!


「金鉱が見つかったらしい、下の方ではミスリルも見つけたとか」


 え?


「王都の方では、魔王が地方を破壊しているって噂が流れているが、これは?」


 え?もう噂になっているの?

 速すぎないか?


「まあ自然現象じゃねえな、これだけの偉業、誰の仕業だ?」


「やはり魔王さまか?今まで、こんな魔王さまいなかったぞ?」


「森に人が集まり出すな、賑やかになるぜ」


「ああ、でも注意もしないとな、サキュバスの件、聞いたか?」


「ああ、王都からあの悪名高い、ボウロウロ騎士団が調査に来たって?」


「前もって賢者さまが、魔王の出現を予言したって話だ」


「王都は賢者さまや聖女さまがいるから、動きが速いな?それでサキュバスはどうなった?」


「酷い目に会わされたらしいぞ?」


「殺された?」


「いや、生きてはいるみたいだが、翼を捥がれたらしい」


「酷いことするな?そいつらが騎士を名乗るだと?」


 ん?助けたよね?ファーファと俺で。

 噂か?風評か?


「それでインキュバス達が怒って復讐したらしい」


「は?」


「復讐だよ」


「勝てないだろう?あいつら素行は最悪だが、強さは一流だぜ?それにあいつらは男だ、復讐はサキュバス達がしたのでは?生体エネルギー吸い取るとか?」


「いや、俺が聞いた話じゃインキュバス達が襲ってヘロヘロにしたらしいぞ?」


「おいおい、最近のインキュバスは男も襲うのか?こえーな、夜道は注意するか。で騎士団はどうなった?あいつら皆殺しにされても、悲しむ者なんていないぜ?」


「まあ殺してしまうと討伐隊が出るからな、無事城までは帰ったらしいが……」


「無事……ねぇ」


 えっと……無事に帰れたのなら、よかったね、と。


 ちらっ。


「ファーファ、焼きそば、食べる?」


 食べるかな?

 

 こくこく。


 凄く頷いているけど、ホント食べる!?

 どこから!?

 ご飯、コインじゃないの?


 パカッと開く側頭部?


「こ、ここに入れるの?」


 こくこく。


 ささっ、と焼きそばを流し込む。


 パタン。


「?」


 すると、突然シャカシャカと頭を上下左右に振り出すファーファ!


「おわあああ!?ファ、ファーファ!?だ、大丈夫!?」


 どこかのゆるキャラみたいだ。

 ピタリ、と停止するファーファ。


「……ほうぅ」


「お、美味しかった?」


 こくこく。


 ビックリしたお顔で、ファーファを見るミケ。


「お前、面白いゴーレム連れているなぁ、焼きそば食うゴーレムなんて初めて見たぜ」


 うん、俺も。


「あ、あのう、ご馳走様でした!美味しかったです!」


「おお、そうかそうかい、また来な!今度は有料だよ!」


 はい、お母さん、ちゃんとお金払います。

 でもどうやって稼ごう?

 まあ偽造銀貨は出し放題だけど、それはしたくないなぁ。

 などと考えていると、先程のゴスロリ・ボンテージ集団がやって来た。


「おばちゃあーん、豚玉とモダンいいかなぁ?」


 ……ここはどこ?


 異世界だよね?


 日傘さしている、吸血鬼さんも粉モノ食べるの?


「あ、僕はたこ焼きで」


 た、たこ焼きあるのっ!?

 いや、吸血鬼がたこ焼き食べていいの!?

 ツッコミどころが山のように!


 たこ焼きかぁ……あれは何回か食べたことある!

 あ、よだれが……。

 これは何処かでバイトして、ぜひ、メニューコンプリートしなければっ!


「おーい、シーシナ!こっちこっち!」


 ん?あの人?


 あ、あの時のサキュバスさんだ!

 恩人!手を差し伸べた人!

 お礼を!


 う゛!?


 弱虫スキルが発動した!?


 恥ずかしくて、怖くて、声が、かけられないっ!


「いたか?そのちっちゃい子?」


「いや、いない」


「魔昆虫に食われたんじゃねぇか?」


 ギロッ!


「シ、シーシナ、そんなに睨むなよ!」


「お?お前ら知らないのか?」


「なんだよ、オークのオヤジ?」


「魔昆虫の森、消えたぜ」


「は?」


「あそこは危険過ぎる森だったが、消えた」


「嘘だろ?いつの話だ?」


「いや、エルフが確認してきた。これで旅人や子供が襲われずにすむ」


「ホントか?王都の騎士団でさえ近寄らないんだぜ?みんな喰われちまうし」


「時々勇者さまが来て、数を減らしてくれていたが、もう心配ない」


 ……いるんだ勇者……注意しよう。

 賢者や聖女もいるみたいだし、俺の出現を予知していたみたいだな。

 覚えておこう、忘れないようにしなければ。


「トラ子さん、代金は今度のキャベツ納品でいいか?」


 トラ子さん!?まんま名前?


「ああいいよ!多めに盛ってこい!」

「はい、はい、あ、トラ子さん、丼物ださないか?」


 ピクッ!なあにぃいいいいい!?


「丼かい?」

「ああ、この前、王都に出稼ぎに行ったとき食べたんだがよ、美味くてよ!カツ丼!」

「ああ、あれな、俺は親子丼がよかったな」

「さて、おい!焼けた大地、見に行くぞ!」


 オークの一団は、俺が魔法で焼いたあの場所に向ったようだ。

 妖精達は、情報と行動が速いな。

 俺の行動、もう知れ渡ってる。

 何か情報ネットワークがありそうだ。

 でも、あの大地、固すぎないかな?

 農業に向いているのだろうか?


 ふふふ俺は俺で、貴重な情報、ゲットだ!

 この世界には丼物があるっ!

 見たことはあるっ!でも、食ったことはない、憧れの丼物!

 凄いと思わないか?そのネーミング!


 カツがドン!なんだぜ!

 親子がドンッてなんだよ!?


 天丼なんか、天がドンッ!?

 どれだけ美味しいんだろう!?


 あの憧れのスパーヒーローだって、牛のドンが好きだったし!

 これは是非、王都とやらに行かなければっ!


「あ!」


 あ?なんだろう?


「あああああああああっ!」


 なに?なに?誰?どこ?

 怖くなり、挙動不審になる俺。

 目を動かすと、サキュバスさんと目が合った。


「無事だったんだね!?心配したよ!」


 う゛なんて言う?


 こくこく。取敢えず頷く。


「あ、あの、さ、探してくれて……心配してくれて……その……騎士団から……助けてく、くれて、あ、ありがとう……」


 よ、よし!ありがとうは言えた!


「よかった、心配したよ!私はシーシナ」


「えっと、ぼ……俺は……」


 なんだろう?眩しい?まともに目が合わせられないっ!

 え?俺ってこんなんだった?

 女子と話せない!?いや、ミケとは普通に話せたぞ?

 なんで、シーシナとは話せないんだ?


「こいつはゴブリン亜種、ア・キュウガ・テニィ」


 ミケが紹介してくれた。


「テニ君だよ」


 弟君が、お皿を下げながらお話しをする。

 勿論、お皿には何も残っていない、綺麗なお皿である。

 お皿ベロベロはしていないよ、いやほんと。


 ガチャガチャ!

 つんつん。


「あ……えっと……こいつは相棒のファーファ、一緒に旅をしてるんだ」


 ファーファは優雅に頭部を下げて見せる。

 周囲の魔族が感心し、ファーファを見つめる。


「おお?すげーゴーレムだな?」

「よくできている!」


 ん?お酒の匂い?


「よおぉ兄ちゃん、いいゴーレム持っているなぁ銅貨1枚でいいだろう?」


「え?」


 パチリ、とテーブルに黒ずんだコインを置く。

 なんだこの酔っ払い?

 デカいオークである。


「おお、いい買い物した!王都で金貨10枚だな!ひひひっ!」


 徐にファーファの脚を掴み、引きずり担ぐ。


「ま、まってファーファは売り物じゃ……」


 ぶんっ、と風の音がした。

 振り向きざまに拳が飛んできた。殴りつけてきた!?


「やめてっ!」


 叫んだのはミケだ!

 だが、俺の目は余裕だった、

 ひのきの杖でそのぶっとい拳を軽く弾く。


 ガツッ!乾いた音が辺りに響いた。


「クソガキッ!何しやがる!金は払っただろう!」


 いや、なんだこのオーク?

 と思いながら、吹っ飛ばされる俺。


 おっかしいなぁ、弾いたんだが?


 どかっ!

 ごろごろ。


 テーブルに後頭部がぶつかり、しくしく泣き出す。

 痛くはなかったが、吹っ飛んだショックは大きかった。


 素早くミケが駆け寄り、抱き上げてくれる。


「だ、大丈夫?」


 こくこく。


 それより、ファーファだ!

 獣人族のミケは力強く、軽々と俺を運ぶ。


「テニ!軽すぎだよ!もっとご飯、食べないと!」


 そっと木陰に降ろし、心配そうに頭を撫でてくれた。


「痛くないか?血は出ていないみたいだけど」


 ……こんなに女の子に親切にされたのは、前世を通して初めてではなかろうか?

 いや、サキュバスさんは、俺を逃がそうと手を差し伸べてくれた。


「ファーファは?」


 ファーファは、デカオークの頭を殴り、踏みつけ、俺目指して猛ダッシュしてきた。


「!!……!?」


「ああ、俺は大丈夫だよファーファ、君こそ大丈夫?怖くなかった?」


 うう、情けない相棒でごめんよ。

 あ、魔族の一団が動いた!


「おっさん!見苦しいぜ?何やってんだ?いい大人がよ?」


「はあ?魔族のガキ共か?消えな!お前達は夜の住人だろうが!」


 あ、日傘の吸血鬼さん?


「昼間でも強いぜ?証明してやろうか?」


「おいおい、昼間の吸血鬼?寝とけ!俺は弱い者いじめはしない主義でねぇ?」


 おい、さっきのパンチはなんだ?

 だが、弱虫スキル発動で何も言えない……ただ、ただ悔しいだけ。

 ……情けない。


「おい、オーク!その腕力!他に使えや!」


「あんた、小さい子になんてことを!」


 あ、シーシナさん、雰囲気が変わった?

 シーシナさんの目が?

 明らかに酔いが覚めていくオーク。


「次は命を吸わせて貰う」


「チッ、今回は返品してやるよ!金返せよ!」


 そう言ってニヤつく、デカオーク。

 こいつは!


「おい、テーブルのこれ、銅貨じゃねーぞ?なんだこれ?」

「小石じゃねーか」


「おい、俺の銅貨!早く返せよ!」


 小石を投げ付ける吸血鬼さん。


「ざけんな!」


「俺の銅貨だ!銅貨を返せ!お前ら盗んだな?」


 なんなんだ?このオーク!

 ここ、とんでもない世界だなぁ。

 俺のこの、手持ちスキルで、この世界を生きていくの?

 困難じゃね?

 いや、無理じゃね?


 ヒュン!矢が唸る。


「ぎゃあああっ!」


 えっ!?


 デカオークの太腿に、深々と刺さる矢。

 漫画やアニメでは散々見たけど、実際に矢が刺さるとこ見ると……こえーっ!


「すまない、警告のつもりだったんだが、当たってしまった」


 あ、さっきのエルフさんだ。

 美男美女!


「ふ、ふざけるなっ!エルフが矢を外すわけないだろう!」


 動けなくなるデカオーク。


「いやぁ、俺、珍しくエルフにしては弓矢がヘタでねぇ」


 女性のエルフさんが、俺に歩み寄る。


「大丈夫か?」


「……はい」


「もう少し早く気づいたら良かったんだが、すまん、警備失格だな……」


 その長い脚を曲げ、そっと俺の頭に触るエルフさん。


「痛かったろう?」


 よしよしと、頭を撫で始めた?

 え?ミケの次はエルフ?俺、モテ期到来!?

 うわぁエルフよしよし、心地よし!え?この手、魔力が籠もっている!?

 が、俺は慌てて目を逸らした。


「どうした?」


 両膝の間から、男性が決して無断では見ていけないモノ、白いミシシッピーデルタ地帯が見えたからだ。


「あ……見えた?」


「いいいいいいいいいいええええええええっ」


 ぐりぐり。


「ごら、元気よさそうだな?少年?」


「ひゃい、お、おかげしゃまで」


 ぐりぐり。


「いでててててっ!?ミケ?な、なんで?なんで君まで!?」


「ふんっ!知らない!もう!」


 さらに、ぐりぐり。


「いでててててっ!?ファーファ!?な、なんで、お前まで!?」


「……フン」


 トスッと音が伝わる。

 大地に刺さるエルフの矢。

 デカオークが強引に引き抜いたのだ。


「おい、エルフ?善良なオークに矢を射たな?」


「ははっ、子供をぶん殴るのが善良だと?次はそのぶっとい腕だぜ?」


「たかがゴブリンだろ?クズみたいな種族ではないか!」


 ……。


「どうした少年?」


「エルフさん、ゴブリンってクズなの?」


 あ、目の色が変わった!?


「決してそのようなことはない!だが、どの種族にもクズはいる、なあ、オークよ?」


「けっ」


 流れていた血は止まり、何事もなかったかのように歩き出すデカオーク。

 俺はヨロヨロと立ち上がり、椅子に座り込む。


「お水、汲んでくる!」


 ミケが走り出す。


「あ、ありがとう」


「邪魔したな?おいエルフ、ゴブリンのガキ!夜道は気をつけるんだな?」


 うわぁイヤなセリフ!

 でもこのセリフ、言う人いるんだ。


「クスクス、おい、オーク!あんたこそ、今夜辺り気をつけな?悪夢を見たり、血がなくなったりするかもよ?」


 魔族一同が恐ろしい目でオークを睨む。


「ハンッお前ら程度の術、俺には無効だ!」


 オークは森の中へ消えていく。


 はずだった。


「おい、ごら?オークの面汚し、ちょっと待てや」


 あ、後ろでお話ししていたオーク達だ。

 10人はいるけど?


「騒がしいから帰ってきたら、お前か?」


「お前みたいなヤツがいるからオーク全体の評判が落ちるんだよ!迷惑なんだ?分かるか?あん?」


 突然始まる殴り合い。

 1対5

 5人は囲んで見ている。

 5人相手に、デカオークは倒れなかった。

 5人組も血だらけだが、平然としている。


 超ウルトラヘビー級のぶつかり合いは凄い迫力で、見るも者を圧倒した。

 うん、オークとのバトルは避けよう!俺なんて、即ミンチだ。

 何かを罵り合い、オーク達は今度こそ森へ消えていった。


 豚玉を食べながら魔族が批評し合う。


「やっぱパワー系は凄いな、俺達術系は、詠唱時間や魔力を練る時間が必要だし」

「え?でも一度発動したら、こちらが有利よ?」


 そう言って俺に近づくシーシナさん。


「大丈夫だった?」


 こくこく。


「あ、テニ、あの、私の翼を癒やした男の人、知らない?私、酷いこと言っちゃって……」


 !


「え?えっと、知らない……」ことにしておいた方がいいのかな?


「だよね、無事とは思うけど。テニが無事ならそれでいいや、今回は災難だったね、これからどこに行くの?」


 王都!丼モノ食べに!


「えっと……ん?」


 視線を感じる。


 あ、ミケが凄い顔で睨んでいる!

 え?なんで?俺、何かした?

 こ、こっち来たっ!


 タン!と置かれる陶器の湯飲み?

 がしっ。襟を掴まれる。


 ずるずる。


 え?え?え?

 お水は?

 弱虫スキル発動!


 狼亭裏。


「デレデレしないの!」


 ええええっ!?


「お、俺、デレデレしていた?」


「……シテタ」


 ファーファまで!?


「堂々と、ちゃんとしていなさい!」


 うう、なんで怒られるのだろう?俺、一応魔王なんだけど?

 ああ、泣き虫スキルも発動した……しくしく。


「メソメソ泣くなよ!そんなんだからファーファ、連れて行かれるのよっ!もう!」


 うう、だよね。


 こくこく。

 ファーファも頷き、同意している……。


 取敢えず、聞いてみる。


「な、なんでミケが怒るの?」


「え?」


「なんで?さっきもぐりぐりするし……」


 ん?お顔が赤いぞ?


「ししし、しっかりして欲しいのっ!なんか、ほっとけないのよ!」


 なんでしっかりして欲しいんだろう?

 ミケの美学かな?


「分かった。しっかりしてみる、忠告ありがとう」


「そ、そうよ、しっかりするのよ!」


「えっ!?」


 ゾクッとした。


「?……どうしたの?」


 !!!!!!!!!!!!


 マップ画面が?


 黄色と赤の点滅!?

 真っ赤な固まりが現れたっ!?


 なんだこれ!?


 む、むちゃくちゃ怖いんですけど!


 ヤバいヤツが来る!?


「どうしたの?テニ?」


「む、向こうから、何か来る!こ、怖いヤツが!」


 スキルが発動する。


「ち、ちょっと!テニ!泣かないでよ!こっちまで不安になるじゃないっ!」


 それは大地を這う蛇の群れ。

 数十メーターの巨大な蛇が群れを成して村を目指していた。


 叫び声が響く。


「おい!蛇人だ!魔王の使いだ!子供達を逃がせ!呑まれるぞ!」


 え!?


 挿絵(By みてみん)

次回投稿は 2023/11/17 朝11時17分か夜23時23分に投稿予定です。


サブタイトルは 

5 それは西の魔王の使い、この森を寄越せ編

食べられる子供達。でも、どうにか魔王さまが活躍するらしい です。


登録、ありがとうございます。

励みになります。


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よろしくお願い致します。


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