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泣き虫弱虫魔王さま  作者: MAYAKO
2/10

2 地上へ降り立つも、俺はボッチだった編 というタイトルで始まるが、なんと友達ができた

連続投稿、今回はここまでです。

次回は2023/11/10 朝11時10分の予定です。

 僕は階段を上り始めた。


 どうなるのだろう?気が重い。

 でも少しだけ、ワクワクもする。

 これからのガチャだ。


 虹色のコイン。

 特典、決して裏切らない人生の供、1体。


 犬かしら?

 それとも妖精?

 き、き、綺麗な女性のエルフさん、とか?


 ……いや、さすがにそれは無いだろう。

 まあ元、健全思春期15歳男子としては、あんなことやこんなことが頭の中を駆け巡る。


 ガチャか、楽しみだなっ、と。


 ……だけど。

 決して裏切らない人生の供だなんて、苦しいだけじゃないのかな?


 なんかお互い、重くないか?


 ん?待てよ、僕がそのトモを裏切っても、そのトモは僕を裏切らない?

 ……さらに重くないか?


 途中、20人くらいの人集りがあった。

 もしかして特典ガチャ?


「おい、早く来い!」


 黒鬼さんが叫ぶ。

 横の黄色い鬼さんは、見るからにイライラしている。

 黄色い鬼さんは、女の鬼さんで鬼女?

 髪を振り乱し、スレンダーでもの凄く怖い。

 その痩せすぎの身体は、病気になった母親を思わせる。

 俺は、複雑な気持ちになった。


「ごら゛ぁ早くしろ!」


「野次馬は去れ、早く階段を上れ!お前達のガチャではない!」


「さっさと行け!上で船が待っている!お前ら、ちゃんと三途の川渡れよ!」


 残ったのは僕も含めて6人。


「さて、これで全員だ、順番にガチャをするように!」


 初心者は6人か……ぼ、俺は一番最後だ。


 一人目は髪が長い女の人。

 戸惑っている?


 あ、ガチャが?

 そのガチャは、今までのガチャと比べて、とても小さく、コインの投入口が3つもあった。

 とても古いタイプのようで、錆やら汚れが目立っていた。


 え?どこにコイン投入?好きなところでいいのかな?


 それに、このガチャ、どこかで見たことあるぞ?


 !


 ああ、バクテリア!バクテリオファージにそっくだ!

 これ、動くんじゃね?

 脚、収納しているように見えるけど?


「早くしろ!好きな場所を選べ、出てくるヤツは全てレア以上だ」


 髪の長い女の人は、右側のレバーを選んだ。

 虹色のコインをスロットに滑り込ませ、レバーをガチャガチャッと回す。


 コロン。


 もはや聞き慣れた声が響く。


《特典:R:レア:犬、犬種は自由に選べます》


 ほらね、やっぱわんわんだよね!


「……」


 女の人は不満そうである。

 なんで?


「ステキな男性がよかったなぁ」


 ……ぼく、まだ15歳だからよく、分かんないや、と。

 綺麗なエルフさん?

 なんのことですか?


 あ、次の人だ。


 コロン。


《特典:R:レア:犬、犬種は選べます》


 ……おい、また犬?

 まさか全部犬か?

 どこのソシャゲだ?まさかここでも爆死か?


 いや、俺としてはわんわん、大歓迎だ!

 このまま行ってくれ!


「……」


 あ、このお婆さんも不服そう。

 なんで?あ、犬、嫌いとか?


「わしゃ猫派なんじゃが」


 さもありなん。

 まあ、俺は猫も犬も好きだけどなぁ。

 人よりも犬猫の方が好きかも知れない。


 イヤな思い出が、脳内を駆け巡る。


 小さい頃から母親に虐待されていた俺は、よく家を飛び出した。

 学校にも行けず、公園でネコや犬達とよく遊んだ。


 昼間の明るい街、家では母親が知らない男とお酒を飲んでいる。

 夜、働いて飲んで、昼、遊んで飲んで、いつ寝ているんだよ?


 俺は立ち止まり、よく空を見みた。


 何かを掴もうと、空に向って、手を伸ばしていたなぁ。

 着ている服はボロボロで、痩せて皮膚病の俺。

 人よりもネコやイヌに親近感を感じるのは、当たり前か?


「お前さえいなければ」母親がよく口にしたフレーズ。

「どこに行っていたの!?私を一人にしないで!」これも母さんがよく、口にしたフレーズだ。


 鬼女を見る。

 よく見ると、目が綺麗で優しそうだ。

 お口の牙は怖いけど。


 ガチャガチャ!

 コロン。


 次の人はお爺さんだ。

 何が出た?

 また犬か?

 かなり懐疑的で猜疑的になる。


《特典:R:レア:ドラゴン、飛龍確定》


 はああああああああっ!?

 なんじゃそりゃ!?


 犬もドラゴンも同じレア!?


「竜?餌代が大変そうじゃが?」


 え?そこ?


「わしゃ、犬好きの、猫好きなんじゃがのう。のう黒鬼さま、この飛龍の大きさはどのくらいじゃ?」


「子は30㎝、大人は30m以上、俺は50m程の飛龍を見たことがある」


「そんなに大きく?エサや、トイレが大変そうじゃな、まあ楽しみにするかのう」


 いや、お爺さん、ペット感覚!?ドラゴンはペットじゃないよ!多分。

 お爺さんはニコニコと階段を上っていった。


 しかし竜?それも飛龍?一部のゲーマーは熱狂するんじゃないか?

 飛龍が友達かぁ。


 ん?ここで鬼女さんと目が合う。


「少年、あのご老人にとって、犬もドラゴンも同じ大事な家族なのだよ、ドラゴンも犬も同じ愛情を注ぐ対象なのだ、分かるかい?」


 あ、だから同じレアだと?

 これは凄いガチャだな。

 あ、次もお爺さんだ。


 ガチャガチャ。

 コロン。


《特典:R:車輪》


 !?


 なんだ?車輪って聞こえたけど?


《自動車、モーターバイク、自転車、一輪車他、選択可》


 !?


「自転車?自動車?ワシは生前、お花の家元でインドア派、来世は商人確定とガチャが出たが?機械が相棒?」


 お爺さんはブツブツと呟きながら階段を登って行く。


 次は若い男の人だ。

 20歳くらいだろうか?


「おんな、おんな、貢がせて楽するんだよ!豊満なヤツがいい!」


 うわっ、なんだこいつ?


「どけ!ガキ!邪魔だ!」


「わっ、ごごめんなさい!」


「けっ!」


 忙しくコインを入れガチャを回す、お兄さん。


 ガチャガチャ!

 コロン。


《特典:R:男性、年下確定》


 え?


「はあああっ!?」


 どげしっ!


 突然ガチャを蹴り、ツバを吐きかける。


「ぺっ」


 その行動を見て、黒鬼さんと鬼女さんの目が銀色に染まる。

 あ、なんか鬼さん達、黒いオーラ出ているかも。

 男性の悪態は続く。


「なんだ、ごらぁ?男なんざぁ、い・ら・ね・え・んだよっ!おんな出せよ!女!」


 ゲシゲシ!

 どかどか。


 ひいいいいっ!


 こえーよーっ!

 弱虫スキル発動!


 ガンガン蹴られるガチャ。


 バキン!


 あ!?

 破損した!?


 怒りが湧き上がる。


 子ネコを蹴っているように見えたのだ!


「ひゃ、や、やめなよ、ガチャにあたりゅな!」


 震える脚、それでも勇気を振り絞った。


「ガ、ガチャは、し、正直に出しただけだ!」


「っんだとう?このガキ!」


「ガガガガガガキはお前だろう!」


 このセリフが精一杯。

 怖くて涙でた。


 これ以上怒鳴られると、なんか他のも出そうだ。

 うう、弱虫スキル発動。


「はぁ?泣きながら何言ってやがる!けっ!」


 ガチャに向っていた蹴りは、俺に向いた。


 ドケシッ!


 まあ、殴られたり蹴られたりは慣れている。

 いつものことだ。

 死んでまで続くとは思っていなかったけど。


 ?


 痛くない?

 遠くに飛んでいくゲロヤロー。

 蹴ったのは黒鬼さん。

 あいつ、死んだかな?

 いや、死んでいるし。


 ゲロヤローは帰ってこなかった。

 そのまま現世に行ったのだろうか?


 ふきふき。


 取敢えず、薄いボロボロの衣を破き、ガチャの汚れを落としてやる。

 病気や泥だらけの猫や子犬の世話を得意とする俺には、これぐらい、なんともなかった。


「おい、それは我々の仕事だ」


 鬼女さんが止めに入る。


 無視。

 破損……していない?

 レバーが少し、曲がってるかな?

 冷たい鬼女さんの視線が気になる。


「一度始めたこと、最後まで掃除させてください」


「頑固か?嫌われるぞ?」


「かまいません。人生、皆、中途半端で、最後までやり抜いたのは、何もありませんでした、せめてこれだけでも」


 よし!


 ピカピカである。

 よしよし、頭部を撫でてやる。


 ではっ!

 へへっ!


 特典、特典!


 ひひっ。


 思わず笑いが込み上げる!

 わんわん希望!

 ドラゴンでも可!

 熱望!人間以外!


 ニコニコ顔で、黒鬼さんと鬼女さんを見る。


「お前、ガチャ好きだな」


「え?黒鬼さん?ガチャ、嫌いな人って、いるのですか?」


 いやいやいないでしょう?


「はやく回せ!時間がない、次の船を待たせている!」


「そうだな黒鬼、まさか地震が起きるとは!」


「ああ、ダイヤがかなり乱れた」


 ダイヤ?

 運行スケジュール?


 イライラが募り、鬼女さんと黒鬼さんが、不機嫌なお顔になる。


「では!」


 スロットに虹色のコインを入れる。

 チャリン!と心地いい音!

 徐にレバーを!


 ギチッ!


「え!?」


 ギチッ、ギチッ。


 あ、あれ!?あれ!?


 ん!?


 あ、レバー曲がって回らない?


「これは……あのお兄さんの蹴りか?」


 黒鬼さんを見る。

 続いて鬼女さんを見る。

 うわぁ凄く困ったお顔だな。

 諦めるしかないかな?


 と、思った瞬間!弱虫スキがル発動した。


「えっと、あの、特典はいいです」


「は!?おい、まて!それはダメだ!」


「でも、ガチャ壊れていますし、やり直しする時間とか、修理の時間とかあります?」


「そ、それは……」


「俺、特典なしでいいです」


「お前は黒いSSVを出したであろう?なら、尚更トモは必要だ!」


 ピンッと何かが閃いた。


 尚更?


「それはどういうことですか?」


 明らかにしまった!というお顔の黒鬼さん。


「い、今修理班を呼んだ、暫し待て!」


 ああっ!誤魔化した!

 すると階段の上から声がしてきた。


「おーい、あと一名どこだ?もう待てぬぞ!」


 ん?


 あ、待たせている船?

 人を待たせている!?

 あ、なんとも言えぬプレッシャーが……。


 ガチャを見ている黒鬼さんと鬼女さんを横目に、階段を駆け上がり、船に飛び乗った。


「おせーぞごらぁ!」


 どげしっ!


 蹴られた。

 あ、さっきのお兄さんだ。

 結局蹴られた。


「ごらぁ、さっさと今回の人生は、終わらせてーんだよ!早くしろよ!このガキ!」


 ゲシゲシッ!


「す、すみません、ごめんなさい!け、蹴らないでくださぁい!シクシク」


 弱虫スキル発動。

 泣き虫スキル発動。

 これはもう軟弱?


 でもさっさと人生終わらせるなんて、酷い言い方だな。


 ……まて、俺の場合どうなんだ?

 俺こそ早く人生終わらせた方がいいんじゃないのか?


 そもそも魔王って、どんな人生?


 勇者に討伐されて、終りか?

 ……なんか、悲しくなってきた。


 しくしく。


 ああ、またスキルが発動した。


 周りを見る。

 船の乗客は20人くらいだろうか、船頭さんが一人と、緑色の鬼さんが乗っている。


 霧?


 白い霧がさっ、と流れてきた。

 なんだろう?この霧、いい匂いがする。


「なんだこの霧!す、凄く臭い!ゲホゲホッ!」


 え?


「ぐえええっ!く、苦しいっ!」

「え?いい香りですけど?」


 俺には花の香りだが?梅かな?


「ほんと、清々しい香……辛いこと、皆忘れそう……」


 この霧って??

 人によって香が違う?


「本当にいい香り!全てを忘れそう!」


 ……ん?やばくないか?

 船はゆっくりと進み、対岸に着く。

 霧は晴れ、目の前には見渡す限りのお花畑が広がっていた。


 すっんんんごく綺麗だ!

 こんな綺麗な花の海?見たことがない!


 船から下りると、僕以外、みんな容姿が変わっていた。


 ぼ……俺は相変わらずの、白いボロボロの服に裸足だけど、皆、綺麗な服を着ていた。


 年齢も変わったみたいで、特に笑えたのが、あのお兄さんだ。


「な、なによ!これ!どうして私、女なのぉ!」


 そう、お兄さんは、お姉さんになっていた。


「お前は、いつも女のことばかり考えていたな?だから女になったのじゃヒヒッ、今まで散々女達を虐め、苦しめ、利用してきただろう?今度はお前の番だ」


「ひいいいっ」


「だがこの運命、変えることができるぞ。それにお前を決して裏切らない者が待っておる。運良く巡り会えることを願っておるぞ、ひひっ」


「あのう……船頭さん」


「なんじゃ?」


「俺、何も変わっていませんが?」


「変える必要がなかったのじゃ」


「ええええっ!?」


「お前は、好きに生きるがよい」


 そんな、放置プレー?


 じゃ、ひっそりどこか孤島か森の中で。

 魔王なんて、悪役じゃん。

 討伐されるなんてイヤだし。

 生れる前から隠居します。


 ん?皆が?


 周りの人達は虚ろな目で立ち止まり始めた。


「え?」


「ほう、さすがは破壊神の称号持ちじゃな、忘れぬか」


「忘れる?」


「以前の記憶、前世の記憶は邪魔なのじゃ、人によっては毒にしか成らん。ここで消して新たな人生を歩むのじゃ」


「消えない僕は何?」


「さあぁな、お前は、お前じゃろ?」


 目の前の人達が次々にお花畑を越えて行く。

 走って行く者、歩いて行く者、立ち止まる者。


 俺は、ゆっくりと歩き出した。

 俯き、一歩一歩と踏締めるように歩き出す。


 そして気がつくと、そこは森の中だった。

 明らかに雰囲気が違う。


 え?いつの間に?


 ここは地上だ!

 間違いない!


 え?


 俺の転生って?


『生れる』じゃなくて、このままスタート?


 これ転移じゃ?

 お母さん、お父さん、いないの?

 ……ええええっ!?


 弱虫スキル発動だ。

 泣きたくなった。

 いや、泣いていた。


 前世はお父さん、知らなくてお母さんだけだった。


 生まれ変わったら、オヤジとキャッチボールする予定だった。

 一度でいいから、オヤジとキャッチボールしたかったのに!

 オヤジどころか、お母さんもなし?

 できる限り、お母さん孝行しようと思っていたのにっ!


 魔王って、何?

 こんなに孤独なの!?

 そのまま生れる?

 いやこれは顕現ってヤツ?


「はぁ」


 溜息一つ。

 とても悲しくなった。


 スキル発動。


 涙でた。

 それも、凄く悲しい涙だ。


 すると、俺の周辺の木や、足下の草が枯れ始めた!?


「うごっ!?」


 ざわざわ、バキ、パキッ!

 緑の木々は茶色に変色し、その葉を落とし始める。

 飛ぶ鳥は弱り、地を這い始めた。

 昆虫はひっくり返り、その沢山の手足をバタつかせ、小川には小魚が浮き始める。


「勘弁してーーーーーーつ!なにこれえええっ!今のなし!」


 泣き虫スキル発動である。


「うわーんっ!ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう!?みんなごめんよっ!」


 俺は周囲の木々や動物達に謝った!

 なんか面白いこと!面白いことを考えよう!


 …………面白いことって?


 俺、あまり笑わなかったなぁ。

 じゃ、楽しいこと!

 楽しいこと?

 楽しいこと!?あったか?


 あんなことや、こんなこと。


 ろくな思い出しかねーぞ!


 ならばっ!


 格好いいこと?可愛い?


 !


 子ねこと子いぬ!

 ここは森!ならば森林狼!

 森や平原を駆け抜ける狼!

 カッケー!

 繰り返し何度も見た動画。


 ピタリ、と止まる周囲の現象。


 狼、イヌ、ネコ、と言えば!


 肉球!ぷにぷにのもにもに!


 アスファルトは熱い!火傷するなよ?

 公園やお家の庭、壁を使って移動するのだ!


 ほっこり、する俺。


 すると、木々の立ち枯れは止まり、鳥は復活して羽ばたく!

 昆虫も魚もどうにか動き出す。

 枯れた木はそのままだったが、俺が落ち着き深呼吸をすると、根元から新しい芽が吹き始めた。

 倍速の動画みたいだ。


「俺、これじゃ唯の迷惑存在?」


 感情のダダ漏れはマズいと?

 感情に何かが反応した?


 自分の中から、何かが出ていく感覚。

 これ?なんだ?

 俺の中に、超新星のような輝きがあった。


 宇宙の画像。


 その画像が、動画で俺の中にあった。

 そうとしか言いようがない。

 美しくも恐ろしさを感じる何かだ。


 畏怖?


 力のある畏怖?

 なんとも言えない暴力的な輝きが俺の中で蠢いていたのだ。


「……魔法使えそう」


 右手を伸ばして、えい、と。

 炎のイメージ!


 ぶわっと炎の固まりが空中に現れる。


「おおおっ」


 すげー。

 かっけー。


 しかし、大きさが凄かった。

 とにかくデカい。デカすぎである。


 軽く念じただけなのに!


 東京ドーム一個分くらいありそうだ。

 ……すみません、東京ドーム、大きさわかりません。

 言ってみたかっただけです。


 しかしでけー炎の固まりだなぁ。


 森が燃えるどころか、消え始めた。


「あらああああああっ!?なんですとおおおおっ!」


 スキルが発動した。

 怖くなったのだ。


 さもありなん。


「き、消えてええええっ!炎きえてくれえええええっ!」


 炎は消え、俺はその場から泣きながら走り去った。

 焼け跡はクレーター状になり、溶岩のようになっていた。


 キラキラしているところはガラスか?


 こ、こえーよー!

 俺自体も焼けた。

 ちょっと髪の毛が。


 泣き虫弱虫スキルが発動した。


 なに?この魔法威力の絶大さ。

 これでは生きていけない気がした。

 いろんな意味で。


 ここが、どんな世界か知らないが、これではいけない!

 取敢えず、自分が出した魔法を怖がってはいけないと思う。


 目標1、魔法に馴れよう!


 練習が始まる。

 森の中を彷徨い……散策しながら、魔法の練習である。

 不思議とお腹は減らない。

 睡眠も必要無いみたいだ。

 ただ、寝ようと思えば、幾らでも寝れた。

 疲れもほとんど感じず、どれだけでも歩けた。


 面白いのは、歩けば歩くほど、脳内にマッピングができることだ。

 そして、行きたいところを念じると、ぽん!と、そこへ瞬くまに移動した!


 おお、便利!

 マップ内はどこでも瞬時だ!

 さすがは魔王。

 ふと、思った。


 魔法だけではなく、武術も必要では?


 足下を見ると、枯れた枝があった。

 結構大きい。

 掴んで、振ってみる。


 ブンブン。


 何も起らない。

 平和だ。


 ……ちょっと力を込めて振ってみる。


「ふんっ!」


 ドゴオオオオオオオオオオオンンンッ!


 足下から地平線まで、谷間ができた。


 ……怖くなって泣いた。


 この力で、何をどうしろと?

 一個人でこんな力、所有していいのか?

 しかもこれ、元はガチャだぞ!


 目標2、ちから加減を覚える。


 で、俺、何をすればいいのだ?

 魔王かもしれないけど、基本、泣き虫の弱虫だ。

 世界征服なんて面倒いし、人類絶滅なんて怖くてできないし、そもそもこの世界に人類いるのだろうか?


 目標1の魔法に馴れたいのだが、難しい、2も怪しいもんだ。


 どれも超ド級。


 そよ風は暴風だし、水は湖を作るし、氷を出したら、辺りは冷凍庫みたいに成るし、ほんのちょっとで地形が変わる!


 空も飛べそうだけど(いや、確実に飛べるだろうな)どこからか、目撃されたら怖い。


 空かぁ……見上げると、小鳥がチチッ、と飛んでいる。


「……」


 取敢えず、浮いてみる。


「……!」


 おお、浮いた。

 成程、これはイメージだな。

 と、思った瞬間!


 ヒュン!


 足下には丸い星。


 わぁ綺麗だ……じゃなくてええええええっ!


 なにここ!?


 成層圏?宇宙じゃん!

 空気は?寒さ対策は!?


 弱虫、泣き虫スキル発動!


 取敢えず、怖くなって泣きながら地上に降り立つ。


「えぐっ、えぐっ」


 嗚咽が止まらん!

 高所恐怖症ってなに?高過ぎだよ!


 それに、上空から見たけど、森の地形が変わっていた。

 焼け跡があり、湖があって、暴風による倒木地帯があった。

 それに大地に刻まれている、深い谷間!


 森の生態系、変わる?

 これじゃ唯単に、俺、迷惑な存在だよ!


 ……そして、遙か彼方、地平線上に建物が見えた。

 石作の大きなお城のようであった。


 途中、集落も沢山あった。


 街がある?行ってみたい!

 でも俺みたいなのが、訪問すると、迷惑ではなかろうか?


「?」


 その時、気配がした。


「?」


 なんだ?確かに、誰かが俺を見ているぞ?

 鳥?虫、昆虫か?


 複数だ!


「あ」


 それは、森の動物達であった。

 色々な動物が、俺を見ていた。

 もしかして、森を焼いたり、壊したりしたから、かな?


 ……恨みを買った?


 そのつぶらな黒い瞳に見られ、俺は居たたまれなくなりその場を後にした。

 勿論泣きながら。


 ううっ更に、森の奥へ!


 ボッチすぎる!


 犬猫好きの俺に、あの冷たい視線は痛すぎる!

 肉食も草食も、揃って見ていた。


 出て行けってか?


 わあああああんっ!


 幹部とか部下とか無し?いないの?四天王でも可。

 魔王がラスボスなら、中ボスとかいないの!?

 俺一人で築き上げないといけないの?


 どんな育成ゲームだよ!


 すると、俺の速さに付いてきている者が1名だけいた。


 いや1匹?1羽?


 スピード、アップ!


 え?

 こいつ、おかしい!

 俺に付いてくる!?


 普通の動物じゃない!


 ふっ、と止まり、気配を伺う。

 あ、追跡者も止まった!

 どうやって、俺の位置を特定しているんだ?


 特定という言葉に、恐怖を感じた。

 住所特定、名前、生年月日、個人情報!


 と、特定はいやだあああっ!


 弱虫スキルが発動。


 こ、こえーよー!

 ス、ストーカー?


 俺、何か悪いことした?

 あ、森破壊したか。


 気配を消してやり過ごそう!

 だって逃げられない!


 思うだけで能力が発動した。

 俺は森に溶け込み、辺りから消え失せた。


 ガサ、ゴソ。


 草木を踏み、近づいて来る何か。


 なんだろう?

 かなり警戒しているぞ。


 まあ、突然、目標物が消えればそうなるか。


 ガッチョン、ガッチョン!


 ?


 機械音?


 まさか……ゴーレム!?

 一気に好奇心が吹き出た!

 ロ、ロボット!?


 ごそごそっ。


 ひょこっ、と大木の横から現れたそいつは、知っているヤツだった!


  挿絵(By みてみん)


「ああああっ!バクテリオファージ・ガチャ!?」


 思わず声が出た!


 そう、あいつだ!死者の世界で、虹色のコイン!特典のガチャ!

 やっぱ歩けたんだ!

 いや、そこじゃなくて!


 なんでこいつが、ここに?


 目が合う。


 いや、こいつの目がどこか分からないけど、多分目が合った。


 お互い固まる。


 ささっ。


 あ!か、隠れた!

 な、何かお話しを!


 お話しなんて、いつ以来だ?


「ぢ、ゴホゴホッ、ちょっと待って!」


 久しぶりに喋った気がする。

 チラリ、と大木の陰から頭部を出すバクテリオファージ・ガチャ。


「えっと、なんでここに?死者の世界は?ガチャの仕事は大丈夫なの?」


「……」


「え?クビになった!?」


「……」


「壊れたから?旧式で部品がない?破棄処分!?」


 原因はあれか?あの蹴り?

 酷いなぁ、もともとはあの黒鬼さんと鬼女さんの職務怠慢だろう!

 あの男の人(現女の人)の暴力、止めなかった!


「で、死の世界の『夢の島』から、逃げて来たと?」


 こくこく。


 なんで俺の所?


「……」


 !


「……行くところが無い?」


 …………前世の俺と同じだ。

 泣き虫スキルが発動した。


「……」


「それで、俺しか思い浮かばなかったと?」


 こくこく。


「キ……キレイニ……シイテクレタ……」


「!」


「ヨ……ヨシヨシ……テ……クレタ……」


 連れ帰った子犬や子ネコは皆、母親が保健所送りにした。

 まあ、アパート、ペット禁止だったしね。


 ……ごめんよ、あの時のネコ、いぬ。

 俺、小さすぎて知らなかったんだよ……。


 今は、俺一人。

 判断するのは俺。

 俺は自由。


 悲しいほどに自由だ!


「わかった、一緒に行こう!」


 二人で、異世界の旅が始まった。

どうでしょうか?

面白かったでしょうか?

よろしければ、ページ下部の評価欄から、評価をしてもらえると嬉しいです。

いいね、ブックマーク、感想等も、もらえると励みになります。

よろしくお願い致します。


ご一読、ありがとうございました。


次回投稿は 2023/11/10 11時10分に投稿予定です。

サブタイトルは

『森の住人編 女の子と討伐隊とガチャを壊してしまった!どうしよう!』です。


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