10 王都を目指します 後編 でも王都は遠く、俺の手は天丼に届かなかった。 そして旅が終り、旅が始まる!
今晩は。
完結、投稿です。
村に伝わる伝説、昔話、子供達やその両親が話してくれた。
話が終わると、聖女クルルンがこの星の伝説や神話を幾つか語った。
「では最後に破壊神ラグナロークのお話しを」
お?これは面白そうだな?
「破壊神ラグナロークは一柱とも二柱とも言われています」
複数?
「色々と諸説あるのですが、代表的なものは、そうですね夕闇に現れた破壊神ラグナロークは、全ての国々を闇に染め、この星の生き物、森や小川、海や山々を喰らい尽くす恐ろしい鬼神と言われています。その姿は昆虫のようであり、あるときは一つ、あるときは群れを成し世界を滅ぼすと言われています」
……俺、虫?
い、イヤだよ!それっ!
「逆に東雲の使者、朝日の使者と呼ばれ、朝日と共に現われる破壊神ラグナロークは、全ての国々の悪に挑み、これを破壊する鬼神です」
!?
「その国に悪が蔓延れば、住む者全て破壊してしまう恐ろしい鬼神です。その姿は伝説の鳥、クージャックと言われています」
クージャック?
「このクージャックは好んで毒虫を食べ、決して毒に染まらない七色の、虹の羽を持つ鳥と言われています」
ほーっ、そうなんだ。
クージャック?
孔雀か!?
俺の知っている孔雀も毒虫を食べるのかしら?
まあ俺とはほど遠い、凄い存在だな。
そしていつの間にか子供達は眠ってしまい、夜は深まっていった。
「この鬼神、二柱は巡り逢えば必ず戦い、勝った方がその力を全て手に入れると伝わり……」
これらの鬼神達、地上に住んでいる者達にとっては、いい迷惑では?
面白い話だったけど、どんなお話聞いても、俺は俺だ。
商人の家族に聖女のパーティー、賑やかだな。
いつしか俺は寝てしまった。
何かが迫っている?
そんな夢を見たような気がする。
深夜、ムクリ、遠き上がるキルル・ランダム。
ん?キルル・ランダム?
トイレかな?知らないふりっ、と。
森の闇に消えていくキルル・ランダム。
?
「はぁ、はぁ」
?
なんだ?この声?
「はぁ、はあぁ、ぺっ!」
ツバ吐いた!?何しているんだ?
声の方角を見つめると、キルル・ランダムは剣の型を繰り返し行い、汗を流していた。
努力家?
つんつん。
「あ、ファーファ」
「ガチャ、スル?」
こくこく。
激しく頷く俺。
さて、何が出る?
《R:レア:ぴったりのマント:夏は涼しく、冬暖かい:たまに空を飛ぶ》
は?飛ぶの?たまにとは?
そして一緒に旅を始めて二日目の朝、トイトイの村に無事到着する。
「元気でな!」
俺は元気よくチビちゃんズに手を振る。
「私達でできることがあれば、いつでもお呼びください、近くを通ることがあれば、必ずお寄りください!」
「お父さん、無理はするなよ?約束忘れるなよ?」
「はい!」
俺とファーファは商人家族と別れ、王都を目指し歩き始める。
「で、これからバトルが始まるのか?」
「始まりませんよ、ア・キュウガ・テニィさま、あなたと戦う気はありません」
「聖女クルルン、俺、魔王だぜ?」
「魔王は泣いたり逃げたり、子供のお世話をしたりしません……たぶん」
「バトルは無しだ、王都まであと二日、仲良く行こうぜ兄弟!」
リッチナさんは、調子いいな。
なんか裏があるような気がする。
「聖女クルルン御一行、なにか企みごと、あるだろう?言えよ!」
「そ……そのうち、お話しします」
ほらね。
とは言うが、このメンバーの旅、実は面白かった。
その日は、ブラッド・スパイダー3匹にイノノ5匹、その他多数の魔物達を倒した。
俺とファーファとライトルの連体攻撃は絶妙で、ほとんどこの3人で魔物を倒しまくった。
そして最後の夜、王に謁見しないか、という話が出た。
が、今回は断った。
「もう少し、そうだねこの泣き虫を克服したら謁見させてもらう。まあそれまで王さまの気が変わらなければ、の話だけど」
「そうか、ではそう伝えておく」
「リッチナさん、ちゃんとよろしく伝えてね?」
そんな話をしながら皆眠りに付いていく。
そして深夜、またムクリと起き上がるキルル・ランダム。
「はぁ、はぁ」
いつもの声が聞こえてくる。
ホント、努力家だなぁ。
遠目に見ていると、目が合った。
あ、マズい、怒られる!?
「付き合え、ア・キュウガ・テニィ!」
「え?」
ヒュン!鞘付きの剣が唸る。
練習か……色々な技、盗めるかも。
動機はかなり不純だが、訓練に付き合うことにした。
「型を繰り返し、最後は剣を当てる、できるか?」
「先ずは、して見せてよ」
「つま先立ち、右足を進める!その時両手の剣を振り上げる!剣は左手が中心、右手は添えるだけだ!」
ん?右手は添えるだけ?どこかで聞いたことあるぞ?
「振り下ろす時に、雑巾を絞るように力を入れる!」
ヒュン!
「もう一度してみせるぞ、こうだ!」
見た。
力の伝達も!
「やってみろ」
ひのきの杖で再現してみせる。
「……腕を振るだけでは駄目だ、アゴと肩の向き、腰の位置が重要だ」
「こうかい?」
ヒュン!
「飲み込みが早いな?お前、センスがいい、素質充分だな。次は切り返しだ!」
……稽古は、朝日が昇るまで続いた。
「……なんで剣を教えるの?俺、魔王だぜ」
「私はお前が魔王とは思えない、あいつは残虐で人族や妖精族を苦しめて笑うヤツだ」
あ、西の魔王ヲダのことか?
カンッ!
杖と剣が重なる。
「もう私の剣を止めるか?」
「稽古でしょう?」
「それでもだ、普通は遅れる!止められない!」
ほう、そうなのかな?
「お前に剣を教える……それは……私と対等に戦う者が、泣きながら逃げ回る姿は……」
「悲しいから?」
「違う!腹が立つからだ!私が逃げ回っているように感じる!私の美意識が許さない!それに……」
「それに?」
「普通ならあそこで『戦う君』を潰したはずだ!お前は潰すどころか修理費までギルドに託した。お前は本当に魔王か?」
どうだろう?名ばかりの魔王?その通りかも。
ん?
「なに?」
俺をじっと見つめるキルル・ランダム。
「なぜあの父親の怪我、ちゃんと治さなかった?」
!?
気づかれていた?
「あのお父さん、無理しすぎだ。あの場所で死んでいた。家族を大事に思うなら、自分も大事にしなければいけないと思う」
「……ふん、詭弁、偽善だな」
「ああ、俺は魔王さまだからな」
「チッ」
舌打ち!?
キルル・ランダム、不思議な人だなぁ。でもお礼は言わないと!
「稽古、ありかとう、キルル・ランダム」
「礼?不要だ」
「なんで?」
「ライトルやリッチナとの連体、あの呼吸は長年付き合った者にしかできない」
「そ、そうかな?」
こいつに誉められると、なんだか恥ずかしいや。
「もうお前は、聖女クルルンパーティーの一員だ」
「え゛!?そうなの!?」
「どうだ、この私に認められたのだ、名誉だろ?」
「え?えええっ!?」
どちらかというと、迷惑?
いや大迷惑だよ!
「私のことはユキと呼べ」
「ユキ?なんでユキなの?」
そういえば皆ユキって呼んでいるけど?
「ユウシャ・キルル・ランダム、ユキだ」
うげっ!?
こいつが勇者だったの!?
俺魔王なのに勇者に剣を教わり、勇者パーティーの一員になっちまったよ!
ん?
「兄弟、で、話がある」
「俺にはないよ、リッチナさん」
「そう言うなよ、魔王ヲダが復活する、手を貸してくれないか?」
「え゛?」
「討伐隊だ」
魔王が魔王を討伐?
お話し的にダメでしょう!?
「先代勇者が封印した魔王ヲダが、復活する……予定より20年以上早いのだ。今の我々では、討伐はおろか、再封印もできない」
「私は反対だ」
え?キルル・ランダム?
「そいつ、魔力は魔王級かもしれんが、見た目も子供で、中身も子供だ。魔王と戦うということは、死ねということだぞ?ア・キュウガ・テニィは参戦させない、参戦させてはいけない!」
「しかし俺達だけでは勝てないぞ?」
「リッチナ、だからといって子供を巻き込むな!私が覚醒すればすむことだ!」
……覚醒?
魔王の目で見てみる。
……無理だな。
魔力が動いていない。
綺麗な星雲は見えるけど、俺の星雲みたいに動いていない。
魔王討伐?
どうする?
「王都到着までに返事をくれ」
そう言って立ち去るリッチナさん。
どうする?でもその前に朝ご飯と行こう。
そして始まる焼肉朝食。
「おい、毎朝焼肉、他にないのか?」
ライトルが顔を顰める。
「ない」
肉しかない。
肉、最高ではないか!
「こちらはどうでしょう?」
ん?
聖女クルルンがスカートの端を摘まみ上げ、近づいてくる。
スカートの上には沢山の……薬草か?
「あちらにハーブの群生がありました!」
ニコニコ笑顔の聖女クルルン。
無茶苦茶可愛い笑顔だ!
あ、このハーブ!いい香り!
が、男性陣の目はハーブには向いていなかった。
「……回れ右だ」
凄みのある声で命令するユキ。
「クル、手を放せ」
「え?そんなことしたら、せっかくのハーブが零れてしまいます!」
ファーファは、俺のお気に入りの『ぴったりのマント』を俺からむしり取り、ユキに渡す。
「さすがファーさん、ありがとう。クル、これにハーブを移せ」
「はい!ほら!みなさん!食べましょう?」
(あの……リッチナさん、丸見えでしたけど……)
(兄弟、俺達は何も見ていない、いいな?何も見ていないっ!)
(そうだ、クルルンの摘んできたハーブを美味しく頂くだけだ!いいな?余計なことは喋るなよ?)
「おい、何をヒソヒソ話している?よからぬ事ではあるまいな?」
「どうかされました?」
ニコニコ笑顔の聖女クルルン。
さすがにこの笑顔は眩しい。
聖女さま、天然?
ぐりぐり。
「……痛いよ?ファーファ?足グリグリ止めて……」
「フンッ」
そして歩き続け、ようやく見えてくる王都。
でけー。
「ア・キュウガ・テニィさまは、なぜ王都を目指されるのです?」
「お、そういえば目的はなんだ兄弟?」
「天丼」
「え?」
「天丼を食べたい、それとこの世界の皆の暮らしを見てみたい」
「この世界とは、まるでア・キュウガ・テニィさまが、異世界から来られたようないいかたですね」
笑顔で確信を突く聖女クルルン。
「そうかな?」
ん?なんだ?
俺の顔、正確には鼻が西を向いた。
なんで俺、西を向くんだ?
立ち止まり、空を見上げる。
心拍数が上がる。
泣き虫弱虫スキルが発動する。
「どうした兄弟?震えているのか?」
「み、みんな……に、逃げろ!逃げろ!俺を置いてかまわないから早くっ!」
俺は大声で叫んだ!
「テニ?何を言っている?」
突然悲鳴を上げる聖女クルルン。
轟音が響き渡り、何を言っているのか伝わらない!
大地は揺れ、衝撃が大気を揺さぶる。
そして突然青空に発生する、巨大な流れ星。
長い尾を引き、それは王都を目指し落ちていく!
俺は杖を大地に挿し、弱体装備を解除した。
そして思いっきり破壊の波動を、流れ星に向け放った。
俺の波動は流れ星を包み込み、一瞬で消し去る。
「いったい……なにが……?」
誰かが呟く。
耳鳴りがするほど、辺りは静寂に包まれる。
あの轟音が嘘のようである。
「我の魔力を打ち消す?汝、何者ぞ?」
背後に凶霊の気配。
そう、凶霊としか表現しようのない恐ろしい気配だ。
俺は怖くて振り向けない。
「動いたか、魔王ヲダ……」
背後で勇者キルル・ランダム、ユキが剣を抜く気配。
「未熟な聖女、未覚醒の勇者、賢者は老い、戦士は修行不足……我の敵ではない」
ゆっくりと振り向く俺。
そこには黒く燃える人影があった。
身長3m?禍々しい波動と異形の姿。
周囲の草花は枯れ、樹木は腐り、ボロボロと崩れていく。
こいつ、瘴気の固まりか!?
ライトルはもう倒れていた。
リッチナさんは跪き、肩で息をしている。
「まだいける……」
「ライトル、無理はいけません!」
「聖女クルルン?自分の心配をしたらどうだ?」
魔王ヲダは手を払うように動かす。
それだけで勇者キルル・ランダムは吹飛び、聖女クルルンは血を吐き、崩れるように倒れた。
「悔しかろう?キルル・ランダム、我を倒せる力を持ちながら、覚醒していないとは……くくくっ……聖女は貰っていく、王都で磔刑だ……さらし者にし、みせしめにするハハハハッ」
圧倒的強者。
誰もその場を動けない。
「……おかしいなぁ?おい、ここに我に匹敵する者がいるはずだが?汝は恐怖に染まっておる」
魔王ヲダと目が合う。
虚無の目だ。
そう感じた。
そして俺を見て嘲り、勝利を確信したみたいだ。
……その場にいた全員に恐怖が植え付けられ、俺はスキルで泣き出し、蹲る……はずであった。
ドゲシイイイイイッ!
そんな中、豪快に魔王ヲダを蹴り上げる者が現れた。
「うごおおおっ!?」
ファーファ?
え?やっちゃった!?
やっちゃったの!?
相手悪すぎだよ?
俺以上の化け物だよ?
魔王ヲダを包む黒い稲妻のような魔力が集まり、剣の形をとる。
振り下ろされる禍々しい魔剣。
「無礼者!我を足蹴にするか!」
「ファーさんっ!」
ユキが剣を振るうが、再び吹飛ばされる。
俺は泣きながらジャンプ・アップで魔王ヲダとファーファの間に割り込む。
振り下ろされる剣、掬い上げられるひのきの杖。
ドオオオンッ!
閃光が四方に走る。
吹っ飛んだのは魔王ヲダ。
ユキに習った型を再現する。
ヒュン!
軽く風を斬るひのきの杖。
「……きさま……」
余裕の表情は消え、屈辱まみれの魔王ヲダ。
ここは格好良く決めたいが、泣いているので声が裏返った。
「みゃ、み……ま、魔王、アキ、ア・キュウガ・テニィしゃまだっ!」
「はぁ?」
ヒュン!ひのきの杖が魔王ヲダを襲う!
ここは速攻だ!
と思って攻撃したがこの手応え、魔王ヲダの方がどうも格上のようだ。
「ファーファ!みゅ、皆を安全にゃところへ!」
「させぬ!我の獲物ぞ!」
ぶつかる度に地形が変わり、周囲に被害が出る。
「ファーさん、私は残る!」
「ユキ、ココハアブナイ!」
「ダメだ!少しでもテニイをフォローしなければ!」
「今ノアナタデハ、アイテニナラナイ!」
「それでも!あいつは関係ない子供だろう!私達が巻き込んでしまった!」
魔王ヲダの一撃に弾き飛ばされる俺。
こいつの剣、重くて正確だ!
「どうした?逃げ出さないのか?泣き虫弱虫魔王!」
「!?」
こいつ、俺のスキルを読んだ!?
「我の方が上位のようだなぁ?勇者の剣技か?どれも攻略ずみぞ!」
そう言ってジャンプ・アップをし、キルル・ランダムの前に現れる。
こいつも使うのか!
「勇者キルル・ランダム、お前さえいなければ我は安泰だ、死ね」
振り下ろされる剣。
俺は躊躇うことなく、ジャンプ・アップをし、ユキと魔王ヲダの間に入る。
「愚かな、見逃したこと分からぬか?」
「愚か者はお前だ!これだけの力がありながら!」
振り下ろされた剣は、ひのきの杖を破壊し、俺の身体に食い込む。
剣は更に進み、俺の心臓を斬った。
全魔力を開放した俺は、後ろ腰に手を回し、思いっきり魔王ヲダを薙ぐ。
これならどうだ?ベリナの技、初見だろう?
「相討ちを狙っていたのか……だが残念だな、人の剣ごときでは我は斬れぬ……」
どうかな?俺の剣は王断鳳道、ちょっと特殊だぜ?
「ばかな……古の宝剣?」
そう言って魔王ヲダかバラバラと崩れ始めた。
「あ……あ……わ、我が、我が死ぬ?勇者以外で!?あり得ぬ!あってはならぬ!」
そう言って消えていった。
そして次は俺の番だ。
くそう、まだ死ぬわけにはいかないのだ!
ファーファを置いて死ねない!
地獄の世界から、俺に会いに来てくれたファーファ。
あいつは帰るところがないのだ!
こんなところで死ぬわけには……死んでたまるか!
俺の身体にも亀裂が走り、バラバラと崩れ始めた。
「……ファ……ファーファ……」
「テニサマ……イカナイデクダサイ……」
「ア・キュウガ・テニィ、なんで私を助けた……私を盾に魔王ヲダを仕留められたはず!」
はは、それは名前さ……ユキ、俺の母親の名だ。
こうして俺は死んでしまった。
闇に吸い込まれ、意識が拡散する……。
そして気がつくと、死者の列に並んでいた。
……あれから、皆どうなったのだろう?
知る術がない!
とぼとぼと歩いていると、赤鬼さんと青鬼さんが話し掛けてきた。
「帰ってくるのが、早いぞ!」
「どこでしくじった?」
「こんにちは……色々しくじりました」
「どんな人生だった?」
「駆け抜けましたが、何もしていません……悔しい人生でした」
手の中のコインは金貨が1枚、銀貨が2枚、銅貨が1枚。
俺は、何かを残したかな?
何かを成し遂げたのかな?
皆、どうしているのかなぁ。
そして、ガチャを回す俺。
ファーファ……。
未だに泣き虫スキル所有か?
「死んだらスキルはリセットされるぞ」
「そうなんですね赤鬼さん」
「スキルも記憶もな」
「でも青鬼さん、覚えている人達、いますよね?」
「ああ、魂は忘れん。大事な思い出もイヤな思い出も」
コロン。
出たスキルは銀貨1枚目が泣き虫だった。
そして銀貨2枚目は弱虫。
銅貨は一枚だったが、このクレーンゲーム、弾いてカプセルが2個落ちた。
勿論、でたスキルはちょっとだけ運がいい×2だ。
そしてここで俺は驚愕した。
目の前に魔王ヲダがいたのだ。
「よう!」
「え?」
「ここでは同じ死者だ、仲良くしようぜ」
「え?」
できるだろうか?
「お前には感謝している。俺のループが終わった。俺はあそこで聖女クルルン一行を皆殺しにし、あの世界を滅ぼすルートしかなかったんだ」
「え?」
ループ?こいつループしていた!?
「俺は新しい世界に行く、更に過酷な世界だ」
「ち、ちょっと、本当に魔王ヲダなの?明るいと言うか陽気というか?」
「分かるだろう?間違いなくヲダだよ、元々はこんなヤツなのさ。あの世界には邪神がいる。俺はそいつの影響でダメになっちまった。おそらくお前の使命はあの邪神討伐だ」
「えええっ!?」
もっと怖い奴がいるの!?
「俺のいない世界、今度はお前の番だ。好きに生きろ!じゃぁな!」
「ど、どこへ?」
「言っただろ?更に過酷な世界、新しい世界さ」
そう言って彼は閻魔大王の元へ歩いて行った。
何かを話しているようだが、俺には聞こえなかった。
そして彼は、地下へ階段を駆け下りていった。
次は俺だ。
閻魔大王さまに対峙する俺。
「どうであった?」
「悔しい、の一言です」
「そうか、皆の者!地震に備えよ!」
俺はガチャを回す。
ゴゴゴゴゴッ。
死者の世界を揺るがす地震。
《SSVB:スーパー・スペシャル・ヴィクトリー・ブラック:称号、黄昏の破壊神ラグナローク、3千世界を破壊しても罪に問われない。魔王からスタート》
「……またあの世界ですか?閻魔大王さま」
「それを教えるのは禁じられておる」
「俺が出すはずだった特典、何だったんですか?」
「それも教えるのは禁じられておる」
「……では、行ってきます!」
俺は決意も新たに、死者の階段を駆け登る。
途中、初心者のガチャがあった。
ファーファではない。
新しい、ピカピカのガチャ。
俺は冷ややかに黒鬼さんと、鬼女さんを見る。
彼らは何か言いそうだったけど、俺は先を急いだ。
船に飛び乗る俺。
「おや、お前さんかい、そんなに急いでどうされた?」
「戻りたいんだ!早く、あの世界に!」
俺には確信があった。
必ず、あの世界に転生すると。
「落ち着け、急がず、慌てずじゃ」
分かっていますっ!
分かってはいるのですがっ!
のんびりしてはいられないっ!
そして、船は霧に包まれ、何もかも忘れてしまいそうな香に包まれる。
……あれ?
おや?
俺は何をこんなに慌てているんだ?
俺……僕は?
何を焦っていたのだ?
ああ、いい香りだ。
みんな忘れそう!
いいことも、悪いことも!
僕は香に包まれ、全てを忘れた。
……ん?
気がつくと、森の中。
「……どこだ?ここ?」
あ!?
「杖?」
手には杖が握られていた。
右の腰には短剣か?
鞘に文字が?
「花鳥風月?」
左腰にも短剣が腰紐に差し込んであった。
マントにブーツ、革のような手袋。
それに……これ眼鏡か?
目は、悪くないようだが?なんだこれ?
ん?お尻の辺りがモゾモゾする。
俺はボロボロの白いワンピースを捲り、下着を確認する。
「なんだこれ?」
それは黒のレースとフリルの凝ったパンツで……いや俺、子供だし、これはどう見ても大人のパンツだろう?
……あ、俺……私、女の子だ。
女の子一人、こんな薄暗い森の中で何を?
周囲を眺めると、マップ表示がされた。
「なんだこれ?地図?」
だいぶ歩き回っているような地図だな?
これはいったい?
!?
何かが凄い速さで近づいてきている?
私は怖くなり、気配を消し、やり過ごすことにした。
ガッチョン、ガッチョン!
?
機械音?
まさか……ゴーレム!?
一気に好奇心が吹き出た!
ロ、ロボット!?
ごそごそっ。
ひょこっ、と大木の横から現れたそいつは……なんだこいつ?
「バクテリオファージ?」
思わず声が出た!
そして目が合った。
いや、こいつの目がどこか分からないけど、多分、目が合った。
お互い固まる。
「テニサマ……」
「?」
誰だそれ?私の名前?
じっくりと見てみる。
このゴーレムボロボロだな。
欠損、破損、亀裂に異常音、よく動いているな。
「……アイニキマシタ」
「私に?」
「ハイ」
「悪いけど思い出せないの、あなたは?あなたの名前は?」
「ファーファ」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
お、おもいだしたああああああああああああああああああああああああああっ!
「ファ、ファーファ!俺だよ!僕だよ!テニイだよ!」
コクコク。
激しく頷くファーファ。
「ぶじだったんだぁ!」
泣き虫スキルが発動する前に、私は大泣きした。
こうして装備品を引き継ぎ、強くてニューゲーム、俺の……私の二週目が始まった。
ただ困ったことが一つだけあった。
「どうしようファーファ、俺、今回、女の子だよ!」
「テニサマ、カワイイ」
「いや、そうじゃなくて!」
「?」
「トト、ト、トイレ……とか……さ……」
ドゲシイイッ!
ファーファ?女の子蹴ったらダメでしょう?
泣き虫弱虫魔王さま 完
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
これにて完結となります。
が、このお話、作っていて大変作者は、面白かったです。
え?自画自賛?
まあそれでも、作者が楽しめないと、お話しは完結しませんから。
できれば、続編も作ってみたいかなと思っております。
あ、思っているだけですからね。
それでは読者のみなさま、よいお年を。
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よろしくお願い致します。