1 誕生編
初めましての皆様も、常連の皆様もこんにちは。
MAYAKOです。
一話が一話が長いお話ですが、よろしかったらご一読ください。
作 MAYAKO
挿絵 源水
ここは死の世界。
長い長い、とても長い行列に、僕は並んでいる。
みんな死んだ人だ。
多分。
なぜなら、僕は死んだ自覚があるし、ここは生きた人の世界ではない、と本能が訴えている。
とことこ歩く。
皆、同じデザインのボロボロの白い服。
大人もいれば子供もいる、この姿は生前の姿だろうか?
空は暗く、太陽も月もない、勿論星の姿も。
だが、辺りは殺風景ではなく、以外とカラフルである。
イヤ、騒がしすぎる!
列の両脇に出店が沢山並び、赤鬼や、青鬼、なにやら異形の怪物達が声をあげ、呼び込みをしている。
周囲はボンヤリと明るく、出店周辺は人魂?鬼火?らしきモノが煌々としていた。
僕の手には、大きなピカピカな金色のコインが一枚と、小さな銀、銅のコインが数枚あった。
どうも、この鬼さん達はこの小さなコインが欲しいらしく、商売をしている。
「銀貨1枚!銀貨1枚!たったの1枚で運が爆上がりだ!さあ回してみようか!」
「銅貨1枚!銅貨一枚が銀貨に!ハズレなし!さあこのレバーを引いてみよう!」
延々と続くガチャ。
色形、それぞれで大きいのもあれば、小さいのもある。
見たこともない、変な形のガチャもあった。
そして、しきりにガチャを進める鬼達。
なんだよ、これ!
誰か説明してくれ!?
「少年、死んだの初めてかい?」
「え?」
イヤイヤイヤ誰だって死ぬのは初めて、1回でしょう?
2回は死なないはず。
1回死んで終り、では?
「ああ、言い方が悪かったなぁ」
人のよさそうなお爺さんである。
やはり白い服に手に硬貨。
「ワシは死んだの5回目で、未だにこのループから抜けられん」
「?」
はて?ループとは?
「この列の先端には、閻魔大王さまがいてな……」
閻魔大王!?和風ですな。
確か、閻魔大王さまって?
「ああ、そこで地獄行か、極楽、天国行か決めるんですよね?死後裁判?」
ジャジタイム!おおっ、本当にあるんだ。
「いやいや、違うぞ?」
「?」
はて?どう違いますねん?
「地上こそ、天国であり、地獄だ」
「は?」
「それを決めるのが、ここ死後の世界だ。私がして見せよう、よく見ておけよ?」
ふんふん。
「ワシは生前、ピアニストじゃった。結構有名だぞ」
「ふーん」
興味無し。
「アニメの『風の中に立つ君と僕 その歌』知っているか?」
「!」
「お、そのお顔は知っているな?」
「大好きなアニメです!」
「音楽担当はワシじゃ!」
「ええええっ!?」
アニメ界のレジェンド、海外の評価も高く、音楽一筋の偉人!
名前だけの存在で、実はAIでは、と言われるくらい謎の人物!
突然、目の前のお爺さんがキラキラして見えてきた。
まあ、人とはこんなモノだろう。
「ワシはまだ音楽の世界で活躍したかった、やり残したことが沢山あるのじゃ」
「いいねぇじいさん!俺の音楽ガチャしてみないか?いいのあるぜぇ!」
ひょい、と横から出てきた青鬼さん。
「よし、銀貨一枚じゃ!」
「おお!さあ、ここに銀貨を!」
お爺さんは銀貨をスロットに滑り込ませ、レバーを回した。
ガチャガチャ!
コロン。
出てきたのは金の玉!
SSRと彫ってある!
「おおおおおおおっ金!それもSSR!?よかったなぁじいさん!早く開けてみてくれよ!」
お爺さんは震える手で金の玉を握り締め、カチリ、と捻り、SSRを開放する。
どこからともなく声がした。
綺麗な声で、周囲に響き渡る。
《SSR:スーパー・スペシャル・レア:音楽限定:師事無効、絶対音感、即興全て名曲、生涯聴覚健全、運搬による楽器の破損、盗難無効》
なんじゃこれ!
チ、チートすぎるっ!
「さあ次は楽器だ!どうする?続けるか!?」
「ワシとしては、ウッドベースに惹かれるのだが」
「お?銀貨最後の一枚、ここで使うか?」
「使うよ」
「選択?」
「銀貨、銅貨は貯金ができるのじゃ」
「!」
貯金?どこに?
ん?あれ?
「お爺さん、他の人に比べて硬貨が少ないけど?」
答えたのは青鬼さんだ。
「それはこの爺さんが、新しいことに何も挑戦しなかったのさ」
「新しい?」
「銀貨、銅貨は人生でチャレンジした分だけ増える。ピアノ一筋で、それ以外ほとんど何もしなかった。いいことも、悪いことも!」
「え?青鬼さん、悪いことをしても硬貨は増えるの?」
「ああ、増えるぜ、ただし黒い銀貨、黒い銅貨になるがなぁ」
ゾッ、とした。
青鬼さん、笑った?鬼が?まさか!それに黒い硬貨?
一体、その硬貨でガチャ回したら、何が出るんだ!?
それに、悪いこと?基準はなんだ?
「さあ、願え!想え!その想い、萌えを示してみろ!」
青鬼さんが叫ぶ。
ガチャガチャ!
コロン。
SR?
《SR:スーパー・レア:楽器リコーダー、血の滲む努力でチェンジ可》
は?
リコーダー?
リコーダーって、確か小学校の時、吹いたかな?
あれのこと!?
おい、これ、スキル、活かせるの!?
「リ.リコーダーじゃと!?」
とてもとても、複雑な表情である。
「お、お爺さん?」
「つ、次は銅貨じゃ!」
お爺さんの目に、怪しい狂気の色が浮かぶ。
ヨロヨロと歩くと、次に現れたのは、クレーンゲームだ。
「こ、これは、銅貨専用じゃ」
並んで見ていると、一つも取れない。
半透明のカプセルに、紙が入っている?
これ、アームの力が弱すぎる!
それに、周囲のヤジも酷いモノだ。
注意しないの?鬼さん達!
あ、また滑った!
掴んで、持ち上げきれないではないか!
なんだよこれ!
お爺さんの銅貨は3枚。
最初の一枚は掠っただけだった。
次はカプセルにぶつかっただけ。
これは酷い。
「お爺さん、俺が合図送るから、いいね」
「お、おう、頼むぞ、少年!」
ヤジの中で声を送る。
このゲームはボタンを3回押すタイプだ。
1回目が左にアームが動く、2回目が前方へ、そして自動でアームが降りて、3回目でキャッチ。
よし、ちゃんと見た!
震える手でボタンを押すお爺さん。
ウイイイイイィンと動き出すアーム。
「はい!」
俺がかけ声を掛けると、お爺さんがアームを止める。
「アームがぶらぶら動いている!止まるまでボタン、押さないで!」
「お、おお、分かった!少年」
見ていたけど、このカプセル、重心が、なんか変。
「はいっ!」
2回目のボタンを押すお爺さん。
ここだ!
「はい!」
周囲が笑い出す。
「少年よ、これでは上手く掴めないが?」
「いえ、これでいいです!」
アームは自動で降りていき……!
「はい!」
ポチッ!
カプセルの上部を軽く掴む!
コロン。
「ああああっ!」
落胆の声が、お爺さんの口から漏れる。
更に笑い出す周囲の亡者達。
ところが、である。
転がったカプセルは、コロコロと転がり!
ガコン!
ふふふっ、やったね!取れた!
カプセルゲットオオオオオオッ!
「おおおおおお!」
嘲笑は、驚きの歓声に切り替わる。
カプセルを掴むお爺さん。
何が出る!?
震える手でカプセルを開ける!
《SR:スーパー・レア:金運上昇。この金運は生涯上昇し続ける》
「おおおおおおおおっ!?」
更に高鳴る歓声!
よかったねええっ!
お爺さん!
資金ゲットオオッ!
「少年!礼をいうぞ!ありがとう!ありがとう!」
なんだか恥ずかしくなる俺。
ありがとうなんて、生前、聞いたこともないや。
机から落ちた鉛筆、消しゴム拾っても、触るなバイキン!気持ち悪い、とか、消しゴム使えない!お気に入りだったのに!とか言われていたし。
「さて少年、金貨じゃ!金貨、これで全てが決まる、見ておれよ!」
ツバを飛ばし、叫び出すお爺さん。
いつの間にか列のいっちゃん前になっていた。
目の前には、生前、本やゲーム、漫画やアニメで見たことのある閻魔大王さま。
そのまんまである。
ぎろっ。
ひっ!
睨まれた!?
「初回か?初回限定の特典、今月はなんだ?牛頭よ?」
「ええっと、銀貨10枚、銅貨30枚追加……」
え!?
「それは先月じゃ!」
私が固まっていると、馬の頭の怖い番人さん?が言葉を挟む。
「大魔王さま、まずはこちらのご老人が先かと?」
ぺらぺらと何やら大きな本を捲る閻魔大王さま。
あ、背表紙が見えた!
通信簿?
なんだそりゃ?
「おお、そうであったな?おい、きさま、ちゃんと順番に並べや!バチ当てるぞ、ゴラァ!」
ひいいいいいいっ!
「わ、わ、私が案内しました!こ、この少年は初心者です!」
「だからなんだぁ?あん?」
「し、死後のシステムが分からないだろうと思い……お、教えていました!こ、少年は知らないのです、何卒ご容赦を!」
お、おじいいさああああん!フォ、フォローありがとううっ!
「フン!余計なことを!まあよい、さあ金のコインを使うがよい!」
巨大な、見上げるようなガチャ。
どうやら、金のコインはここでしか、使えないみたいだ。
お爺さんは震える手でコインを投入。
ガチャガチャ!
コロン!
銀?
Rの文字、レアだ。
「……レアか」
落胆?
「どうしたのお爺さん?」
目に見える失望感。
「金貨は最低でもレアなのじゃよ」
ハズレ無しってこと?でも?
震える手でお爺さんはカプセルを取り、カチリ、と開く。
声が響く。
『R:レア:モブ、全ての職業選択可、血の滲む努力でその職業を極めることができる』
モブ?アンサンブルキャスト?
その他大勢!?
その他大勢がレア?
いやいやいや、レアがモブ?
おかしくないか?
「お、お爺さん、モブであのスキル活かせるの?」
思わず質問が、俺の口から吐き出される。
あ、お爺さん、めっちゃ震えている!
「モブあってこその舞台!モブでリコーダー?」
狂気の目で俺を見るお爺さん。
「全てを収め、生き抜き、今度こそこのループ、無間地獄から抜け出てやるぅ!」
そう言ってお爺さんは閻魔大王の横の階段を駆け上がって行った。
「……お爺さん、元気いいなぁ」
俺の心からの言葉である。
ループから抜け出す?
現世こそが地獄で、ここはループしているらしい。
そこで全てを収め、生き抜いたらこのループを抜けられる、のかな?
うーん、まだよく分かんないや。
ぎろっ!
あ、なんか怖い視線!
「さあ、下がれ、お前はまだ後ろであろう?」
牛頭が注意する。
「く、詳しく知りたいです、教えてください」
勇気を振り絞り聞いてみる。
もう次は勇気、出ないかも。
どうだ?
「ここは独学と決まっておる」
はあぁ?どないしろと?どうやって勉強しろと!?
取説無し?
もう勇気、カスカスだよぉ!
「っではっ、では、み、見ていていいですか?」
めちゃくちゃ怖かったけど、素直に聞いてみた。
「……どうなさいます?大王さま?」
「初心者であろう?好きにさせい!ただし、邪魔をしたら潰せ、ガチャは神聖な儀式じゃ!次!」
許可をもらった僕は辺りを散策、見学し始めた。
チョロチョロ。
すごいなぁこんなに人、死んでいるんだ。
ごそごそ。
ガチャガチャ!
ゴロン。
《R:レア:モブ、全ての職業、人生選択可、血の滲む努力でその職業、人生を極めることができる》
チョロチョロ。
結構、若い人も多いぞ、まあ、若いっちゃ僕も若かったけど。
きょろきょろ。
カチカチッ!
コロン!
《R:レア・モブ、全ての職業、人生選択可、血の滲む努力でその職業、人生を極めることができる》
チョロチョロ。
10人ほど見ているけど、皆モブばっかりだ、この金コインガチャ、おかしくね?爆死?
10連全てモブ?
100連で何が出る?
きょろきょろ。
ガチャガチャ!
ころん!
《R:レア:モブ、全ての職業、人生選択可、血の滲む努力でその職業、人生を極めることができる》
チョロチョロ。
モブ以外、入っていないんじゃないのかな?確率表とかないのかしら?
きょろきょろ。
あ、閻魔大王さまと目が合った?
「ごらああああああっきさまああああっ!ちょろちょろ、キョロキョロうざいんだよっ!
もうよかろう!さっさっと並べええええっやあ!」
ひいいいいいいっ!
「……」
俺はフリーズした。
「ゴラッ!どうした?あん!潰されたいか?」
「大王さま、この者、そそうしております」
「は?な?」
「……失禁しております」
「き、着替えさせろ!」
この歳になってお漏らしとは……いや、だって怖かったんだもん!
僕は赤鬼さんと青鬼さんに両腕を摘ままれ、捕獲されたエイリアンみたいに引きずられ、怪しげな小屋へ、なかば強引に連れ込まれた。
「やさしくしてね?」
「アホか!さっさと着替えろ!俺達相手に、きさま、度胸あるな?」
「あはははっお前、面白いな?シャワールームは奥だぞ」
おお、新発見!鬼さん、笑うんだ!
それプラス、シャワールームがある!
血の池地獄に落とされるかと思ったよ。
こわいお顔の割には、親切である。
綺麗すっきり、着替えもOKである。
すがすがし。
いとおかし。
死の国だけど。
あ、鬼さん達もたばこ吸っている!
いいのだろうか?
勤務中では?
ここ、喫煙所?まあ、知らんけど。
そして皆、気分一新!
怪しげな小屋から、すっきりして出てくる3人。
目の前には俯き、虚ろな目で、ヨロヨロと歩く死者の群れ。
なぜか、僕は……俺は悔しくなった。
いやこれは悲しい、か?
「赤鬼さん、青鬼さん、ステキだったわぁ」
うるうるした上目使いで、見つめる。
「!!!!!!」←赤鬼さん。
「!!!!!!」←青鬼さん。
「!!!!!!」←死者の群れ。
あ、死者の群れ、目を見開いてこっち見た!
なんだ、ちゃんと感情あるじゃん!
死んでいるかと思ったよ、死んでいるけど。
「き、きさま!なにを戯けたことを!」
怒る赤鬼さん。
「がははははっこいつ面白いっ!ますます気に入ったぞ!」
笑う青鬼さん。
赤鬼さんと目が合う。
こえー目だ。
怒られるかな?
「お前、幾つで死んだんだ?」
「15」
「そうか」
青鬼さんが睨む。
こえーです。
「どんな15年だった?」
「不運の固まりみたいな15年」
まあ、死んでしまったし、僕にはもう関係ないことだ。
思い出しても悲しくて、虚しくて、悔しいだけだ。
そんな人生だった。
「病気か?」
「信号待ち、黄色い帽子の女の子、4?5?歳?野良猫を撫でている」
「ほう、それで?」
「ネコ、かわいいな、と思った」
「女の子じゃないのか?」
「いやいや女の子も見ていますが、普通に可愛いと思うだけで、変な趣向はありませんよ?そこにミサイルがやってきた」
「「は?」」
「ご老人の運転する普通乗用車。電気で動く自動車は駆動音が小さく、危険回避しにくい。咄嗟に僕……俺は女の子と子ネコを掴みあげ、万歳した」
「逃げなかったのか!?」
「ネコ、好きなんだ」
「子供はついでか?」
「うん、乗用車は僕の腹に突っ込み、右手のネッコと左手の黄色い帽子の女の子は無事……だったと思う」
固まる鬼さん達。
「あの2人、怪我しても、そこまで酷くなかったと思う。閻魔大王さまに聞いたら、話してくれるだろうか?あの2人、いや1人と一匹、どうなったか……」
青鬼さんが赤鬼さんを見る。
赤鬼さんは、何かを考えているようだが?
赤鬼さんが呟く。
「少年よ、ネコも、その女の子も無事だ」
「え!?」
「今のは赤鬼の独り言だ、さあ行くぞ」
目の前には相変わらず長い死者の列。
「次の2人をよく見ておけ」
赤鬼さんが僕を見ずに呟く。
「あの男女だ」
これも独り言?
青鬼さんの視線の先には、狡猾そうな黒縁眼鏡のお爺さんと妖艶な、その、あの、バストがとんでもなく大きな女性がいた。
この2人、目が鋭く笑っていない。
お爺さんは、口元涼しげで、口は笑っているけど、目は野獣のようだ。
お爺さんが、ガチャの前に止まる。
あ、銀貨だ。
ガチャガチャ!
コロン。
SSR?
《虚言と得意とする。その嘘は死してバレるか、謎に終わる》
!
なんだって!?銀貨でこのスキル!?
ガチャガチャ!
ゴロン!
また銀貨?SSR!?
《人を魅する。呪縛級であり、その魅力から逃れることは難しい》
何これ、マズくないか?
え?また銀貨だ!
SSR!
《健康で長寿、100歳を越える。大病は1度だけである》
「よく見ておけ、金貨だ」
この人、銅貨を持っていない!?
のどが渇いてきた。
このお爺さん、強運?いや、なにか憑いていないか?
「お前か、どうであった地上は?」
「地獄でしたよ、閻魔大王さま」
閻魔大王さまと顔見知り?これだけの人がいるのに?
金貨を使い、徐にガチャするお爺さん。
ガチャガチャ!
ゴロン!
《SSR:スーパー・スペシャル・レア:政治家、確定。血の滲む努力でその職業、人生を変更、または極めることができる》
うそだああああっ!最悪じゃん!このお爺さん!
「ここからだ」
え?
震え出すお爺さん。
「またか……また、前回と同じか!ワシに何を求める!?政治家!?またあの地獄に戻るのか!?」
え?
「くっそおおおおおおっ!今度こそまともな人間になって、善政を敷いてやる!スキルを越え、この無間地獄のループを終わらせてやるううううっ!」
そう叫んでお爺さんは一歩一歩、階段を踏締め登って行った。
呆然、である。
「何か、掴めたか?少年」
「さあ次はあの女だ」
銀貨だ。
ガチャガチャ!
コロン!
金がでた!
《SSR:スーパー・スペシャル・レア:尽きることのない優しさ、尽きることのない思いやり、尽きることのない献身》
え?
尽きないの?これって?
苦しくないか?息抜きできない?
咄嗟に赤鬼さんを見る。
赤鬼さんは女の人から目を離さない。
「私は……散々男に貢いで、捨てられた。夜の街で働いて、病気を移され、苦しんで死んだ。その私がこれ?このスキル?」
ふらふらとお姉さんは閻魔大王さまの元へ向う。
「さあ金貨を使うがよい!」
このお姉さんも銅貨を持っていない!
「……」
目は虚ろになり、その動作は機械的で、人形のようだ。
無言で金貨をスロットに差し込み、ガチャを回す。
ガチャガチャ!
コロン!
《SSR》
!!!!!!!!!!!!!!!
何が出た!?
《サキュバス》
えっ!?
《大成すれば夜と闇の女王、人、敵う者なし。努力により、その運命は大きく変わる》
「わ、私が淫魔!?もう、恋愛はこりごりなのに!?なによ!このガチャ!」
これは?
お姉さん、止まった!?
だ、大丈夫かな?
これ、やり直しできないよね?ガチャだし。
「う」
う?
「うわあああああん!もう!こーうなったら、来る男、女、全て誑かして、性欲だろうとお金だろうと、すべて!皆!搾り取ってやるんだからああああっ!」
綺麗なお姉さんは、ゆっさゆっさと胸を揺らし、階段を駆け上がって行く。
逞しい!?
僕は少しだけ、このお姉さんを応援したくなった。
不謹慎だろうか?
それでも、頑張れ!と言いたくなった。
僕の母さんに、そっくりなのだ。
いや、胸じゃなくて、その生前の暮らしが。
ああ、そうだよ、僕は誰が父さんか分からない人生だったんだ。
母さんは、病気で死んだ、僕が12歳の時。
大嫌いだったけど、大好きだった母さん。
……ここに来て、どんなガチャを出したのだろう?
「さあ少年、お前の番が来たぞ!銀貨を使え!」
赤鬼さんが促す。
「ほう、銀貨2枚、銅貨6枚か」
青鬼さんが確認する。
「金貨だけで済ませたいけど、駄目かな?」
「譲渡はできん、破棄も駄目だ、ただし、貯金はできるぞ」
?
赤鬼さんのお顔が更に怖くなる。
どういうことだ?
貯金は、しない方がいい?
次の人生のガチャで、より多く回せるよね?
ん?連続爆死の可能性?
ここは皆、使い切った方がよくないか?
「……勝負!」
僕は震える手で、銀貨をスロットに滑らせた。
ガチャガチャ!
コロン!
C?
《C:コモン:泣き虫、血の滲む努力で変更可》
え゛?
「ぷ」
「あ、赤鬼さん!今笑ったでしょう!?」
「鬼は笑わないぞ?」
嘘つけ!さっきも笑ってたじゃん!
あ、あれは青鬼さんか?
「ぎ、銀貨はもう一枚あります!」
そういって血気盛んにガチャを回した。
次!こ!そ!わっ!
ガチャガチャ!
ころん。
《C:コモン:弱虫、血の滲む努力で変更可》
うそだろおおおおおっ!
おい、どこのソーシャルゲームだっ!
詰んでね?詰んでね?
ひどすぎるううううううっ!
血の滲むってなに?血の滲む努力ってなに!?
努力なんてしたことも……いや、やろうとしたことさえ、ないんですけどおおおっ!
え?人生終了?
死んでる今で、もう終了!?
つ、次は銅貨だっ!
「おい、少年、熱くなるな!お前現世で課金地獄作っていなかったか?」
ぎくっ!
ふらふらと、クレーンゲームを目指す。
握り締めた手の中には、銅貨は6枚。
ぜ、ぜったい、いいヤツを掴み取らなければっ!
「落ち着け、よく見てボタン操作しろ!」
赤鬼さん、親切?
「は、はい」
それでも心拍数は爆上がりである。
僕は……俺は勇気が欲しい!
積極性?そんなのが欲しい!
弱虫や泣き虫を吹飛ばすくらいのスキル、熱望!
深呼吸を一つ。
大声を出して宣言する!
「俺は!弱虫や泣き虫を吹飛ばすくらいのスキルを熱望する!」
盛り上がる周囲!
「おおおおお!俺達もだぞおお!」
「頑張れ!がんばってえええっ!」
声援が湧く!
握り締めた銅貨をスロットに差し込む。
銅貨1枚目!
「あっ」
アームはカプセルを少しだけ引き寄せて終わった。
景品の落し口はまだ遠い!
あと銅貨は5枚、慎重にしなければ、一個でいい!
お爺さんの時は、上手くいったのにっ!
一個でいいんだ!何か特別なヤツを!
コロン!
「あっ!」
届かない!
この繰り返しで、とうとう銅貨は残り1枚となった。
でもこれ、当たるだけで落ちそうである。
ポチッとな!
!
アームは見事に!
え?
外れた!?
そ、んなぁ!
あっ!?
開いたアームは目的のカプセルではなく、別のカプセルを弾いた!?
「ああああっ!」
弾かれたカプセルは連鎖して……コロコロと……や、やったああああっ!
「おおおおおおっ」
響めく周囲!
なんと!に、2コも!2コも落ちたのだっ!
やった!やった!
取り出し口からカプセルを取り出す。
て、手が震える!
赤鬼さんを見る。
神妙なお顔である。
青鬼さんを見る。
落ち着いたお顔である。
「や、や、やったああっ!」
さっそくカプセルを開けてみる。
うう、手が、手が震えるっ!
パチン、乾いた音と共に開くカプセル。
《C:コモン:ちょっとだけ運がいい、確定》
は?
は?
一気に冷める熱。
これ?
「ぷ」
「あ、赤鬼さん!今笑ったでしょう!?」
「鬼は笑わないぞ?」
嘘つけ!さっきも笑ってたじゃん!笑ったじゃん!
「カ、カプセルはもう一個あります!」
怒りを滲ませ、カプセルを割るように開く!
パチン、乾いた音と共に開くカプセル。
《C:コモン:ちょっとだけ運がいい、確定》
周囲が大爆笑する。
うそだろおおおおおっ!
おい、どこのゲーセンだっ!
ひどすぎるううううううっ!
他の鬼さん達も笑っている?
こ、抗議します!
ちょっとだけ運がいい×2?
だけ?
コモン?連続?あるあるすぎるだろうううううっ!
何このカプセル!
みんなああああっ注意しろおおおおっ!拡散希望!
あ、待てよ?みんな笑っているってことは、ご存じ?
青鬼さんを見る。
赤鬼さんを見る。
2人とも、笑いを堪えて目を逸らした。
おい、僕の人生って!?
もしかして、おわた?
ここで、もう?
生れる前に!?
泣き虫で、弱虫で、ちょっとだけ運がいい×2?
「さあ、次は金貨だ」
閻魔大王さまが静かに言葉を発した。
したくねええええっ!
もう一回言います。
したくねええええっ!
人生で始めて、ガチャしたくないと思った。
「抗議したいです」
「却下である。ただし、お前は今回初めてだ、特典がついておる」
え?
ガチャ100連無料とか?
いや、ちょっと待て、泣き虫とか弱虫が100連、連続だったら、もう生れる前に人生終りだぞ!いや既に俺はもう終わっている気がするんですけどぉ!
現世、行きたくありませんっ!
「馬頭、今月の特典!」
「はっ、今月の特典は、決して裏切らない人生の共、1体です」
え?
「聞いたか?お前は次の人生で、決してお前を裏切らない『何か』がついて回る」
裏切らない?ありえるのか?
「ストーカーですか?」
「ストーカーは犯罪者でお前を傷つける。それにストーカーはお前のためといいながら、自分のことしか考えていない」
「では……犬ですか?」
「ほう、お前は犬を知る者か?確かに犬は主人を裏切らない。まあ間違って噛むこともあるが、あの者達はお前が犯罪者になろうと、巨万の富を得ようと、お前に変わらず寄り添うであろうな」
弱虫で泣き虫で、わんわんと一緒?
僕の人生って?
いや、わんわんか?決めつけはよくない。
何かが待っている、ということにしておこう。
その方が楽しみがあっていいや。
なんせ、泣き虫で弱虫は確定だから。
……生前とあまり変わらないか……な。
いや、俺はちょっどだけだが、運がいいのだ!それも2倍だぞ!
……なんだろう、少し虚しい気がする。
「さあ、金貨を使え!」
閻魔大王さまが凄む。
僕は震える手でスロットにピカピカの金貨を滑り込ませた。
ガチャガチャ。
コロン。
!?
ゴゴゴゴゴゴッ。
地震だ!
震度3?4か?ちょっと揺れが大きいな?
地震で震度をほぼ当てるのは、日本人くらいであろう。
まあ世界は広いらしいから、他にもいらっしゃる、かもしれないけど。
ゴゴゴゴゴゴッ。
へーあの世って、揺れるんだ。
地震もあるんだね。
騒ぎ出す周囲の死者達、沈静化を図る鬼さん達。
「静まれ!もう収まっている!」
「被害は!?」
「賽の河原で石積みが崩れました!」
色々と報告が飛び交う。
が、閻魔大王さまは微動だにしない。
「?」
何を見ている?
「あ!?」
僕の……俺のガチャ!
え?
黒?真っ黒!?
SS……V!?
え?SSRはスーパー・スペシャル・レアだろ?
Vって?
なんだこれ?
ん?辺りが?
周囲から音が無くなる。
皆、静まりかえっている。
赤鬼さんも青鬼さんも、主の閻魔大王さまも静かに黒い球を見ている。
何を出したんだ?ぼ……俺は?
取敢えず、聞いてみる。
「青鬼さん、SSVって、なに?それに、なんで黒いの?」
「なぜSSVが黒なのだ?」
え?知りませんよ、俺、初心者だし。
お、いいね、自然に『俺』と、心で言えるようになってきた!
高校デビューならぬ死者デビューだ。
僕ではなく、俺で行こう!
「SSVは本来プラチナ、ひかり輝いているはずだ!」
輝きすぎて、燃え尽きたとか?
ん?ちょっと待て、これ、僕のガチャだよね?
うわっ!どうしよう?
何かの間違いでは?
あ!きっと異物混入だ!企業ではよくあることだし。
閻魔大王さまに自然と顔が向き、目が合う。
やり直しかな?
ん?
さらに、お顔、こえーっ!逃げ出したいかも。
でもどこへ?
「スーパー・スペシャル・ビクトリーだ」
?
「お前はもう勝者だ」
は?
なにそれ?
この引き、何?
ちょっとだけ運がいい×2でこれ?
不運の固まりみたいな人生だったよ?
なんで今更……
「おい!」
後ろから赤鬼さんが声を掛ける。
「なんすか?」
「なぜSSVが黒なのだ?」
だから知りませんよ、んなこと。
開けよう、考えていても仕方ない。
黒い球をぐっ、と掴む。
「おもっ!」
テニスボールくらいの黒い球は、鉄球並に重かった。
それに深々と刻んである『SSV』の文字。
ダンベル換算で8㎏以上はあるぞ、これ!
持ち上げると、砂のようにボロッと崩れ去った。
え?
そして声が響く。
《SSVB:スーパー・スペシャル・ヴィクトリー・ブラック:称号、黄昏の破壊神ラグナローク、3千世界を破壊しても罪に問われない。魔王からスタート》
は?
もう一回、は?
中二病的名称?
世界は何をしたいんだ?
何を僕に求め……俺に求めているんだ?
C、コ、コモンでいいです。
モブでひっそり暮らしたいです!
「出たモノはしかたない、牛頭、特典のコインを」
閻魔大王さまが深刻なお顔で命令する。
「はっ、こ、ここに!」
牛頭といわれた番人さんは、ピカピカの虹色のコインを持ってきた。
「さあ、これが特典のコインだ、その階段の途中に専用のガチャがある。心して引くがよい!」
「……はい」
「くよくよするな!なにをっ!と勇め!」
一応、励ましてくれる大王さま。
他人事だと思って……まあその魔王って、どんなんだろうって興味あるけど。
「なにか、予備知識、授けてくれませんか?」
「それはお前が人生で掴むモノだ、教えることは禁じられておる」
そんなぁ。
ちょっとだけでも、教えて欲しい。
はぁ、溜息一つ。
ちっとも運、よくねーじゃん!
「頑張って行ってこい!」
赤鬼さんの言葉。
「思いのまま、振舞うがよい!」
これは青鬼さんの言葉。
「では、行ってきます」
と、返事をしたけど、どうなるんだろう?これから?
まるで、世界一、悪名の中学校に初登校する気分だよ!
こうして、ちょっとだけ運がいい×2で、泣き虫で弱虫の魔王が生れた(破壊神の称号持ち)
ご一読いただき、ありがとうございました。
どうでしょうか?
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次回は30分以内に投稿予定です。
サブタイトルは
『地上へ降り立つも、俺はボッチだった編というタイトルで始まるが、なんと友達ができた』です
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