ヤクザと恋してみました。
今日も新宿歌舞伎町は多くの人で賑わっている。その光の裏で今日も私の彼は“仕事”をしていた。
「やめてくれ…!金なら明後日までには何とかする…!」
50代後半だろうか。冷や汗をかきながら後退りしている。
「金、早くよこせ」
男のポケットから財布を引き抜くと
「これしか入ってねぇのかよ」
財布から10万ほどの札をとると銃を男につきつけた。
「命だけは!このとおりだ!」
引き金を引いた音は街の喧騒にかき消された。
「これからデートだってのに、血が付いちまった」
独り言を呟くとタバコに火をつけた。独特な柄のワイシャツには血がついている。返り血をあびたらしい。
「もしもし、今終わった。後片付けは任せた。」
仕事の終わりを告げた電話だった。彼は足早にその場から立ち去った。一番街へ出ると人並みの多さに気持ち悪くなるほどだ。待ち合わせの近くのトイレへ寄り返り血を洗っていた。幸い、着ているワイシャツが赤で返り血はあまり目立たなかった。鏡を見ると顔にも血がついていた。どおりで周りの人が避ける訳だ。トイレを出ると更に人が増していた。金曜日の夕方というのも相まっているようだ。彼女と待ち合わせ時間まであと15分。もう居るのだろうか。彼女はいつも早めに来ていることの方が多い。チンピラに巻き込まれていなきゃいいが。自分の予想が当たっていた。彼女は街のチンピラに巻き込まれていた。チンピラの男の手を掴む。
「何だよ、この野郎!」
チンピラと目が合った瞬間に男は手を引っ込めた。
英龍会のバッチが見えたからだろう。
「すみませんでした!!」
チンピラ達が足早に去っていった。
「大丈夫か?」
振り向くと、彼女は大丈夫と言いながらも足が震えていた。彼のスーツの袖をぎゅっと掴んでいた。
「悪かった、もうここで待ち合わせにするのはやめよう」
そう告げて彼女を抱きしめた。ふわっと甘い香りが漂う。いつもの彼女の匂いに、気を張っていた心が解けた。