止まぬスリリング!
そこに居たのはまるで絵本の中にいたクジラのような、緩く大きく丸を描き、尾をひいた灰色の生きものが空を泳いでいた。
「……!!」
あまりの大きさに、オリヴィエは声を出せないまま口を開けている。先程モニターが映していたのは、今上を飛んでいるあれなのだろうか。
気づけば砂嵐を抜けていて、その魔物と呼ばれたクジラの姿がよく見えるようになっていた。
「視界良好。このまま魔物に見つからないように進んでいく」
圧巻されたままのオリヴィエは、これに飲み込まれでもしたらひとたまりも無い。と、あらぬ想像をし息を飲んだ。
小型飛行機はクジラの下について並行し、気づかれないように進んで行く。
やがてゆっくりとそのクジラとは進路がズレていき、何事もなくやり過ごす事が出来た。
――下には広大な砂漠。上には灰色の分厚い雲。砂嵐は収まり今はただただ静かに風が吹き、穏やかな空旅をしていた。
「ん〜……ん?……はッ!!」
先程まで気絶していたユーゴが目を覚まし、驚いたかのように目線だけ辺りへ泳がせた。
「おはよう王様。視界は良好!全速前進でございますよ〜!」
そう元気にオリヴィエは現状のことを伝えるが、先程までの地獄と変わりすぎている状況に、少し混乱している。
というか、また、いつ、あの落ちる感覚が来るのか。そればかりが気にかかって正気でいられそうにない。
「つ、着く前に目が覚めた……どうせなら着いた時に目を覚ましたかったな……」
ネガティブにそう考えながら、気が遠くなりそうなだ、などと空を見上げる。見事な曇り具合だ。
「まぁそんなこと言ってないで、せっかくの空旅だし楽しいこと考えようよ!」
彼女は無邪気さ明るさ満載に励ました。先程まで気にしなかったが、かなり距離が近い。
というか狭い空間に、やましいことは無いのだが、相当、体が、くっついていないか?!
「あ、あぁええと、そう。そう!楽しいこと考えよう!」
「さっきの事なんだけどね!この飛行機の何倍も大きい生き物がね!」
「あぁいやまって!その話はちょっと無理かもしれない!!!」
ユーゴが気絶している間に見ていた景色を伝えようとしたが、想像豊かで臆病であるユーゴには逆効果であり、颯爽に遮られてしまった。
「えぇ〜、もう、仕方ないなぁ」
――ドゴンッ!
聞き慣れない音とともに、機体は一瞬ぐらつき、まるで石に躓いた時のようなあの焦りが走る。
「なになになに!?どうしたの!?」
先程まで聞こえていたエンジン音すら聞こえておらず、期待の先端についてあるプロペラも動きを止めて仕事をしていない。
これは一体どういうことか……。
「……燃料が切れたんだ」
「「え!?」」
そう。燃料がない。それが全ての原因であり、どうしようもなすことが出来ない事だった。
そういえばイースが、この飛行機が飛び立つ時、定員オーバーと言っていたような。
「資源は貴重な物だ。だからギリギリまでしかいつも乗せていない……つまり、想定されていない人数が乗ればその分早く燃料が尽き……墜落する」
「「「……。」」」
「てへっ!私のせいね!!!」
カンッ!!!
今度は軽い金属音がどこからか飛んできた。次第にその軽快な音数は増え、やがてポツポツと降ってくる雨の音のように機体に音を付けていく。
「ひいぃっ!!!こっ、今度はなんだい!?」
大困惑の中、窓の方から何か影が二、三飛んでいく。
「しまった……!格好の的だ!」
エンジンが止まり、静かにプロペラも止まってただ落ちるだけを待つこの機体は、魔物の格好の的だ。
クジラのとは違う姿の小さな個体。まるで鳥の形をしたぼんやりとしたそれは、鉤爪の様なものを機体に向け、傷を付けんとばかりに飛んできていた。
「何よこれ!ちょっ!わぁっ!」
その鉤爪は窓をも突き破り、中にいたイース達に襲いかかり始めた。
バサバサと音を立て、完全に視界を奪うどころか払い除けるのに精一杯で、手足でさえ取られてしまう。
「二人とも!墜落に備えて受け身を……!」
「痛いってばぁ!嫌ーッ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!俺が王様なんてやっぱ天が許しちゃくれませんでした!すみませんでしたぁぁぁあ!!!!うわぁぁあ!!!」
機体はやがて勢い衰え、無慈悲にもそのまま急降下を始め、三人諸共高度の高い所から魔物の鳥の塊と一緒に悲鳴をあげて落ちて行く……。
不定期更新です。