小さき国王のパイロット
4/15 少し読みやすさを意識し、改行を入れてみました。
――トントンッ
扉のついてない部屋は、壁がノックされる。もちろん金属であるため、持っていた杖で叩く。
部屋の主であるイースはその音に応じ振り向き、来客が国王の側近ビリジトとその国王自身である事を確認した。
「イース、この前話していた件だ。時間になったのでこれからお前を国王様の護衛係に任命する。よろしく頼んだぞ」
頼まれたイースは静かにコクリと頷き、承知した旨を伝えた。
「ではユーゴ国王。私は他に仕事がありますのでこれで。」
「あぁ、ご苦労……様」
しばらくビリジトが立ち去っていくのを見届け、残された二人は金属の廊下を歩き出す。
「ねぇっ!ビリジト今いないから普通に話しても大丈夫だよねぇ?はぁ、良かった、君は元気そうだ」
「あぁ、いつもお疲れでご苦労様だな国王。」
「いやっめてくれよォ!まだ慣れてないんだよその呼ばれ方!」
国王であるユーゴが心許す仲であるイース。ユーゴは見張りも誰もいない所ではいつもこうして王様としての振る舞いをやめ、気を休めている。
「そういえば、今朝オリヴィエが部屋に来た。」
「元気だった?」
「あぁ相変わらずだ、毎日のように街中で騒動を起こしているらしい。オリヴィエが部屋から出ていった後、二人の土方が慌ててオリヴィエの居場所を尋ねにやってきたんだ。きっとまた何かをやらかしたよ……。」
「あっはは!またか〜、ちょくちょく苦情みたいなので便りが来るんだ、『あの迷惑娘を何とかしてくれぇ!!!』って。」
「そこまで来るのかあの騒動は」
思ったよりも大きい騒動になっている事に驚き、イースは、オリヴィエを匿うのもこれからはどうするか考えなければいけないな、と考えた。
そう話しているうちに、階段までを登り終え、目的である小型飛行機の元にたどり着いた。
「少し待っててくれ、最終点検をしてくる」
そう言ってイースは目の前にある小型飛行機の点検作業を始めた。
「わぁ……やっぱすごいなぁ……」
部屋にはあらゆる工具が置かれ、大きな部品やら小さな部品まで整頓されている。いわゆる格納庫のような光景が目の当たりにできただろう。
目の前にある小型飛行機はイースが設計したものであり、そもそもこの国にある飛行機やカラクリ機械の大半はイースが設計しているもので、その凄さを実際に目で見て圧倒されたユーゴは、感嘆の声を漏らすことしかできなかった。
「君のつくる機械はどれも凄いものだね……飛行機とかなんて、この国の重要文化財にまでなるんだから。」
「……好きな事というのもあるが、やれる事がこれくらいしかないからな。」
イースは機械いじりが昔から好きだった。その才能はこうして国のために今日も生かされている。
「よし、大丈夫そうだ。ヘルメットとマスクをしてくれ」
そう言ってヘルメットとマスクをユーゴに手渡し、イースも出発の準備をする。
マスク、とはガスマスクの事である。国の外は微量の大気毒と砂嵐に囲まれており、これを付けていなければ最悪病にかかって死んでしまうのだ。
「準備できたよ」
「わかった、乗ってくれ」
格納庫の壁がじんわりと開かれていき、外の砂嵐の状況があらわになっていく。
二人が乗り込み終わると同時に、何か慌ただしくこっちに向かってくる音が……。
「待って乗せてぇ〜!!!!ひゃほーーー!!!」
ドスンっ!と、後ろに乗り込んでいたユーゴの所へ走って飛んで無理やり乗り込んできたのは、先程の土方二人に追いかけられているオリヴィエだ。
「オリヴィエ!?」
「まて!定員オーバーだぞ!このままでは機体が、あっ」
動き出していた機体を止めることなど出来ず、そのまま定員オーバーである三名を乗せた小型飛行機は宙へと飛び立つ。
「おいコラァーーー!!」
「オリヴィエーーーーっ!!!帰ってこーーーい!!!」
土方の二人は砂嵐へと飛び立っていった小型飛行機へ叫んだが、もちろん戻ってくることなく砂の光景に消えて行ってしまった。
不定期更新です。