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ひたむき  作者: ナトラ
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花、開いた先に ③

 地下の駐車場で木庭と合流した後、三人は車へ乗り込んだ。木庭の運転で坂をゆっくり上り始めると、その先では既にシャッター音が激しく飛び交かっていた。出口付近は人だかりに溢れ、木庭がクラクションを鳴らしても一向にそこを離れる様子はなく、そればかりかさらに車との距離を詰め始めようとしている最中にあった。


「困ったな、これじゃいつまで経っても進めないよ」


木庭がそう漏らすと、香純は眉間にしわを寄せて静かにこう言った。


「私が誘導しますから、待ち合わせの場所は昨日のカフェで、その裏手の駐車場にしましょう」


「それは構いませんが、お一人で大丈夫ですか」


「何とかやってみます、さて、それじゃ行ってみますか」


 香純はそう言うと少しだけ窓を開け、その隙間から彼らに向かって声を挙げた。


「おおい、降りるから離れてください」


 そう一喝したところ、最初こそは全く聞こえなかったのかまるで無反応だった。しかし何度か繰り返しているうち、車の左後方にスペースが生じた。そこでドアを少し開けられるようになったので、香純は窮屈そうにしながらようやく車外へ降りられた。ただ言わずもがな、次の瞬間にはたちまち彼らに囲まれたてもみくちゃとなりながらも、何とか前方まで辿り着いた。


 それから何度となくそう伝え続けたところ、車は少しずつ前進し始めた。そして無事に出られた後でなら質問に答えると言い続けていると、先程までのように無理して押し寄せることはなくなった。やがて地上に出た車は通りに出ると速やかに右折した。そしてすぐさま加速し、その場をたちまち走り去った。その一瞬の隙間から、心配そうに見ている美穂の横顔が香純の視界に入ってきた。


 その後は再びあっと言う間に囲まれて、香純は次々に現れるマイクへこう言った。


「HAYASHIMATU統括補佐の輝来香純です、本日はお忙しい中お越し下さり、ありがとうございます」


まず頭を深々と下げてそう言うと、直後より質問が飛び交った。


「統括の林松美穂さんとは、現在どのようなご関係ですか」


「一部では不倫ではないかとの報道がありましたが、そのことについてどのように思われますか」


 彼らは不思議にも英語ではなく、日本語を話せる記者がほとんどだった。この人たちはここの記者ではないのだろう。香純はそう思いながら一つずつ答え始めた。


「美穂さんは恩師の林松明人社長のご息女で彼女は現在、統括職に従事されています、皆様も既にご存知かと思います、また個人的なことではありますが、私は既に結婚して妻と二人の子がいます、今回の報道内容の全てを拝見したわけではありません、しかしながらやましいことは一切ありません、どうかお引き取り願いたいと存じます、また関係者の皆様に対しては、多大なご迷惑をおかけしておりますことを、心よりお詫び申し上げます」


「何もなかったということですが、お二人が早朝のホテルより一緒に出てきた写真が出回っています、それらについてはどのようにお答えになりますか」


「はい、それはたまたま同じ場所に宿泊しただけのことです、もちろん部屋は別々で、統括がお泊りになられた部屋番号を把握していませんでした、なぜならその日に到着したばかりですので、正式に今の役職を承る前の出来事でした、翌日の朝は打ち合わせも兼ねて一緒に食事しました、ただそれだけのことです」


「しかしその後もお二人で頻繁に外食されているようですね、昨日もカフェで楽しそうにお話しされている映像も入手しておりますが」


「昨夜のカフェもそうですが、近隣の状況を知るという目的がございます、もちろんプライベートで訪れることもあり、そのほとんどは打ち合わせを兼ねています」


「美穂さんについてですが、現在お付き合いされている方がいらっしゃるとのことですが」


「申し訳ございません、プライベートにつきましては発言を控えたいと思います」


 それから同じように質問が何度かあったが、香純はその都度丁寧に返答した。そうして一通りやりとりした後、約束したカフェまで徒歩で向かった。すると彼らもその後に続いてきて、再び囲まれながら移動した。そうした様子を二階の窓で見ていた奥寺が機転を利かせ、数名と一緒に階下へ降りた。そして質問を受け付けると豪語したことで、香純を後方から支援することとなった。


 すると少しずつ香純の周囲から人手が離れ始め、功を奏して事務所前では再び活況となった。ただそれでもまだ周囲に数名が傍にいたが、そのまま肩を並べて目的地に向かった。到着したのですぐに香純が店で一服すると伝えると、数社から正式に取材申し込みがあった。一先ず中へ入り、係の案内でテラス席に着いた。当然のように彼らもその隣の席に座った。そして先程の申し出を正式に断ったものの、構わず再び同じように質問を繰り返し投げかけていた。これでは他の客にも迷惑がかかると思った香純は、とりあえずはトイレに行くと伝えてすぐに席を立った。その途中でたまたますれ違った店員に、切実にもこう伝えた。


「まず、これは何も言わずに受け取ってください、その上で一つだけお願いがあるのですが、裏口を通して頂けると助かります」


 そうして代金を多めに手渡した後、その店員は何も言わずにそれを受け取った。そして厨房の中に一人で入って行き、その後は再び隙間から顔をひょっこりと覗かせていた。またそれと同時に手招きがあったので、香純は足早にそこへ行くとその背に続いて中へと入った。すると料理人たちが真剣に鍋を振う中、その背後を速やかに通り抜けながらやっとのことで外へ出られた。後ろを振り返ると、出口付近で今も数名がこちらを見ている。香純は頭を下げ、彼女たちに感謝の意を示した。するとその様子を見ていた一台の車が、ここでさっと動き出して脇につけた。美穂が後部座席のドアを開け、その直後に木庭の声がした。


「さ、早く乗って」


二人でそう促すと、香純はすばやく車内へ乗り込んだ。そして駐車場を後にして正面の通りへ出た。テラス席に目をやると、記者たちが今も香純の帰りを待ち構えている。その様子を見た香純は咄嗟に窓を全開にし、その場から大声を挙げた。


「皆さん、お先に失礼しますねえ」


 窓から頭を少しだけ表に出してそう言った後、美穂と一瞬だけ目を合わせてから後ろへ振り向いた。車の後部ガラスからその様子を眺めていると、かなり慌てているのかばたばたと動き回っていた。そうした彼らの様子を見ると何ともおかしくなり、車内はしばらく三人の笑い声に包まれた。

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