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ひたむき  作者: ナトラ
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情熱 ⑥

 後日、記名アンケートの結果が出揃い会議で発表があった。さらにこのままでは退職者が増えていき、また店舗も離れていくのもほぼ確実という。それらについて合わせ、湖層から説明があったことによれば、向こう半年以内で会社規模が現在の半分となり、また今後の経営は相当に厳しい状況となる。さらに建設部門の立ち上げについても未だ途中のため、その分の費用捻出も考慮するとここで中止せざるを得ない。つまり現状維持は不可能に近い。仕入先に対しては店舗客数の大幅な変動があり、今後の仕入れ量は当然のように減少する可能性が高いと既に伝えたという。すると早速のように問い合わせの連絡が入り始め、あたかもそれと比例するかのごとく、ライスパンへの移籍を決める店も増え始めた。香純も例外ではない。出荷数が前月比の三割減となっている中、竹清が話を進めた。


「副社長の話によるとそうなった理由として、客数減少が主な原因であることは仕入先に既に伝えたようです、しかし正直言えば、ライスパンによる影響がほとんどです、もはや公表する時期ではないでしょうか、皆さんも既にご存じかと思いますが、今後は先日に社長が提示した、あの計画に移行する準備期間に入っていきます、さらに既にライスパンには正式に断ると伝えてあるのですから、後は皆さんがそれぞれどうしたいのか、それをすぐに実行へ移していくのみだと考えています、いかがでしょうか」


そこで部長統括の貝崎が挙手した。湖層が指名したところ、すかさずこう言った。


「うちの会社はもう、正直言ってかなり厳しいでしょう、私は他へ行こうと思います、今までお世話になりました」


皆にそう伝えて一礼すると、それに続き部下二名も同じようにして退席した。


 その姿を構うことなく見送ると、林松が急に高らかと笑い始めた。すると皆へも少しずつ伝わり、やがて大笑いに変わった。香純もうすら笑みを浮かべていると、しばらくして林松がこう言った。


「皆、お疲れさん、これでまた先へ進んだな、そういえば伝えてなかったが、ミサは会議には出席せずに、当面は向こうのことだけに集中してもらうよ、またその票は俺に委任するということだ」


 香純はここでようやく、全体の意思を掴んだ。つまり、貝崎らが役職を離れてからが本番であることに。


「社長、貝崎部長統括、ライスパンが関わった記録をこれから公表なさいますか」


阪上が笑みを浮かべながら静かにそう尋ねると、林松はその場を立ち上がりこう答えた。


「いや、せっかく調べ上げてくれたが、もうこれ以上は追求しないでいいだろう、何せ本人が一番良く知っているだろうからな」


「そうですか、では、このまま保管しておきます」


「そうだな、お疲れさん」


「さて、じゃあ、本格的な話を進めようか、香純、出荷の減少量は既に聞いた、ところでお前はこれからどうしたいんだ」


「先日、お伝えしたように南方農園のご厚意で、その分をこれから出品出来るようになりました、当面は問題ありません、しかしただ長期に渡るようですと厳しいでしょう」


「なるほどな、それでどうしたいんだ」


「検討した結果、意見を変えようと思います」


「俺の意見に賛成するということだな」


「はい」


 香純の答えを聞き、林松は再び笑い始めた。するとそれに梅川も続いた。


「では、私もそうしようと思います」


「梅もな、よし、これで全員の意見がまとまったわけだ、わはは」


 貝崎と二名は、ライスパンへ対抗する側。つまり梅川の意見に最初から賛成していた。それは会社を想っての意見かと思われた。しかし実はそうではないことは、既に阪上の調べにより明らかとなっていた。貝崎らはライスパンの直中と連絡を取り合う仲で、対抗側に票を投じると言っていたと、別の社員から既に証言を得ていた。そして直接的に部下への誘導もあり、会社を想うからこそ賛成であると各部署へ意見表明していた。しかしアンケート訂正期間が終了と、それと同時に話題を急に出さなくなったという。その報告を受け、不審に思った阪上が本人らへ直接尋ねたところ、あっさり移籍の可能性を認めた。


「さて、それじゃ今後の予定を詰めていこうか、銀ちゃんよろしく」


「はい、ではこれで準備が整ったので、店舗なども含めて早急に関係者への公表を進めようと思います、また資金については今のところは問題ありません、ただしかし総重のことがありますので、やれることから対処していった得策でしょう、では早速、方法について考えて行きたいのですが、その前に香純君の意見を聞いてみたいのですが、どうかな」


「はい、では公表する際に、ライスパンによる業績低下という表現は当然ながら避けた方がよろしいでしょう、仕入先の客数低下とし、その他は加盟店の急激な減少によるものと付け加えて、さらにはそうした変動による退職者が急増した、それが原因とした方がよろしいかと」


 香純は顔を赤らめながら続けた。


「そして各地から電話が鳴り出すでしょう、きっといつかの時のように、これらをうまく対処していないことには始まりません、そしてなぜそうした変動が起きたのかについても質問あるでしょうから、そこでそのことも説明し、そこで計画について公表するというのはどうでしょうか」


 林松は真剣に聞きつつ、半分笑いながらこう答えた。


「いつかの時のようにか、懐かしいな、ま、笑っている場合じゃないが、それは俺も考えたけど、ちと引っかかるんだよ、そうなるかもしれないと予見し、もしそうなった時に対応できるようにするというのが本来だろう、それを怠ったからだ、なんてことになる可能性もある」


「それは確かに一理あります、しかし事実としては、今回のような場合、代表が選んだ答えがそれだったのです、ですからまずは計画を明らかにした方がよろしいかと思います」


「確かにな、まあ、もう少し考えてからにしよう、銀ちゃんはどう思う」


「私もほとんど香純君の意見に賛成です、しかし少しだけ付け加えるなら、私たちの計画を伝える方が先でしょう、そうして意見を募る方がさらによろしいかと」


「うん、で、他はどうだい」


「私もその方がよろしいかと思います」


「梅はどうだい」


「異論ありません」


「常務は」


「同じく、異論ありません」


「そうだなあ、よし、それで行こうか、今すぐ店舗に伝達してくれ、それとこれから混雑が見込まれるからその対応を頼みたい、設備の方は常務、頼めるか」


「はい、直ちに現場へ連絡します」


「よし、頼んだぞ」


 この頃、香純は昔の感覚が戻りつつあった。それに周囲も何となく伝わり始め、当時を懐かしく思った。その後は竹清から計画の詳細を知りたいと提案があり、その後も話が続いた。


「これが完成図だ」


林松は香純へ以前に見せた一枚の用紙を、後ろのホワイトボードに張り付けながらそう言った。


「まずは住居だが、最初は十棟用意する、その周辺に畑と田んぼ、それから直売所も建てる、近くには川があり、そこから水を引き込み大きな池も造る、またハイキングコースもだ、ざっとはまあ、こんな感じだ」


 それに近寄り見ながら、皆がそれぞれ意見した。


「池では釣りも出来ますね」


「ああ、そうだな」


「住居は増やせるのですか」


「もちろん可能だが定住者の人数による、そのため最初はこれだけだ、しかし土地は広いからな、後でも増やそうと思えばいくらでも増やせる」


「住居が円を描くように建っていますが、この中心にある建物は何ですか」


「それか、まあ集会所みたいなもんだ、バーベキューやったり、他にも使えるだろう」


「ところで完成予定はいつですか」


「今年中を目指す、今は夏に入ったばかりだから、後、半年くらいだ」


「直売所は面白いですね、しかし残ると決めた店舗を、これからどのように支援していくのでしょうか」


「そうだな、じゃあ、具体的な話へ移ろうか」


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