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ひたむき  作者: ナトラ
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情熱 ②

 その後二人は、これからの動きについて話し合うことになった。巨大資本を基にした買収を視野に入れているのならば、近く何らかの申し入れがあるだろう。そうした見方は既に林松とも一致している。その一方で、香純はまだ詳細を把握しているわけではなかったので、そうした自由に選択出来ることについては一定の理解を示した。その隣では今も林松と森上が互いに膝を付け合わせ、その後の予定を話し合っている。そのような中で竹清は話始めた。


「もし仮に社長が仰った方法で進む場合、それ即ち各店舗の判断に任せるということになる、元々はそれぞれが独立した店舗だったので再び昔へ戻るのか、それとも企業提携かグループ傘下に入るかは、これからどうぞ自由に判断してくださいということになる、どのように伝えていくのかは、さらなる検討が必要だろう、なぜならうちへ加盟する前の段階で、自ら相談に来て申請した店もあれば、逆にそうではなくてこちらから営業した店もあるからね」


「それは確かに、現に在籍当時とはまるで規模が違うので安易なことは言えません、しかし唐突なやり方は控えた方が良いのは言うまでもないでしょう、ただそうは言ってもそうしたお話を聞く限り、あまり時間をかけていられないとも思います、さらにそのように公表することで自ずと社員の皆さん、それから各店舗でも当然のように意見が分かれてくるでしょう、その時にうまく舵を取りながら、後に収拾へ向かうようにというのが今回の役目でしょう」


「それは確かにそうなんだ、ま、その対策についてはじっくり考えた方がいいね、さて、そこで私からの提案だが、今日の午後にある会議で、あなたは元部長の視点も交えながら皆へ伝えてはどうかな」


「光栄です、ただ湖層さんや、他の幹部の方ともお会いしていません、それに他の農家さんも同様です、そのためその内容は限られると思います、しかし開業前にお世話になった方に、これからお伝えしたみたいと思いますので、もし何かあればまたお伝えします」


「わかった、よろしくね」


 そうして香純はその後すぐ、南方農園へ連絡した。相手へつながると名を乗り、急用と伝えた。その数分後、南方本人が電話口に出た。そして手短に内容を伝えたところ、南方は驚いていた。しかし最近の出荷量からして、何らかの変化を薄々勘づいていたと話があった。そして既に検討し始めているという。元々、南方は個人宅を中心に販売してきた実績がある。そのためもし仮に会社への出荷が止まったとしても、何とかなるだろうという話だった。また同じように提供している他の農家についても、同様にしているところが多数のため、今のところは急でなくても特に問題ないとも合わせて話があった。


 そして南方はむしろ年間契約している香純の方を心配し、この電話の後にすぐ会社へ問い合わせるつもりだとも語った。しかし香純は少しだけ待ってもらいたいと伝え、さらにこのことは他の誰にも公表していない話だと付け加えた。南方はそう聞いた後でも、完全には腑に落ちていなかった。しかし香純がそこまで言ったので、一先ず情報として受け止めた。その最後は香純の出荷分について、これから皆と協力して販売出来るかどうかを検討してみると言い、話を終えた。香純は礼を言って電話を切った。


 その後、竹清へそのことを伝えたところ軽く頷くだけだった。その様子から香純は、結局のところ竹清の考えは今も中立なのだろうと思った。それと同時に、あの一瞬の躊躇いはこのことかもしれないと思い返していた。何せ竹清は自分よりも経験がある元統括で、いくら林松の依頼といえども興味が湧く話ではないのだろう。そう思いながらも、香純は一役買うことについては既に了承していたので、何とか自分でやっていくつもりだと伝えた。するとその話に横耳を立てていた林松が、森上へこう伝えた。


「どうやら決まったようだ、じゃ、俺達はそろそろ帰るわ、何かあったら連絡してくれや」


「はい、お任せあれ、皆さんもまた来てね」


 笑顔の森上へ挨拶し、増永が待つ車へ乗り込んだ。途中で昼食を済ませ、やがて本社へ到着した。その車内では、これまでの出来事を振り返りながら互いの理解を深めた。竹清は当初、香純はなぜ仕事を続けなかったのかといささか疑問に思っていた。しかし栽培への情熱を感じ始めると、なるほど優があれほど熱心になる理由が香純から伝わってきた。するとその後は自然に距離も近くなり、二人は和やかに会話しながら会議室へ向かった。竹清は用を済ませるため先に行き、香純は到着する間際に湖層と会った。入り口前で少し立ち話していると、続けて阪上の姿も見えた。湖層からの紹介があり互いに挨拶していると、さらに奥の方から梅川がやってきた。香純が就任祝いも交えながら挨拶し、その後は皆で中に入った。香純が訪れることは事前に連絡があったようで、皆はそれぞれ席に着くと程なく会議が始まった。そしてまず冒頭で林松が、皆へこう述べた。


「今日は現場からの意見を伝えたいということで、遥々(はるばる)遠いところから香純が久しぶりに来てくれた、香純は元OKAMIの部長で、現在は専業農家なのは皆も知っていると思う、うちへ届く野菜の一部を今も提供してくれて、数年前からの努力がようやく実を結びつつあると思う、ライスパンのことや未来を考える今、香純の意見は参考になると思う、そして竹清はしばらく、国内に留まることになった、これから皆への良きアドバイスを期待している、よし、じゃあ早速、話を聞いてみたいと思うんだが、香純、準備は良いか」


 林松から紹介があった後は拍手が鳴った。香純はその場を立ち上がると十名程の幹部に一礼し、こう話始めた。


「ご紹介ありがとうございます、このような場所は随分と久しぶりで、多少緊張しています、畑の様子や天候を見ながら、今やこうして出荷出来るようになり、大変嬉しく思う次第です、そこで一つ、皆様へお伝えしたいことがあります、私は以前、部長を拝命していたのは御存じかと思います、実は退職前には、既に現在の姿を強く思い描いてました、諦めなかったからこそ今がある、私が唯一自負していることです、そして今は試行錯誤を重ねて方法を見直し、また少しずつではありますが努力の甲斐が見え始めてきました、さらに収穫量も増えてきて、ようやく安全で安心な野菜を作れるようになってきました、しかしまだまだ始まったばかりです、今後、全く予想だにしない天候の変化や、他の出来事により出荷できなくなるかもしれない、そうしたことは常に頭の隅にあります、しかしもしそうなったとしても自分が納得していれば、次につながるという話をしてみたいと思います」


そう言って水を一口飲んだ後、香純は落ち着いた様子のままさらに続けた。


「現在、私の他に栽培している人たちが多くいらっしゃいます、そのためもし仮に、私の畑では収穫できなかったとしても、皆さまへのご迷惑は極めて限定的かと思います、しかし私はなぜそうなったのかと非常に残念で、それらの理由を徹底的に追求するとでしょう、そして何らかの予兆があったのに見落としていたとか、さらに問題点と認識していたのに改善しなかったなど、次々と浮き彫りになるでしょう、同じことを繰り返さないため対策を練り、それでも問題があれば再び最初から考え直すことになります、そのようにしながらここまで来たということ、そのことはまずご理解いただけたらと思います」


「これは余談ですが栽培を楽しむというのは、自分たちだけのことではないと思っています、その過程を通して自分も成長しているという実感を得たい、もしかするとそうした本音が根底にあるのかもしれないと、最近はよく思っています、つまりこのように日々行っていることというのは、野菜にとってプラスになるようにというのはもちろんです、しかしながらそうしながら報酬を得ている中、今はそうした感覚が特に湧いてきているのも事実です」


「そして最後になりますが、社長が仰ったライスパングループについて、私も話を少し耳にしましたのでお伝えします。まず私個人の場合ですと、今後はかなりの出荷数制限、若しくは急に取引停止となる可能性が全くないとは言えない状況かと思います、残念ながら、そうした状況は非常に残念に思います、しかし私は全く諦めるつもりはありません。そこで現在、私は三点から選択できます。一つ目は出荷継続、二つ目は出荷停止、最後三つ目は何もせず他のことをする、つまり栽培を止めて他のことをするというこれら選択肢から、自分が何をするかを自由に選べます、もちろん本音としてはこれまで同様、続けていけたらとは思います、しかしながら自分でそう思っていたとしても、周囲の状況により当然のように変化します。そのような中で二週間に一度、こちらへ呼んでいただけることになりました、そうした状況も含めまして、これから皆さまと情報交換しながら未来を考えていけたらと思います、かなりのブランクがあるためご迷惑おかけするかもしれませんが、一つよろしくお願いします」

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