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ひたむき  作者: ナトラ
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構築 ⑨

 それから二週間後、久しぶりにワイシャツに袖を通してお茶を飲んでいると、起きてきた真純がその姿を見てこう言った。


「お父ちゃん、どっか行くの、かっこいいね」


「今日はおいちゃんの会社に行く日なんだ、今日は田畑さんが来てくれるから、頼んだぞ」


「うん任せて、僕、リンのこと起こしてくる」


 その目をキラキラと輝かせながら、真純は嬉しそうに寝室へ戻って行った。トクは微笑みながら朝食を持ってきて、それらを居間のテーブルの上に並べた。卵焼きと焼き魚、それに漬物とご飯に味噌汁。そして先程収穫した野菜のサラダを載せ、子どもたちを迎えに行った。既に真純がリンを起こしていたところだったので、その後は洗面所で洗顔など済ませた後、それぞれ席に着いた。いただきますと言い食べ始めていると、珍しくも朝から電話が鳴った。音を聞いたトクがすぐに箸を置き、電話に出た。


「はい、輝来です」


「おはようございます、え、お久しぶりです、おかげ様で、はい、代わりますね」


 トクから湖層からと聞き、香純は受話器を受け取った。そして味噌汁を一口飲んでから電話に出た。


「はい、おはようございます、今日向かうのですが、何かありましたか」


 林松が前日に伝えるのを忘れたとのことで、今日は新幹線で来てほしいと湖層から話があった。香純は笑いながら了承し、受話器を置いた。トクにそのことを伝えた後は食事を済ませ、出かける準備を整えた。そして車に乗り込み、近くの駅に向かった。


最寄り駅は通勤時間帯だが、人手はさほどでもなかった。地方のため混雑することもなく、新幹線に乗り込んだ。やがて無事に到着してからは、ホームに降りて出口に向かった。改札を抜けた後、階段を降りて一階にある売店の傍へ来ると、見慣れた高級車が止まっていた。その近くに増永の姿もあり、林松は誰かと電話しているのか電話を耳元へ当てていた。


「あ、香純さん、こちらです」


早速、増永が香純の姿を見つけてそう呼んだ。香純は手を挙げて応えた後に向かった。まさか迎えに来てくれているとは思わなかったので、嬉しさを滲ませつつ再会の握手を交わした。そして車内に乗り込み挨拶すると、こう言った。


「お疲れさん、これからもう一人迎えに行く、付き合ってくれ」


「竹清さんですね」


「そうだ、良く分かったな」


「大体、わかりますよ」


「よし、じゃあ向かってくれ」


 今日は時間が限られているので、車内で打ち合わせをしながら本社へ向かうことになった。やがて竹清が住むマンションに着くと、既に一人で待っていた。この人かと思いつつ、香純はその姿を興味深く見ていた。車が停車すると香純もすぐ、外へ出て挨拶した。


「輝来香純です、初めまして」


「ああ、君が、竹清銀です、どうぞよろしく」


その姿は想像していたよりも凛々しく見え、何とも頼もしい感じが印象的だった。体格はがっちりしているものの、物腰はとても柔らかい。香純はこの時に相当な勢いを感じ取っていた。また竹清も同様、なかなかだと思っていた。竹清は林松へ挨拶し、助手席に座った。また香純も後部座席に座り、増永も運転席に着くと車を走らせた。しばらくお互いのことを話していると、林松がこう言った。


「今日はな、最初にみてもらいたい場所があるんだ、こっから小一時間かかるが、その間に話も出来るだろう」


「どちらへ向かうのですか」


「まあ、着いてからのお楽しみだ」


 そう言って車を走らせている間、例のグループについて意見を交わした。そこで、林松はまず香純にこう尋ねた。


「植永社長によれば、このまま加盟しないなら今後はさらに攻勢が強まるだろうという見方をしているようだ、そのためすぐ知り合いに相談してくれて、その対応を協議し始めたという、だがな、俺はそれを全て断った、つまり事業縮小はもはや事実上確定したというわけだ、そこで香純、何か考えはあるか」


「先日に聞いたばかりですので、あまり具体的には言えません、しかし私は現在もこうして出荷できるのは会社があるからですので、そうすると必然的に、その数は今後減っていくわけですよね」


「それはそうなるな、ただ今のところは、既存店舗の半分程度は残るだろうと見ている、但し、さらなる事が起きないと仮定した場合だ、つまりもっと強まれば三分の一になるかもしれない、それはまだわからんがゼロにはしないつもりだ、どの程度の需要が見込めるかも、今ははっきりと言えない、他に出荷できるならもちろんそれでも構わない、他の仕入れ先についても、今後は同じようにしていくつもりなんだ」


「そうですか、このまま順調に進むかと思っていただけに、少し残念ですね」


「それはな、ただ良い機会なんだ、銀ちゃんはどうだい」


「私が思うに、つまり大手資本による買収準備、これが既に入っているのではないかという点ですね、次の一手は、実際に金銭を提示した交渉があると思います、しかしその時、既に多くの店舗が離れることを決めた後かも知れないので、かなり安い値段を提示してくるでしょう、私はそうしたやり方もあり得ると見ています」


「ううん、それはあるな、そこでだ、里香ちゃんと以前、決めたことがあるんだ」


 皆が注目する中、林松はこう続けた。


「会社形態を止めて、全員が事業主になる」


「何ですって、つまり雇用関係も何もかも止めるのですか」


 竹清は顔を赤らめてそう言った。そんな話があるのかと言いたそうに、助手席からそう声を張り上げた。


「そうだ、何もかもと言っても、全てではないんだ、全員が事業主ということは、皆が集まれば協力関係になる、要するに組合を立ち上げようと思うんだ」


「なるほど、そうすれば管理職もいらないし、会社維持の費用もこれまでのようにはかからないですね」


「そうだ、そしてそろそろ到着する場所が、最初の一歩となるところだ、増、あとどのくらい着きそうだ」


 中心部から離れてしばらく経ち、周囲には山が見えていた。のどかな風景が広がる中、林松がそう尋ねた。


「もうそろそろですね、十分程度かと」


「既に森上が現地に来ている、今日は重機が入っているから、多少騒がしいかもしれんが」


「え、森上さん来てるんですか」


「ああ、あれから毎日のように来て作業してるよ」


「そうなんですか、驚きました」


「ま、俺らのことは伝えてあるから、別に問題ない」


 林松の計画に香純は胸を躍らせていた。一方、竹清は冷静に今後の対抗策を練り始めていた。しかし当の本人が、既に撤退も視野に入れているのではないかと思うと、この時はまだ本腰を入れずに見守っていた。また総重の植永はそうしたやり方にひどく憤慨し、さらなる対抗案について連日、林松と協議していた。ただ林松の方は、そうなるだろうと既に予想していたこともあり、植永へ落ち着くようにと伝えることで精一杯だった。それらのことを森上に伝えると、やはり時が来たことがわかったようだ。そして香純もまた、この時にある種の覚悟をしたのだった。


次回最終章 情熱 ①

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