構築 ⑧
香純も自分の席に着くと、すぐに林松が事の経過を話始めた。途中、林松が一服しようと外を指差しそう言うので、一緒に外へ出た。トクは台所で軽食を用意している。一通り話終え、再び席へ着いた。
「そんなことがあったんですか」
「驚いたろ」
「ええ、問題なく進んでいるのだろうと思ってました」
「まあ、普通はそう思うよな、そこで一つ、頼みがあるんだ」
「何でしょうか」
「竹清のこと知ってるか」
「ええ、お話だけですが、確か美穂ちゃんの上司で、海外統括の方ですよね」
「そうだ、だが、今は美穂に引き継いでこっちにいるんだ」
「それにしても凄いですね、美穂ちゃん」
「何だかな、意外と問題なくやれてるから、教え方が良かったんだよ」
「そうかもしれませんが、きっと美穂ちゃんの素質というか能力もでしょう」
「どうだかな、まあ、これからだろ」
「それで、竹清さんがどうされたのですか」
「そうそう、一度会ってみてくれないか」
香純はこの時、ふと何かを感じた。会うのは良いとしても、どこかに一瞬の戸惑いがあった。しかし理由がわからないため、敢えて少しの間を置いた。
「え、私がですか」
「ああ、そうだ、どうだろう」
「光栄です、しかし先に理由を伺いたいのですが」
「それもそうだな、趣味の話あるだろ、竹清にも手伝ってもらおうかと思っているんだ」
「え、それと私がどう関係するのですか」
「実は竹清、持病があってな、このまま仕事を辞めることになるかもしれない、今はまだ調子は良いみたいだけどな」
「どこが良くないのですか」
「腰だと、腰」
「腰、ですか」
「ああ、時々、座っても立っても痛みが出る時があるんだと、医者にはヘルニアの可能性があるから、無理しないようにと言われているらしい、ただ、そうも言ってられないからな」
「そうですか、手術するのですか」
「するかもしれないらしい、今のところはまだ様子をみているようだ」
「それでお会いする目的は、趣味を手伝うということだけですか」
「それもそうだが、会社のことも手伝ってほしい、今やお前しかいないんだ、週に一度、いや、月に二回でも良い、応援に来てくれないか、竹清と一緒に協力してもらえるとかなり助かるんだ、もちろん本業を休む間、その分も合わせて支払うから、どうだい」
林松がこれほどまで言った意味を、何となくわかるように思った。月に二回なら何とかなるかもしれないが、そこまでの余裕はないのも知っていた。そこでこう説明した。
「私も協力したいのは山々ですが、実際に難しいかもしれません、月に一度でしたら何とか出来るかもしれません、しかしもしそれ以上なら、誰か手伝いに来てもらわないと」
「月一回か、それじゃちょっとな、よし、じゃあこうしよう、うちで募集入れて、手伝える人を探してみるわ」
「いやいや、それでしたらまず自分で探してみます、ただ、その費用は」
「それは何とかする、よし、じゃあ決まりだな」
「ちょっと待ってください、トクと相談したいので」
「そうだな、じゃ、早めに連絡くれるかい」
「決まり次第、すぐにご連絡します」
「よし、頼んだぞ」
それから林松はいつもと同じように笑っていた。そしてトクが用意した軽食を食べながら、その要点を伝えた。その時のトクは大方、納得しているように見えた。しかし夜にもう一度、話をしようと思った。再び郷大が迎えに来て、林松は助手席に乗り込み自宅を後にした。そして子どもたちを迎えに行き、いつものように用意を済ませ寝かせた後のこと。
「じゃあ、手伝いに来てもらわないと、でも香純の代わりになる人を探すなんてかなり難しいよ」
「当日にやることを前もって準備しておけば大丈夫だろ、それに週に一回だけ来てもらえば、後は俺が何とかする、出来れば農業経験がある、女性だといいな」
「知り合いに一人、いるにはいるんだけど」
「え、誰」
「お母さんのお友達」
「ということは、年配の方かい」
「ううん、もう少し若い人」
「いいじゃない、明日にでも聞いてみてくれる」
「いいけど、もし無理だったらどうする」
「その時にまた考えるよ」
「わかった、じゃあ聞いとくね」
「ありがとう、助かるよ」
翌日、トクは実家へ連絡し、そのことを伝えた。それから数日後。
「香純、連絡来たよ」
「どうだった」
「手伝ってくれるみたい」
「うわあ、助かるよ、で、お名前は」
「田畑さんていう方、詳しいことはこの番号にかけてみてだって、お母さんから」
「ありがとう、今すぐかけてみるよ」
トクからそのメモを受け取ると早速、電話をかけた。直接会って話すことになり今日の午後、香純の自宅を訪れることになった。昼食後に引き続き作業していると、白い車が敷地に入ってきた。香純の車の隣に停めた女性が一人で歩いてきた。香純たちは作業を止めて迎えた。
「わざわざ来ていただきありがとうございます、田畑さんですか」
「はい、そうです、本日はお招きありがとうございます、どうぞよろしくお願いします」
自己紹介を済ませた後、トクが母屋へ案内した。五十歳代の小柄な女性で、肌は日焼けして健康に見える。はっきりした口調がとても印象的で、ジーンズ姿が良く似合っている。香純は詳細に入る前に、お茶を一口啜ってかた話始めた。
「田畑さん、ご自宅が農家なのですか」
「いえ、うちは旦那が会社勤めですので、私が好きで昔からよく手伝いに行ってたんです」
「そうですか、週一回ですが、来ていただけますか」
「喜んで、頑張ります」
「助かります、それでお給料ですが、日当はこれくらいでどうですか」
「え、こんなに、良いんですか」
「ただ時間が七時からと少し早いので、それで大丈夫でしたら」
「全然、大丈夫です」
「そうですか、では、来週からお願いします」
「わかりました、よろしくお願いします」
その後、フクとは同じ趣味の教室で知り合ったことなどを聞き、田畑はやがて帰宅して行った。香純は早速フクへお礼とその結果を電話で伝えた後、林松にも連絡した。
「そりゃ良かったな、じゃ来週から大丈夫だな」
「いえ、申し訳ありませんが、初回は説明などありますので、翌週からでしたら」
「わかった、二週間後な、じゃ頼んだぞ」
「はい、皆さんへもよろしくお伝えください」
「わかった、よろしくな」




