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ひたむき  作者: ナトラ
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構築 ⑥

 休日明けの月曜日、社長室に一本の電話が舞い込んだ。林松は耳元へ当て返事すると、阪上は幾分慌ててこう言った。


「先程、ライスパンから連絡があり、これから訪問したいとの連絡がありました、ただ副社長と専務、それから竹清さんも不在なので私が対応するのですが、社長も同席していただけませんか」


「お疲れさん、既に二人には連絡したのか」


「はい、つい先程」


「で、何だって」


「社長がいらっしゃるのなら、立ち会ってもらった方が良いだろうと」


「わかった、で、相手は何時に来るって」


「十五時頃だそうです」


「ふうん、十三時の方が良いな、ちょっと伝えてみてくれないか」


「わかりました、折り返しご連絡します」


「ああ、頼んだよ」


 相手が指定した時間でも空いていた。しかしあまりに急のため、今回は自らも同席することにした。その数分後、再び阪上から先程の時間で決まったと連絡があった。いよいよ対面だとな思いながら、林松は早めに昼食を済ませた。その後に食休みしていると、阪上がやって来たので談笑しながらその時を待っていた。


「ところで、阪上さんと角末は、どっちが勤務歴長いんだっけ」


「私の方が一年ほど早く入社しました」


「阪上さんが先だったか、で、姉ちゃんの頃と比べて、今はどうだい」


「けいこ社長の頃は、また違う意味での緊張感がありました、以前、ビデオ放送で仰ってたように、当時は利益が第一でしたから、なので今の方が良いですね」


「なるほどな、で、昇進の実感なんか湧いてきたかい」


「そうですね、これまで指示を受ける側でしたから新鮮です、ただそれと同時に、大きな責任を感じています」


「ま、そのうち慣れるよ、お、来たかな」


「場所はこちらでよろしいですか」


「ああ、いいだろ」


 門から一台の黒い車が入ってきた。スーツ姿の男性と女性がそれぞれ車から降り、事務所へ向かう様子が見えた。するとすぐに内線が入り、阪上が社長室への案内を依頼した。


「失礼します」


 その案内の元、比較的若い男女二名が部屋に入ってきた。


「本日は急に申し訳ございません」


と言い、それぞれが頭を下げた。


「たまたま空いてたから問題ないよ、それじゃ、そこへお掛けになって」


林松がそう言うと、阪上が二人を座席へ案内した。


皆が席に着いた後、案内した社員はお茶を配り終えるとすぐに退出した。


その二人は共に眼鏡をかけており、感じの良い笑顔で今も応対している。すると早速、男の方がこう挨拶した。


「私、ライスパングループ本社で営業部統括を務めております、直中ただなかこうと申します、よろしくお願いします」


「同じく営業部長の前脇まえわき佳菜子かなこです、どうぞよろしくお願いします」


「HYASHIMATU常務の阪上美咲と申します、こちらは社長の」


「林松だ、よろしく」


互いにそう言った後、直中は早速、身を乗り出してこう言った。


「お忙しい中、社長さん自らご同席いただき、ありがとうございます」


「ちょうど手が空いてたんだ、それでご要件は」


「はい、先日お送りした書類は見ていただけたでしょうか」


「ああ、あれね、見たよ」


「ありがとうございます、これから私たちは貴社の活躍をサポートできればと思い、勝手ながら送らせていただきました、宛名がなかったそうで大変失礼しました」


「宛名か、それは既に聞いたから問題ない、それでこうしてわざわざお越し下さったんだが、うちにはうちのやり方が既にあるからな」


「と、仰いますと」


「他からのサポートなんぞいらないということだ」


「なるほど、わかりました、では前脇、あの書面をお見せして」


直中がそう指示した。すると前脇は手にしていた封筒の中から一枚取り出し、それをテーブルの上に広げた。


「これは貴社についてまとめたレポートです、資本や店舗数などの詳細が記載してあります、一度見ていただけたらと思うのですが」


阪上がちょっと失礼と言ってそれを手にした後、静かに林松へ差し出した。すると憮然として


「俺はさっきそう言ったんだ、見る必要はないだろう」


と言い席を立ち、自らの椅子へ移動した後はどかりと座った。


そのため阪上が代わりに見て、その後は指差してこう言った。


「拝見しました、ところで一番下にこう書いてありますが」


「あ、こちらですか」


 そこへは社内のみ活用可との記載があった。つまり社外持ち出しを認めていないにもかかわらず、それをこちらに見せたと意味はどういうことなのだろうか。と、阪上は脳裏もフル回転でその続きを待っていた。すると直中は、あっさりこう言った。


「今回は特別に許可がありましたのでご安心ください、それでどうでしょうか、内容の方は」


「お答えする必要はないかと思います、社長、いかがですか」


阪上はそう答えた。そしてそう問いかけると、林松は目を細めてこう言った。


「俺はさっき言った通りだ、その後にどうするか、それは常務の判断だ」


 阪上は高鳴る鼓動を抑えつつ、静かにこう述べた。


「やはりお答えは出来かねます」


「そうですか、実はですね、既に貴社の社員がうちへの転職を希望しており、既に内定したという事実がございます、そこでもし私たちのグループに加盟していただけたなら、引き続き活躍されるのは大変喜ばしいことです、しかしそうでなければ、このような素晴らしい業績を今後も継続していけるのかどうかというのは、正直のところ申し上げるのは難しいと、そのことは何よりも先にお伝えしておきたいのです」


「それは何だい、つまり加盟しなけりゃ何らかの問題があるとでも言いたいのかい」


「いえ、決してそうではありません、もし加盟していただけたならこれは当然、その時点から私達グループの一員となります、しかしそうでなければ強力なライバル社として、貴社を認識せざる得ないという話です」


「なるほど良いだろう、それはそれで結構だ、なおさら張り合い甲斐があるってもんだよ」


眉に力を入れ既に覚悟を決めた林松は、堂々とそう述べた。すると阪上は


「私たちについて今現在、どの程度ご存じですか」


と敢えて尋ねた。すると前脇が資料をめくりこう言った。


「こちらの記載内容と先程お伝えしました通り、既に貴社から十名程の採用が決まっています、前もってお伝えしておきたかったのはこのことです、しかしその方々から一切、貴社の詳細については聞いておりません、ただ、各々の退職理由については、既に面接時にお尋ねしましたので、そのことについては把握しています」


 なるほど、これはいわゆる反対した人たちがライスパンに移籍したということか。そう思い、腹を括った阪上はこう述べた。


「どこで働きたいのかは自由ですので、私達がとやかくお答えする必要はないと思います、林松からも先程言いましたように、私からも重ねてお伝えします、また、私共の会社情報につきましては、もちろん公表しておりますので、お帰りの際にパンフレットを差し上げます、どうぞそちらをご覧になられたらと存じます」


「そうですか、非常に残念です、ご理解いただけると思いましたが、それではこれにて失礼します」


「失礼します」


 その後は阪上も階下へ付き添いパンフレットを渡し、それから彼らの車は敷地を出て行った。再び戻って来た阪上に、林松は肩の力をいっぺんに抜いてこう言った。


「お疲れさん、やっぱりそうなるよな」


「お疲れ様です、ええ全くです、しかしこれで意図がはっきり見えたので、少しやりやすくなりました」


「ほう、というのは」


「対象をさらに絞れるでしょう」

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