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ひたむき  作者: ナトラ
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構築 ②

 湖層が封筒を渡すと、林松は鼻歌交じりで開封し始めた。さっと中身を引き抜き、眼鏡を変えて読み進めた。眉一つ動かさず、計三枚を見てこう言った。


「これは、あれだな」


「何ですか」


「ま、見てみな」


そこには飲食業グループ化を目指すという広告二枚、それとは別にもう一枚は会社概要が入っていた。グループ加入募集とあり、封筒に差出人名の記載はない。林松は単なる手違いかと思ったが、やはり先に感じた妙な感覚が残った。


「このグループ、最近良く聞きますね、社長もご存じですか」


「知ってるよ、随分前に誘いを断ったことがある、先日の会合で、確かそこの代表が来てたな、話はしてないけどな、しかしこうしてわざわざ送ってきた意味は何だろうよ」


「何でしょうか」


「もしかすると先代がらみか、それとも別の件か、まだ何とも言えねえな」


「はあ、ではもし再び届いたらどうしますか」


「任せるよ、開けちゃっても良いし」


「それはさすがに、では私が一旦、お預かります」


「うん、じゃ、それで頼むわ」


 そう言って部屋を出て行った湖層の背を見ながら、林松は少し面倒なことになるかもしれないと思っていた。業績や管理職撤廃もある中、さてどうしたものかと思いつつ景色を眺めた。そして念のためにとデスクの電話を取り、湖層へ連絡した。


「ああ、俺だ、さっき言い忘れたんだが、その相手に聞いてみるのが一番早いだろ、早速連絡とってみてくれないか、頼んだよ」


そう伝えて受話器を置き、再び窓の外へ目をやった。中庭の木々は随分色濃くなり、小さな鳥達が戯れている。しばらく思案しながら返答を待った。


 それから小一時間程して、内線の呼び出し音が鳴った。電話に出ると湖層からだった。


「事務に頼んで連絡してもらったところ、相手が担当者と直接話をしたいとのことで、私が話しました」


「で、何だって」


「業績急上昇中の企業に送ったもので、差出人不記載は単なる手違いだと謝罪がありました」


「ほう、それだけかい」


「いえ、その詳細説明のためぜひ一度訪問したいとのことで、どうされますか、回答は折り返すことになっています」


「聞くだけ聞いてみても良いんじゃないか、里香ちゃんはどう思う」


「私は必要ないと思いますが」


「ううん、どうするかな」


「このグループへの加入勧誘なのは明らかですので、はっきりお断りしておく方がよろしいかと」


「それはそうなんだが、ちょっと妙なんだよな、それなら先日会った時に言えば済むのによ、単に言いづらかっただけか」


「わかりませんが、ちょうど手が空いてるので伺います」


「悪いね」


 数分後、湖層が部屋をノックして再びやってきた。林松は茶を用意し席の前に置いた。湖層はそこへ座ると礼を言い、一口飲んでこう言った。


「それで先程の続きですが」


「ああ、そのライスパングループだが、ここ二、三年で大手に仲間入りしたのは知ってるか」


「ええ、詳しくありませんが、何でも資本が豊富で次々に買い付けているとか」


「そうなんだ、うちとは全く違うやり方のようだ、しかし味も良いらしく評判も悪くないらしい」


「つまり完全マニュアル化した店舗経営というわけですね」


「ああ、大手が投資している会社だな、それでさっきの続きだが、送付してきた相手というのはそういうところなんだよ、だもんで話くらい聞いても良いかなと思ったんだよ」


「もし断ったら、どうなるのでしょうか」


「何もないと思うよ、ただ」


「ただ、何ですか」


「もし断ればこれで二度目となるわけだ、不記載は手違いだと素直に謝ったようだが、そう考えると実に妙だろ、それで今回、敢えてそうしてきたのかと、ま、これは考え過ぎかもしれないけど、俺は次の一手があると見ている、例えば、うちを丸ごと買いたいとかな」


「え、いきなりそれはないでしょう、ただ可能性は否定できませんね」


「そうだろう、あれだけ買える資本は半端じゃない、相手がそう言ってくる可能性はある、そう前もって見ておくと良いかもな」


「わかりました、社長がそこまで仰るのでしたら、もう少し相手方の詳細を調べてご報告します」


「そうだな、返事は一旦保留だと伝えれば良いだろう、その間にもう少し考えようや」


「はい、では失礼します」


「頼んだよ」


 湖層が出て行った後、林松は先日香純が泊りに来た時のことを思い出していた。今のところは問題ない。そう言ったことをどこか懐かしく思った。海外部門の独立、さらに娘が統括へ就任したばかりのタイミングを、まるで見計らったかのように届いた案内状。林松は再びそれを手に取り眺めた後、これからのことを想いながらこう呟いた。


「こんなこともあろうかと、見越した上での決断だったからな」


香純でもさすがにそこまで理解していないだろう。そう思うと次第に笑いが込み上げてきた。咄嗟に窓をがらりと開け、雲一つない大空を見てしばらく大声で笑っていた。すると外にいた社員数名が、林松へ手を振っていた。林松も同様にして応えた後、そっと静かに窓を閉めた。

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