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ひたむき  作者: ナトラ
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開拓 ⑦

 トクは再びフクの隣に座り、香純と向き合いながら少し黙った。その後にまず香純がこう口を開いた。


「今日は少しだけお話をしておきたいことがありまして」


するとフクは頷き、お猪口を一口くいっと捻らせた。そして真純のことねと続けたので、二人は黙ってそれに頷いた。


「私も言いたいことがあるけど、お先にどうぞ」とフクがちらりと見て言った。香純は正座し直し、こう述べた。


「まず、ランドセルまで用意して下さったり、様々ご援助いただいたこと、本当に感謝しています、ただ結果としてはこうなりましたが、真純にとっても良い経験になったと思います、ありがとうございました」


「それは良いの、ただ私は毎日普通に、ほら近所の子どもたちのようにね、そうやって過ごしてくれたらと思ったから、しかし本人の決意は固そうね、これからどうするのかな、私はそのことがとても心配よ、最近は歳とってきたせいか、協力できることが限られてくるかもしれないなんて思うと余計ね」


「そうですか、では私が思っていることをお伝えします、それは自分で決めた道を切り開くのは、それもまた自分だいうことです、ですから真純について、親としてこれからサポート出来ることは何でもしようと覚悟しています、ただそうは言ってもまだまだ幼いので、途中で考えが変わる可能性が全くないとは言い切れません、しかしもし仮にそうなったとしても、私は真純のことを応援し続けようと既に決めています、トクも以前、その意見は賛成してくれました、ただトクは無理に私の考えを合わせたことで当時そう言ったのか、今もまだその部分がよくわかっていません、それからも二人で何度も話合った上で決めたのですが、どこかまだはっきりしていないというのが状況でして」


香純がそこまで話すと、トクは少し視線を下に落とした。するとフクがその顔を覗き込むようにして「どうなのよ」と尋ねた。その問いかけにふと再び顔を上げた後、トクがこう述べた。


「私ね、お母さんが言っていることはもちろんわかってる、でも香純が言う事もよくわかったんだ、私、最初はね、学校に毎日通うのは当たり前だと考えてたの、ただそれは自分で言った言葉の意味を思い出すまでだった、真純が普通ってなんだろって質問したことがあるの、そのことがあったから香純の意見に賛成したんだけどね」


「うん、そうだったね、けど、何」


「けどね、私、若い頃に家出同然で飛び出したことがあるから、もし真純もそうなったら嫌だなって思ったの、そうするとね、お母さんの言うこともだんだんわかるようになったんだ」


 そう聞いて香純はやはりと思った。それはまさに綾子が先日言っていたことだった。その後


「真純はそうなると思うかい」


と尋ね足をあぐらに変えた後、真剣な眼差しを送った。


「きっと大丈夫、そうはならないとは思う」トクがそう答えたので、香純はなるべく表情を変えずに力強くこう言った。


「思うじゃなくてさ、そうならないようにするのが俺たちの役目だろ」


 ここでフクは軽く天井を見上げ、自分も最初はそう思ってたと呟いた。そして二人が注目する中、続けて


「それでもある日、トクは急に家を出て行ったの、あの時は辛かったわ、私の育て方が悪いからだとかで、それからお父さんと口論になったりして、ただ今はもう大丈夫、こうして孫たちとも一緒に旅行に出かけるようになったし、そうなるなんてあの頃は夢にも思わなかった、きっと香純さんと出会わなければ、トクは今頃はまだ一人だったかもしれない、本当にありがとう」


そう言って香純をじっと見つめた後、こう続けた。


「その上で真純のことを考えるとね、ある程度大きくなるまで、例えば小学校卒業とか中学でも良いの、その時に真純がもう学校に行かないって言うのならわかるの、ただ今は一度も通ったことがないうちにそう決めていいものか、そこだけよ、だからランドセルもそうだけどさ、せっかく入学準備も終わったなら、一度くらい行ってみてもいいのかなって思うの、どう、香純さん」


 思わぬ話の展開となったものの、香純は良い機会だとフクの意見を受け止めた。


「そうですね、私もそのことは考えてました、しかし本人が既に行きたくないと言っておりますので、私は無理に勧めないと決めました、しかしもし今後、真純が行きたいと言うのなら話は別です、ですので申し訳ありませんが、これからも真純の意見を大事にしていこうと考えてます」ときっぱり答えると、先程出て行った善市が襖をさっと開けた。


「まだ続いてたのか、さ、そろそろ寝るぞ」そう言って中へ入ると香純の右隣りに座った。そして「話はもういいだろ、ちょっとだけ呑もう」と誘うので、香純は頷いてふと向かいの二人に目をやった。今も何やら小声で話している中、フクはこちらをちらりと見て憤りながらこう言った。


「お父さん、ちょっと待って、まだ話は終わってないのよ」


「もういいじゃないか、今日は旅行中なんだぞ、続きは家に帰ってからにしなさい」


善市がぴしゃりとそう言ったので、フクはいつものように思わず黙った。その後


「私もお風呂行ってこよう、トクも一緒にどう」と誘い、トクも行くと答えた。そして準備した後、二人は肩を並べて部屋から出て行った。


「もう今日はいいだろう、香純君」


「ええ、ありがとうございました、お時間いただいて、おかげさまで話が進みました」


「しかし香純君も考えたな、家だと口論になったら面倒だし、こういう機会ならお互い穏やかに話せるからな、それでどうだったの」


 再び善市と酌み交わしながら、香純はありのままの内容を伝え始めた。通路を隔てた隣部屋の襖は完全に閉まってなかった。少しだけ隙間が開いたその奥では、真純が右耳を横に当てながらひっそりと話を聞いていた。父や母そして祖父母の話に涙を堪えて聞いていると、胸に伝わってきて次第にぽろぽろと畳の上に零れ落ちていた。もっと強くなりたい。そう心の中で誓った後、再び四つん這いでリンの横に敷いてある寝床に頭から突っ込んだ。



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