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ひたむき  作者: ナトラ
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開拓 ②

 適当に何品か注文した後、真純の話になった。香純はこれまでのいきさつを一通り説明し、また綾子の意見を聞いてみたいと伝えた。大した話は出来ないだろうと林松は言ったが、香純はぜひにと食い下がった。すると「確かにな、俺はお前の考えに賛成だけど、綾子は女性の視点で見るからそれもまた良いかもな」と言い了承した。


「しかしあれだな、真純もこれで好きなようにやれるんじゃ良かったな、しかしそのフリースクールとかホームスクールだっけか、そういうのがあるんだな、知らなかったわ」「私もです、最近知りまして」「良かったじゃねえか、で、お前はもう決めてるんだろ」「何をですか」「何って、跡取りだよ」「そうですね、しかしまだまだ小さいですから、この先やりたいことを見つけながら今後どうなるかですね」「そうだな、あまり期待し過ぎるより、その方が良いわな」「ただ楽しみは楽しみですよ、私たちの経験とは別の道を行くわけですから」「ま、真純なら大丈夫だろ、あとはトクちゃんだな」「ええ、あと向こうのご両親ですね、ただ義父はかなり理解してくれているようなのですが、義母の方がちょっと」「話を聞く限りそんな感じだな、ま、うちに行ったら聞いてみると良いわ、大したことは言えねえと思うけどよ」「ありがとうございます」


 それからは他愛もない話が続いた。やがて夕方の定時を過ぎた頃となり、お客が次々と入ってきた。そして「あっ、あそこだ」「いたいた」数名がそう言って店に入ろうとしているようだ。香純はふとそこへ目をやると、ちょうど暖簾を潜ってきた郷大と湖層の姿を見つけた。「何だい、来たのか」「そりゃ当然ですよ、社長」二人はそれまでカウンター席にいたが、その後は店員の促しで皆で奥の座敷に移動した。


「ここも今度うちに入ることになったんだよ、会社から近いから良いわ」「社長が仕事を抜け出したら、ここにいると思っていいかしら」「いやいや、行くときはちゃんと言うからよ」「では、乾杯」


 やはり飲み会は良いものだと思いながら、香純は皆としばらく話した。途中、湖層が席を立った後に郷大がこう言った。「社長、いよいよ来月からですよ、配送」「お、やっと決まったのか」「ええ、しかし管理職をまとめ上げるまでが大変でしたね、ただそれからは効率がすこぶる良くなっておかげで、とんとん拍子で決まりましたよ」「撤廃が進んでいるのですね」「ええ、部長がいた頃とじゃまるっきし変わりましたよ、ねえ社長」「そうだな、ま、これも皆でうまいことやってくれたからだな」「あと副社長もね、このまま順調なら、今年の夏はさらにスリムになるって言ってますし」「なに、あれ以上痩せたら大変だな」「違いますよ、体型じゃなくて」「わはは、冗談だよ」その後は二人で話を続けているので、香純は静かに耳を傾けていた。


 どうやら管理職の削減は順調に進んでいるようだ。郷大の話によれば、現在は当時の半数という。そう横耳を立て聞いていると、再び湖層が席に着いた。そして「ねえところでさ、来月の予定について担当から連絡来てるかしら」香純にそう尋ねて話は続く。「ええ、先日ありました、いつも丁寧なので本当に助かってますよ」「そりゃそうでしょ、元部長さんだもん」「いやいや、止めてくださいよ」「冗談よ、でも良かったわ、このままいけばお互い順調に夏を目指せそうね」「おかげ様で」「それでトクちゃんは最近どう」


 思い出したような湖層の問いに、香純は意図せず一瞬黙った。「え、どうしたの、何かあったの」そのため香純はそれまであったことを簡単に話した後、また「ちょっと今は疲れが出ているんだと思うんですよ」とも併せて伝えた。大して具体的には言わなかったので、湖層はその後もあまり触れようとはしなかった。ただ一言だけ「いろいろあるわよね、一緒にいると」そう意味深に言った。そのため香純も「梅川さんはどうですか」と尋ねてみた。「ううん、まあ変わらずかな、最近はお互いに忙しくてプライベートもあんまり会っていないのよ、今日だって遠くへ出張だし」「そうなんですか、よろしくお伝えください」「ええ、トクちゃんにもよろしくね」


「そろそろ行くか、遅くなっちまうから」「そうですね」「どこに行くんですか」「うちへ帰るんだよ」「一緒にですか」「ああ、今晩うちに泊まるんだ」「へえ、そうなんですか、じゃあ俺、タクシー呼びますね」「郷大さん大丈夫です、お店の人に頼んでありますので」「さすが部長、いや失礼、来月に品物受け取り行くんでよろしくです」「お待ちしてます、和香さんによろしくお伝えください」「あいよ」


 林松が郷大に紙幣を数枚手渡しながら席を立つと、その姿を見た店員が「あのう、まだタクシー来てませんが」と声を掛けてきた。林松は「そのうち来てくれるでしょ、外で煙草吸って待ってるわ」と言って先に店を出た。そして香純も軽く一礼し「ごちそうさま」と言い、その後に続いた。外で一服していると程なく、一台のタクシーが目の前に到着した。比較的若めの運転手が颯爽と車から降りるのを見て、香純は先程の店員に迎えが来たとそこから声を挙げた。すると中から「はあい」と返事があり、運転手もその店員に礼を述べた。運転手はその後、運転席へ戻り後部ドアを開けた。二人は煙草の火をすぐに消し、それから車内へ乗り込んだ。席に着くと林松が「自宅に帰る前に、そこの壁が切れた辺りを左に曲がってもらえるかな」と伝え、運転手はそれに一言返事した。やがて会社の敷地内に入ると「右側にある白いワゴン車の隣へ着けてください」と再び伝え、その指示通りの所へ到着した。香純は一旦車から降りて「荷物をトランクに入れてもいいですか」と尋ねた。運転手はすぐに「はい、今開けますね」と答え、席の右側にあるレバーを引いた。すると後ろで少しガタンという音と同時に開いたので、香純はそこへ大きなバッグを一つ置いた後に再び乗り込んだ。


 その後はしばらく走り、やがて林松の自宅に到着した。すぐに香純が料金を支払おうとしたものの、林松が先に数枚置き「釣りはいらないから、お世話さん」と言った。運転手が礼を言って受け取ると、すぐに後部ドアが開いた。林松がさっと車から降りたので、香純も続けて隣へ身を寄せた。するとその時、運転手が「あの方は社長さんですか」と尋ねてきた。「ええ、そうなんですよ」香純がそう答えると、深く頷き「凄い方ですね」と口にした。「ええ、まあ」香純は少し首を捻らせてそう答えた。運転手は続けて「いろんな方をお乗せしますが、最初から最後までこうスムーズだったのはあまり覚えがなくて、いや何でもないんです、恰好良いなと思いまして」と言って微笑んだ。「お疲れ様です、お世話になりました」香純も笑顔でそう言って車から降りた。運転手は静かにドアを閉め、車をゆっくりと走らせて敷地を抜けて行った。「確かに、以前とはまるで貫禄が違うし」そう呟きつつ玄関へと向かった。

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