表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひたむき  作者: ナトラ
49/154

故郷 ④

 それからしばらく経ち、各店舗を実際に回ることになった当日の朝、美穂は木庭の車に乗り込み視察へ出かけようとしていた。そこへあの奥寺千夏おくでらちなつが近寄ってきた。美穂はすぐに後部座席の窓を開けて顔を覗いた。すると奥寺は「あのう、私も一緒に行っても良いですか」と尋ねてきた。あまりにも急のため驚きながら「え、良いですけど、しかし代わりの方はいらっしゃるのですか」と美穂が答えると、奥寺は「ええ、皆で協力して何とかなりましたので」と言い、後にいる社員の方へ振り向いた。それを察した美穂は「そうですか、でしたら隣へどうぞ」と言い、自身の片手を拡げながら促した。奥寺がそこに乗り込むと車はゆっくり動き出した。「千夏ちゃん、覚悟を決めた表情だったね」見送りに来た男性社員たちが話をしている。「もうこれしかないってさ」「協力したいからって、毎日頑張ってたもんな」「ああ、彼女も凄いよ」


「ごめんなさい、急に」車に乗った奥寺は、まず一言そう詫びた。年齢は三十歳半ばだろうという話を思い出しながら、美穂は「心強いので大丈夫です、ところでお名前は奥寺さんですよね」と尋ねた。「そうです、よろしくお願いします」「こちらこそよろしくお願いします」と簡単に挨拶を済まていると、最初の店舗に到着した。すると奥寺は早速、店の説明を始めた。その内容は当初、秘書の木庭が行うものだった。しかしそのほとんどについて美穂に伝えていたので、実際にはそれを補う程度だった。その後も次々視察を進めた。奥寺が来たことは木庭にとって予定外だったが、順調に進んで午前中で十件程回った。


「いや良かった、奥寺さんがいてくれて、こんなに早く回れたし」と木庭が運転席から喜びの声を挙げた。「お役に立てて良かったです」「私、奥寺さんのこと詳しくなかったのですが、確か事業部にいらっしゃるとか」「ええ、主に設備関連に携わっています」「本当に助かります」「いえいえ、ところで美穂さん」と奥寺が尋ねて話は続く。「はい」「全店舗の統括は大変だと思いますが、これからどうされますか」「そうですね、まずはこうして実際に見て回りながらゆっくり考えようかと思ってます、ところで何かお考えですか」「私たちも三人で地区ごとに見てまして、ですから今までのように各ブロック代表の報告をお受けになるのが、一番効率良いだろうと思うのですが」「確かに仰る通りです、しかしそう出来るのは竹清さんならではでしょう、私は歳下でキャリアも長くありません、そうした人が統括を目指すとすれば、きっとこれまでのようには行かないのは明白です、ですので実際に皆様にお会いしながら、それから考えてみようかなと思います」その会話を聞いた木庭は静かに頷いていた。


 視察中に昼食を済ませ、その後も順調に進んだ。予定の二十店舗を超えて半数を回り、やがて帰社した。「さすがに疲れましたね」「ええ、おかげ様で、明日もこのペースで回れば予定の一日分を減らせそうです、奥寺さん、明日もお付き合いくださいませんか」「ええ、喜んで」「では、また明日もよろしくお願いします」「こちらこそ、私、仕事がありますので先に戻ってますね」到着後そう言って車を降りると、奥寺はすぐに事務所の中へと戻って行った。


「私も助かりましたよ、ほぼ運転でしたから」「お疲れ様でした、明日もよろしくお願いします」「ええ、こちらこそ、ところでもうお帰りになりますか」「いえ、私も少しやっていくことがありますので」「そうですか、ではお先に」「お疲れ様でした」木庭はそう言うと再び車を走らせ、敷地を抜けて行った。その帰り道の途中に一旦停車し、竹清へ連絡した。「あのう、美穂さんの視察の件ですが、実は奥寺さんの協力があったので既に半数を回りました、明日、全て終える見込みです」そこで竹清の驚く声が響いた。その後「どうやって奥寺さんの協力を得たのかは私もわかりませんが、ただ思うのは美穂さんにはそうした能力に長けているのでしょう、もしかしたらこのまま、私の出る幕はないかもしれません」と伝えた。すると互いに笑い合った後に電話を終えた。「先々のことも考えつつ、今の自分を客観的に見る力もある、全く楽しみだ」一人そう呟くと、再び車を走らせた。


 翌日も同様のペースで回り、予定全ての視察を完了した。美穂は竹清へその報告を済まていると「しかしどうやって、あの奥寺さんの協力を得たんだい」と尋ねて話は続く。「わかりません、しかし奥寺さんはそのための準備を事前にされてました」「ということは、部署の二人も同意の上ってことだよね」「ええ、そうなります」「わかったよ、ま、明日の全体会議で詳しく聞くとするか、さ、今日はもう帰ろう、お疲れさん」「はい、お疲れ様でした」


 一旦、会社を後にした美穂は自宅へ帰ろうと思ったが、改めて礼を伝えようと奥寺のデスクへ立ち寄った。「奥寺さん、この二日間ありがとうございました」「いえいえ、お役に立てて何よりです」「私もうっかり聞きはぐったのですが、今回なぜ協力して下さったのですか」少しの沈黙後「別に大したことではないんです、このまま何もしないというのは自分としても納得がいかなかったので、それと」「それと、何ですか」「それと、もし私の知識が役立つならその方が良いと思えたからです」「そうでしたか、しかしなぜそう思われたのですか」「美穂さんの仕事を見てきたからです」「嬉しい、これからもお力添えの程よろしくお願いします」「こちらこそ、何かありましたらいつでもご連絡いただければ」「ありがとうございます、ではお先に失礼します」「お疲れ様でした」その近くにいる社員二人にも軽く会釈し、その場を後にした。


 美穂が帰った後、そのうちの一人が奥寺の所へ近寄りこう言った。「あともう一つはさ、若き統括候補と今のうち仲良くしておくため、これもでしょ」「まあね、でも美穂さんだからというのは本当よ、今までの私たちのやり方を否定せず、今後さらに良くしようと奮闘している姿を見れば、誰だって応援したくなるでしょう」「確かにね、全く凄い人だよ」「ええ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ