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ひたむき  作者: ナトラ
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道 ⑦

 会は滞りなく進み、やがてお開きの時間となった。林松と森上は帰宅するというので、タクシーを呼んで乗り込んだ後は二人を見送った。そして郷大から三次会の誘いがあり、少しだけ顔を出すことにした。近くにある居酒屋まで足を運ぶと面々が席に着き始めたが、香純は自宅に連絡を入れておこうと外へ出た。


「ああ、俺だけどこれから三次会で少し顔出していくよ、明日は昼過ぎに出発するから、またホテルに着いたら電話するよ、子どもらはもう寝たのか、お疲れさん、じゃあ」香純を呼ぶ声が聞こえてきたので、足早に店内へ戻った。


「本日の主役は既にお帰りですが、これから三次会を始めようと思います」郷大が皆へそう呼びかけた。総勢十五名が入店したことで既に貸し切り状態となり、一人のアルバイトらしき女性と店主の二人で注文をこなしていた。その店主の知人の紹介により今後は加盟希望だという。そこで郷大がそれなら三次会にぜひということでここに決まったという。「安さんていうんですけどね、料理の腕前は相当ですよ」年齢は郷大と変わらず五十代後半で、林松も以前に来たことがあるという。「しかし林松さんも歳をとったよな、前なら何次会でも来たもんだけど、最近は特に、総重の社長が入院してからはめっきり飲まなくなったもんな」「私からも常々言ってますから」「湖層さんにそう言われちゃ、まあ仕方ないわな」「まあでも今日は、ぱっとやりましょうよ」


 しばらくしてタバコを吸いに外へ出ると、いつの間にか貸し切り札が掛かっていた。店内はカウンター席が五席の他、テーブル席が四席と小規模ではあるが、炒め物の音や皆の笑い声に包まれて心地良かった。店前の通りはまだ多くの人が帰宅を急いでいた。そうして外のベンチで煙を吹かしていると、暖簾を潜ろうとする客が次々とやって来る。しかし貸し切りのため皆、残念そうにその場を後にした。料理はどれも絶品で、中でも炒め物は箸が止まらなくなるほど味付けが良かった。香純は野菜の味も確かめながらも箸を進め、自分の野菜ならさらにうまいのかもと思いながらグラスを空けていた。


 その後に再び湖層との会話で、春からの出荷に合わせて倍の店舗で扱うと知った。配送はまだ業者を使っているが、まず試験的に月に一回の自社便を出す予定という。郷大はその話に目を輝かせ、そして湖層も「いよいよ始まるね、来月から役員を一本化すれば春頃までには落ち着くでしょう、建設部門も順調のようだし、楽しみだわ」と語った。総重建設とはその後も交流が進んでいて、既に正式に建設部門立ち上げに動き始めたという。「え、じゃあ総重建設の本体が入るってことですか」「後々はそうなる予定よ、まだ何かと手続きがあるから、今はまだ少しずつだけどね」香純は驚きながらグラスを空け「ところで増永さんの姿が見えませんけど」「明日の予定があるから一次会で帰ったわよ」「そうでした、まあ明日会いますので」「ところで香純くん、一つ相談があるんだけど」


「森上さんの話は聞いたかしら」「ええ、先程少しだけですが、詳しくは教えてもらえませんでしたが」「実はそのことで内密の話なんだけどね、実は森上さん土地を買うらしいのよ」「それは聞きましたけど、でも何をなさるのでしょうね」「事業じゃないらしいんだけど、どうやら林松さんも絡んでいるようなの」「へえ、私は全く知りませんが」「私も最近知ったのよ、何か計画があるみたい」「で一体、何をするんでしょうね」「これは正式な話じゃないんだけどさ」


 会社とは別の計画で表向きには今回辞職した森上は、その計画に沿って今後は動き出すだろうという湖層の読みだった。「何かをつくるみたいなのよ」「え、何を」「それはまだ何とも言えないけど、でもどこからか話が漏れてきてるの、あなただったらどうする、過去に仕事を辞めた経験から、今どうするのかなと思って」


「これまでの経験が役に立つことがあれば、ぜひ協力したいですね」「そう、じゃあ私の立場だったらどうかしら」「私は副社長になったことがありませんのでわかりませんが、一つ言えるのは私は既に会社員ではないということでしょう」「わかったわ、ありがとう」「いえいえ、しかしこれから正式に話が出てくるとしたら何かと大変でしょうね」「まあね、ただ私もとっくに覚悟は決めてるし、ちょっと面白そうだと思ってね、よし決めた」湖層はそう言って携帯電話を取り出し席を離れた。その背を見つめながら香純は届いた品を口にした。いろんな道があるものだ。林松と森上は既に、将来の道を築いている途中にあるのだろう。明日詳しく聞いてみようと思いながら、そろそろ帰ると梅川に伝えた。その帰りがけに湖層との結婚を聞いたと伝えたところ、梅川が「副社長という立場の方ですから真剣に考えましたよ、でも二人で一緒にいると良いんです、たまたま好きになった人が副社長だと思えたので」と、香純に包み隠さず本音を口にした。


「なるほどね、私は応援してますよ、どうぞお幸せに」郷大にも同じように伝え、その後迎えに来たタクシーに乗り込んだ。店主がわざわざ出てきて一礼していたので、香純もすかさず窓を開け「ごちそうさまでした」と声を掛けると、店主の安も笑顔で片手を挙げていた。小道を抜けて通りに出ると、先程より随分と人通りは減っていた。肩を組み歩く若い男女は時々、足を互いに交差しながら歩道を渡っている。そして冷たい北風が吹きつけるとマフラーを撒き直し、互いにその距離を近づけて寄り添いながら歩いていた。「そうだった、まだチェックインしてなかったんだっけ」慌ててホテルに連絡して問題ないと知り、大きく一息ついてからトクに電話した。



「もうすぐホテルに着くよ、後は寝るだけだ、おやすみ」そう話を終えた後、ふと窓の外に目をやるときらびやかな電飾が見えてきた。締めのラーメンをと一瞬思ったが、今さっき言ったばかりなのでそのままホテル前まで辿り着いた。料金支払い後に礼を言って車を降り、ロビーの中に入った。受付にいるスタッフが出迎え、手続きして部屋のキーを受け取った。部屋のドアを開けると、すぐにベッドの上に寝転んだ。既に大浴場は終了しているというので、部屋にあるシャワーをさっと浴びた後は再び倒れ込んだ。そしてそのままいつしか眠りについた。

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