表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひたむき  作者: ナトラ
29/154

独立 ①

 OIDEYASUの会議室に幹部全員が集まり、先日行われたアンケート結果の協議が始まった。その結果、二社平均八割賛成を獲得したことで正式に決定した。その内訳として、まずOKAMIは賛成九割の反対一割、またOIDEYASUは賛成七割で反対三割となった。その後、新社名として最終的に上位に残った「OKAMIDEYASU」と「HAYASHIMATU」このどちらにするかについて今も話し合っていた。「どちらも良いと思いますがねえ、しかしそれですとOKAMIの文字は全て残りますが、ただOIDEYASUだけは二文字削ることになりますね」「確かにそうですね、それでしたらこちらの方がしっくりきますね」「ええ、そう思います」「では、HAYASHIMATUを正式決定ということで、皆さんよろしいでしょうか」そこまでさほどの異論もないまま会議はスムーズに流れ、新名称HAYASHIMATUとなることに幹部全員が賛成した。そして湖層が「では、林松社長から一言お願いします」と言って話を振った。


 林松は胸を撫で下ろしながら「いやあ無事に決まってほっとしたよ、お疲れさん、早速これからの予定をまとめていこうと思うんだが、その前にちょっとその説明を湖層副社長、よろしく」と言った。その後湖層から合併準備期間は一か月とし、そのための方法や予算の詳細を説明した。また合併後の人事について話を進める前に、これは自身が持つ案だと示しながらも「反対意見がある方々ですが、今後もしかしたら急遽退職する意向を示す可能性があると思います、その対処法につきましても、ここで十分検討しておいた方がよろしいかと思います、何かお考えのある方は挙手願います」と呼び掛けると、森上がすぐに手を挙げてこう話し始めた。


「では早速ですが、どの程度の方々が退職を申し出るかとここで予想するよりも、以前にお話ししたように今こそ腹を括る覚悟の時なのだろうと思います、その方法として反対票を投じた人達について、今後は出来る限り集中すること、つまりそのような部署を新たに設けてそこへ所属して頂くという方法があると思います、現在までは個人のキャリア等を考慮しながら異動も含めてやってきましたが、今後はそうではなく自分の意見を大切にするという意味で、敢えて分けながら進めて行った方がよろしいかと思います」その森上の話に対して他の幹部達は、さすがにそれは難しいだろうなどと口々に囁いた。その次にOIDEYASUの角末が挙手していたので、湖層が指名してこう述べた。


「私は最初から管理職撤廃には反対の立場ですが、このアンケート結果を目の当たりにすると実際にこんなに賛成が多いものかと、今は正直に驚いているところです、森上社長が仰った方法であれば、当然私もそれに該当します、もしそうなれば賛成派の方々とこれまで同様に仕事をするのは、今後より一層困難になるだろうと思っています、しかしそれは私の本意ではありません、そのためしばらくの間は現状のまま進めて行き、個人の意見を最大限尊重出来るような仕組みを早期に構築する必要があると思います、それをどのようにするかにつきましては、個人がこれからどうしたいのかまたはどうしていきたいのかという希望を、こちらでより具体的にそれらを把握出来るよう工夫する必要があると思います、面談の回数を増やすというのも一つありますが、それ以上に現在よりも意見を述べやすくなるよう、何らかの工夫を取り入れていけるように出来ればと思っているところです、今回このように社名を一つにまとめたのは良いとして、しかし今後はそれぞれの業務をどうするのかというのは、これは実際にやってみないと今は何とも言えないと思います、ですので、今しばらくはこのまま様子を見て実際に動き出した後、適宜対応していくという方法がよろしいのではないかと思います、そのようにすることで退職を希望する方も、ここで一度は踏み止まる可能性はあるのではないかと見ています」角末がそう説明を終えたので、湖層が「他に意見がある方はいらっしゃいますか」と周囲に呼び掛けた。しかし他に挙手は見られなかった。そのため現時点においてこの二つの意見のどちらを選ぶかを募ったところ、森上の意見に賛成する人は数名、しかし角末の方は多数の支持が集まった。森上はいかにも不満そうに「もしそれで進めるおつもりでしたら、先に期限を設定した方が良いでしょうね、湖層さんのご説明では準備期間は一か月ということですが、私はそれを三か月以内に伸ばす代わり、最終的な結論までを得たいところですね」と言い、鋭い目つきで角末を見つめた。角末はそれには全く動じることはなく「確かに仰る通りです、特に異論はございません」と答えると、賛成した幹部達も皆同様に頷いた。


 そこで林松がこう切り出した。「ま、それで決まりなら良いけどさ、でもその先の願望というか、俺の期待も込めて皆に改めて伝えておこうと思うことがあるんだ」林松は続けて「実は独立という手もあるかと思っているんだ」と言った。皆はそれに驚いて「え、どういう意味ですか」と幹部の一人が周囲と顔を見合わせそう尋ねた。それに対して林松は軽く咳払いしてから、これは森上社長の意見に近いかもしれないなと前置きしてこう述べた。「会社として将来を考えた時、このまま意見が割れたままでは先に進まないというのは以前にも伝えた通りだが、もしその期限内で結果が出なかったなら、俺は森上社長の考え方のように進めてもやむを得ないかと思い始めている」その発言に周囲は再び互いに顔を見合わせ、もしかしたら社長の一声で全てを動かすつもりなのだろうかと思いながら、皆その話に耳を傾けていた。林松はそれまでと変わらず話を続け「そこで独立についてなんだが、こういうのどうかな」と言うと、自身の後ろにあるホワイトボードに広げた組織図を指差した。「総重建設の植永さんのことは皆、既に知っているだろう、現在入院中だが、それ以前はほぼ独立してこれまでの業務を行ってきている、もちろんうちらとは業種が異なるけどね、その上で改めて社長と話をした結果、総重建設も再び早期にグループ加入を目指すことが決まった、そこで先の将来を考えると、この海外部門も今後は独立を図ろうかと考えているんだ」


 そう説明した林松は、そこで海外部門責任者の竹清と電話を繋いだ。「ああ、もしもし、お疲れさん」「あ、社長、お疲れ様です」その声が外部スピーカーから聞こえてくる。途中から会議の様子を電話口で聞いていた竹清に「今、皆に独立について話をしているところなんだ、簡単で構わないから何か意見を述べてもらいたい」その依頼に対してわかりましたと答えた竹清は、現在の状況についてなるべく簡潔に説明した。その話によれば、今後店舗数が現在の倍になると予想しているため、とにかく今は人員が足らないと挙げた。また運営についても、現地の方々に全てを任せるのではなく引き続き本部が主体となってやっていきたいが、そのためには何と言ってもとにかく今は人員不足が問題だと話す。そこで「もし海外赴任に希望ある方がいらっしゃれば、ぜひこちらに来てほしいです」と、皆へ頼むから来てもらいたいと皆へ呼び掛けた。それに「こちらとしてもどうするか、直ちに考えておくから」と述べた林松は、続けて「ところで独立についてはどう思う」と尋ねた。すると竹清は「私は賛成です、本体から独立して会社化出来ればきっと新たなチャンスも生まれるでしょう、ただもちろん大変なのは承知の上です、ただ私としては、是非ともやってみたいとは思っています」と答えた。「わかった、忙しいところ悪かった、それじゃあ引き続き頼んだよ」「はい、あ、社長、後程あの件についてお電話しますので」あの件、はて何のことだろう。林松は一瞬考えた。しかしふと美穂のことだろうと思ったので「ああ、わかったよ」と答えた後、同時に通話を終えると手を振って合図した。それを見た梅川はスピーカーの音量を下げ、その後再び自席へと戻った。


 林松は続けて「とまあそういうわけで、海外部門もこれから前向きに話を進めていこうと思うんだ、一緒になる前に、まずはそれぞれが自立してやってみること、これってつまりうちらにとっては逆のことなんだ、そもそもうちらはそれぞれが自立して業績を上げ、既に多くの結果を残してきたんだ、もちろんそれだけでも十分凄いことだが、今後はさらにその上を目指したいんだ、だからそのためには両社の良いところをくっつける、それが出来たら力が何倍にも増すのは誰しも容易に想像がつくだろう、だからまずは総重建設と海外部門の完全独立を目指し、そしてまた今回新たな社名が決まったHAYASHIMATUはその良きモデルとして、これから独立を目指すことになる二社はそのやり方を今後参考するだろう、ここまでの意味、わかるかな」それはまるで塾の講師かのような口ぶりだった。林松がそう問い掛けると皆は黙って頷き、各自メモを取りながら真剣な眼差しを向けていた。


「そこで重要なのは、この独立したことがあるという経験なんだよ、今はまだ賛成や反対意見があってそれぞれが分かれても良い、しかしこれから全体として目指すのは、こうした自立経験がある会社同士が協力すること、そしてやがては自然と一体になることを目指していくんだ、これを当面の全体目標としたいんだが、どうかな」その呼びかけに反対する人は誰もいなかった。林松がそこまで考えているのかと、皆は驚きと自身が持つ視野の狭さをただ痛感した。しばしの沈黙の後、湖層が「大変納得しました、ありがとうございます」と林松に一言礼を述べた。するとその直後、議場内は大きな拍手の音が鳴り響いた。林松は珍しく照れながら「いやいや、わかってくれて嬉しいよ」と言い、ぎこちない笑みを浮かべながら自身の手を挙げて応えた。もしかしたら当時、そこがすっぽり抜けていたから進まなかったのかもしれない。その話を聞いて、皆は数年ぶりに腑に落ちたように感じていた。これでようやく前に進み出すきっかけになりそうだ、そう思いながら林松を見る森上や湖層、そして郷大や梅川の目は輝きを増した。その一方角末や反対した幹部達も、それまでの表情とは打って変わりどこか清々しさが見られた。最後に湖層から本格的な合併までの期限を三か月とすること、また今後の全体目標は各社が協力して自然と一体になるよう、今後より一層必要なことを取り入れていくとまとめ、無事本日の会議は閉会となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ