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ひたむき  作者: ナトラ
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合併 ⑥

 森上はまず、名称変更について皆に伝えた。「先程林松社長からお話しがありましたけど、こちらから一方的に決めるのではなくて、こうして皆の意見を集めることにしたのです、そこで今後どのような名称にするかをこれからまとめていきたいと思っています、どうぞ皆さんご自由に考えてみてください、それと何でも結構ですので、意見したいことがあればそれも合わせて教えて下さると良いなと思います、その方法について専務、お願いね」と話を振った。郷大は各部署で意見をまとめた上で提出するようにと依頼した後「何か質問はありますか」と皆へ問い掛けた。すると一人の女性事務員が手を挙げたので「どうぞ」と促すと、「もしこれから合併となった場合、勤務先が変更となる可能性はありますか、例えば今のOIDEYASU事務所や総重建設の方に行くことになるとか」その女性はそう控えめに尋ねた。


 それを聞いた郷大は、すぐ森上と小声で何かやりとりした。その後「いいえ、今のところ二社の名称を一つにするということしか決まっていません、しかしながら将来、その可能性が全くないとは言い切れません、もしかしたら部署異動という場合もあり得るかもしれない、ということはお伝えしておきます」郷大に代わって森上がそう咄嗟に答えると、皆は小声で何やら話をしていた。すると郷大が「はいはい」と手を打ちながら「もしそれが嫌なら俺にも教えてくれよ、自分の正直な意見をさ」と言った。周囲は一瞬は納得した表情を浮べていたものの、それはミサから見れば心からの表情ではないことを見抜いていた。そしてまだまだ時間がかかりそうだと思う中、しかし梅川の話を聞いて一旦、脇へ置くことにした。


 動画を無事に送り終えた梅川は、郷大からそれまでの話を聞いた。そして「私からも一言いいですか」と中央に立つと「今後、募集した名称が採用となった場合についてですが、もしその場合には私からささやかなプレゼントを用意しています、またその次点候補についても検討していますので、ぜひ皆さん、これから楽しんで進めていきましょう」と持ち前の笑顔で皆へそう呼びかけた。すると女性事務員は礼を述べた後、周囲はそれについて既に話をし始めていた。


 森上はその後ミサを社長室へ招き、打ち合わせに入ろうとしていた。また郷大と梅川も職務に戻ろうと声を掛け、皆もそれぞれの仕事を始めようとしていた。その様子から時々笑顔も見られるので、郷大は良かったと思いながら梅川の肩を軽く叩いた。「面白いな、何を用意してるんだい」「内緒です」「俺にもか」「もちろんです、郷大さんも楽しみにしていてください」梅川はそう答えると、さっさと自室へ入って行った。


 一方OIDEAYASUに到着した林松は先程と同様に皆を集め、事の成り行きを説明していた。OIDEYASUの皆は既に梅川からの動画配信を見ていたので、さほどの驚きもなくそれを受け止めていた。しかしある社員が「私は御遠慮したいです」とはっきり声を挙げるとそれに続き「私も俺も」と一時、周囲がどよめき立つ程の状態となった。林松は事前にある程度はそうなるだろうと思っていたものの、その人数があまりも多く「まあまあ」となだめるように声を掛けていた。するとそこへ何時になく厳しい表情を浮かべた湖層が、突如として「わかりました」と言い放った。そうして皆の視点を一点に浴びながら「では皆さん、この現状で他に良い案があれば、ここで仰ってください」と皆へ呼びかけた。


 皆は一瞬沈黙した後、すぐに一人の男性社員が声を挙げた。その社員は基本的に賛成だと言ったが後、こう切り出した。「名称を同じにするということは、これからは全てあちらと一緒になるということですよね」それに対して湖層は「そうですよ」と即座に答えたが、林松は少し首を捻らせながら「いや、まず名称をまとめるだけだ、当面は今までの構造を変えるつもりはない」と答え、湖層の方をちらりと見た。するとその職員は「でしたら、まずはそれをご提示していただきたいです、例えば今後数か月、いや数年は異動することはないと」そう述べて一礼した。林松と湖層は再び、互いに小声で何かをやりとりした後、湖層が「わかりました、では今日中に通達を出します」と答えた。こうなるだろうと事前に予想していた林松は、今の現状を目の当たりにしてその想いを己の中でさらに強めていた。


 しかし湖層はその流れを変えた。一つ咳払いをしてから「それは結構なことです、こうして自分の意見を述べるのはとても大切なことですから」と言ってノートを取り出した。それを見た皆は不思議に思いつつ、それまでとさほど変わらずに周囲と話を続けていた。「何のノートだ」そうした声がちらほらと聞こえ始めた時、湖層はそれまでよりも一層声を強めて「このノートは友人から借りたものなの、今日はいい機会だからちょっと読んでみようかしら」と言って、適当にページをめくり読み始めた。その時に湖層が読み上げた文面は、先日バーベキュー会議で香純が示したものだった。


 その直後、数人が下を向いたのを湖層は見逃さなかった。そして「ね、その上でご判断下さい」と言い話を終えた。その後の場内は静まり返っていた。そこで一人の女性社員が「私これ、事実だと思います」と声を挙げた。湖層はゆっくりとそのこえがした方に目をやった。その人は多分同年齢だろうと思いながら「なぜそう思うのですか」と問いかけた。するとその女性は堂々と「それはきっと、その人の本音が出た瞬間を記載したものかもしれませんね」と鋭く答えた。それこそまさに、この時湖層が求めていた意見だった。



 

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