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ひたむき  作者: ナトラ
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合併 ⑤

 美穂にはそう言ったものの、林松はまだどこか踏ん切りがつかないでいた。それから一人、しばらく縁側に座って庭の草花を眺めていた。自分が森上を退けてからミサを立てるのではなく、もっと他に良い方法はないものかと考えていると、梅川から電話があり植永の手術が無事終了したことを知った。林松はそれからすぐ森上と湖層、また総重建設副社長の柿崎へ連絡をした。また香純からも電話があり、これからチャイルドシートを取りに向かうと言うので、昨日のうちに増永に頼んで既に送ったことを伝えた。香純は謝罪と礼を述べていたが、林松は今はそれどころではないとそれまでの事情を伝えた後、参考までに意見を尋ねてみた。「お前はどう思う、まだ他に方法があると思うんだが」


 すると香純は「それは確かに私もそう思います、今はまだミサさんを社長にするというのは、皆には公表しない方が良いかもしれませんね」それは湖層と同じ意見だった。その意味を再び尋ねると「森上社長の引退はまだ当面先なので、表向きには今は急場を乗り切るために副社長のミサさんにも業務を手伝ってもらう、しかし実情は少しづつ引継ぎの準備を進めていくので、そうした説明の方が良いんじゃないでしょうか」と香純は述べたが、それは湖層の意見とは逆だった。湖層はこれをきっかけに二手に分けるのもありだと言っていたので、そこの部分で違いがあった。林松はその話を聞くと唸り、少し眉間にしわを寄せた。数秒後、確かに今はそれが良いなと腑に落ち、香純に一言礼を言うと早々に電話を切った。


 その後、手書きで用意した通達を一旦は捨てて美穂を呼んだ。綾子と料理をしていた美穂は、林松がいる部屋の廊下から「なあに」と声を掛けた。林松は美穂を見て「やっぱりミサは副社長のままでいくわ」と伝えた。すると美穂は「ふうん、そうなんだ」とやけに素直な返事をした。こうして父親が一旦は決めたことを覆すのは、これまでにはそうなかったと美穂は思っていた。きっと様々なことを考えたのだろう。そう思いながらその場を立ち去ろうとしたが、その時林松が「そうだ、銀ちゃんに電話しといたぞ」と言った。二人のやりとりは続く。


「え、もう聞いたの」「ああ、昨日姉ちゃんからな、早速電話しておいたよ」「ええええ、ちょっと早くない、そういうのはまず私に聞いてからなんじゃないの」「なんで別に良いだろうよ、そもそもお前の希望なんだから」「でもさあ」「お前が戻ってきたら今後の詳細を決めていくって言ってたぞ、まあきついと思うけど頑張れよ」それを聞いて美穂は嬉しさもありながら、しかしあまりにも急展開で正直言って驚いていた。しかしこの頃から父親に認められつつあるように感じとっていた。普段から仕事の話題は極力しないようにしていたが、こうして数年が経ち帰国してみると、その優しさを肌で感じ始めていた。そうした違いを目の当たりにしてその想いを知ると、美穂の頬には自然と涙が伝っていた。林松もそれを横目で見ていたが、何も言わずに書類へ目を落として静かに微笑んだ。美穂は感謝の想いを胸に、無言のままその場を離れた。


 その後、林松は再び湖層へ連絡してその方向で今後は進めていくと伝えた。すると湖層も最終的にはその意見に賛同し、郷大と梅川に連絡をしておくと言った。林松は何かあれば連絡してくれと伝え、その電話を切った。また森上へも同様に、その計画について話をした。森上は「その方が私も助かりますよ」と言ってすんなり話がまとまった。そしてさらに副社長の柿崎に当面の間、社長を引き受けると伝えた。すると柿崎はこの時、すでに面会に行き植永と今後についてを既に話し合ってきたと言う。柿崎は「それで植永社長からの伝言なんですが、ご迷惑おかけしますがしばらくの間はお願いしたいとのことでした」と林松へ伝えた。それを聞いて柿崎にサポートを頼むと言い、電話をそっと置いた。「これで準備は整ったな」一息ついてそう呟いた林松は大きな欠伸をし、体をぐいと前後に伸ばした。


「ご飯、出来たよ」綾子が声を掛けてきた。それで林松はちょうど思い出し、来週からミサが来ることを伝えた。それまでに美穂の様子を見ていた綾子も、何らかの変化を感じながら「ふうん、そうなんだ」と言ってなるべく普段通りに振る舞っていた。しかしその内心は、何か変化があるだろうとは密かに思っていた。その返事に対して林松は、意外に思いながらも無言で食卓へと向かった。そして席に着いてビールを片手に、つまみを口にし始めた。「このきんぴらは香純が持ってきた野菜か」「そうよ」「こりゃ旨いな」「ところで美穂はいつあっちに戻るんだ」「明後日の夕方」「火曜日か、で、明日は空いてるか」「空いてない、優と出かけるから」「ふうん」「お父さんも来る」「あほ、行く訳ないだろ、それどころじゃないんだ」「ふうん」美穂はそう返事をしてポテトサラダにソースをかけて口にした。そして「うわ、何これ、ほんとおいしい」と言ってはしゃぐ中、綾子は鍋を見つめて久々に会うミサのことを一人考えていた。


 翌朝ミサを迎えるため、林松は自宅隣の事務所へ立ち寄った。森上と会い軽く打ち合わせをしていると、ミサが載る車が構内に入ってきた。周囲の皆が顔を見合わせながら、駐車場から歩いてきたミサをそれぞれ出迎えていた。見慣れないスーツ姿を見て林松は「一瞬、誰だか分らなかったよ」とミサに冗談を言うと、「今日は気合入れてきたわよ」と言ってそれに答えた。また森上も笑顔で挨拶を交わした後、林松は皆を呼び寄せた。その中央にミサを招いた後、今日からしばらく出勤すること、また今後は森上と行動することが多くなるだろうと皆へ伝えながら改めて紹介した。ミサは社員へ「どうぞよろしく」と挨拶した。


 それから林松はこう述べた。「こないだ偶然にも、一号店を手伝ったんだ、しかし現場は本当に大変だと痛感した、皆、毎日お疲れさん」と労った。その後「で、今日から隣にいる副社長の愛兼ミサが出社することになったが、その理由についてこれから森上社長から話があると思う。ただその前に二つほど言っておきたいことがあるんだ」と言って一度咳払いした後に「一つ目は、総重建設社長の植永さんが入院した、回復までの間はしばらく俺が兼任する、今日の会議で正式に決まる予定で既に本人も了承している」皆は鎮まって聞いていた。続けて「二つ目は、一度はグループ解散となった現状だが、当時と比べて必ずしも前に進んだとは言えない状態が続いている、そしてこの先も二手に分かれたまま進めるのではなく、今後はこのOKAMIとOIDEYASUの合併を進めようと思う。それぞれ共に店舗数を順調に伸ばしており、売り上げも右肩上がりで今のところは順調だ、しかしこれからは両社が手を繋ぐのではなく、むしろそれ以上に一体となることを目指そうと思う、それにより様々な利点がある、そして今後はそれらが循環していくだろうという結論に至ったので、今後はそれで進めていこうと思う」


「皆の中には反対する人もいるだろう、でもそれならそれで良い、しかしその声を我慢せずに、ぜひ同僚や上役誰でも良いから伝えてみてもらいたい、また総重建設も進めていく予定だが、今のところはこの二社を先に進めていく、会社の規模は確かにOIDEYASUの方が大きい、だが何も心配はいらない、社長がこうして今言うのだから自分の気持ちを今は一番にしてほしい、じゃ森上社長、後はよろしく」と言い終えると、迎えに来た車にさっと乗り込んでOKAMIを後にした。


 森上からこの様子の録画依頼を受けていた梅川は、その内容を確認するとすぐにOIDEYASUと総重建設へ送るよう部下へ指示を出した。それを受けたのは、急遽抜擢となった増永だった。林松がOIDEYASUへ向かった後の森上の話で、増永は正式に梅川の元へ本日付けで配属となることを発表した。その実力はやはり群を抜いていた。それは香純が見抜いたように増永の周囲への配慮はとてもきめ細かく、何よりも人当りが良いことが両社間でも噂になっていた。「凄いな、この短期間のうちに梅川常務の元へ着けるなんて」と声を漏らす若手もいた。森上はその声を聞きながら「ああああ、先に言っときますけど、彼は管理職撤廃に賛成してますからね」と皆に伝えた。


 

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