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ひたむき  作者: ナトラ
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これから ④

「あら皆様、大変ご無沙汰しております」シルク調のワンピースに茶色のカーディガンを羽織り、網戸越しにそう言って挨拶した美穂を見て、香純はとても懐かしく思っていた。その隣にはびしりとスーツを着こなした優がいて、こちらへ深々と頭を下げていた。その二人の姿を眺めていると美穂が急に「わあ、香純さんだ、お久しぶりです」と言ってはしゃぎ始め、そのまま玄関へ足早に向かった。すると優もそれを見て、すかさず一礼してその後を追った。それからすぐ二人が居間に入ってきて、香純はそこで改めてその姿を見てみると以前のような子どもっぽさはまるでなく、随分変わったなと思い眺めていた。そこへ「香純さん」と美穂が声を掛け、直後に傍に来るとそれはもうとても嬉しそうに繰り返し挨拶をしていた。「うわあ嬉しい、本当にご無沙汰してます」そう言いながらも落ち着いている丁寧な挨拶から、香純は驚いて「や、やあ久しぶり、元気そうだね」と答えた後も、少しだけ戸惑っていた。


 その騒ぎを台所で耳にしたトクと綾子もこちらへやってきて、すると先程と同じように美穂は「トクさん」と言って傍に駆け寄り、その体に抱きついた後に耳元で何かを早口で伝えた。トクはそれを聞くとすぐに美穂の顔を間近でじっと見たが、しかし何も言わずに美穂の腰元で両手を重ね合わせた後、しばらくそのまま二人で抱き合った。少し経ってからそっと離れた後、トクが「ところで今、なんて言ったの」と美穂に尋ねた。すると後ろにいた優が「会えてうれしいです、ずっと会いたかったとのことです」美穂が早口で伝えた事を通訳した。トクは優にすぐ礼を言ってから「私もずっと会いたかったわ」と言うと涙ぐんで伝えた。そして二人は再び見つめ合い、互いの手を取りながら「おかえり」「ただいま」と伝え合った。そうした二人の眼にはうっすらと涙が潤んでいた。


「なんだか家族に会うより、よっぽど嬉しそうだな」その二人の様子を見ていた林松がそう言うと、周囲は少しだけ笑った。続けて「おい美穂、姉ちゃんのところに行ったんだってな、それくらいこっちへ連絡したらどうなんだ」と言った。しかし美穂はその手を繋いだまま「だから出かける時に言ったでしょ、遅くなるかもって」と反論した。するとさらに林松は「でもよお、連絡くらいはできるだろう」と尋ねたものの、美穂は「忙しかったのよ、べー」と言って自身の目元を左手で下に引っ張った。それを見ていた湖層は「そのやり方は全く変わってないのね」と言い、郷大と香純も笑って頷いた。そして二人の会話は続き「でも凄いね、英語ペラペラじゃない」「勉強したんですよお、でも難しい言葉はわかりませんけど、でもそんな時は優に頼みます」それらの問いに美穂は笑いながら答えた。


「優も随分とたくましくなったな、帰国するのを親父に黙ってたんだってな」ここで郷大がそう言うと、優は右手で額を触りながら「えへへ」と笑い、そして「軽く小突かれましたよ」と伝えた。それを耳にした森上は「まあ別に、私はあなたの事はさほど心配してませんけどね、でも久々に帰るという時くらいは連絡したって良いじゃないと思うと腹が立ってね」とこぼした。すると林松も「そうだよ、だから何でも連絡は大事なんだぞ」と続いたが、優は「確かにそうでした」と言い一礼したが、美穂はそれとは逆に「べー」と言いながら、再び林松に対して自身の目元を再び引っ張った。それを見ていた森上は「でも急の帰国で驚いたけど、あなたが元気にしていれば私はそれで良いんですよ」と言って微笑んだ後、続けて「あのう悪いんだけど、ワインもう少し頂けるかしら」その声を聞いた梅川がすぐ席を立とうとしたが、トクは既に耳にしていたので「はあい」と返事をし、すぐ綾子に伝えていた。そして綾子からそれを受け取って届けると、森上は「あら悪いわね、久しぶりね、いつだか一号店に飲みに行ったの覚えてる」「ええ、覚えてます、ご無沙汰してます」「あら覚えてたんだ、相変わらず可愛いのね」と言って礼を言いながら受け取り、それを隣にいる梅川に手渡した。梅川はそのボトルの栓を開けた後に森上のグラスへゆっくりと注いだ。そのグラスの先に鼻を近づけながら森上は「良い香りね」と言い、それから少しグラスをねらせて口に含んだ。


 これでようやく全員揃ったので、台所にいた綾子やトクも集まり盛大に乾杯した。その後は優を中心にバーベキューを始めた。外で焼き始めてからしばらくして、急に「おおい」と呼ぶ郷大の声が聴こえた。優は既に食材を次々と焼き始めていたので、自身の手にトングを持ちながらも視線は鉄板に向けたまま「なんですか、郷大さん」と尋ねた。すると郷大は優の傍に近づいてきて「ところでお前、美穂ちゃんと付き合ってんのか」と小声で尋ねた。そこで優は振り返って「付き合ってませんよ」と笑顔で返事をすると、郷大はなぜ笑顔なのかと不思議に思っていた。優は続けて「ただ、以前と比べれば最近は良い感じだと思うんですよね」と付け加えた。そのため郷大は「へえ、そうなんだ」と答えて続きを尋ねようとしたが、今は忙しいだろうから後にしようと思うとそれ以上聞くのは止めにした。そして再び中に入ろうと背を向けた後「だったら良いんだけどよ」そう一言だけ呟き、その場を離れた。優はその様子を見て「何だか背中が以前より小さいな」と一瞬思いながら、次々と吹き上がる煙を払いつつその後も淡々と食材を焼いた。


 

 その後すぐ、焼き上がった品を受け取るために美穂がやってきた。そして「ねえ、優も食べようよ」と誘いがあり「そうだね」と、優がそれに答えて嬉しく思っていると、そこへちょうど梅川が来て「俺が代わるから中に入って」と二人を促した。優が「そうですか、すみません」と言って中に入ると、既に酔いが回ったのか「こっちにおいで」と森上が呼んでいたのでその隣に座った。美穂は隣の部屋で遊んでいる子ども声が聞こえてきたのでそこへ向かった。優が席に着くと綾子が「お疲れ様ね」と言ってビールグラスを手渡してきた。優はそれに礼を言って受け取ると、すぐ一息に飲み干した。それを見ていた郷大は「相変わらず飲みっぷりが良いな」と言い、香純もそれに大きく頷いた。その空いたグラスを手に再びビールを注文した優に、林松が「海外は順調だと聞いているが、お前から見てどうだい、簡単で構わんからここで話をしてみてくれんか」と言った。優は林松に「はい」と素直に答えた後に再び届いたグラスの半分を流し込み、それから海外支店の状況などを説明し始めた。


「ええとですね、現時点で二十店舗となり、今後新たに三店が加盟予定ということです」随分増えたんだなと思いながら、香純はその話を優の向かい側に座って聞いていた。「加盟店が増えた事で収益も毎年伸びているのはご存じだと思いますが、ただですね」と言った後に俯いて少し黙った。「うん、どうした」そこで郷大が呼びかけると優は再び顔を起こして「すみません」と言い、続けて「ただですね、一つ思う事がありまして」と躊躇っているので、良いから続きをと促すと再び口を開いた。「実は食材の事で、こちらは多くの店で既に無農薬野菜を扱っているとのことですが、今後海外もそうなれば良いなと思っても、実際にこれをどう進めて行けば良いのか自分にとっては難しくて」と優がそこまで話すと辺りは一瞬、静けさに包まれた。少し経ってから湖層が「なら上司にまず伝えてみれば良いんじゃない」とアドバイスしたが、優はあまり浮かない表情のまま「ええ、それで一応は話してみたんですが、ただやっぱりいくつか問題がありまして」と答えた後に再び俯いた。そんな姿を見ていた郷大は「何だよ優、じゃあとりあえず飲んどけ」と言って優のグラスにビールを注ぎ入れた。すると優は「そうですよね、それじゃ頂きます」と言って一旦顔を上げた後、それをさらりと飲み干して再び黙った。

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