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ひたむき  作者: ナトラ
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雲間に見える空へ ①

 リンは寝ぼけ眼でソファーに腰かけ、今もまだ眠っている。それを横目に香純はトクの両親へ挨拶し、リビングにある椅子へとゆっくり腰かけた。大きな飛行機が飛び立つところを見てきたと、真純が嬉しそうに話している。目を細めながら時々、相槌を打って聞いている善市が隣にいる。台所ではお茶の準備を用意しているトクが、急にこちらへ出てきた。そして香純へその視線でちらりと合図している。その先を見ると義母のフクが、何やら困った様子で首を捻らせていた。


「どうしたの、お母さん」


そこへトクが傍に行きそう言うと、フクはテーブルの上を指差して言った。


「お茶の葉よ、昨日はここに置いたと思うんだけど」


「お母さん、それうちのリビング、ここは自宅よ」


「あ、そうだった、やだやだ、思い出した」


そうフクが笑って答えている。香純はその姿を見ると、すぐ視線を外へとやった。やれやれと、トクは再び小走りで台所へ戻って行った。


 それからはリン以外の皆が集まり、菓子などをつまんでいた。すると善市が尋ねてきた。


「順調かい」


「ええ、おかげ様で、何とかなりそうです、この間、いろいろご心配やご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


「いや、別に大したことじゃなかったし、それよりこれからの方が大変だろう、そっちは大丈夫なのか」


「畑の方はアルバイトの方がしっかりやって下さっていますので、これから次第で何とでもなると思います、ただ会社の方は正念場を迎えます」


「実際にどうなんだい、林松さんは会社の売却を決めたそうじゃないか」


「確かに、しかし一部では今も難航している状況が続いてまして、これから少し面倒なことになるかもしれません」


「訴訟か」


「ええ、まだ確定ではありません、しかし総重建設という初代会長から在籍する社員たちが、林松さんを訴えるという話がありまして」


「そりゃ大変だ、何とかなるのかい」


「その対応に当たられることになったのが郷大さんという元専務の方でして、ですから何か秘策があるのだろうと私は思っているところです」


「それじゃ、しばらくの間は兼業になるな」


「そうですね」


「ま、体だけは大事にして、何か困ったことがあれば、いつでも相談に乗るよ」


「ありがとうございます、本当に助かります」


「それとだな、名前は忘れたが林松さんの娘さん、名前は何て言ったかな、その人とはどうなったんだ、テレビではあのようなことを言っていたが」


「林松美穂さんですね、彼女の役職は統括でして、私は今回、その補佐役を務めました、今後も情報を受け取りながら引き続きサポートしていく予定です、テレビの内容を拝見しておりませんが、話を聞いたところでは不倫疑惑と報じたとか、全くそのようなことはございませんし、証拠もございます、こちら一日の業務記録と、それにあちらで訪問した領収書があります」


「ほう、ま、中身は別に構わんが、全て終えてきたわけだな」


「はい、重ねてご心配おかけし、本当に申し訳ありませんでした、そこで一つ、考えていることがありまして」


「何だい、それは」


「実は移住しようかと」


「何、まさかその村にか」


「ええ、これからじっくりと話すつもりですが、一応、お義父さんには先にお伝えしておこうと思いまして」


「それは良いが、今ある畑はどうするんだ、ようやく収穫出来るようになったのに」


「畑はこのまま続けるつもりです、しかし私が直接行うのではなく、他に希望者を募ってみようかと思っています」


「やりたい人を見つけるのか、そりゃ大変だな、誰かやれる人がいると良いが、そうそう簡単には見つからないだろ、それとも目星の人が既にいるのかい」


「今のところは何とも、ただ、全く可能性がないわけではないと思っています」


「しかしまあ、あれだけ広い土地で最初からは大変だな、とりあえずわかったよ、あとは二人で相談して決めたら良い、おいフク、他に何かあるか」


 フクは湯呑にお茶を注ぎ入れながら、善市の問いに答えた。


「そうねえ、私からは一つだけ、もし移住するならそれでも良いと思うの、でもね、その時にはトクと子どもたちはここへ戻っておいで、お母さん、今より遠く離れるなんて嫌だから、そして真純は学校へ行くのよ、良いかい」


 真純はその時、床に走らせた模型の車の手を止めた。そして香純をちらりと見ると、すぐさまこう言った。


「僕、学校には行かないよ、おばあに何度も言ったよ、どうしてそんなに行かせたいの」


するとフクはここぞとばかりに声を強めた。


「皆と同じように育って欲しいの、お父さんだけ移住するなら、真純はここから学校に行けるんだよ」


真純は、さらにムキになりこう言った。


「だから、何でかわからないよ」


「だから、他の皆と同じように」


「もう、やめなさい」


ここで善市が止めに入った。そしてこう続けた。


「答えになっていないじゃないか、それに真純の質問にも答えてない、それはお前の願望をただ押しているだけだろう、もうその話は既に済んだことだ、他になければ黙ってなさい」


「わかりました、もう何も言いません」


フクはいささかふてくされ、その場を立ち去った。その後にトクが追い、二人は階段を登っていく足音が聞こえた。


「ごめんな、真純」


善市がそう言うと真純はにこりと笑い、香純の膝元へ寄り添った。


「おじい、別に良いよ、僕はお父ちゃんとこれ以上離れたくないんだ、おばあはさ、お父ちゃんが一人になれば良いと思っているみたいだね、でも僕はそうじゃないよ、これからもお父ちゃんと一緒、それにお母ちゃんやリンやおじいやおばあもね」


 すると香純は、咄嗟に真純を抱き上げて頬ずりした。真純は多少痛いと言い、その手で払うそぶりをした。しかし香純は嬉しくて仕方がなく、何度も真純の頬へ自分の頬を擦った。それを見ていた善市は、にこやかな表情でこう言った。


「真純、さっきの話はもう良いわ、おまえはお父ちゃんとお母ちゃん、それにリンをこれから守っていくんだぞ」


「おじい、わかったよ、僕、頑張るよ」


「ほうか、よし、大したもんだ」


 日ごとにたくましさを発揮している我が子を見て、香純はこれ以上の言葉はいらないとさえ思った。むしろ今は、互いに触れ合う時間が多い程良い。そのように感じながら、無言で湯呑に口づけた。その頃、二階にいる二人は今も話し合っていた。


「トク、美穂さんも好きだと直接言われて、何も思わないのかい、こっちは結婚したお嫁さんなんだよ、それを知りながら、その美穂さんはそう言ってきているのよ」


「うん、お母さんありがとう、でもねそれ、結婚する前から知っていたことなの、美穂ちゃんが我慢してくれていたから、今まで何もなかったように見えただけなのよ」

美穂は帰国し、トクと対面する。会社は売却。その後、組合へ移行する。総重建設は揉め、姉けいこが出向くが。次回、雲間に見えた空へ②

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