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吸血鬼。The Vampyre.  作者: ジョン・ウィリアム・ポリドリ博士 Dr.John William Polidori/萩原 學(訳)
訳者からのネタバレ少々
27/52

ポリドリの『吸血鬼』、3月27日の怪

The Vampyre 初出は 1819年4月1日の New Monthly Magazine にあり、ロンドンの Sherwood, Neely, and Jones から出版された書籍版は [Entered at Stationers' Hall, March 27, 1819] と付記され、これが当時の著作権表示であったとは先述のとおり。

挿絵(By みてみん)

もっとも、著作権者の権利を守るものではなく、文房座に登録して独占出版を認められるものであったから、「出版権表示」と呼び替えた方が実態に即しては居よう。

挿絵(By みてみん)

ちゃっかり偽の作者名を記す初版本もあって、バイロン卿のサイン偽造とは浅墓な真似をと笑っていたのだが。考えてみると、当時は写真製版など無いから、印刷物に手書きした筈だ。誰が何故書いたのか。

挿絵(By みてみん)

書いてある文字列は、雑誌にある通り。正確には、印刷したのが

THE VAMPYRE;

A TALE.

であり、手書きしたのが

By Lord Byron

となっているから、雑誌の

THE VAMPYRE;

A TALE BY LORD BYRON.

と違うと言えば違うのだが、この手書き文字は明らかに、雑誌記事を見て上書きしたものであろう。出版者が。

……はてさて、ご苦労千万なことだ。


この日付がおかしいことも先述のとおり。これについて、ポリドリ博士から編集部への抗議は


John Polidori to Henry Colburn.

[London], April 2 (1819).

Sir,


4月(今月)の雑誌を受け取りました、

I received a copy of the magazine of last April (the present month),

しかし1つだけ、説明を求めたい。雑誌の裏に、別冊の告知がある。これを購入したところ、表紙には、貴誌が発行される前の3月27日に文房座登録とあるではないか。そこで、この物語が貴誌編集者の手から出版社の手に渡った経緯を教えていただきたい。

But, sir, there is one circumstance of which I must request a further explanation. I observe upon the back of your publication the announcement of a separate edition. Now, upon buying this, I find that it states in the title-page that it was entered into Stationers' Hall upon March 27, consequently before your magazine was published. I wish therefore to ask for information how this tale passed from the hands of your Editor into those of a publisher.

ごく些細なことなので、貴誌に掲載されることに異存はなかったのですが。自分なら、他の雑誌と同様に、そこから抜き出して再掲載することもできたのだし。しかし、私の同意もなく無断で持ち出され、他の者に流用されるのを黙って見ているわけには参りません。従って(雑誌に記載されている通りなら)特派員からあなたの手に渡ったに違いないので、出版社のシャーウッドとニーリー両氏がこれを所有し、自分たちのものにしたことについて私に説明し、私に補償をするか、あるいは別個の出版を即座に差し止めるよう要求することを期待します。

As it is a mere trifle, I should have had no objection to its appearing in your magazine, as I could, in common with any other, have extracted it thence, and republished it. But I shall not sit patiently by and see it taken without my consent, and appropriated by any person. As therefore it must have passed through your hands (as stated in the magazine) from a correspondent, I shall expect that you will account to me for the publishers, Messrs. Sherwood and Neely, having possession of it and appropriating it to themselves; and demand either that a compensation be made me, or that its separate publication be instantly suppressed.


という。雑誌発行日の翌日に発送され、編集部に対して「受け取った」という以上、編集部から掲載誌を送付されたであろうことは先述の通り。


Edinburgh University Press に、Nick Groom 氏2021年の論文 Polidori’s ‘The Vampyre’: Composition, Publication, Deception があったので、読んでみたのだが。The Vampyre: A New History で、あれほど手際の良かったニック・グルーム氏が、ここでは旧態依然たるポリドリ陰謀論を繰り広げるのだ。Hobhouse の手紙を根拠に。バイロン卿長年の友人とはいえ、その場に居合わせもしなかったホブハウスが、何を知っているというのか。バイロン卿自身がガリニャーニ誌への手紙で否定しているではないか。

加えて、日付がおかしい。


束の間の満足を得たポリドリは、4月8日に今は無名となったこの本を購入した。その中で彼は、「ジュネーヴからの手紙」と吸血鬼に関する注(現在は「序」)に加えて、この物語に偽の「バイロン卿の住居に関する記述など」が付されていることを知っただろう17。

Briefly satisfied, Polidori bought a copy of the now-anonymous book on 8 April; in it, he would have found that in addition to the ‘Letter from Geneva’ and the note on vampires (now an ‘Introduction’), appended to the tale was a spurious ‘Account of Lord Byron’s Residence, &c.’.17


17. John Mitford wrote the latter, first published in the New Monthly the previous November.


というのだが、ポリドリ博士4月2日の編集部宛て抗議で既に指摘されているのだから、ポリドリ博士が書籍版を購入したのは4月1日、遅くとも4月2日でなければならない。4月8日に購入したという根拠はない。

now an ‘Introduction’という挿入句は、著者の注釈であろうが、これもおかしい。この部分が[- Ed.]とされていたのは雑誌のみ、書籍版では最初から INTRODUCTION とされている。

雑誌と書籍の影印をよく見較べて書いた論文とはとても思えない、雑な説と評する外はない。


がっかりしてしまったところへ、捨てる神あれば拾う神あり、「ポリドリの『吸血鬼』」が存在するというニュース。なんのこっちゃ?という人も、一目で納得いくのではないか。

挿絵(By みてみん)

例によって欄外下端、参考文献として張っておく。オーストラリアにあるクイーンズランド大学からのお知らせで、フライヤー図書館 The Fryer Library に、19世紀初頭の重要な本があるという。


フライヤー図書館の『吸血鬼』が特に興味深いのは、表紙に「ポリドリ著」 「アイデアのみがバイロン卿のものである」という古いメモが掲載されていることです。

What makes the Fryer Library’s copy of The vampyre particularly interesting then is that it carries old notes on the title page that state: by Polidori and The idea only is Lord Byron’s.


これは素晴らしい発見だ。当時から、今またニック・グルームから、言い掛かりをつけられた The Vampyre がポリドリの作品であることを、当時から知っていた人は居たのだ。

ザマァ!

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参考文献

Wikisource: The Vampyre
翻訳の底本にした単行本の電子書籍版。原典影印つき
Internet Archive: The New Monthly Magazine 1819-04-01: Vol 11 Iss 63
初出の掲載誌影印本。些か読みにくいのが難点
The New Monthly Magazine 1819-05-01: Vol 11 Iss 64
ポリドリ博士の抗議が掲載された5月号
The Vampyre (in Short Ghost and Horror Collection 011)
LibriVox にある朗読
The diary of Dr. John William Polidori
The diary of Dr. John William Polidori
作者の甥ロセッティが編集発行した日記。編者による序文つき
The Vampyre as a literary war on the image of Greece
The Byron Society に収録されたKonstantina Tortomani さんの論文
Peter Cochran’s Website – Film Reviews, Poems, Byron…
バイロン研究家、ピーター・コクラン氏のサイト。バイロン卿の手紙あり
The Vampyre;A New History
Nick Groom による吸血鬼の歴史
Polidori’s ‘The Vampyre’: Composition, Publication, Deception
Nick Groom 2021年の論文
POLIDORI'S THE VAMPYRE
The University of Queensland, Australia Contact Magazine
ハムレット
第1幕第2場
Wikipedia
メドヴェジャ Medvegja
Arnold Paole
コシツェ
天国 (イスラーム)
パウサニアス (地理学者)
Jean Marc Jules Pictet-Diodati
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