説話『吸血鬼』The Vampire. A Tale. の成り立ちについて
本作品は、ジョン・ウィリアム・ポリドリ博士 Dr. John William Polidori によるゴシック小説『吸血鬼』The Vampire; A Tale. を章分け及び一部修正し、訳文を付したものである。題名にある tale は、「物語」とも「お話」とも訳され、類語の中では「作り話」の意味合いが強い。此処では「説話」と訳す。ホレス・ウォルポール『オトラント城』以来の「ゴシック小説 Gothic Stories」としては、城砦の描写を欠くので微妙ではあるけれど、化け物も東方趣味も「ゴシック小説」の要素。今日では、というか当サイトのジャンル区分では「ホラー」になるけれど、そんなものは当時まだ無かったから、「ゴシック物語」の一つとして知られたものと考えるべきであろう。底本には Wikisource にあるシャーウッド・ニーリー&ジョーンズ版と、近年になって公開された The New Monthly Magazine 1819年4月1日号影印を用いた。
当初、Internet Archive で公開された影印は判読困難な箇所も多かったところ、Wikisource で進められている The New Monthly Magazine 電子化で該当部分が公開され、読み易くなった。
御覧の通り、雑誌では by Lord Byron と謳っており、このため説話 The Vampyre. はバイロン卿の作品として世に広まってしまった。これについてポリドリ博士は The New Monthly Magazine 編集部へ出版の翌日、バイロン卿はGalignani誌へ4月27日、それぞれ抗議の手紙を出し、ポリドリ博士の手紙は一部が次号に掲載された。これにより、本作品の著者はポリドリ博士となる。詳しくは後書きにて。
シャーウッド・ニーリー&ジョーンズ版の単行本は、次の4部から成る。
1. Extract of a Letter from Geneva
2. Introduction
3. The Vampyre
4. Account of Lord Byron's Residence, &c.
雑誌記事では4を欠き、2は小題を欠く。代わりに[......Ed.]と括弧書きされた編注が入る。これまで邦訳された『吸血鬼』では、此等を揃えることなく、ほとんどは3のみ翻訳、たまに2を添えるばかり。所謂『ディオダティ荘の怪奇談義』は1にあるから、読者は重要な背景情報から遮断されていた訳で、これは翻訳として不誠実極まりない態度と言わざるを得ない。この翻訳では4部全てを訳した。
本文は、ろくに改行もなくダラダラと続くばかりで読みにくく、それだけで字数制限を超えてしまう。そこで、訳者の趣味に於て章分けし、小題を附した。この点は訳者の創作であり、原文には含まれないものと承知されたい。
『ハムレット』以来の幽霊譚 Ghost Story として創作された本作品の語句には、当時の流行り物や慣習、聖書・『ハムレット』・コールリッジ『年寄り船乗り』『クリスタベル姫』などからの引用あるいは影響がふんだんに含まれ、訳していて解らないものも多かったから、そこは訳注を入れた。訳注の中には平井呈一訳への批判もあるが、訳者の私怨が籠もっただけなので、読者は気にされずとも構わない。




