表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
99/432

83-コンロンへ・前編

翌朝。俺は朝日と共に目を覚ました。

心地いい気温で、食堂から朝食の香りが漂ってくる。

腹減ったな……


そんなことを考えながら体を起こすと、目の前に置かれていたのは1枚の絵画だ。

どこかの森を描いたらしいもので、一見ただの絵なのに神秘的な雰囲気を感じる。


ただの絵だよな……?

能力で閉じ込めたとしたら森が消えているのだろうし、いくらシリアでも流石にそこまでしていないと信じたい。

……まぁそれは置いておくとして、シリアはどこだ?


素早く着替えを済ませて、シリアを探しに部屋の外へ出る。

部屋の外はまだ薄暗い廊下で、もちろん人の気配はない。

隣の部屋をノックしてみるが、ドール達ももういないようだ。


なら、今更だけどライアン達を起こして食堂いくか……

俺はそう決めて部屋へと戻った。




~~~~~~~~~~




ライアンとロロを起こして食堂に向かうと、そこにいたのはやはりドールとクロノスだけだった。

彼女達は昨日とは違って普段の服を着ていて、それぞれの朝食を口に運んでいる。


ドールが焼き鯖定食で、クロノスは朝っぱらから天ぷら定食に唐揚げなどを頼んでいる。

量もさることながら、揚げ物……?


そもそもヤタ以外ではあまり見ないものなのに、よくもまぁ起きがけに食べられるもんだ。

白兎亭で紫苑達を見たのと同じように、今度も食欲が下がっていくのを感じる。

夕食を抜いてるから、もちろん食べはするけど……


「おはよう。クロノス朝からよく食べるな」

「むぐ……おはよ。まぁね、食べたいと思った時に食べないと、後で後悔するから」

「ふーん……時間を旅してるってやつ?」

「そうよ。私の旅は、結構ランダムなの」


ランダムな時間の旅……

あの時は混乱してて考えられなかったけど、ガルズェンスの時点でもう会ってたとか言ってたよな……

なら、時間も場所も選べずに放浪してるのかねぇ?


詳しいことはよくわからないが大変だ。

俺なら絶対にしたくない。


まぁそんなことは置いておいて……


「2人は何食べる?」

「俺も唐揚げにしようかな〜」

「オイラは朧マグロ!!」

「どんだけ気に入ってんだよ……」


唐揚げは気分じゃない、マグロは前食べた。

なら……ふむふむ。味噌煮定食、というやつにしよう。

白兎亭の時よりは食欲消えてないし、多分いけるだろ。




待つこと数分。

思いの外速く朝食が運ばれてきた。

船上で食べた刺し身と同じように、脂がよく乗っていて美味しそうだ。


「いただきます」


箸で皮を割ると、ふんわりとした身が顔をのぞかせる。

焼きすぎて固くもなっていないし、もちろん生焼けでもない。見るからに焼き加減が抜群だ。


さらに、一口サイズに切ってタレに付けると、ふわふわの身にはよく絡んで一気に食欲をそそられる。


口に入れたら、もう至高の一言だ。

じゅわっと旨味が広がり、味噌の香りが鼻に突き抜ける。

ただの宿の食堂だというのに、豪華なレストランにでもいるみたいな気分になる。……ヤタでは料亭か。


まぁそれはいいや。

とにかく、これは確かにクロノスの言うことにも同感だ。

ここの料理をすべて食べたくなってしまう。

動けなくなるからしないけど……


俺はどうにか自分を律しつつ食事を続ける。

昨日の夕食と違って、ゆっくりと料理を堪能できる時間だった。




~~~~~~~~~~




朝食を食べ終わると、次はコンロン山に出発だ。

方角は北。宿をチェックアウトして外に出る。

俺は詳しい場所を知らないけど……


「クロノスは知ってるのか?」

「そうね……北かな?」

「知らねぇのかよ」


クロノスは、俺の質問にキリッとした表情で答える。

が、答えは結局知らないというものだ。

キリッじゃねぇよ……まったく。


はぁ……それなら誰かに聞かないとだ。

俺達だけだと、どの山かがまったくわからない。


御所で海音に聞くのが確実か……?

有名なところなら適当な店員にでも聞けばよさそうだけど……

俺達は有名かどうかも知らないからなぁ。


どうにも決めかねていると、ちょうど近くにあった白兎亭が目に入った。

有名店なら、もし有名じゃない場所だったとしても知ってるかもしれない。


てか、昨日は通ってない道で気づかなかったけど、狂気的な数があるな……

オタギだけでも少なくとも2店舗……


俺が呆れていると、どうやらドールも白兎亭が目に入ったらしく無表情に提案してくる。


「……また白兎亭がありますね。もしかしたらコンロンにも支店があるかもですし、聞いてみますか」

「そうだな……支店、ありそうだよな……」

「おおー、またお団子たべれるー?」

「えーと、テイクアウトできるならな?」


どうやらまだロロは団子が食べたいらしい。

それなら聞き込みもできて一石二鳥だ。

俺達はコンロンの場所、団子のテイクアウトのために再び白兎亭へと入っていった。




~~~~~~~~~~




やっぱり白兎亭は呪われているらしい。

俺達が店内に入ると、賑わう店内にいたのは1人の少年だった。


見た目年齢は10歳前後で黒髪、服装は和服ではなくパーカーに半ズボンという全体的にダボッとした普段着を着ている。

そう、ディーテで出会ったあの少年だ。


彼は……いや、彼も山のような団子を前にしている。

紫苑やイナバ程ではないが、それでも数十皿はあるだろう。


彼らと比べれば山とは言えないが、それはあの2人がおかしいだけで、普通なら数十皿でもとんでもない量だ。

しかも、今は朝。


一体何を考えているんだ……?

あの時の少女はいないが、こんな偏食をするなら目を離しちゃだめだろ……


俺は、ディーテで一緒にケーキを食べたことを棚に上げて、つい保護者の少女を非難する。

コンロンの話など後回しにして、今すぐにでも少女を探しに行きたいくらいだ。


だが、他の4人は彼との面識がない。

特になんとも思わずに、店員にコンロンの話を聞きに行ってしまった。


……友達だし、無視はよくない。

する理由もないけど……


「えーっと……久しぶり?」

「むぐ……むぐぐ……むぐ」


俺は少し口ごもりながらも声をかけるが、少年は団子が口に詰まっていて返事ができていない。

膨らんだ頬がリスみたいでかわいいな……


少し和みながら、彼が口の中を空にするまで少し待つ。


「むぐ……うん、久しぶり。お兄ちゃん」

「おう。朝からいいのか?」

「よく見て。草餅。やさいだよ」

「ははっそうだな。健康的なお菓子だ」


俺が同意を示すと、彼はうっすらと笑顔を見せる。

ドールのような無表情よりは断然マシだけど、それでもやっぱり少し悲しくなるな……

いつか満面の笑顔を見たい。


っと、それよりも……


「ところで、何でこんなところにいるんだ?」

「……? なんで……ぼくの、こきょうだから?」

「え、よくディーテまで来れてたな!?」

「そうかな……?

あ、もしかして、あのあらしのこと、言ってる?」

「ん……それもあるし、単純に船が必要だし」

「船は、どこにでもあるよ。

それに、あのあらしね、2〜3ヶ月に1回とかだから。

アヴァロンの扉やガルズェンスのかんし、クターやタイレンのようないのちの危機も、ふだんはないよ。

オールグリーン、船のしんろは安全さ」

「そっか」


質問に答えてくれる少年は、驚くほど饒舌だった。

この前のイメージよりもよく喋る……いい傾向だな。

胸がほんのり温かくなるのを感じる。


……まぁそれはいいとして。

2〜3ヶ月に一回って、俺達めちゃくちゃ運悪いな。

俺の呪いが幸運であることが嘘のような不運だ。

2人を探すのに影響がなければいいけど……


いや、むしろそれでも辿り着けたことを幸運と言うべきなのか……?

それか、2人を見つけるためにはいつも以上に運が必要で、そのせいで今は発動してなかったり……?


……まぁ幸運の呪い(チル)をあんまり制御できてる自覚もないし、とりあえずレイスと会えたことに感謝すればいいか。


「じゃあ、よっぽど俺達のタイミングが悪かったのか」

「そうだね。よく生きてたなぁ、と思うよ」


そう言うと少年は再び団子に手を付け始める。

俺がいるからか、今回は頬を膨らませる程は食べていない。

次に口が空いたらコンロンの話でも聞いてみるか……


一応確認してみると、ドールとクロノスはまだ話を聞いているし、ライアンとロロは団子を頼んでいるところだ。

十分時間はありそうなので、俺はのんびりと少年を待つ。


だが、俺が少年をぼんやり見ていると、彼はすぐさま団子を飲み込んで口を開く。


「お仲間さんは、いいの? 

いっしょに、じょうほう収集、しなくて」


どうやら、ドール達がコンロンの話を聞いているのを視界に入れたらしい。

確かに一緒にいたけど、普通知り合いでもないやつを気にするか? 


人見知りで気になるってタイプでもなさそうなのに……

相変わらず敏い子だな。


「3人もいらねぇだろ。それに少年、君からだって聞ける」

「しょうねん……名前、律。非時律(ときじくりつ)

「あー聞くのも名乗るのも忘れてたな……俺はクロウだ」

「うん。改めて、よろしく。クロウお兄ちゃん」


こそばゆい……


「おう、よろしく」

「うん……それで、ぼくに答えられること、ある?」

「どうだろ? 俺達コンロン山ってとこに行きたいんだけど、知ってるか?」

「……こんろん山。おたぎの北にある、大きな山。知ってるよ。晴雲っておんみょうじが、お屋しきをかまえてる」


陰陽師……初めて聞くけど、これは海音の言ってた相談役って意味かな……?

どちらも役職みたいな言い方だし……


……まぁいいか。

とりあえず、律はコンロンを知っている。

迷いなく答えたし、これは道もわかるか?


「道とかも?」

「うん。あんない、しようか?」

「頼む!!」


思わず勢いよく頼むと、彼は薄く笑って了承してくれる。

歩きじゃ疲れるから、と移動手段まで貸してくれるつもりらしい。


持つべきは友……って、これは保護者の少女に怒られるかな?

一応利用してるつもりはないんだけど……

俺は少し不安になりながら、仲間達が戻って来るのを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ