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化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
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82-妖鬼族の話

ひとまず彼女の事情はよく分かったので、逮捕騒動のことは許して、今度は俺達の話をすることにする。

いきなり逮捕されそうになったのは許したが、反応的にまだ疑いは晴れていないはず……

事細かに話して、無実を証明しなければ。


まずは目的。大厄災を殺す旅をしていること。

そのために、ミョル=ヴィドにあるアヴァロンという国へ行こうとしていたこと。

その直前に仲間が2人ヤタへと向かってしまったことなどだ。


カノンも女性も、一度話を聞くとなったらかなり真剣に耳を傾けてくれた。

最初に問答無用だったのが嘘のようだ。


……といっても、水から出てきた女性は途中からだったけど。

カノンから受けた印象が衝撃的だったし、ついこの女性に同じ印象持ってしまってもしょうがないよな?


まぁ……とりあえずもう捕まりはしないだろう。

そう信じて、カノンにこれからどうなるか聞いてみる。

彼女の答えは……


「そうですね。捕まえるどころか、協力したいくらいです」


まさかの協力の申し出。

この性格だから他の2人に押し付けられてるんじゃないか……?


俺は正直、あんたは休めと言いたい。

将軍が遊び歩くツケは執権達にいくとしても……他の2人の幹部はカノンに負担をかけすぎだ。

もし会うことがあれば引っ張り出したいな。


「いや……そんな働き詰めの人にはちょっと……」

「そうですか……助かります」


俺がやんわりと断ると、カノンは微笑んですぐに提案を取り下げてくれる。

よかった。もう少しで仕事を増やしてしまうところだった。

ホッと胸を撫で下ろしてお茶を飲む。


……ん?

なんか、立場が逆になってないか……?

役人と不審者のような関係だったはずなのに、いつの間にか相談者と助言者になってる。


待て待て落ち着け。何が起きたかよく考えろ。


たしか最初は捕まえるためで話を聞いてくれなかった。

で、途中から話に応じたかと思えば過労であることを説明された。

なのに今は、自分から仕事を増やしかけていたな……?


おかしいぞ……頭がこんがらがってしまう。

ひとまず負担にならなくてよかった……のか?

いやもう意味が分からない。


これ以上話したら、またどっかで話がおかしくなりそうだ。

俺は速やかに会話を切り上げにかかる。


「とりあえず、無害な旅人だからよろしく」

「了解しました。では、そうですね……

魔人の方なら、少しお話しておかなければいけないことが」


だがカノンは、立ち上がりかけた俺達を静止してそう言ってくる。

何故か逮捕しようとした時よりも真面目な表情だ。


また変な流れになっても困るけど……まぁ話聞くだけなら別にいいか。もう逮捕されることはないだろうし。


それに、この堅物のことだ。

もしかしたら普通に大事な話かもしれない。


俺はそう思い直すと、静かに席に着く。

カノンはそれを確認すると、ゆっくりと口を開いた。


彼女がしてくれたのは、この国――ヤタに巣食う魔獣達の話。

はるか昔、人間を恐怖のどん底に陥れたという神秘の話だ……




伝承によると、かつて世界が浄化された時代、神獣達が生まれた時代の辺りから、人に似ている神獣が出現し始めたのだという。


体が赤や青などに染まり、頭には立派な角、口には鋭い牙を生やした、かつての文明で鬼と呼ばれ恐れられていたような存在が。


彼らは科学文明の生き残りと同じ土地に存在し、そしてかつての文明と同じように恐れられた。

もとより恐怖の象徴として存在していたというのだから当然だ。


話どころか、近づくことすら許されるはずがない。

人類は、彼らをこの土地の外れへと追い立て始めた。


しかし鬼達は神秘で、人類はただの動物。

本来ならばそんなことは起こり得ない。

だが、鬼達はまったく太刀打ちできなかった。


何故か?

それは滅んだ文明の生き残りだといっても、まだ彼らよりも人類の方が多かったからだ。


鬼達はほんの一握りしかおらず、人類はまだまだ多い。

さらには、鬼達もまだ自身の肉体に慣れておらず、為す術もなかった。


そのため彼らは、死にものぐるいで抵抗され、殺された。

ただ、同じ土地にいたというだけで……




それから千年以上もの月日が流れた頃。

今から1500年程前、再び彼らは人里で活動を始めたという。


妖怪達に悩まされながらも、どうにか国の形を保っていたかつての都を、彼らは襲撃した。

都は大火に包まれ、洪水に飲まれ、旋風に引き裂かれた。


そうして、妖怪と鬼人達が破壊の限りを尽くした都は、一夜にして廃墟に成り果てたという。

……これがカノンの語った妖鬼族と人間の話だ。


他にも、その「鬼人の大火」以前に訪れたという「百の手」の伝承があるらしいが、現在にはその噂すらないという。

カノンの認識では、妖怪と妖鬼族の連合――百鬼夜行のことだと。


そのため、警戒しているのは妖怪と呼ばれる神獣達と、カムナビという森の先に里を持つ妖鬼族だけらしい。

確かにこれは聞いてないといらん面倒を起こしそうだ……


「それから、あなた方を捕まえようとしたのも、妖鬼族と接触した可能性があるからです。……多分、会いましたよね?」


伝承を語り終えたカノンは、再び俺達への尋問を開始した。

……あれ、見逃されたんじゃなかったのか?

この人は話が飛び飛びでよく分からない……


「え、知らねぇし……捕まえるつもりじゃないだろうな?」

「いえ、もう捕まえる気はないですよ」

「ならよかった」

「ええ。なので、とりあえず考えてみてください」


彼女の表情は柔らかく、敵意がないどころかリラックスすらしていそうだ。

じゃあ……手がかりを聞き出そうとしてるって感じかな?


昨日の妖怪みたいに、妖鬼族もちょくちょく襲撃してきているのだろうし。襲撃してくる神獣……って、あれ? 

昨日の大天狗が妖鬼族?


妖鬼族は人に近い見た目をしていて、人のように生きるから神獣――鬼ではなく妖鬼族、鬼人。

で、大天狗は人っぽかった……ほう。


特徴は変わった体の色と凶暴性、角、牙など。

大天狗は……襲撃してきたっていう凶暴性だけだな。

じゃあ神獣……人類の敵だから魔獣か。

うーん……やっぱり鬼には会ってなくね?


しばらく考えてみたが、やっぱり鬼に出会った覚えはなかったので正直に答える。


「会った覚えはないな」

「……私も知りません」


それを聞くと、カノンはその人物の特徴を教えてくれる。

人と同じような肌の色、角を隠すための笠、上半身裸、鬼の里出身なので常識がない……のに平等が口癖、人間愛好家、団子が好物、大柄で怪力。


うーん、情報多すぎ……ってかそれ最初に教えてくれよ。

かなり特徴的で心当たりもあるぞ。

だがカノンは、さらに止めと言わんばかりに情報を上乗せしてくる。


「それから、鳴神紫苑と名乗っています。なんでも子供の頃、辺境の老人に付けてもらった名らしいです」


紙に書いて見せてきたのは、鳴神紫苑という字。

紫苑=シオン。はい確定、会いました。

ふーん。確かにあいつ、追われてる感じだったもんなぁ……


「ああ、会ったな。ついさっき」

「はぁ……やっぱり。街人に彼が鬼人だとバレたら大混乱ですよ……。何が何でも捕らえなければ」


カノンはなにやら燃えている様子だ。

協力したいとは思ったけど、あいつはいいヤツそうだったから手伝えないな。

恨みはあるけど、それで罪人にするのはあんまりだ。


「ほどほどにな……?」

「……そうですね。彼は騒がなければ害はないですし」

「害がある鬼人もいるのですか?」


害がない、の部分に対して隣からドールがそう問いかける。

無表情だが、いい仕事だ。


「そうですね……

鳴神紫苑とは違って、この名は襲名性らしいのですが、酒呑童子、茨木童子、鬼女紅葉。鳴神紫苑と彼らは、死鬼と呼ばれる妖鬼族のリーダー格です。

なのに鳴神紫苑は人間愛好家なんですよね……不思議です」

「あいつやっぱ変人なんだな……」


それを聞き、シオンの言動を思い返す。

鬼に限界はないのか延々と団子を食べさせてきて、昨日の大天狗のような立場でありながら客と仲良くやっていた光景……

仲間内でも異端とかすげぇな。


「捕らえるかどうかは置いておいて、とりあえず大人しくはさせたいので、見つけたら教えてくれませんか?」

「わかった。どうせ人探ししてるんだし、シオンでも遊び歩いてる幹部でも、見つけたら教えてやるよ」

「……!! とても助かります。では、3人の特徴を……」


俺が協力を申し出ると、カノンは表情を輝かせて彼らについて教えてくれる。


まず一人目、八咫国将軍である嵯峨雷閃。

特徴は、細身のなよなよした男で雷のような模様の着物を着ていること、とのこと。


のんびり屋で基本的に人に逆らわないので、キツく言えば従ってくれるらしい。

それから団子が好物で、いつも団子屋を巡っている。


うーん……そんなのが将軍でいいのか?

海音の仕事にも関係なさそうだし、優先順位は低そうだ。


二人目は、侍所所長である橘獅童。

特徴は、大柄で騒がしい爺さんとのこと。


将軍含め、この国のほぼ全員を鍛えた傑物らしい。

侍所の所長というだけあって強そうだ。


最後に政所長官の卜部美桜だ。

特徴は、桃色で桜がイメージされるような美しい着物を着ていること。


それから、街よりも自然の中にいて詩を詠っていることが多いらしい。

……シリアみたいなやつってことだな。

まぁ、その卜部美桜ってのは女性らしいが。


「もし見つけたら戻るように伝え、連れてこられたのなら愛宕御所にいる執権、氷室影綱。もしくは私、天坂海音までお願いします」

「了解」


そう言いながら紙に書いて教えてくれるが、将軍の名前はやたらと難しい。

サガ・ライセン。……うん、難しい。


他は比較的簡単かな?

ヒムロ・カゲツナ、タチバナ・シドウ、ウラベ・ミオ、それから目の前の彼女がアマサカ・カノン。

サガ……嵯峨だけふざけた難しさだ。字が細かすぎる。


「あと、何かを探すのなら崑崙山がおすすめです。

幕府の相談役のような方が、占いをしてくれるので」

「ふーん……海音は忙しくて行けないんだよな?」

「はい。他の方が戻れば侍達の指揮も見回りも任せるのですが、今は私がやらないといけませんから」

「じゃあそいつらのことも聞いとくよ」

「助かります」


今日はもう時間ないし、明日だな……

俺達はライアンとロロを起こすと、まっすぐ宿に戻った。


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