表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
97/432

81-問注所長官

俺達はシオン達のあまりの常識外れっぷりに、彼らが出ていってからもしばらく呆然としていた。


ライアンは変わらず寝ていたが、ロロもドールも少し挙動不審になってしまっているくらいだ。

正直、あれをどう処理していいのかまるで分からない……


だが、白い少年が近寄ってきたことでようやく気を取り直す。


「さいなんだったね……で合ってる?」

「えっと……」

「そうね。その子からしたら、災難だったんじゃないかな」

「ふんふん……じゃあ、彼に代わってごめんね?」

「あ、ああ。別に夕食抜けば問題ない」


少年が疑問符を付けているのは気になったが、どうにかそれだけ返事を返す。

店に入った時点で食欲はなかったが、それでも倒れなかったのだからきっと大丈夫だろう。


……けど、さっきの人間が分からないっていうのは、本当にそういう意味なのか?

首都にいるのに、まるで山奥にでも住んでいるかのような物言いだ。


「じゃあポクももう行くねー。ポクも幕府とはあまりかかわらない方がいいからさ」

「ふーん……問注所の侍ってのも幕府なのか?」

「そうだよ。八咫幕府の3つの柱は、政所、侍所、そして問注所さ。四天王でいちばんまじめな子がトップだから、話すのめんどうくさいんだよね〜」

「四天王?」

「執権と3つの柱のトップだよ」

「ふーん……」


役職とは別……称号か?

ともかく、かなりのお偉いさんがくるようだな。


白い少年は、俺達に幕府のことを教えながらも、速やかに店を出る準備を始める。

具体的には、残っている団子をどこからか取り出した袋に詰める作業。


団子は、山とまではいかないまでも、まだまだテーブルいっぱいにある。どれだけ団子が好きなんだ……


一つ残らずしまう様子に思わず苦笑してしまうが、それと同じくらい幕府関係者にも会いたくないらしい。

みるみるうちに団子を詰めてしまうと、速やかに店の外へと向かっていく。


あ、名前聞いてねぇ……


「ちょっと待ってくれ、名前は?」

「そうだなぁ……因幡ってよんでくれるとうれしー」

「分かった。またな」

「うん、じゃねー」


最後に輝かしい笑顔を店内に振りまくと、少年はさっさと逃げていく。

団子の入った袋はかなりの大きさだったが、やはり布切れのように軽そうに見えた。


ここで出会った人……なんでこんな常識外れなやつらばかりなんだ……?

ありえない程の大食いだったり、浮世離れしてたり。

とりあえず、あいつらのせいでしばらく動けねー……


「執行官って俺達もまずいかな?」

「どうでしょう? 私達は何もしてないですが……」


俺とドールは揃ってクロノスに視線を向けるが、彼女は呑気に団子を食べている。

食欲ないんじゃなかったか……? と思って時計を見てみると、もう17時過ぎだ。うーん、1時間。バカか?


いや、シオンは許したんだ。関係ない。

ともかく、流石にこれだけ時間が経てば腹も空くというものだ。クロノスは幸せそうに団子を食べている。


どうやら因幡との話も聞いていなかったようで、彼女は視線を落とし団子を見たままだ。

ちなみにまだライアンは寝ている。


「おーいクロノス」

「むぐ……なぁに?」

「執行官って会って大丈夫か?」

「さぁ? 私はシルと違って、全部覚えてる訳じゃないし」


クロノスは何度か呼びかけた後ようやく顔を向けると、どうでもよさそうにそう言った。

執行官と聞いても、変わらず満面の笑みだ。


うーん……表情的には安心できるが、内容的にはグレーだな。

覚えてないからといって、重要じゃないとも言えない。


てか、全部覚えてる訳がないってのは……まぁ当たり前なんだけど、執行官って大事な記憶じゃないのか?

ヤタに滞在したことがあるなら、忘れちゃダメなやつだと思うんだけど……


船長さんのことは覚えていたっぽいけど、こっちは覚えてないとかどういう基準だよ?

我関せずなクロノスの態度には参ってしまう。


仕方がないので、俺とドールは2人だけで話し合いを再開する。


「だってよ」

「困りました……オロオロ」

「そうだなぁ……」


クロノスは食事中、ライアンは睡眠中、ロロは……ロロも寝てるな。

ライアンの影で見えにくいが、黒い毛玉が丸まっている。

俺も腹が苦しくて動きたくないし……


「まぁガルズェンスと違って、密入国したわけでもないしな。もし聖人が来ても大人しくしてれば大丈夫だろ」

「そうですね」


むしろ、慌てて逃げる方が怪しいというものだ。

シオンやイナバは素早く動けたが、ほぼ全員動けない俺達からしたらそれは不可能。


できることと言えば、せめて怪しい素振りを見せないことがくらいだろう。

そう2人で決めて、俺達はのんびりとくつろぐことにした。




~~~~~~~~~~




十数分後後、外が少し騒がしくなってきたな……と思っていると、店内に入ってきたのは1人の女性だった。


俺よりも幾分背が高く、水中をイメージしたような泡や波の模様の淡い着物をまとっている。

スラッとしていて、ヒマリの第一印象と同じく凛々しい印象を受ける侍だ。オーラは白い。


見た目が凛々しいというと……もしかして、彼女も意外と元気な人だったりするかな?

特に観察の結果という訳でもないが、ふと頭にのぼったことを考えながら彼女を見つめる。


すると……


「ふむ、魔人ですね……逮捕します」

「はぁ!?」


彼女は店内を見回し俺達を見つけると、いきなりそんなことを言い始めた。

敵意はまったく感じないのに、行動は敵対者のそれだ。


「ちょっと待ってくれ。俺達は茶屋にいるだけだぞ!!」

「そうです。魔人ではありますが、ただの観光客ですよ。

あわあわ……」


もちろん俺とドールは、慌てて立ち上がり弁解を始める。

何もしてないのに聖人と揉めるなんてゴメンだ。


だが、その女性は聞く耳を持たない。

自分が来たからなのか、店の外にいるであろう部下達に呼びかけ始める。


「みなさん、速やかに拘束お願いします」

「は、はい」


入ってきたのは10人前後の侍達。

しかもみんな刀を差していて、クロノスが言うところの仙人というやつだ。


もし抵抗するなら、この女性以外もそれなりに手強いぞ……

店も、もしかしたら街も荒れそうだ。

そしてそれが罪状になってしまう。


「は? 団子を食べるのが罪かよ!?」

「いえ、みなさん団子はお好きですね。

ただ、魔人の方はとりあえず捕まえておこうかと」

「差別だ!! 話くらい聞け!!」

「……しかし、疑わしきは罰するのが確実です。

ただでさえ仕事は影綱さんや私ばかりがしていますし……めんどうです」

「サボるなぁ!! ちゃんと仕事しろ!!」


はっ!? 俺は何で聖人に説教してんだ?

意味が分からない。


叫んだ後に我に返るが、同時に淡い期待も生まれる。

なんとなくとか惰性で捕まえようとしてるなら、もしかして丸め込めるのでは……?


俺はそう思い、改めて静かになった女性に向き直る。

彼女は顎に手を添えて、なにやら考え込んでいるようだ。


もしかして、サボるなと言ったのが意外と効いたのか……?

それなら丸め込む必要もないかも、とさらに期待を膨らませて話しかける。


「話を聞いてくれる気になったか?」

「……仕方ないです。差別と言われるのも嫌ですし……」


そう言うと彼女は、懐から一枚の札を取り出した。

着物と同じように青く、強い神秘を感じる札だ。

この女性よりは弱い神秘だけど、それでももし武器かなにかなら脅威だな……


一応警戒して見ていると、彼女は顔の前に構えた後、淡く光るそれを地面に叩きつける。


"天后招来"


すると突然、彼女の足元にどこからか水が集まり始めた。

普通の水より輝いており、放射状に広がっていくこともない不思議な水。


それはみるみるうちに柱のように伸び上がると、手足、頭部などが形作られていく。

しかも、そのまま水の人形という訳ではなく、普通に人間のような肌、服、髪に変わっていくのだ。


一瞬で女性が現れる様は、明らかに人知を超えた現象だった。


俺とドールがぽかんとしていると、彼女達は席に付き、不思議そうに俺達を見上げてくる。

小首をかしげ、どこかあどけない表情だ。

……似合わない。


「……? 話すのではないのですか?」

「あ、ああ」


急に聞き分けが良くて違和感があるな……

少し拍子抜けしながら席につく。


「では、お話をしましょう。

あなた方は魔人……しかし、国に害意はないと?」

「そう!! まったくない!!」

「私達はただ、仲間を探しに来たのです」

「仲間……」

「ローズっていう女の子だ。知ってるか?」

「いえ」


彼女は言葉少なく、俺の質問を否定する。

あんなにたくさんの侍を従えている役人が、迷うことなく断言した……?

もしかしてローズ達って、思ってたより面倒なことになってる……?


俺が密かに不安を募らせていると、彼女は顔をしかめてさっきよりも深刻そうに考え込み始めた。


彼女からしたらただの人探しなんだけど、なんでここまで思い悩んでるんだろう?

真面目すぎる人……堅物ってことなのか?

そんなふうに印象を更新していると、水から現れた女性が口を挟んできた。


「少ーしいいかしらぁ?」

「……どうぞ?」


俺が先を促すと、女性はにっこり笑って続ける。


「えっと、まずこの子……海音はねぇ。八咫国幹部陣の1人なのよ。将軍、執政、連署、政所の長官、侍所の所長。

で、この子が問注所の長官。

他にも人はいるけど、とりあえずここらへんが幹部ねぇ。

でも、そのうちの将軍、政所長官、侍所所長が遊び歩いてるのよ。連署は執政の補佐で、2人で回しているし……」


そこまで言うと、彼女は俺達に、分かる? といったふうに視線を送ってくる。


えー……国のトップの将軍、各部署のトップが彼女以外不在。

執政と連署ってのはよく分からないけど……


2人で回しているということは、将軍も含めたその3人が国全体の管理やらいろんな許可やらしてるってことだよな?

ひとまず実務をメインでやる人じゃなさそうだ。


はは……つまり今執行官を率いてる彼女は、1人で実務やってんじゃねーか。

他部署のトップが不在なら、そこも彼女の仕事かも……

明らかに過労だ。


俺は思わず顔を引きつらせながら、女性にうなずきかける。


「理解ありがとうねぇ。

うん。まぁということで、考えている暇なかったのよぉ。

今も問注所ではいろいろな訴えが溜まっているし……

もちろん部下が片付けられるところはやってるわよ?

ただ、妖怪関係は目を通さない訳にはいかないし、場合によってはこの子が必須なのよねぇ」

「分かってるよ」


昨日の化け物――妖怪関係で、どんな訴えがくるのかは分からない。

けど、この堅物は絶対にそれを見逃さないだろう。

なんかあいつら毎晩のように来るらしいし。

……うん、大変だ。


同僚に恵まれなかったんだな……とさっきまでとは違って、少し同情してカノンのことを見てしまう。

だが彼女はどこ吹く風で、薄く微笑みながら俺を見返す。


「彼らも、見回りは一日ずつやってくれますよ」

「こんな子だから許してあげてねぇ」


……うん、本当に同情する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ