表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化心  作者: 榛原朔
二章 天災の国
88/432

72-船内にて

出航してしばらくは、穏やかな航海が続いた。

ヤタに近づくにつれて波は荒れるのだが、今はまだ影響は少ない。

しかもこの帆船は巨大なので、多少の揺れなどものともしなかったのだ。


そのため、俺もドールも縛られたシリアでさえも快適な航海生活が送れていた。

はしゃいでいる2人は言うまでもない。


だが、もちろん乗組員達は慌ただしく走り回っている。

船長さんの命令のままに、右へ左へと舵を取ったり、食事を作ったり、見張りをしたり。

陸路とは比べ物にならなそうな働きぶりだ。

下手したら死ぬんだもんな……感謝しないと。


正直なところ、何もしないのは気がとがめるが、俺達はただの乗客。

そもそもあまり勝手に触るなと言われているので仕方ない。

俺達は、ただぼんやりと海を眺めていた。

潮風が気持ちいいな……




しばらくすると、久しぶりに大人しくその場で辺りを見回していたシリアが、耐えかねたようにドールに喋りかける。

表情を歪めて、かなりつらそうだ。


「少女、縄を解いてくれないかい?」

「ドールの独断では決められません」

「なら、船長さんに聞いてきてよ」

「ドールも船旅を楽しんでいるのです。……自業自得ですし」

「少女ー!?」


流石のドールも、あれほど迷惑をかけたシリアをやすやすと解放する気はないようだ。

珍しく彼の言葉をきっぱりと断る。


それを聞いたシリアは信じられないといった表情。

ただ、俺から見ると少し喜びも混じっている気がするな……

おそらくドールが自分の意見を言ったのが嬉しいのだろう。

うん、俺も嬉しい。


しかし、当然シリアも諦めない。

ここ3~4日大人しくしていたこと、もう最初の興奮は過ぎたこと、運動不足、その他諸々。

様々な理由をつけて、ドールと交渉している。


保護者のはずなのにな……

俺は少し変な気分になりながらも、この状況が面白くてつい笑う。


すると、それをどう解釈したのかシリアが俺に視線を向けてきた。

どうやら本当に気が滅入っているようで、少し語気が荒い。


「運の少年!!笑ってないで助けてくれると嬉しいんだけどね!!どうかな!?」

「そうだな。聞きに行くくらいならいいんじゃないか?」

「……仕方ないですね」


俺がそう提案すると、ドールもすんなり同意してくれる。

それを聞いたシリアも満面の笑みだ。

まぁ流石にそろそろ可哀想だもんな……


ただ、別に聞きに行くのはいいが、船長は常に動いているのでどこにいるかが分からない。

少なくとも甲板にはいないし、船内に探しに行く必要がある。


さっきの言い方だと、ドールが聞きに行く感じだったがこういう時は俺だよな。

そう思い立ち上がる。


「じゃあ俺が……」

「あ、俺も行くぜ〜」

「オイラも〜」


すると、ライアンとロロも立ち上がり俺についてきた。

シリアを反面教師にして、あまりうろついていなかったから探すのを名目にして色々見たいのだろう。

意外と抜け目ない。


そしてドールも、気がついたら何人かの仮面を出している。

見張りは仮面に任せて、彼女もついてくるようだ。

シリアだけこれはやっぱり可哀想だな……


船内に向かっていると、ドールが無表情で小首をかしげる。


「当てはありますか?」

「運」

「匂い〜?」

「たんちー」

「ならドールは、皆さんについていきますね」

「みんなってかチルだけどな」


"幸せの青い鳥"


俺はいつものようにチルを呼び出す。

船内も暗くはないが、青白い光がより明るく照らすので見て回るのにもピッタリだ。


とはいえ、運がよくてもどこに行くか決めるのは自分達。

人数が多いので大雑把にはなるが、ロロの探知とライアンの鼻をメインに、俺達は船内を探し始めた。




~~~~~~~~~~




まず俺達が見に行ったのは、船長室だ。

理由は、ライアンの鼻が一番彼の匂いが強い場所として案内してくれたから。

だが、彼の部屋に一番匂いがついているのは当然で、そこにもちろん船長はいなかった。


何故か代わりにいたのは、副船長だと紹介された女性と乗組員が十数名。

彼女達は、カードゲームに勤しんでいるようだった。

どうやら酒か何かを賭けているようで、暑苦しいほどの盛り上がりだ。


楽しそう……

だけど、あんた勝手にこの部屋入って……しかも遊んでていいのかよ……

そう思って聞いてみると、彼女は意味が分からないというような表情で答えてくれる。


「はぁ? お前なんのためにこんな大人数がいると思ってんだよ? 交代制で、暇な時間は存分にくつろぐためだぜ」


全身を脱力させているので、言い訳とか苦し紛れとかではなく、本気でそう思っているように感じる。

これはまた清々しいな……ガルズェンスに密入国する時のリューみたいだ。


まさかそのためにこの人数を動員している、とで言われるとは思わなかったけど。


「オイラ、君がはたらいてるの見たことないよ?」

「そりゃ俺には俺の仕事があるからな。今は遊ぶのが仕事だ」


そう言うと彼女は、もう俺達を見もしない。

俺達と話していた時から数倍目力を増して、乗組員達とのカードゲームに集中し始めた。


……うん、これ以上いてもろくな事がなさそうだ。

例えば……隣でソワソワしているライアンがゲームに混ざってしまうとか。

マックスとの酒とか、ノリ良かったし……


「ライアン行くぞ」

「分かってるって〜‥」


俺達は速やかにライアンを連れ出すと、船長を探して次の場所へと向かった。




次に訪れたのは食堂だ。

これはロロの探知で一番人が多い場所に来たのだが、ライアンの鼻が釣られたとも言える……かもしれない。

つまりは空腹。

当然船長はいなかったが、俺達はついでだから食事をしていくことにした。


といっても人探しの最中だし、注文したのは手軽なもの。

朧マグロの刺身というやつと、タコの唐揚げというやつだ。

生魚も油で揚げたも珍しいけど、一口サイズでつまめるからありがたい。


問題があるとすれば、食事の道具が箸という棒であることくらいか……それもそこまで難しくもない。

俺達は、すぐに箸にも慣れて舌鼓をうつ。


おすすめってのはやっぱり大抵は大正解だな。

ニコライのサンドイッチ狂いは軽く引いたけど。


そんなことを考えながら、懸命に箸を操り料理を口に運ぶ。

少し難しいが、持ち上げる時に滑る訳でもないので思ったよりは簡単だ。


目の前にある刺身というものは、あるのかないのか分からなくなるほどに透明で、持ち上げてみると雪のように軽い。

それでいてしっかりとした弾力をもっていて、なのに舌に乗せるとすぐさまとろけていく。

ただの生魚なのに……


「うんまっ」

「うまうまー」


俺とロロは、あまりの美味しさに2人揃って歓声をあげる。

いくらでも食べていられそうだ。


そしてテーブルの反対側では、ライアンとドールがタコの唐揚げを次から次へとつまんでいく。

聞くまでもなく美味しそう……だけど、俺達の分までなくなりそうだな。


俺は唐揚げに手を伸ばしながら、ロロに問いかける。


「ロロはいいのか?」

「オイラはおさしみだけで大まんぞく!!」

「そっか」


ロロは猫らしく、タコより魚が好みらしい。

それだけ確認すると、俺も容赦なく唐揚げを減らしにかかる。


箸で掴んでみた感じ、それは刺身と違ってやたら重々しかった。

肉顔負けのボリュームがありそうだ。

スパイシーな香りを楽しみつつ口に放り込むと、外はカリッと中はさっぱりジューシーに。

あ、衣は少し辛い……けど、それ以上に美味い!!


「何だこのタコ!?」

「知らね〜。けど、やたらと満足感あるぜ〜」

「はい……もぐもぐ……お肉と違って脂質が少なく……もぐもぐ……たんぱく質は……もぐもぐ……豊富です……ビタミンとミネラルも……もぐもぐ……摂取できます……もぐもぐ……美味しいです……もぐもぐ……」


ライアンは当然として、ドールですらタコの知識を披露しながらも夢中になって食べていた。

確か脂質っていうのは、肉や油に多いやつだったか……

それがないとなれば、ドールが夢中になるのもうなずける。

食べやすいもんな。


俺達は瞬く間に完食すると、船長を探しに向かった。




その後回ってみたのは、食料庫、火薬庫、物置、乗組員達の私室などだ。

だが結局、これだけ回っても影も形もない。

これはもう諦めていいよな……


流石に嫌になったのでみんなに聞いてみると、彼らも疲れたというので今日はここまでだ。

はぁ……だいぶ時間を無駄にしたな……といっても色々見れたから楽しかったけど。


肩に乗っかるロロも楽しげにしている。


「シリアさまさまだねー」

「そうだな。何度か呼び止められたけど、それを理由にすれば通れたし。いい機会だった」

「はい。ですが、シリア様に申し訳ないです……」

「気にすんなって〜。あいつはお前に優しいからよ〜」

「それはそうですが……」


俺達は雑談をしながら甲板に上がっていく。

段々と暗くなり、外の冷気が……冷気?


「何だ……?」


訝しみながら外へを覗き込むと、そこに広がっていたのは背筋が冷えるくらいの大嵐だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ