間話-眷属の名
南の果てにある沼地、イラー。
この地に残るのは廃墟。かつての大国の名残。
そんな彼の地で、数人の魔人が集っていた。
周囲に跪くのは胡散臭い神父、白い騎士、艶やかな着物姿の女、逆立った髪の大男。
そしてその中心の玉座には、彼らの主であるところの1人の少女が座っていた。
彼女が着ているのは、青を基調としたゆったりとした衣。
マントを羽織っているのも相まって、まるで女王のような威厳があった。
しばらく寛いだ様子を見せていた彼女は、やがて立ち上がり神父に声をかける。
「あの子達はまだかな?」
「さて……分かりませんね。あの騎士達と鉢合わせる可能性もありますし。……何なら先に始めてしまっては?」
神父は顔を上げると、質問に答えながら大男を見る。
その表情は珍しく楽しげで、それが神父本来の性格であるようだった。
そして大男はというと……
「是非に!!」
神父の言葉を聞くと、素早く立ち上がり少女の足元で跪いた。
その巨体を全力で縮める姿は、男の決意を感じさせる。
「ふーん……じゃあ二度手間だけど、やっちゃうか」
すると少女もやる気を出したようで、乾いた笑みを浮かべて玉座から立ち上がった。
そして、糸を使って周りの物を片付けその中心に大男だけを立たせると、周囲から泥を湧き上がらせる。
どこまでも禍々しく、全てを飲み込むかのような呪いの泥だ。
それは地面に怪しげなサークルを描くと、暗く発光しながら蠢き始める。
まともな人間が見たら、吐き気を催すような光景だ。
そんな中、少女は手をかざし泥を操る。
触手のように、蛇のように、うねうねと。
大男を囲う檻のように、粒すら逃さぬように、しっかりと。
「名を与えよう……力を与えよう……不和と争いの名において、お前を我が子へ迎えよう……。
名はポノス……労苦を背負え……」
窒息しそうな程の泥が、大男の体を包み込む。
段々とその嵩を減らし、より禍々しく。
数十分後。
大男を包む泥は、ようやく全て消え去った。
見たところ、その泥を全て吸収したかのような光景だ。
大男はより力強く、より禍々しく、産声を上げる。
「よろしくね、息子ちゃん。僕と一緒に、この残酷な世界を楽しもう」
「もちろんだ、母さん」
彼らの目には暗い光が宿る。
そこには、禍々しい神秘が渦巻いていた。
それは、最古の呪い。混沌から生まれた歪み。
眷属は笑う。傀儡は笑う。王は笑う。母は笑う。
呪いは苦しみ。狂気は放棄。
彼らは道化として、高らかに。笑顔の裏には悲しみが。
狂気が望むは生か死か……
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