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化心  作者: 榛原朔
間章
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間話-けが人達

クロウ達がルルイエへと向かった、5日後の深夜。

ニコライは、けが人達とフーを連れて薬の匂いが漂う町、フォミュルを訪れていた。


何故これほど速いのかというと、もちろんジェット機に乗ってきているからだ。

乗ってきたのは騒ぎにならないように近場までだが、それでもクロウ達がかけた時間とは比べるまでもない。


彼らは……大して疲れることなくヒュギエイアの病院へ向かった。こんな夜遅くに……




「まったく……うちは夜間診療なんて受け付けていないというのに……」


ニコライ達を出迎えたヒュギエイアは、もちろん不機嫌そうに対応を始める。

その言葉の通り、院内は暗く彼ら以外に人影はない。

たまたま彼女が起きていなければ、朝まで気づかれることはなかっただろう。


「すまない……だが、リューくんなどは大変な怪我だ。

一刻も早く治してやりたい」


ニコライが構わず治療の話をすると、ヒュギエイアはリューに視線を向ける。


彼はフーのそよ風で浮かんでいるので、体に負担はかかっていない。

そして、そのついでにヒュギエイアの目線と同じ高さだ。

悪化しないのは、医者にとってもいいことなのだが……


「あなた、怪我しすぎじゃないかしら?」


前回も今回も、重傷だったのはリューなので、彼女は呆れながら呟く。

しかも、今回は手足が片方ずつない。

怪我どころの話ではないリューを見て、彼女は夜でも仕方ないと思ってしまったようだった。


「頭のおかしい魔人と戦ってよー」

「はぁ‥仕方ないから治療はしてあげるわ。けど先客もいるし、そもそも腕を生やすのなんてすぐには終わらないわよ」

「おう、治るならいいさ」

「ならいいけど、今日はもう寝なさい。明日から治療を始めるわ」


ヒュギエイアはそう言うと、彼らを奥の個室に案内してくれる。

まだ患者が入っていない部屋で、贅沢というほどではないが病室としては上等なものだ。


ニコライの護衛の役目もほぼ完了。

彼らは、ほどほどに柔らかく快適なベッドで疲れを癒やした。




~~~~~~~~~~




翌日。

ニコライは日の出と共に目を覚ますと、リューやヘーロンを起こしにかかる。

彼は、どうやら朝もしっかりした人だったようだ。

穏やかに優しく、そして真面目に起こそうとしている。


だがリューは、相変わらずだらしない。

どんなに声をかけても、呻くだけ。

模擬戦やウォーゲームのような餌もないので、全く起きる気配がなかった。


そして意外なことに、ヘーロンもまた朝には弱いらしかった。

リューがベッドの中でゴニョゴニョ言っているのと同じく、彼女もベッドに潜り込んで外に出ようとしない。


ニコライの呼びかけも虚しく、彼らは惰眠をむさぼり続けた……


だが十数分もそんなことが続けば、流石のニコライも彼らに嫌気がさす。

祝福の力で軽く火花を散らしながら、その音や大声、体を揺らすなどの強硬手段を取り始めた。

すると……


「わかっ、分かったって。起きる、起きるよ」

「す、すみませんっ、ニコライさん!!」


リューは少しうんざりした様子で、ヘーロンは心の底から申し訳ないと思っている様子で起き出した。


どうやら騒音のおかげで目も冴えているようだ。

ヘーロンの手足は強張っているだけなので、改めて仕切りをすると自分で着替え始める。


「フー、俺のこの寝間着取ってくれー」


リューは左足と右手がない。

そのため、浮かせてもらっていたのと同じように、着替えもフーに頼り切りだ。

ベッドの上に三角座りをしていたフーを呼び寄せ、着替えをさせてもらう。


そして着替え終わると、再びフーに浮かせてもらい、病室の外へと飛んでいく。

それを見るニコライは呆れ顔だ。


「おーし、治してもらいに行こーぜ」

「……君はもう少し、自分で頑張る努力くらいした方がいいと思うよ」


……変人のニコライですら、呆れ顔だ。




~~~~~~~~~~




浮かんでいったリューが向かったのは、昨日ヒュギエイアに言われた部屋。

診察もするが、主に彼女の神秘での治療をするという診療室だ。


だが、どうやら昨日言っていた先客の治療は終わっていないらしい。彼が部屋の前まで浮かんでいくと、中からはかすかにうめき声が聞こえてきた。

これにはリューも、少し考えるような素振りを見せ……


「腕生やしてくれー」


遠慮なくドアを開けると、ふわふわと中に飛んでいった。

そして彼が見たのは……


「痛てて……」

「ではこれを飲んでください」

「はい。ぐっ……」


彼と同じように体に欠損……左腕を失い、薬を手渡されているリヒトと、同じく重傷を負っているガルズェンスに入る前に出会った白い騎士達だった。


彼の体はやはり赤く蒸気を発しているが、その腕は少し伸びてきたかな……というくらい。

昨日言われた通り、腕を生やすのは大変なようだ。

そんな様子を見て、リューは拍子抜けしたように声をかける。


「何だよ、リヒトじゃねぇか」

「うん? ああ、君か」

「リューな」

「覚えているとも。後ろの子はフーだよね」


リヒトはそう答えると、リューの後ろに目を向ける。

そこにいたのはもちろんフー。

丁度部屋に入ってきたところだ。


だが彼女は、リヒトを見ると軽く警戒するような視線を向け、リューとの間に立つ。

クロウにいきなり斬りかかった男なので、それも仕方ない。


リヒトも気にした様子はなく、明るい口調で腕を見せてくる。


「ほら、この腕見てよ。安心安心」

「…………うん」


するとフーは、もうリヒトを視界に入れようとしない。

部屋の隅に歩いていって、そこで静かに三角座りを始めた。

いつも通り、不思議な空気感だ。


そんなフーを見届けると、リューはリヒトに怪我の理由を尋ねる。騎士達全員が重傷なのだ。

いくらリューでも気になるというもの。


だが、そんなリューにリヒトはこう答える。

「魔人狩り」と。


「え……!? フーは殺させねぇぞ?」

「別に魔人全てを殺す訳じゃないよ。危険なやつだけ……。

実は最近、ある大厄災が活発に動いてるからさ。

それを止めようと……ね」

「あっはっは!! それで返り討ちにあったのかよ!!」

「うるさいな」


シリアスな雰囲気から一転。

その部屋には、しばらくリューの笑い声が響き渡った。



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