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化心  作者: 榛原朔
序章 覚悟
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6-旅の目的

ディーテ外周での戦いから一夜が明けた。

昨日の激闘が嘘かのように軽い空気、天界のヴェールのようなカーテンから朝日が差し込む。


その光がちょうど顔に当たり、俺は目を覚ました。とても気持ちの良い朝だ。

だが真っ先に視界に入ってきたのは、この場に似合わぬ男。

ボロボロのローブに身を包み、そのくせ何故か優雅に紅茶を飲んでいる。

……どこかで見たような気がするな?


「あんた、誰だ?」

「ん、起きたか」


男は飲むのをやめ、こちらに目を向ける。

その目は興味深げに俺を眺めていて、少し戸惑ってしまう。

俺、なんかしたか……?


「悪いな、あいつも言ってたと思うが、俺にも名前がない。通り名だとインディスだとかレイス、スペクター、シャオ、ファントム、色々あるな。好きに呼んでくれ」


観察をしながらだったが、質問にはちゃんと答えてくれる。

てか名前がないなんてやつがなんでこんなゴロゴロいんだよ……って、あれ?


よくよく思い返してみると、エリスの泥を防いでくれてた人がいたっけ……? こいつか? とすると味方……

だけどボロいローブも相まって、怪しさが突き抜けてる。


そんなことを考えていると、彼は軽い調子で言葉を続けた。


「魔人にも格ってもんがあってな。あいつも俺も最上位。

お前らよりもずっと概念に近い存在なんだよ」


なんかサラッと大事そうなこと言われた気がするけど、とりあえず……


「俺、声に出してたか?」

「いや? 予想だ」

「ヤベーやつだな、お前」

「ハハッそこで判断すんのかよ」

「ああ、する」


男は楽しげに笑っていたが、俺は表情を崩さずにそう答える。


……普通するだろ。誰かに心を完璧に読まれたならその相手は普通じゃない。断言する。

雰囲気も只者じゃないし。


だけど悪いやつじゃなさそうかな?

多分助けてくれた人だし、見た目よりも軽い口調で少し話しやすい。


「ふご」 「う、うーん」


すると突然、ライアンとローズがうめいた。

同時とは……流石仲良し。


「2人も起きたのか?」

「「……」」


さっそく声をかけると、2人はゆっくりと体を起こした。

ギシギシ、と音がしそうな程ゆっくりだ。


……なんだ? 元気がないな。

2人共、普段はかなり明るく賑やかな人種だと思ったんだけど。

そのまま見ていると、起き上がった2人は、起き上がった体勢のままでどこか虚ろに前を見ている。

寝起きは悪いタイプか……?


「どうかしたか?」


男が何故か俺の時よりも興味深そうに観察を始めていた。

寝起きかもしれないけど早く覚醒してほしいな。

いやマジで。


「あー……変な夢を見てた、かな〜?」

「え? ライアンも?」


どうやら、2人して変な夢を見ていたらしい。

ライアンが、不思議そうな表情をしながらものんびりとつぶやくと、ローズが驚いて彼を見る。


変な夢……ねぇ。

俺もたまに……思い出せない誰かと話す夢、というようなものならみたことがあるけど、そういうやつか?

……わからない。


「ふーん。てか2人共、手黒くね?」


夢が変ってのも気にならなくはないが、それよりも目に見えた変化だ。

体を起こした2人をよく見ると、ライアンは右腕、ローズは左腕に黒い痣のようなものができていた。


昨日はなかったからあの戦いでなんかされたのか?

何故か俺にはないが、ろくなもんじゃ無さそうだから助かった。


指摘すると2人もそれに気づき、驚いたように声を上げる。

焦げたような見た目だけど、感覚は普通なのかな?


「あ、ホントだ」

「なんだぁこれ〜」

「それ、あいつの呪痕だな」

「お、あんたいつだかの化けも‥親切な方じゃあないですか〜」

「ブフッ、別に‥取り繕う必要‥ねぇ‥ぞ」


ライアンが珍しく慌てたように口走ると、男は何故かツボり始めていた。

化け物呼ばわりに怒らなくてよかったな……




少し男が落ち着くのを待ってから、また話を始める。


「てかあんたオーラなんでそんなにねぇんだ〜?」


男が落ち着いてすぐにライアンが問いかける。

彼はエリスを退けたと思われる男……で、そもそもライアンが出会った恐ろしい神秘。


ライアンは顔で分かったようだが、今コイツにオーラはほとんど見えないのは謎だ。

それは2人も気にしていたらしく3人揃って答えを待つ。


「ハッ、ヒヨッコ共が。そこまで制御できてからが一人前だ。一端の魔人なら……聖人もだが、オーラは割と近くでしか認識できねぇよ」

「おいおいお〜い。それ割と大事じゃねぇか〜。下手したら油断しまくって死ぬぞ〜?」

「別に誰も彼もいきなり殺しにかかるわけねぇだろ」


ライアンが緊張感なく抗議すると、男はそんな正論を口にした。

うん、それは確かにそうだ。

エリスはいきなりだったが、そんな人間ばかりとは思えない。


だけど……だとしても、万が一ってこともあるだろうに……

言い方の軽さにも不安を覚え、俺は一応確認をしようと問いかける。


「なぁ、他にもなんか言ってないことあったりしねぇよな?」

「さぁ? だいたい教えたんじゃないか?」

「不安だ、教えろ!!」


コイツ……適当だな。

俺はそう判断して、男をにらみつける。

すると男は、力なく頬をかきながら確認を始めた。


「別にいいが……今知りたい事ってその痣くらいだよな?」

「いや他にも‥」

「知りたい!! これ何?」


俺が他の疑問をぶつけようとした瞬間、ローズが左腕を掲げながら身を乗り出す。


おおう、急に食いつきがすごい。

気になる気持ちはわかるけど遮らなくても良くないか?

別に次でもいいんだけどさ……


「それもそんな難しいことじゃないぞ?

さっきも言ったが、それは呪痕……呪いの痕だ」

「詳しく知りたいんだってば」

「んー分かりやすく言うと……あんたの茨を腕に巻き付けたら痕になるだろ? つまりはそういうことだな」


何でこいつはローズの力を知ってるんだ……?

戦いを見ていたってことか……? すごく怪しげに感じる。


だけど……うん、確かに分かりやすいな。

まぁその理論だと、俺やライアンは意味不明だけど。


だが、ローズはさらに疑問を投げかける。


「茨の痕はこんなに残らないと思うんだけど」

「木に火をつけたら炭になる。腕に呪いも同じようなものだと思えよ。あと害は多分あるぞ。最初痛そうにしてたしよ」


男の答えは変わらずどこか投げやり……

というか、なんか聞く前に口撃されたな。


2人共撃ち抜かれてら。

……けど、茨を想像すると俺も痛くなってくる。


「ん〜? 今痛くねぇのは〜?」

「今は俺が緩和してる。別れたあとは自力で抑え込め」


それを聞くと、2人は途端に表情を暗くする。

抑え込むって大変そうだし当然の反応だろうけど……わかりやす落ち込んでるな。……ご愁傷さま。

俺はなくて良かった……


ここでローズの質問は終了だ。

改めて俺の疑問に移る。


「じゃあさっき2人が起きる前に言ってた、概念だとかって話とあんたらとの元が同じとは思えないような力の差について教えてもらえるか?」

「ああ、そういえば俺としてはそれが本題だ」


意外にもこの話は真面目に話すつもりらしい。

さっきまでと打って変わって、男はこちらに体を向けた。


「まぁそんな小難しく話すつもりはないけどな。

お前らは実感なさそうだが、魔人には狂人が多い。

特に狂った奴らは延々と暴れ続け、どんどんとその心の闇を増幅させていった。


で、神秘に成ったやつの力の源は心の強さだからよ。

その歪みは大きな力の差として現れる。

それが俺やあいつみたいな化け物を産んでる。


ちなみに、聖人は歪んでるやつ少ねぇから俺らレベルにまでなるやつはほとんどいないぜ。


あと概念ってのはあれだ。お前らが神秘に成ったばかりで小山だとすると、強めなのはデケェ山。

俺らはお前ら全てを含めた山って存在そのものって感じだな」


体はこちらに向けたが、口調は変わらず適当そう。

……まぁ別にいいけど。


とりあえず男の言葉をよく考えてみる。

概念は分かりづらいな。なんだろう……?


俺らは小さな山一つを指してるけど、コイツはデカすぎて山といったらこの山、みたいに考えるか。

うん、恐ろしい。


「ところで、あの人は世界を滅ぼすって言ってたけどあなたも?」


ローズが再び問いかけると、男は目を細め、俺達を見極めるように見つめ始める。

そして、薄く笑いながらこう告げた。


「俺はしたくねぇんだけどな」


なんか軽い……警戒する必要がある人なのか……?

よくわからないやつだな。


「なんだよ〜お前。滅ぼしたくねぇのに滅ぼすってのか〜?」

「さっき、特に狂った奴らの成れの果てが俺らだって言ったろ?

俺らみたいな魔人はその方向性がどうあれ、狂気に当てられてる。

そしていずれ否応なしにそういう行動を取っちまうんだよ。


で、さっきの続きだ。お前らが戦ったエリス、それから俺。

これらはいずれ世界を滅ぼす大厄災。

俺はよ、こういう大厄災っつうのを殺してもらうために魔人を手助けしてんだよ。それが俺の本題」


ライアンがほのぼのと聞き返すと、男はさらに悔しく話し出す。本題って説明じゃなくて依頼かよ……


というか急すぎだし、ヒヨッコにそんなことさせようっての? いやそもそも……


「魔人は狂ってるんだろ? 聖人を助けろよ」

「いや、近づけるわけねぇだろ。

まぁ別に、知り合いがいないこともないけどよ……

あと別に魔人全員危険なわけじゃねぇよ?


その感情が何処に向かってるかが問題なんだ。

お前らは、少なくとも今は大丈夫だ」


……人生諦めようかな? なんで雑魚に頼むんだよコイツは……


「自分でやれよ」

「基本不干渉がルールなんだ。破るとかなりめんどくさい」


詰んだ。世界ごとか個別に殺されるか、どっちかだこれ。

俺は楽しく旅したかっただけなのによ……

ん、そういえば……手助け? 俺らも概念存在になれるのか?


「じゃあ修行でもつけてくれるの?」

「それで育つのは、今ある弱い力での技術だけだろ。

俺ができることは、強くなれる可能性がある道を示すこと」


ローズの質問にそう答えると、男は3つの選択肢を示した。

獣と、人の技術と、頼れる他の魔人……


それぞれが俺ら一人一人に一番あった選択肢だそうだが、必ずしも3人別々の道を選ぶ必要はないらしい。

人数に合わせてきて何言ってるんだか。


「まぁ俺が助けるのはお前らが初めてってわけじゃねぇからよ。時間はいくらかかっても構わない。納得行く選択をするといいさ」


男は最後にそれだけ言うと、またテーブルに視線を落として紅茶を飲み始める。

足も組んで、すっかりくつろいでいるようだ。

何だよこいつ……まったく期待してねぇみたいにしやがって。


とはいえ、確実に生き残りたいならこの3つから選ぶのが一番良さそうだな。

その選択肢を睨みながら、俺達はこれからの予定を立て始めた。


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