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化心  作者: 榛原朔
間章
79/432

間話-それは彼らを形作るもの➄

氷雪に閉ざされた国、ガルズェンス。

その国に根付いたのは、かつての人類の知恵……神秘に敗れたはずの科学であった。


その時代の生き残りが、かろうじて繋げた技術。

継承者はここに、さらなる発展を……




数百年前。

少年は、1人の男と出会った。

電気を纏う、輝かしく偉大な科学者だ。


彼は国外れの小さな村の出だったので、一族郎党みな飢えていた。

そんな彼らを、その電気で、その科学で、救ったのだった。


少年は誓った。

いつか、この憧れの人の役に立つことを……




その数百年後。

首都バースの中心にそびえる研究塔。

その1つである東塔の中で、彼らは2人で立っていた。


この塔の目的は量産。

王が語った、かつての時代に行っていたという大量生産を可能にすることだ。


その内容自体は、そこまで難しいことではない。

だが、この国の氷とその冷気によって付着する霜、強大な神秘、複雑な回路を作る器用さなど、解決するべき問題はたくさんあった。


数千年かけて神秘に順応した人類には、意外にも大変なことだったのだ。

彼は学んだ全てを駆使したが、それでも上手く機能しないほどに。




期待はなかったのかもしれない。

そして、そもそもの最終目標には必要なかったのかもしれない。

それでも男は必死に努力した。

手先の器用さを鍛え、その努力を神秘に昇華した。


だが、それでもまだ足りない。

そう思った彼は王に協力を求めることで、周囲の冷気を抑える方法を手に入れた。


神秘を観察し、それを機械や金属などに付与したのだ。

結果的に赤い石や機械は、寒さに震える国民を救うことになる。

それは恩人の望みだったので、男は喜び震えた。


だが、まだだ。

この国には量産が必要なのだ。

豊かな生活のためにも、氷を溶かす機械の試作のためにも。


その過程を挟むことは必須ではないが、硬い氷を溶かすなら試作も手早いほうがいいに決まっている。

男は、さらに熱意を高めて挑んだ。


回路を作る技術も、その作る速度も、霜を生まないための機械も得た。

もう、彼を止めるものなどなかった。


己の神秘を十全に扱い、巨大な機械を作る。

全自動、製造ラインの確立、彼が行うその場その場での改造。


これらをもって、量産はこの国にもたらされた。

ガルズェンスの科学技術は、かつての科学文明に追いついたのだ。




恩人はさらに未来を見る。

発展したといっても、街中にはところどころ溶かせない氷。

森や湖、山にはさらに巨大な氷がある。

真に豊かな国になるには、全てを溶かさなければ!!


だが、恩人が何百年も前から言っていた通り、国が荒れるので砕くという方法は取りにくい。

ならばやはり、科学でいっぺんに溶かすしかないのだ。


神秘は溶けない。

科学は勝てない。

熱は永続的でないにしても、国中に広められる。

それでも……溶かせない……




そんな中、この国に悪意が侵入する。

王の視線すら掻い潜る猛者だ。


今はほとんど動きはない。

国民のうち、ほんの数人記憶が曖昧になったり、過去この国で起こった事件を探る者がいるという情報が上がってくるだけ。

だが、明らかに不穏な存在だ。


どうすれば……




その数週間後、さらに侵入者がやってきた。

聖導教会の騎士と縁を持った魔人、聖人、神獣、人間の一団だ。


彼らは、悪意とほぼ同時期に現れた。

彼らの気配は、悪意とは真逆のようだった。

聖導教会と会ったといっても、信頼できるのか?

制圧しないという選択は、正しかったか?


不安はあるが、拳を交えて感じたのは温かさ。

契約通り、黒蛇や巨人も狩ってくれている。

検査も順調。

恩人の選択だ。信じよう……




量産は活かせた。

男が担当していた、獣や風の検査も活かせた。

彼らの採掘してきた氷煌結晶も、核として成り立った。


材料が揃えば、あとは簡単。

氷を溶かす機械は、男の神秘ですぐに完成した。


恩人の顔には笑顔が。

その口からは感謝が。


男は、報われた。

さぁ後は溶かすだけだ……


「何があっても、誰が邪魔しようとしてきても、僕はあの方の役に立つっす……」


ただ憧れの人の役に立つために。

男は、次第に強くなる吹雪を前にそう呟いた。




~~~~~~~~~~




ガルズェンスに科学技術を繋げたのは、たった1人の男だった。

科学文明の滅びる前後に、維持者と共にこの世界を巡った数少ない人間の神秘だ。


彼は長く生きすぎたため、全てを覚えていた訳ではなかった。

だがそれでも、確かに科学の火種をこの国に蒔いた。


ただ、この神秘に惹かれただけ。

ただ、科学者として無くしたものを見ていただけ。

それでも、彼は自分の欲求のまま生きたことでその種を蒔いたのだ。


1人の少年と、1人の少女が弟子になった。

雷と、炎。


1人の男がやってきた。

ただ、綺麗な星を見たいと望む者が。




ただ知りたいことを知っていっただけの男だったが、彼の元には数多の才能が集った。

その下にもそれぞれ弟子が出来、国を開くために動いていく。


現人神に見捨てられた王は、氷雪で閉じた国にて欲求を満たし、礎となったのだった……

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