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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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68-出国

ヒマリが倒れたことで雪はすっかり収まったが、まだ氷が街中にあるためとても寒い。

そのせいで多少結露がついている窓を眺めながら、俺は体を起こした。


建物の外もある程度は暖かくなっているはずだが、それでもやはり中の方が暖かいのだろう。

同室の仲間も、快適そうに寝ている。

ヴィニーとリューは別室なので、ここにいるのはライアンとロロだけ。


もう8時近いが、ヴィニーがいない以上、俺が一番に起きるのも当然だ。

俺は、2人を起こさないように気をつけながら起き上がる。


今日ニコライ達が出発するので、少なくとも一週間はやることがない。

かといってヤタに行くのは無理。

さて、どうするか……


ぼんやりと考えながら着替えを済ませ、ひとまず部屋を出る。

確か出発は昼過ぎ。

フォミュル組にはその少し前に会うし、それなら見送りにこなそうなマキナにでも会いに行っとくか。

暴禍の獣(ベヒモス)の居場所を見てもらえるかもそれないし。


俺は、そう決めてマキナが泊まっている部屋へ向かう。

昨日聞いたところによると、彼は所長室に泊まっているはずだ。


道は知らないが、どうせ一番奥とか豪華とかするだろう。

俺は、運もいいしすぐに見つかるとたかをくくって歩き出した。




~~~~~~~~~~




それから数分後。

俺は、案の定すぐに所長室を見つけることができていた。

特別豪華な感じではないが、奥にあって所長室と名札も付いているので分かりやすい。


そして、着くやいなや迷わずノックをする。

返事は返ってこない。

もしまだ寝てたら怒られるかな?


少し後悔していると……


『何か……用か……?』


どこからかマキナの声が聞こえてきた。

マキナの部屋を案内してくれた声とは別物で、周りに機械もないし完全にマキナの声だ。


『用が……あるかと……聞いている……』


俺が戸惑っていると、再びマキナの声が響く。

やべっ‥この分だとこっちのことで怒られそうだ。

そう感じたので慌てて返事を返す。


「力を借りに来たんだ」

『入れ……聞く……』


すると、マキナはすぐに入室の許可をくれた。

不気味なやつだけど、話は早くて助かるな。




中に入ると、そこは普通の事務室のような部屋だった。

ソファなどの調度品は無駄に豪華だが、思ったより機械は持ち込まれていない。

2つ大きめの……多分観測機? があるだけだ。


「それで……?」


マキナはすぐに話を促してきたので、どこで寝たんだろう? などとと考えながら気楽に言葉を返す。


「えっとだな。暴禍の獣(ベヒモス)の場所を教えてくれないかなー‥と思ってさ」

「ふむ……」


すると何故か、マキナは黙り込んでしまう。

周囲の機械も特に動いていないし、これは断られる感じかな?

そう思っていると、しばらくして彼は顔を上げた。

そして、1つの機械が彼の目の前に移動していく。


「ふむ……」


すると、その機械で何を知ったのか彼はまた黙り込んでしまう。今度は何やら難しい表情だ。


「……分かったのか?」


いくら待っても教えてくれないので、思わず催促する。

しかし、それでもマキナは微妙な表情をしたまま口を開かなかった。

……一体何だっていうんだ?


さらに問い詰めると、彼はようやく口を開く。


「確かに……分かった……。分かったが……」

「何だよ?」

「あの国には……入れない……」

「入れない?」


ガルズェンスだって入国禁止してたよな? と思って聞くと、どうやら出国禁止どころの話ではないらしい。


この国は、ただマキナが監視したり衛兵が商人の取り調べをしていただけ。

結局人は入って来ていたし、そもそも気にしていたのは出る時の持ち物ばかりだ。


だが暴禍の獣(ベヒモス)のいる国……アヴァロンは陸の孤島で、人は入れないのだと言う。

誰一人入国する者はいない。


……いや、入ってんじゃねぇか。

俺達はあの大厄災と戦ったんだぞ?


そう聞くと、あれは獣とのこと。

うーん、説得力がないような……


「人も獣だろ?」

「生き方が……違うのだよ……」


獣の生き方……

そういえばヒマリもそんなようなことを言ってたな。

野生の力がどうとか。


そういう意味かと聞いてみると、半分正解で半分不正解と言われた。

……何で?


「そもそも……あの森は……神獣の国……。

神秘で……入り口を……閉じている……」

「マジか」

「北と西は……常に時化っている海……。

南には……その扉は……ない……。

しかし南は……ミョル=ヴィドから……名前を変え……ブロセリアン……死の森だ……故に……入れない……」


南は死の森で生きて帰れない、東はノーグと呼ばれる扉があるため不可侵領域、北と西は危険な海だから入れない……

は? ありえないくらい鉄壁だぞ!?

あいつはどうやって入ったんだ!?


あ然として聞くと、答えは「知らん」だ。

……うん、まぁそうだよな。

いくら観測するという能力でも、ヘズと同じで全てを同時に知るのは不可能だろう。

仕方ないから、実際に見てから考える。


というか、こいつのはどういう祝福なんだ?

ニコライは教えてくれなかったけど、技術と同じように知られたくなかったりするか?

……聞くだけ聞いて見るか。


「ちなみに、どんな祝福か聞いてもいいか?」

「……観測」

「詳しくは知られたくない感じか?」


さらに言葉を重ねると、マキナは俺をじっと見てくる。

アレクは……

アレクは、マキナが信用したから解放できると言ってたけど、力のことまでは無理か……?


「いや……別に……問題はない……」


思っていたより早くそう言うと、マキナは自身の能力を説明してくれる。

何でも、全ての原子や神秘を観測する能力なんだと。

常に使っていると頭が壊れるが、基本的に範囲に制限はなく見通せるらしい。


といっても、遠ければ遠いほど精度は落ちるし、負担も大きくなる。

そのせいで、結局普段はこの国を見ているだけみたいだ。


だがガルズェンスだけに限れば、ほぼ全域を完璧に知れるし、マキナ周辺であればその精度は未来予知レベルというふざけた能力だ。

羨ましい。


「能力狂ってんな」

「私は……最古の神秘……だからな……」

「やっぱそうなのか……!!」

「ああ……王として立った……最古の……神秘……。

名は……捨てたがね……」


名前を捨てた?

マキナ・サベタルって聞いたけど、もしかしてエリスやレイスみたいに後付の呼び名なのか?

その話も気になったが、マキナの雰囲気がそれを口にさせてくれない。


もし大厄災だなんて言われても困るし……ほっとくか。

そう決めて次の話……というか、ズレた話を元に戻す。


「まぁ能力は分かったよ。羨ましい」

「思いが同じならば……あるいは……」


思い……?

ってまたズレるところだった。

気を取り直して、もう一度暴禍の獣(ベヒモス)の話だ。


「ん。じゃあ場所の特定は完璧ってことなんだよな?」

「その通り……入るところは……見ていないので……方法は……分からないが……」


方法は分からない……けど、門があるなら死の森から入ったのか……? ぶっ飛ばした方向は真逆だったんだけどな。

まぁ暇だし、リューが戻るまでの間を使ってシルに聞きに行くか。


そんなことを考えていると、部屋の外から騒がしい足音が聞こえてくる。

ニコライはないだろうし、ライアンかな。


勢いよく扉が開くと、入ってきたのは予想通りライアンだ。

寝ぼけているようで、少しまぶたの開き方がおかしいがそれ以上に焦りが見て取れる。

何かあったのか……?


「朝っぱらからどうした?」


そう聞くと、彼は軽く部屋中を見回しこう答える。


「ローズとヴィニーがいないんだよ〜!!」

「は?」


ライアンを落ち着かせてから話を聞いてみると、まずフーが朝起きるとローズの姿が見えなかったらしい。

彼女はヴィニーのところにいるのかと見に行ってみたが、そこにもいなかった。


ここでようやく変に思い、ニコライやライアン、ロロも含めて探すが彼女達は完全に消失していた……ということだ。

心当たりは、昨日のローズの様子。

まさか2人だけで……


「マキナ、2人を観測してくれ!!」

「了解した……」


そう言うと、今度は最初からそばの機械を動かす。

さっきとの違いは何だ……? とつい余計なことを考えていると、すぐにその結果が出た。


「……飛行中のようだ」

「は? 飛行中?」

「ああ……ニコライの……万能電磁カタパルトだな……」


万能電磁カタパルト……?

なんとなく嫌な響きなんだけど、俺達も知ってるやつだったりする?

試しに聞いてみると、俺達がメトロに行く時に乗せられた筒の完全版のようなものだと言う。


あのバカ、試作品を俺達に使ったのかよ。

……でも、それも大事な思い出か。もうあいつはいねぇし……


ともかく、あの2人は独断専行してしまったようだ。

流石にあの2人を欠いて行く訳にもいかない。


「なら、俺達もヤタに行こう。ローズの問題からだ」

「そうなるよな〜。了解だ〜」

「俺達も同じの借りれるか?」

「一応は可能だ……だが……完全版はない……」


そりゃあそうだ。

技術を外に出さないつもりの国が、外に出るものをいくつも持っている訳がない。

仕方ないので、ブライスの使ったような試作品……それのマキナが手を加えたものを借りる。


どうやら、ここに来る時のジェット機と似たような形状で飛べるようにしてくれてたらしい。

それでもジェット機よりもスピードは出るらしいので、とても助かるな。


着地も安全らしい。

見た目はちゃちな金属筒なので、そこは少し不安だ……


「助かる」

「それから……」

「うん?」


筒を受け取り部屋を出ようとすると、何故かマキナに引き止められる。

そして手渡されたのは……


「箱?」

「シリアとの合作だ……彼の絵のように出し入れができる……

1つしかないが……」

「マジで!?」


彼の能力も便利なものだ。

それを作ったってのか……すごい人だ、マキナ・サベタル。


「容量は……そこまででもない……君の戦い方……様々な武器……それを仕舞うといいだろう……」

「ナイフと長剣と弓か……見てたんだな」

「国中の出来事は……把握している……」


明らかに戦闘向きじゃないけど、本当に恐ろしい能力だ。

あれ、それなら……


「ローズが戦った相手分かるか?」

「赤い男……」


リュー達の怪我は火傷だし、全身燃えてるやつってことか?

強そうだけど、そこまで気にするやつでもないのかな。


「色々ありがとな。またすぐ戻るから」


そう言い残すと、俺達は部屋を出る。

早く出発したいが、まずはリュー達がいる蒸気の部屋に向かう。


「ロロは?」

「リュー達のとこにいるぜ〜」


どうやら全員そこにいそうだな。




部屋に入ると、俺はすぐに出発することを告げる。


「出発するぞ。フー来れるか?」

「……残る」

「そっか……ロロ行くぞ」

「あいさー」


フーは仕方ない。

リューが……家族があんな状態だと、もちろん離れたくないだろう。

予想していたことなので、速やかにロロを呼んで出発だ。


「ちょっと、待った待った」


俺達が行こうとすると、シリアが声をかけてくる。

何故かやたらといい笑顔だ。


俺達は急いでるんだけどな……

そう思い、つい少しぞんざいに返事を返してしまう。


「何だよ?」

「うん、僕達も行こうかと思ってねー」

「あんたとドール?」

「もちろんそうだとも!!」


けが人はちょっと……

そう断ろうとしたのだが、重傷じゃないから蒸気やロロの力でもう治ってると返されてしまった。

さらにドールに素晴らしい景色を見せるため、と言われてしまうと断れない。


機械に詳しい人はありがたいし、不安もあるが渋々了承した。

したのだが……


「いやぁ、一回行ってみたかったんだよねー。

王の人がたまに観測して綺麗だと呟いてたからさー」

「ドールも、ワクワクです」


ドールは変わらず無表情でそんなことを言っているし、それに反してシリアは全身から楽しみ、というオーラが溢れ出ている。

どう見ても自分が行きたいだけにしか見えない……


まぁリューもフーもいないし、その分戦力落ちてるしな。

願ったり叶ったりではある。

そんなことを考えながら、俺は今度こそ出発だと足を踏み出した。


のだが……

部屋を出ようとすると、今度は風で壁を作られる。

薄くてちょっと鬱陶しいくらいのものだが、邪魔は邪魔だ。

振り返って抗議する。


「今度は何だ?」

「この大剣貸しておこうと思ったってのと、あとはエールだなぁ」


それに答えたのはリュー。

手足が半分ないのに、それを感じさせない笑顔を見せながら大剣を風で運んでくる。


「ん、ありがとな」


さっき貰った絵のような機械のボタンを押して、生まれた歪みに大剣を閉まって……と。

で、エールって何だ?

早く治すってのが一番のエールなんだけどな……と思いつつ彼の言葉を待つ。


「まぁあれだ。俺は死なねぇから、変に抱え込むなよ。

友達のことも俺のことも、理由にはするな」

「大丈夫だよ。俺はただ楽しく生きたいだけだ」


ヒマリやブライスのことも忘れるつもりはない。

リューの怪我も、早く終わらせられたら……とも思う。

けどヒマリや、昨日聞いたエドヴァルドという男が狂ってたのは、俺にはどうしょうもなかった。


次は失わないようにはするが、ちゃんと未来は見て生きる。

大厄災と戦う理由は、ヒマリを止められなかったとか傷ついた人がいるからじゃない。

俺が……幸せになりたいからだ。


改めて決意すると、俺は今度こそ部屋を出て外へと向かった。




ということで、俺、ライアン、ロロ、シリア、ドールの5人は、ニコライの万能電磁カタパルトに乗り込み空を飛んでヤタへと向かうことになった。


広さは十分、意気込みも十分、安全性も……まぁ多分大丈夫だろ。

そんなことを考えているうちに、外でニコライが角度を調整し発射準備完了だ。

覚えとかないと、帰り大変だな……


「気をつけ給えよ」

「分かってるよ」


注意を促すニコライに、俺は当たり前だと軽く返す。

この国でも……少しだけ、大変なことがあったんだ。

気を抜くつもりはない。


もう……失うつもりもない。


「では、発射準備。3……2……1……GO」


ニコライの合図と共に、カタパルトは俺達の乗った飛行物体を南東の大空へと吹き飛ばす。

ヒマリが倒れて、雪がほとんど止んだ空へ……


飛距離が足りないらしいので、最初の目的地はルルイエだ。

たとえ何が起こっても誰一人も失わない。

俺は、そう決意を固めて前を見据えた。

一章-完


よければブックマーク、評価、感想などお願いします。

気になった点も助かります。


一章でだいぶ成長したかとは思いますが、この場面の描写をもっと、やこの言葉おかしくない? などご指摘いただけると助かります。

もう、その瞬間直しにいくほど喜びます。

特に序章は描写不足を自覚してはいますので何卒。


これからも「化心」をどうぞよろしくお願いいたします。

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