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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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67-暴動の終息

老人が姿を消した後、俺達はフーが霧を完全に払うのを待つことにした。もうあの老人はいなかったのに、あの霧は嫌がらせのようにずっと漂っていたからだ。

最後まで厄介な爺さんだな……


そんなことを考えながら待つが、何故かその霧は吹き飛ばしてもかなかなか消えない。

イライラする……


「なぁ1人くらい行っても問題ないよな?」

「…………うん」


5分経っても消えないので、流石に待ちきれずに俺だけ駆け出す。忘れたら忘れたでいい。

そう思って動いたのだが、何故か記憶は消えなかった。


どうやら本当にただの嫌がらせだったらしい。

あの爺さん……マジで許せねぇ……


焦る気持ちを落ち着けながら2人のそばまで行くと、彼らは目を背けたくなるくらいにボロボロにされていた。

腕も、足も、顔も、胴体も。

余すところなく切り裂かれている。


見たところ傷は深くはないので、おそらくナイフのような小さい武器でやられたのだろう。

それなのに意識を失っているのは、長いこといたぶられたからか……


いつから戦っていたのか分からないのが不安だ。

そんなふうに俺が観察していると、追いついてきたライアンが声をかけてくる。


「様子はどうだ〜‥?」

「見ての通り、長くいたぶられてたみたいだ。

ナイフなのに、ヴィニーが気を失うくらいにな」


そう言うと、ライアンも苦しそうに表情を歪める。

俺達がヒマリを優先しなければ、ここまでやられることはなかったかもしれない。

彼も多分、同じようなことを考えたのだろう。


結局あいつは止められなかったし……

俺がさらに落ち込んでいると、それを察したのかライアンはすぐに笑顔を見せる。


「でも、命には関わらなそうだからよかったぜ〜。

ロロに頼めば、きっとすぐに治るしな〜」

「そうだな……」


そう返事をすると、ライアンはさらに笑みを深めて呪いを使う。


"獣化-ヴォーロス"


そしてそのたくましい腕で2人を抱えると、ゆっくりと歩き出す。

研究塔は崩れてしまったので、目的地はアトリエ。

俺達は、ローズ達と合流するべく進み始めた。




~~~~~~~~~~




俺達がアトリエに着くと、そこには既にニコライとドール、画家の3人がいた。

といっても、ニコライ以外はボロボロで意識を失っている。

画家もドールも、体中が焦げていたり凍っていたり、溶けていたりと異常な傷だ。


驚いてニコライに話を聞くと、どうやら彼らは暴動の首謀者の仲間とやり合っていたらしい。

でもドールは呪いを使えないんじゃ……?


「ドールは戦えないはずだろ!?」

「彼女は、シリアくんのピンチで覚醒したのだろうよ。

恩人……だからね」


俺が声を荒げると、ニコライはやるせない表情でつぶやく。

呪いが使えるようになったというのなら、もしかしたら感情も取り戻したのかもしれない。


けど、その結果がこれか!!

重傷ではないとはいえ、2人共が傷ついた。

これもまた、俺達がヒマリに時間をかけすぎた結果かよ……


他のみんなは……

俺達が向かった先にはヴィニーとマックス。

とすると、ローズが向かったところは……リューやブライス達がいたかもしれない。無事……だよな……?


俺がそんなことを考えていると、タイミングよく足音が聞こえてくる。

軽い音だけど……足取りは重そう。これは……


恐る恐る入り口を見ると、入ってきたのは案の定ローズだった。

だが、下を向く彼女の表情は血の気が引いているし、背後に浮かんでいるのは茨。

まるで誰かを運んでいるかのようだ……


「ロー……ズ‥?」


俺が震える声で声をかけると、ローズは潤んだ瞳を俺達に向ける。

その目はしばらくぼんやりと宙を漂っていたが、ニコライを見ると半泣きで声を絞り出す。


「ごめん……誰も無事な人は‥いなかった……」

「何? みんな……亡くなってしまったのか?」


そう問いかけるニコライだったが、ローズは首を横に振る。

そして茨を操作すると、その中から出てきたのは……


「ブライス……ヘーロン……セドリック……」

「リュー……」


左脚と右腕がなく、さらに左手と腹部の一部に欠損や火傷のあるリューと、右腕が黒焦げでやはり腹部と両足に欠損と火傷のあるヘーロン。

そして、左半身が黒焦げのブライスと全身が黒焦げの男だった。


誰も無事じゃない……?

誰も助からない……?


ここにいるほとんど全員が、呆然と彼らを見ていた。

そんな中、素早く行動を始めたのはニコライだ。

申し訳無さそうな顔をしながら、画家の元まで歩いていって起こしにかかる。


「シリア、起きろ。

すまないが美の探求者(ルカ)を使ってくれ」

「うーん……? ニコライか……ほら」


画家……シリアは、起きるとすぐにその白衣の下から小さな絵画を取り出す。

そしてそれをニコライが受け取り、外に出ていった。

よく分からないままついていくと……


"情動を生むキャンバス"


絵画を突き出すと、そこから出てきたのは細長い形の機械だ。

おそらくジェット機というやつだろう。

20人は乗れそうなくらいに大きい。


「よし、ローズくん。運び込んでくれ」

「分かりました」


ローズがリュー達を運び込むと、俺達は大空へと飛び立った。




~~~~~~~~~~




数分後、俺達がやってきたのはヘーロンの研究所。

アトリエ以外では、一番近くにある施設だ。


医療施設ではないが、それでも……

俺達は、そこにけが人を運ぶしかなかった。


ローズが茨で彼らを浮かせるとと、ニコライが少しでも治療のできる場所に案内していく。

今回連れてこられたのは、植物の成長を早める蒸気の機械のある場所。

治せはしないが、せめて傷は塞ごうということらしい。


説明を受けると、ローズはその機械の蓋を開けて彼らを中に入れる。

機械は植物用らしいが、大きかったのでリューの体も問題ない。


そしてその蒸気に当たると、茨で止血されていたリューの手足には皮膚が生えてきた。

あっても痛々しいことに変わりはないけど……


「リューは……生きててよかった……」


ブライスともう1人の科学者は……

ゆっくりとニコライを見ると、彼は頭を横に振る。


「ブライス……」

「……私はアレクの遺体と、マキナ様を探しに行く。ヘーロンのことは頼むよ」

「分かりました」


ニコライは、それだけ言うと再び部屋を出ていく。

あとに残ったのは、けが人と遺体と俺達だけ……


入り口から機械に目を戻すと、ヴィニーとマックスの傷は既に完治したと言っていいレベルにまで癒えていた。

これなら……


「ヴィニーは……案外すぐに治ったな……」

「そうだね」

「俺、少し外に行ってても大丈夫か?」

「うん……いいよ」


一応ローズからの許可をもらって、俺は部屋を出る。

目的地は特にない。

道も分からないので、さっきの部屋から案内された通り研究所の外に……


「ふぅ……」


雪は止んでいるので、大きく深呼吸をしても口に何かが入ってくることもない。

寒さも、戦いの前よりは快適だ。


だけど、そのせいで街は騒がしくなっており落ち着かない。

誰もいないのは……湖かな。

そう予想を立てると、俺はフヴェル湖への道を歩いていった。




~~~~~~~~~~




湖に着くと、俺は水辺に腰を下ろす。

ここの氷はあんまり溶けていないようで、街よりも寒い。

周りに誰もいないのも久々で安らぐな……




「……」

「……」

「……」

「ん?」


しばらくぼんやりしていると、いきなり両隣に気配を感じた。

驚いて左右を見ると、そこにいたのは二匹の猫。

右には黒猫、左には白猫がいる。

黒猫はロロ……ってことは白猫は……


「ライアン?」

「おうよ〜」


そう答える声は、ロロのように可愛らしい。

これがケット・シーから得た力か。


「何しに来たんだ?」

「いやしにきたよー」

「ただそばにいる。それが何よりもありがたい時ってのがあるんだぜ〜」


不思議に思って聞いて見ると、彼らはそんなことを言いながら膝の上に乗っかってくる。

もふもふで温かで……うん、心に染みるなぁ。


「そっか」


俺がそう答えると、彼らはそれ以上何も言わなかった。

ただ、俺の気が済むまでその場に居続けてくれた。


ライアンの言う通り、ただそれだけのことが何よりもありがたかった。




~~~~~~~~~~




それからどれくらいの時間が経ったのか……

日が落ちて来た頃、俺はようやく気持ちの整理をつけると、2人と一緒に研究所へと戻った。


あれだけぼんやりしといて言うのもあれだけど、戦いは終わってもまだまだやることはある。

まずは治療。


ヴィニーは治ってるけど、リューはここでは治らない。

もう一度フォミュルに行って、ヒュギエイアに治してもらわないと。


そんなことを話しながらローズ達のいる部屋に入ると、そこには既にニコライやマキナがいた。

どうやらヘーロンの様子を見ていたようで、表情を暗くして何かを話し合っている。

といってもマキナは元々陰鬱な人だけど……


「ふむ、ようやく戻ったか」

「おう、何の話をしてたんだ?」

「いや何。けが人をヒュギエイアに治してもらおうというだけの話だよ」


まぁそれはそうだよなと話を聞いていると、どうやらニコライが自ら護衛するつもりらしい。


頼もしいけど、壊れた塔や機械はいいのか……?

ふと疑問に思って質問してみると、ヘーロンさんが治ってからの方が速いのだと。

流石ヘーロンさん。とても優秀だ。


でも、そうするとリューについていく必要はない。

俺達はどうするかな。


レイスに言われた場所には行ったし、早く暴禍の獣(ベヒモス)を殺したいとは思うけど……


「俺達はどうする?

俺としては早く暴禍の獣(ベヒモス)を殺しに行きたいから、一緒にフォミュルに行こうと思うんだけど」


ライアンも含めて、仲間にはあの大厄災が村の敵だということはぼんやりと話してある。

なので特に説明もしなかったが、ライアンとロロは迷いなく賛成してくれた。


ヒュギエイアならすぐにリューを治せるだろうし、ライアンが一緒ならきっと勝てる……!!

そう決意を新たにしていると……


「私は……ヤタに行きたい」


ローズは、そう言って反対してきた。

彼女の顔を見返すと、その表情はアトリエに入ってきた時と変わらず、いやそれ以上に青白い。

ブライスのこと以外にも何か気にかかることがあるのか……?


「理由聞いていいか?」

「理由は……なんとなく、そうしないといけない気がして」


何かはありそうな表情だけど、理由はない。

自分でも分かってない感じなのか?

でもそれなら……


「なら、暴禍の獣(ベヒモス)の次でいいんじゃないか?」


そう提案すると、ローズは黙り込んでしまう。

青白い表情をさらに歪めて、苦しげに。

そうして出した結論は……


「そう……かも」


少し曖昧な言い方だけど、同意ととってもいいのか?

……まぁでも、もし理由が分かったら話し合えばいいし、ひとまずはその方針でいいか。


俺はそう結論付け、今日はもう休もうとニコライに話しかけた。

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