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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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65.5-それは彼らを形作るもの➃

その国は……その世界は、光で溢れていた。

どんな家にも電気、ガス、上下水道などが完備され、どこまでも豊かな世界だった。


街にも当然それはある。

どこにでも当たり前に、それがある。

食べ物に困ることもないし、命が脅かされることもない。


環境問題が増えてきてはいたが、それもまだ気に病むものでもない。

戦争の二文字が浮かぶこともあったが、他国の話だ。


そんな、栄華を極めたような国……




彼女が暮らしていたのは、ビルが乱立する街の中。

日本という国の中でも、特に都会であるとされる街……東京のとある区にある、オートロックマンションだった。


そこに住めるのは、この国からしても上等なこと。

彼女は、生まれながらに親から与えられたその幸せを享受していた。


だが、住居だけではない。

お腹が空けば、いつでも母親に食事を出してもらえる。

欲しいものがあれば、店に行って何でも手に入れることができる。


流行の服も、有名な化粧品も、高校で人気な本も、オシャレな小物も、映えるスイーツも、便利な文房具も。

何でもだ。


そんな、とても恵まれた環境に彼女は生きていた。

それはその他のことにも言える。


特に夢はなかったが、様々な貢献をしている科学者であった父は誇らしいし優しく料理が上手な母も自慢。

高校も、国一番とはいかなくともそれなりの進学校。

友達も多いし、勉強でも部活動でもいい成績を残していた。


彼女は、幸せだった。

それだけで十分だった。


当たり前に高校を卒業し、当たり前に大学を卒業し、当たり前に就職する。

当たり前に恋人を作り、当たり前に結婚して、当たり前に子供を作って、当たり前に孫を見る。

当たり前に年老いて、当たり前に穏やかに眠る。


そんな、極々細やかな幸せをぼんやりと考えているだけだった。

それだけ……だったのだ……




ある日、少女は慌てた様子の父親に呼び出された。


何でも、取り敢えずついてきてくれとのこと。

その理由は聞いても教えてもらえなかったが、愛する父の頼みだ。

少女は素直にその言葉に従った。


父親が努めている研究施設についていき、父親に言われるがまま、とあるケースに入った。

少女には理解できない装置だったが、父の言うことだ。

別に危険なことはないだろうと、彼女は大人しく従った。


少女ができたのは、ぼんやりと「何か調べるのかな〜」と考えることくらい。

そんな彼女に、何が起こるのか予想するなど不可能だった。




彼女は眠りについた……

長い……長い……眠りについた……

何年……何十年……何百年……何千年と。

コールドスリープという、眠りに。


次に彼女が目を覚ました時、彼女の前に広がる光景は日本ではなかった。

かつての地球でもなかった。


この世界は、神秘で満ちていた。

この地は氷が支配していた。


この地はまるで……異世界だった。




~~~~~~~~~~




彼は氷に閉ざされた国に生まれた。

とても貧しい国だ。


その国の畑からは僅かな食物しか採れず、魔獣達は人間よりも強かった。


どうにか少数の村人が生きていくことはできたが、決して楽な生活を望めはしない。

それがだめという訳ではないが、やはり家族には楽をさせてあげたいと思うのが人情だ。

彼は常に思い悩んでいた。


そんなことを考えていたからなのだろうか。

彼が少年の頃、仕事の合間に偶然こんな話を聞いた。


何でも、この国の中心には理解不能な光があるのだと。

食べ切れない程の食べ物があるのだと。

全く寒いと感じない、常春の場所があるのだと。


少年はその地を夢に見たが、すぐに行動に移すことはしなかった。

冷静に。親からの贈り物である命を軽んじてはいけない。

綿密に。家族に楽をさせたいなら、必ず成功させなければならない。


彼は体を鍛え、雪山で生き残る術を学び、国の中心への道を調べた。

決して慢心せずに、決してミスのないように。


そして彼は成人した時、この国の中心を目指したのだった。




そんな彼が出会ったのは、ブツブツと喋る白い服を着た変人。

そして、その変人が研究している科学技術だった。


その場所はどこよりも輝かしかった。

その場所はどこよりも暖かかった。

たった数日。

それだけでも分かる程の、段違いの快適さがそこにはあった。


そして同時に、彼はこの科学をこの国に広めたい、とそう思ったのだった。


そう思った後の彼の行動は考えるまでもない。

迷わずその変人に弟子入りをした。

家族に楽をさせるには、この科学を広めることが一番だと思ったのだ。


だが、師匠となった変人にはそんなつもりは一切なかった。

変人は、ただ自分が知りたいことを研究しているだけだったからだ。

それでも……彼はこの国に光を求めた。

誰よりも強く。神秘に成る程に……




彼は変人から様々な科学を教わった。


特に彼に馴染んだのは電気。

それは、決意と結びついて神秘としてその身に宿るほど。


そんな彼は、国中の村に完備できるように、神秘に負けないように研究を行った。

自分の神秘を活かして。変人の観測を活かして。

彼はこの国を発展させた。




長い年月の末、彼の集大成になったのはこの国の氷を溶かす機械。

多くの弟子と共に。偶然この国に入国した神秘と共に。

彼はこの国の未来を選択した。


たとえ、科学によって苦しんだ者が目の前にいても……

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