64-暴動の中起こる殺戮
-リューサイド-
リューがようやくその不安から解放された時、既にドールは影も形もなかった。
そこにあるのは、ただ暴動の音だけだ。
「くそっ、マジかよ!!」
彼は、思わずぼやきながら体を起こす。
ヴィンセントに頼まれた、ドールの様子を見ておくという役目を果たせなかったのだ。
焦ってしまうのも無理もない。
だがそれでも……彼はすぐに次の行動を起こした。
力強く立ち上がり、アトリエの外へと走り出す。
「ドールも……塔に向かったのかな?」
彼はドールの目的を知らないが、異変を感じたのは研究塔。
そのため、目的地はもちろん研究塔だ。
彼が進むのはヴィンセントとは違う道だが、同じくらいの距離の道をひた走る。
リューの視界には火事や暴動が映るが、それは片手間に風を送り込むことで対応していく。
全てに対応できているとは言えないが、一つ一つ時間をかけている余裕はない。
(今優先するのはドール……)
こんなところにはいないとは思いながらも、チラチラと辺りを確認しながら走っていく。
そんなことを続けていると……
――ドゴーン!!
「な、何だ!?」
リューの耳には、何かが爆発するような音が聞こえてきた。
しかもそれだけでなく、建物が倒壊していくような地響きに風が吹き荒れる音も同時に。
それを聞くとリューは考えを巡らせる。
爆発と倒壊と風。それから考えられることは……
(ウォーゲームの炎使いとブライスか……?)
リューはブライス達が今何をしているのかは知らない。
だが彼らはウォーゲームで出てきただけあって、この国では並の狩人よりも強いことが予想できた。
ドールの行方も分からないとなると、彼が選ぶのはもちろん……
「無駄に走るよりは、異変に飛び込む方がいいよな……?」
彼はそう決めると、破壊音のする方向へと走り出した。
~~~~~~~~~~
そんなリューが辿り着いたのは、ヴィンセントとは違う大通り。
より火事が酷く、人がほとんどいない場所だ。
そして、そんな大火事の中にいたのは……
「ギャハハハハ」
「熱っ‥!!」
血塗られたように真っ赤な肌、鷹のような鋭い目、鮫のようにギザギザの歯で頭には角を生やした大柄な男と、その男の炎に吹き飛ばされているブライス達。
どうやら、あの男はこの騒動に関係あるようだ。
「おい、お前ら大丈夫か!?」
燃えながら吹き飛んでくる科学者達を風で受け止めながら、リューはそう声をかける。
消火も同時に行っているので、これ以上のダメージは出ないだろうがそれでも彼らはボロボロ。
リューは心配そうな視線を向けた。
「うっ……リューね、助かったわ……」
「あいつ、セドリックを……許さない……」
ヘーロンはリューにお礼を言うが、ブライスは彼に構うことなく怒りの表情を男に向けていた。
その名前は、リューには聞き覚えのないもの。
だがリューはそれを聞くと、恐る恐るといった風に訝しげな表情を男に向ける。
たとえ聞き覚えがなくても、少なくとも犠牲があったことを意味しているからだ。
そんなリューの視界に入ったのは、男の近くで黒焦げになって転がっている人影。
彼にはその正体は分からず、恐る恐るヘーロンに問いかける。
「あれ……誰だ?」
「あなた……名前聞かなかったの? 彼はあなたとウォーゲームでぶつかった炎の神機使いよ」
「っ……!!」
ヘーロンが苦しげにそう言うと、リューはその瞬間戦闘モードになった。
目を大きく見開き、風を渦巻かせて男に向かって飛んでいく。
"恵みの強風"
それを見ると、男は愉快そうに笑う。
戦闘を……殺しを楽しむような表情だ。
「うはは、お前も死にてぇんだなぁ」
"殺戮の業火"
「おらぁ!! 死ねや!!」
「……」
強風を纏った大剣のリューと、赤黒い炎を纏った素手の男。
武器を持ったリューが有利かと思いきや、その激突を制したのは赤い男だ。
強風は炎に巻き取られ、大剣も拳で叩き折られてしまっている。
さらにそのまま腹には燃える拳が突き刺さり、ブライス達のところまで吹き飛ばされていく。
「ぐっ……!!」
「脆い!! 脆いなぁ、どいつもこいつも!!
このフォノス様の遊び相手にすらなりゃしねぇ!!」
今度はブライスが神機の風で受け止めたが、リューは腹に穴が開き、口からも血を吐き出す程の重体だ。
「もう穴開いてやがるぜ、ギャハハ!!」
だが、リューにはそれでもできることがある。
風を操り、風の弾丸を生み出していく。
さらにそれにブライス達も乗っかる。
神機ヴィンドと神機ミストをフル稼働し、威力を高めて……
"魔弾-フーガ"
"ミストバースト"
3人は風の奔流を迸らせた。
リューの精度も威力も申し分ない風の弾丸に、科学者達のそれを押し出しさらに威力を高める蒸気の爆発。
街ごと全てを破壊してしまいそうな攻撃だ。
だが……
"死火累々"
男が気怠げに突き出した腕から放たれたのは、それ以上の大火力。
大通りどころか、その隣の通りまでも焼き尽くさんとする赤黒い炎は、容赦なくリュー達に襲いかかり……
「ぐっ……あぁぁ……!!」
「キャー……!!」
無口なリューでさえ叫び声を上げる地獄を生み出した。
~~~~~~~~~~
数十メートルに渡って燃え尽きた街で、男は1人笑う。
人間への罵倒を口汚く叫び、まだ無事な建物へと意味もなく炎を放ちながら、邪悪に。
忘却の影響を受けた人々も、流石にここまでの大惨事には近寄ってこない。
彼は酷く静かな焼け焦げた道で、酷くうるさい炎の音をただ1人で聞いていた。
だが、やがてそれにも飽きると……
「レーテー!! ここには雑魚しかいねぇじゃねぇかぁ!!」
ここにはいないレーテーに向けて暴言を吐き始める。
そうしてしばらく歩いていくと、彼の目の前に先程燃やしたリュー達が倒れているのが見えてきた。
恵みの強風や神機のおかげで、まだなんとか形を保てていたようだ。
だがその傷は深く、リューは左足が燃えているしヘーロンは右腕が黒焦げ。
ブライスに至っては左半身が燃えてしまっている。
「うぅぅ……熱い、熱いよ……」
「大丈夫……きっと大丈夫だから……気をしっかり持って……」
ブライスが弱々しくうめき、それを苦しげに見つめながらヘーロンが蒸気で消火している。
火はゆっくりと消えているが、半身に大火傷を負ってしまっているので戦線復帰は難しい。
そしてリューは……
「スゥー……ハァー……っ‥!!」
"南風の刃"
男が攻撃してくるまでには、ブライスの火を消すだけで精一杯だとの判断か、風の刃で燃える左足を切断した。
「フゥー……フゥー……」
そして風で傷を抑え、体を支えながらも立ち上がり男と対面する。
顔には異常な量の汗が流れフラフラとした姿だが、それでも目には力強い光を宿し懸命に。
男は、それを見ると愉快そうに口を開く。
「クックック……痛そうじゃねぇか。俺様が燃やして止血してやろうか?」
「……お‥れ……は……お前‥を……ゆる……さない」
それを聞くとリューは、かろうじてそう返す。
たどたどしいのはもちろん傷のせいではなく、戦闘モードだからだ。
それなのにリューは言葉を発した。
「話すのも辛ぇならさっさと死んどけよ」
だが、もちろん男にそれが分かる訳もなく。
すぐにつまらなそうな表情に変わると、容赦なく炎を放った。
"殺戮の業火"
"恵みの強風"
興味を失った男が放つ業火と、背に守るものを背負ったリューの強風。
その2つが、激突した。
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