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化心  作者: 榛原朔
一章 支配の国
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63.5-それは彼らを形作るもの③

多分エグいのでご注意を。

氷に閉ざされた科学の国、ガルズェンス。


かつてその国で起こったのは、最悪の事件。

たった1人の科学者が、己の欲求のままに人体実験を繰り返したという、凄惨な出来事だ。


それらの実験は、研究塔すら禁じていた。

それでもその科学者は、ただ自分が知りたいというだけで独断専行した。


心という神秘、クローンという科学。

他国の疫病を広めるという愚行、洗脳という非人道的行為。


巨人の細胞を使った、人体の巨大化実験。

悲惨な記憶を植え付け負荷をかけるという、人工的に魔人を作り出す実験。

理想の性能を持つ人間を作る実験。記憶を消してみる実験。


その他にも数え切れない程に。

全てを自分の思うがままに。

その結果、被験者達はほとんどが命を落とした。

生き残った者にも正常な人間はいなかった……




数百年前。

その生物は、何もかもを忘れて世界をさまよっていた。

自分が何者なのか、分からなかった。

ただ空虚に生きていた。


そんな生きた屍は、ある時1人の少女に出会う。

この世の地獄を見た、だがたとえ家族でもそうとは感じられないような仮面を被った少女だ。


少女は屍に問いかける。

「お前はこの世を恨んでいるのか?」と。


屍は淡々と答える。

「私にはそう思う心すらもありません。

何一つ覚えていないのに、何を恨めばいいのです?」と。


それを聞いた少女は笑う。

「何一つ忘れてはいけない私とは真逆じゃないか」と腹を抱えて息も絶え絶えに。


長い長い時間、それは続いた。

記憶のない、感情のない屍には苦にならないが、常人ならばすぐさまその場を離れるであろう程に。


狂ったように笑い続けようやくそれが治まった時、少女は屍を仲間に誘う。

「力を与える。だからお前も一緒に、世界で遊ぼう」と。


もちろん屍はそれを受ける。

何も持っていないから。何も望みがないから。


得た力は、名。得た力は、忘却。

それは、最古の呪い。混沌から生まれた歪み。

記憶に刻みつけることを新たな目的に、彼は笑う。


彼は眷属、彼は傀儡。呪いは苦しみ。狂気は放棄。

道化として高らかに。笑顔の裏には悲しみが。


狂気が望むは生であり死。


彼には最初から何もない……




~~~~~~~~~~




数百年前。

彼の国には、かつての実験が再来していた。

その被験者はただ1人の少女。

行うのはただの画家。


それでも……その場にあったのは、まさに地獄だ。




かつての実験を見ていた画家は、その絶望の中に芸術を見出した。

その感情の動きに魅入られた。


実験が無くなり、題材がなくなり、無気力になった画家は、それでもその脳をフル回転させる。

その結果思いついたのは……自分が、自分の好みで、その時々に欲しい感情を誰かにさせること。


その犠牲者は、身寄りのない少女。

アトリエに籠もっていた画家は、研究塔にもバレることなくその行為に及ぶ。


そら笑え。そら泣け。そら怒れ。

そら憎め。そら苦しめ。


画家は延々と描き続けた。

少女に自分の感情など必要ない。

ただ私が欲しい感情を見せられればいいのだ、と叫び続けた。


「ああ、なんと美しい……なんと素晴らしい芸術か!!」


画家は、誰にも理解されない芸術を追い求めていた……




あるところに、少女がいた。

どこにでもいるような、心優しい誰にでも好かれる少女だ。


だが、ただ1つだけ普通の人とは違うところがあった。

それは、施設にいた身寄りのない子供だったということ。

たったそれだけ。


それだけなのに……


彼女を引き取ったのは、狂気の画家。

彼女が強要されたのは、命令された時にだけ感情を出すこと。

少女はそれだけを永遠とも思える期間の間、強要された。


何日も。何週間も。何ヶ月も。何年も。何十年も。

彼女はやがて心を殺した。


ただ、無に。

ただ、闇に。


心を殺し続けた彼女は、いつからか成長を止めていた。

彼女は、神秘に成っていた……




~~~~~~~~~~




かつて、1人の画家がいた。

友と切磋琢磨し、美しい自然を描く画家だ。


彼はただそれだけの、普通の人間だった。

その日がくるまでは……




ある日彼は、気まぐれにかつての友の家に行った。

雪山という過酷な、だが美しい自然を描き続けていたため、数十年ぶりの出来事だ。


彼は、自分でもよく飽きないものだな、と苦笑しながらその扉を開ける。

……開けてしまう。


それは、狂気の扉。

その先にあるのは、身の毛がよだつ光景。

少女の感情を殺し、それなのに感情を出すこと強制するという悪夢。


彼は憤った。

かつての友を、それこそ殺さんばかりの勢いで。


そんな画家に対して、かつての友は至って冷静に答える。

「何をそんなに怒っているんだ? これこそ芸術だろう?」と。


許せなかった。認められなかった。

彼は正しく画家であろうと、少女を助け出そうと誓った。


彼は逆境にて、誰かのためにという正の感情を。

その場には、決意に燃える聖人がいた……



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