5.5-それは彼らを形作るもの①
※6話ではないです。5.5話です。
物語の大事な要素ですので書いていますが、現時点では本編との繋がりはほとんど分からないと思うので、半分くらい間話です。話が飛んでいるのが嫌な方は飛ばしてください
かなり暗いと思うので苦手な方はご注意ください。
この世界に数少ない、スラムのある国、タイレン。
ここは世界で一二を争うほど、死が身近な国だった。
神秘を操る、聖獣や神獣。その中でも人類に攻撃をしたことで魔獣と呼ばれるようになった、獣達。
その被害が、ずば抜けて高かったためである。
聖人は現れず、国のどこを見ても平穏などない。
建物もことごとくがボロボロで、全国民が飢えていた。
多くの男性は、徴兵され、働き手を失った農村などは食糧問題が更に加速した。
治安が悪くなり、孤児が増えた。
軍の多くは王都に。しかし、聖人を有さない軍は魔獣に蹂躙されるのみ。
王都でこの有様、郊外など目も当てられない。
内にも外にも、死が溢れていた。
その少年もまた、多くの死を見ていた。昨日の友も今日の死者。
そんな言葉を口にするほどに。
孤児として生き、親の顔も分からない彼は、大多数の国民と同じく幸せなどなかった。
ただ生きること。それだけが彼らに許された贅沢だった。
幼少の頃からの友、近所のおじさん、母親のような人、兄貴分だった人、ことごとくを失った。
それでも彼は辛うじて生き抜いた。
やがて彼は15歳になり、徴兵されることになった。
飢えによりまともに体ができていなくとも、それに配慮されることなどない。
だが1つ幸運だったのは、彼に才能があったこと。
王都の軍育成校にて今までよりはマシな生活を送り、痩せ細った子どもでありながら大人にも勝る程の身体能力を示した。
それにより多くの貴族、教官から目をかけれ、援助を受ける。
生活の質が飛躍的に上がり更に力をつける。
そして遂には下級ではあるが貴族の養子になるという成り上がりを見せることとなった。
その期待を一身に、少年はより厳しい訓練をつむ。それはもはや軍隊の域を超えたもの。
小型、中型の魔獣であれば1人でも戦えるほどに力をつけた彼は、神秘ならずともいずれそれに届くと期待され、超人と呼ばれた。
それは、彼の国での最高の栄光。
しかしその果てに彼が見たのは、より凄惨な死の景色。
超人として、軍を率いた。数多の魔獣を、その手にかけた。
それでも。
その身一つで抑えられるものなどでは、なかった。
周囲にあるのは数多の魔獣、兵士の死体。
四肢はズタズタに。胴は血が滲み。彼は空を仰ぎ見る。
青年は笑う。
生きることだけに必死だったあの頃を思い。
期待に答えることだけに必死だったあの頃を思い。
彼は自分の自由のない人生を、笑った。
笑い疲れた彼は、空を自由に飛ぶ鳥を見る。
「……きれいな、空だなぁ……来世は……きっと……あの、鳥のように……」
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花咲き誇る国、フラー。
この国の歴史は古かった。もはや伝承でしかないが、初代の指導者は科学文明が滅んだ前後に、王として民を導いたという。
だが、その一族はもはや……
その少女はとある辺境伯の一人娘として、生を受けた。
その家はかつては栄華を極め、しかし現在は国中に疎まれる家。
それを少女は気にしない。
貴族としての教養を学び、気品も持ち合わせる彼女は、幼いながらもそれを必要悪だと割り切った。
だが少女の父は、一族の復興を目指していた。
王の腹心ではあるが王以外の全国民からは疎まれる、そんな自分達の境遇が許容できなかったのだ。
そんな彼は少女を、そして領民を謀反に巻き込んだ。
国中に嫌われる彼だが、領民には代々積み重ねてきた信頼があった。
彼は領民に独自の法を敷いた。密かに武力を集めるために、様々なことを強要した。
それは特に非人道的なことではなかったが、自由は減り、リスクもあることだった。
そんな父を見て、少女は嘆く。王からの信頼。
これだけでも十分なことではないか? と。
彼の王は既に良い治世を行っていた。
なのにこれを崩してまで、そんなことがしたいのか? と。
息苦しかった。
彼女は、もっと自由に生きたいと思った。
生まれになんて縛られたくなかった。
それに知らずにだとしても領民を悪事に加担させたくなかった。彼らにもまた、自由に生きてほしかった。
恵まれた家に生まれた。そんな彼女に訪れたのは反逆者の汚名を受ける未来だった。
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